「バブみ」が強いボクっ娘ギャルが、俺の恋路を邪魔してくる件について    作:けるたん

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第14話 ミステリとおっしゃる勿れ★

 世の中、『始まり』があれば『終わり』がある。

 

 入学式しかり、卒業式しかり、どんなに楽しい時間でも、必ず『終わり』はやってくる。

 

 そしてやはり『終わり』と言って思い出されるのは、我が偉大なる友人、友崎くんの身に降りかかった大事件だろうか。

 

 世間一般的に大事件と言えば、『ゆりゆらら●らゆるゆり大事件』、もしくは『安●大事件』だが、友崎くんの事件は某メガネの少年探偵が出張に来るレベルで不可解な出来事が多い大事件だった。

 

 あの話を聞いたとき、俺も元気もド肝を抜かれたモノだ。

 

 嫉妬、憎しみ、殺意、感謝、尊敬、崇拝、そして唐突に浮かび上がる疑問。

 

 まさにあれほどミステリーという言葉が似合う大事件も存在しないだろう。

 

 今こそ語ろう……この大事件、『プロジェクト・H』と名付けられた、とあるお姉さんの壮大な計画と知略と謀略(ぼうりゃく)に満ちた物語を。

 

 あれはそう去年の、高校1年生の夏休み明けのことだ。

 

 とくに夏休みだからといって、劇的な変化も何もなく、いつものようにアホ面を浮かべた我が友、元気と共に学校へ登校すると、アマゾンが慌てた様子で俺たちの方へと駆けてきた。

 

 朝から騒がしいなぁ、と眉をしかめる俺たちにアマゾンはハッキリとこう言った。

 

 

 

 ――ウチのクラスの友崎が大人の階段を上りきった、と。

 

 

 

 あぁ、まず我が耳を疑ったね。

 

 友崎くんと言えば、真面目が取り柄、というか真面目が服を着て歩いているような男なのだ。

 

 そんな彼がこの夏休みに、一皮剥け、真の男……いや漢になったという情報は『巨根ショタ』『床上手な処女』並みに信じられない情報だった。

 

 確かに都会の高校では大人の階段を上ってしまう生徒たちもチラホラいるという噂は小耳に挟んだことはある。

 

 だがそれが身近な人間となるとつい現実味が感じられず、俺たちは急いで男子トイレへと駆けこんだ。

 

 もちろん『シンデレラマップ』を確かめるためだ。

 

 まぁ健全な男子高校生の諸君なら、説明しなくても分かるとは思うが、一応説明していこうと思う。

 

 全国どこの進学校の男子トイレにもあると思うのだが、1番奥の個室トイレのドア裏には各クラスの座席表が張られている。

 

 我々はそれを『シンデレラマップ』と呼んでいた。

 

 このシンデレラマップ、大人の階段を登った者……つまり魔法使いとなる権利を放棄した者だけが×(ばつ)印をつけることが出来るマップである。

 

 このマップは自己申告制で、そこには絶対に見栄を張らないという暗黙の掟があった。

 

 そしてその我がクラス用のシンデレラマップに……あった。あってしまった。

 

 友崎くんの名前に大きな×印のマークが。

 

 気がつくと俺、元気、アマゾン、そしてシンデレラマップを目撃した15人近い男子生徒たちが、徒党を組んで友崎くんの席へと突貫していた。

 

 我がクラスの窓際の席、そこには……もうすでに子どもではなくなったせいか、若干の大人の余裕が身体から滲み出ている友崎くんが静かに、俺たちに向かって微笑んでいた。

 

 その静かなるアダルトな迫力を前に、俺を含めた数人の男たちが息を飲んでしまう。

 

 が、そこは我らが切り込み隊長であるアマゾン。

 

 友崎くんの放つ覇気に負けることなく、ダンッ! と2本の足で床を踏みしめ、俺たちを代表するようにゆっくりと口火を切ってくれた。

 

『事情は察したで(そうろう)。事実か否か、真実を知りたいで候。もし真実であるならば、事のあらましを全て教えていただきたいで候』

 

 と、おまえは一体いつの時代からタイムスリップしてきたんだい? とツッコんでやりたいこと風の如しだったが、それよりも先に友崎くんが口を開いたので、俺たちはツッコミを放棄して彼の言葉を静聴した。

 

 友崎くんは言った『事実だ』と。

 

 しかもお相手は今年で24歳になるピチピチの年上巨乳美人だというではないか。

 

 胸は大きいが垂れることなく、むしろ指先を押し返すような弾力に満ちた素晴らしいモノだった、と。

 

 彼は続ける。

 

 出会いはネットゲーム。

 

 初めてのオフ会に参加した際に仲良くなり、そのままお付き合いをさせていただき……つい先日、古き良き日本のSIKITARI(シキタリ)に従って爆乳グラマーなお姉さんに美味しく頂かれ、子どもの殻を脱ぎ捨てたとのこと。

 

 

 そして彼は語り出す。

 

 聞いてもいないのに語り出す。

 

 その初夜のあらましをっ!

 

 ここから先のことは、俺の類まれなる語彙力をもってしても表現することが出来ないのが残念で仕方がない。

 

 なんせお外で口にしようモノなら1発でおまわりさんがやってくるようなレベルの爆弾発言が連発してくるのだ。

 

 

 まぁ可能な範囲で端的にまとめると、友崎くんは暗闇の中、ほとんど何もせず、年上グラマーなお姉さんに文字通り全てを(ゆだ)ねていたのだそうだ。

 

 そして子どもであることを辞めた友崎くんの感想は、

 

 

 

『なんかもう……搾り取られるようで、凄かった』

 

 

 

 というモノだった。

 

 まったく、知り合いの実体験エロトークほどこちらの妄想と興奮をかきたてるモノはないね。

 

 そんな天使みたいなお姉さんがこの世に存在していると知っただけで、明日も頑張って生きていこうという気になれるってもんだ。

 

 気がつくと、全員が前かがみになって、ピクリとも動けなくなっていたよね。

 

 その様はまさに、ご神託を前に信者が礼拝している姿そのものであり、アマゾンに至っては五体投地以外の何物でもなかった。

 

 全ての話を聞き終えた俺たちは、友崎くんに抱いていた『嫉妬』『憎しみ』『殺意』が、いつの間にか『感謝』『尊敬』『崇拝』という清いモノへと変わっていた。

 

 友崎くんに頭を下げながら、俺たちは思った。

 

 

 

 ――あぁ、もう彼は俺たちとは違うんだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ここまで聞けば普通に友崎くんのサクセス・ストーリーなのだが……本当の事件はこのあと発生した。

 

 というのも、お姉さんと何度も肉体関係を持った友崎くんが先走った結果、彼女を御両親に紹介しようとしたのだ。

 

 お姉さんはこの申し出を断固として拒否。

 

 まぁお姉さんの気持ちも分かる。

 

 なんせ未成年の男に手を出したうえに、そのご両親に挨拶だなんて精神的にキツ過ぎる。

 

 だが問題はソコではなかった。

 

 友崎くんが執拗に『どうして!? こんなに愛しているのに!?』『大丈夫、愛があれば歳の差なんて関係ないよっ!』と(ほとばし)る情熱を胸に彼女を説得しようとした結果、彼はついにパンドラの箱を開けてしまうことになる。

 

 お姉さんは覚悟を決めたように、寂しげな笑みを浮かべて、友崎くんにこう言った。

 

 

 

 

 ――わたし、男だから……と。

 

 

 

 

 最初、この話を死んだ魚のような目をした友崎くんから聞かされたとき、俺はあまりにも意味不明過ぎて、顔を真っ青にしているアマゾンと元気と共に【男】という言葉をネットで調べたのは良い思い出だ。

 

 いや、だってさ? 考えてもみてくれよ?

 

 ちょっと付き合った相手が男だというのならまだ分かる。分かりたくないが、まぁ分かる。

 

 だが、友崎くんは……ヤッているのだ。

 

 ブチ込んでいるのだ。

 

 チョメチョメしているのだ。

 

 それも複数回、数カ月にわたって。

 

 当然の疑問として出てくるのは――『どこへ?』である。

 

 気がつくと俺はクラスメイトたちを緊急招集させ、教室の片隅で激しい討論を開始させていた。

 

 もちろん議題は『どこへ?』……ではなく、『果たして本当に最後までバレずに貫き通せるのか?』である。

 

 ここで重要になってくるのは、そうっ、友崎くんの初体験だ。

 

 見切り発車のごとくご両親に彼女を紹介しようとしたことからも分かるように、超が3つ付くほどの真面目である彼のエロへの知識は人並みかそれ以下、そして情事の際には部屋は暗く、ほとんと彼女……いや彼にされるがままであったという証言。

 

 

 

 ――そう言えば、最初、押し返すような弾力に満ちたおっぱいって言ってたっけ。

 

 

 

 と、アマゾンがみなに一石を投じる発言をするや否や、水を得た魚のように議論は収束へと加速していった。

 

『そうやっ、ならアレは何やったんや? 彼女、いや彼は男なんやろ?』

『女性ホルモンを無理やり摂取したんじゃないか? それでこう……ボンッ! と』

 

『いや、女性ホルモンを摂取したところで、ある程度の年齢からではさほどの成長は期待できない。とくれば、考えられる結論は1つだ』

 

『……シリコンか』

 

『あぁっ。友崎くんの発言を信じるのであれば、おそらく彼女の胸は手術済みだ。そうなると、下半身の工事も終えている可能性が高い』

 

『だが大神よ? 現代の技術レベルでは新しい穴を形成するのは不可能だったハズだ』

 

『思い出せ、友崎くんの発言を。【搾り取られるようで、凄かった】という奴の感想を。あれはつまり、彼女の……いや彼の類まれなる肛門括約筋によるもので、友崎くんは奴の――』

 

 

 そこまで言った瞬間、クラスメイトたち全員が『なんて残酷すぎる天使のテーゼなんだっ!?』と絶叫し、泣きながら教室を飛び出して行った。

 

 こうして議論は終結し、ほどなくして、友崎くんの前から疑惑の彼女(彼?)は姿を消した。

 

 ちなみに彼の最後の言葉は、

 

 

 

(いん)キャが1番転がしやすいの』

 

 

 

 だ、そうだ。

 

 その話をやつれたホモさ――友崎くんから聞かされたとき、俺たちはこう思った。

 

 ……あぁ、もう彼は俺たちとは違うんだ、と。

 

 かくして、後に『プロジェクト・|H(ホモ)』と名付けられたこの大事件は、我々に『始まり』があれば『終わり』があることの無常さを、悲しさを、虚(むな)しさを教えてくれた。

 

 どんな事でも必ず『終わり』はやってくる。

 

 だからそのときが来るまでは、精一杯、今を全力で生きてやろう。

 

 と、俺はあの日、ホモ崎くん――違う、友崎くんに誓った。

 

 だが、俺は知らなかったのだ。

 

『終わり』とは常に新しい『始まり』であるということを。

 

 それは『春のはじまり、パッドエンド事件』の翌日に起こった。

 

 

 

◇◇

 

 

 

 助けた女の子に殺されかけるというエキセントリックな一夜を過ごした翌日の金曜日。

 

 俺は学校へ登校するなり、我が魂の親友、猿野元気を人気の居ない校舎裏へと連れて歩いていた。

 

「よしっ、誰もいないな」

「どうしたんや相棒、そんなキョロキョロして?」

「ッ!? ば、バカ野郎ッ! 不用意な声を出すな、殺されるぞ!?」

「相棒は一体誰と戦ってるんや?」

 

 元気を叱責しつつ、人気の居ない校舎の影へと身を潜め、辺りを窺う。

 

 ふむ、どうやら羊飼らしき人物の姿は見当たらない。

 

 もし彼女が依頼したスナイパーが居ればいっかんの終わりだが、俺が羊飼の乙女の秘密を目撃して半日も経っていないことから考えるに、俺を抹殺するために殺し屋に金を積んだとしても、今現在の俺たちの位置から狙撃ポイントを割り出し、かつ射撃体勢に入るには早すぎるからして、まだ余裕があるハズだ。

 

「こんな人気の居ない場所にワイを呼び出して一体なにを――ハッ!? さてはワイのこの逞しい身体をムチャクチャにする気やなっ!? 角川ルビ●文庫みたいに、角●ルビー文庫みたいにっ!?」

「う~ん、やっぱりおまえと話してると落ち着くなぁ」

 

 このバカ・フルアクセルな発言、最高に落ち着くぜ。

 

 ほんとありがとう元気、おまえはずっと変わらずそのままで居てくれ。

 

 ほんの少しだけ冷静さを取り戻すことに成功した俺は、辺りを警戒しつつ、声を潜めてバカの名を呼んだ。

 

「我が偉大なる親友、猿野元気よ。実はおまえに相談したいことがある」

「ワイに相談やと? そりゃまた……人に聞かれるとマズイ話なんか?」

「あぁ、とてもマズイ。下手をすると命に係わる。おかげで今日の俺は寝不足だ」

「はは~ん? なるほどのぅ。それで相棒、()()()()()()()()()()()()

「は、ハァッ!? け、『今朝はパッドしてへんのか』だと!?」

 

 くわっ! と目を見開き、もはや条件反射の要領で元気に詰め寄る。

 

「し、してねぇよ! ぱ、パッドなんかっ! これっぽっちもしてねぇよ!」

「はいっ? いや、そりゃ知っとるけど……パッド?」

「謝れよ! 俺とパッドに謝れよ!」

「な、なんかようわからんけど……堪忍な?」

 

 い、イカンッ!? 『パッド』という言葉に過剰反応しすぎているぞ、俺!?

 

 落ち着け、大丈夫だっ! 敵はまだコチラの存在に気づいていないハズッ!

 

 そうだ、まずは落ち着いて体勢を立て直すんだっ!

 

 ドン引きした様子の元気から謝罪の言葉を引きだすことに成功した俺は、誤魔化すように軽く咳払いをした。

 

「ゴホンッ! ……すまない、取り乱した」

「お、おぅ。ホンマに大丈夫か相棒? まぁええわ。それで? ワイに相談ってなんや?」

 

「……一応最初に言っておくが、今から俺の言うことは『もしも』の話しだからな? 仮定の話しだからな!? この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありませんからね!?」

 

「前置きが長いうえに口調が変わっとるやんけ。わかった、わかった。それで?」

 

 苦笑を浮かべる元気に向かって、俺は小さく息を吸い込んで、

 

「その、ものすっごいグラマーな巨乳な女子生徒が居るとするじゃん? けどさ、実はその女子生徒はパッ――ッ!?」

 

 と言いかけて、俺は息を飲んだ。

 

 

 

 何故なら、いつの間にか音もなく、我が友の後ろに――羊飼芽衣が立っていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 その瞳はいつもの温かみを感じるソレとは違い、まるで昆虫のように無機質で冷たい。

 

 ば、バカな!? 周囲の警戒は怠らなかったハズなのに、何故よりにもよって彼女がここに!?

 

 なんなの? 彼女は伊賀忍が何かなの?

 

 と困惑する俺をよそに、まっすぐハイライトの消えた瞳で俺を射抜く羊飼。

 

 

『変なことを言ってみろ……そのときは――分かっているな?』

 

 

 と目が語っているようだった。

 

「??? どうしたんや相棒? 急にカタカタ震えだして? 『あの日』か?」

 

 不自然に言い淀んだ俺を、元気は眉をひそめて怪訝(けげん)そうに眺めている。

 

 一体ヤツの言う『あの日』がどの日なのか、問(と)い質(ただ)したいこと山の如しだったが、今はそれどころではない。

 

 ざわっ! と肌が粟(あわ)立つ。

 

 全細胞が一瞬で警戒レベルをマックスまで引き上げるのが分かった。

 

 こ、この瞬間、少しでも変なこと言ってみろ……確実に殺(や)られる!? と俺の本能が警報をあげていた。

 

「それで? 『実はその女子生徒がパッ――』、なんや?」

「……いえ、なんでもありません。気にしないでください……」

「??? なんで敬語なんや? それに、途中でやめられると余計に気になるやんけ?」

 

「う、うるせぇな! 何でもねえって言ってんだろうが!? ただ昨日、バツ掃除中に女子生徒がバットのようなもので校舎の窓ガラスを割って回っていたのを見ただけだよ!」

 

「それは大事件やないか!?」

 

 とっさのこととはいえ、俺の口から出まかせを簡単に信じてくれる元気。

 

 おまえは本当に良い奴だなぁ。そのまま真っ直ぐ育ってくれ。

 

「おはようございます、猿野くん」

「お、おわっ!? えっ!? 羊飼はん!? なんでここに!?」

「たまたま偶然通りかかっただけですよ?」

「ぐ、偶然?」

「はい、偶然です♪」

 

 ニッコリと女神のような慈愛に満ちた笑みを元気に向ける羊飼。

 

 こんな人気の居ない校舎裏を偶然通りかかる確率なんて、街中で女子大生のパンチラに遭遇するよりも難しい。

 

 ……ハズなのに、何故か彼女が言うと本当に偶然な気がしてきてしょうがない。

 

 ほ、本当に偶然だったんだろうか?

 

 羊飼はナチュラルに会話の輪に入って来るなり、にこっ♪ と俺に向かって微笑んできた。

 

「大神くんも、おはようございます」

「……おはよう」

 

 気のせいか、彼女の声を聞くと体の震えが止まらなんですけど?

 

 これが武者震いってヤツなの?

 

 俺は震えを誤魔化すように、羊飼の胸部へと視線を移した。

 

 彼女が動くたびに、そのおっぱいが右に左にと艶めかしく揺れる。

 

 きれいな形してるだろ。ウソみたいだろ。パッドなんだぜ。それで。

 

 まさかあのおっぱいが、関東平野もビックリの更地に変わるだなんて、誰が想像できようか。

 

 まったく男心を弄(もてあそ)ぶ、なんて恐ろしい技術なんだ!

 

「ところで、何の話しをしていたんですか?」

「そうや、聞いてくれや! 実は昨日、相棒が校舎の中の窓ガラスをバットのようなもので割って回っとった女子生徒を見つけたんやて!」

「ほ、本当ですか!? それが事実だとしたら、大変なことじゃないですか!」

「せやろ? 一応生徒会長の耳には入れといた方がええ話しやと思うんやけど」

「そうですね、分かりました。わたしの方からも詳しい情報を調べてみますね」

 

 ふわっ、桜の花びらが散ったような儚い笑みを浮かべる羊飼。

 

 その顔を見て、デレッ、と頬を緩ます元気。

 

 朝から羊飼に話しかけられて、舞い上がっているのが手に取るように分かった。

 

 本当なら、俺もあちら側の住人だったはずなのに……残念ながら、もう夢見る少年じゃいられない。

 

 そう、俺は昨晩一睡もすることなく、羊飼芽衣という女に対して1つの仮説を立てていた。

 

 

 

 

 ――この女、おっぱいと同じく、性格も盛っているんじゃないのか?

 

 

 

 

 無論信じたくない仮説である。

 

 だが、昨日の乱暴な言葉づかいといい、さっきの冷たい瞳といい、状況証拠が多すぎる。

 

 とりあえず、今日1日は頭の中を整理するべく、羊飼とは接触しないコトにしよう。うん、そうしようっ! 

 

 名案だリンリン♪ ――なんて考えていたのに。

 

「では、詳しい話を聞くためにも大神くんには今日のお昼、生徒会室に来てもらいましょうか?」

「えっ!?」

 

 まさに狙っていたとしか思えないタイミングで、最悪なことを口走る羊飼。

 

「その女子生徒を見たのは大神くんなんですよね? でしたら早期解決のためにも、その女子生徒の話を聞かせてください。……じっくりと、ね?」

「――ッ!?」

 

 ぞわぞわっ! と背筋に北風小僧100人分くらいの嫌な悪寒が走り抜けた。

 

 彼女はそっと俺の耳元まで顔を近づけると、その聖母のような微笑みを崩すことなく、俺にしか聞こえない声量で小さくつぶやく。

 

 

 

 

「――逃げたら、ブチ殺す」

 

 

 

 

「…………」

 

 聞くだけで震えあがるようなドスの利いた声で、同級生に殺害予告を口にする美少女。

 

 しかも顔だけは二次元から飛び出してきたかと思うような理想的な笑顔のままで、だ。

 

 笑顔で殺人を仄(ほの)めかし、かつ言葉が『コロス』ではなく、さらにより意味を強める接続語の『ブチ』をつけるという徹底具合……。

 

 やっぱり羊飼は学園のアイドルに違いない。だってこんなヤクザめいた芸当、アイドルじゃなきゃ出来ないよっ!

 

「どうしたんや相棒? 顔が真っ青やで?」

「あらあら、体調でも悪いんでしょうか?」

 

 心の底から心配したような声を出す羊飼。

 

 これが殺害予告を口にしてきた少女と同一人物だと思う人がいるだろうか? いや、いない。

 

 俺は上司に誘われて無理やり飲み会に連れて行かされる新入社員のように、何も言い返すことが出来ず、無言で「大丈夫だから!」というジェスチャーを2人に送った。

 

 それと同時にスピーカーから予鈴のチャイムが鳴り響いた。

 

「おっ! そろそろ授業開始や。そんじゃま、今日も元気に勉強しますかな!」

 

 陽気な声で2年A組の教室へと戻っていく元気を見送り、

 

「それじゃ、お昼、待ってますからね♪」

 

 今にも小粋なステップを刻みそうな羊飼がその後ろを着いて帰って行った。

 

 

 ……笑顔が怖いよ羊飼さん。

 

 

 俺、生徒会室に入った瞬間、口封じに殺されたりしないよね?

 

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