「バブみ」が強いボクっ娘ギャルが、俺の恋路を邪魔してくる件について 作:けるたん
古羊洋子は急いでいた。
「は、早くメイちゃんに知らせないと……っ!」
ハッハッハッハッ、とその豊かな胸元に芽衣から渡された木製バッドをギュッ! と挟み、荒い呼吸のまま彼女たちが待つ雑木林へと走って行く。
本当は電話越しで伝えたかったのだが、気が
慌ててかけ直すも、電源を落としたのか、一向に繋がらない。
それが余計に洋子を急がせた。
「ま、まさか犯人が『あの子』だっただなんて……」
洋子は自分の下着を口に咥えて走り去った犯人を思い返しながら、必死に足を動かした。
急がないと『あの子』が血祭りにあげられちゃうっ!?
「は、早まらないでねメイちゃんっ!?」
祈るように呟きながら、校舎から商店街に続く坂道を下って行く。
トテトテと駅前を通過し、目的の雑木林の中へ足を踏み入れようとして。
「あ、あれ?」
荒々しい足音と怒鳴り声を聞きとって小首を傾げた。
だんだんと近づいて来るソレに、洋子はオロオロと周囲を見渡してから、反射的に近くの茂みに身を潜めた。
そんな彼女と入れ替わるように2人の男が姿を現した。
間一髪、と洋子が1人胸を撫で下ろしていると、男の1人である金髪頭が近くに生えていた木を無造作に蹴りつけた。
洋子は思わずビクッ! と身体を竦ませてしまう。
「あぁ、クソッ! 羊飼はどこへ消えた!?」
「お、落ち着いてくださいリーダー」
「オレは至極落ち着いてるよっ!」
(あわわわっ!?)
リーダーと呼ばれた金髪頭は耳ピアスに怒鳴り散らしながら、ガンガンガシガシッ! と蹴り倒さんばかりに木を蹴りつける。
触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、洋子はひっそりとこの場を離脱しようとして。
「大丈夫ですよ。ヤスの話だと羊飼って言う女は確実にこの林の中に居ますから」
ピタリッ、と逃げ出そうとしていた洋子の足が止まった。
……なんだか嫌な予感がする。
洋子は恐怖で逃げ出そうとする足を必死に地面に縫い付け、金髪頭たちの会話に耳をそばだてた。
「なら早く見つけだせっ! じゃないと今度こそ俺たちが佐久間さんに殺されるぞ!?」
「わ、分かってますよぉ~。今、ヤスが林の中を捜索している所ですから、もう少し待ってくださいってばぁ~」
怒り狂う金髪頭を宥めるように耳ピアスが困った声をあげる。
が洋子はソレどころではなかった。
な、なんで『佐久間』の名前がここで出てくるのか?
瞬間、洋子の脳裏に蘇ったのは4年前の忌むべき中学時代の記憶。
たった1人の男の子に自分の大切な親友の想いを、居場所を、尊厳を、踏みにじられた記憶。
誰も信じられなくなった親友が、部屋に閉じこもり1人すすり泣いている景色。
そんな彼女に何もすることが出来ず、自分の無力さに絶望したあの日の後悔。
気がつくと洋子は固くバッドを握り締めていた。
「カオルさーん、見つけましたよあの女ぁ~っ!」
「ッ! リーダー、ヤスが戻ってきました! あの様子からして、どうやら見つけたようですよっ!」
林の奥から茶髪の天然パーマの男が手をブンブン振り回しながらコチラに向かって駆けてくるのが見える。
ヤスと呼ばれた茶髪の天然パーマに、金髪頭は「でかしたっ!」と笑みを浮かべて近づいた。
「どこだ、どこに居たあの女!?」
「へいっ。何か知らないですが、人気の居ない林の中に息を殺すように身を潜めていました」
「ヘヘッ、自分から人気の居ない場所に行ってくれるなんて……ツイてるなオレら」
「でも『身を潜めてた』って所が気になりますよね? もしかして、コチラの動きに勘づいたんでしょうか?」
「どっちでもいいさ。どうせやる事は同じだ。2度と表を歩けなくなるようにボコボコしてやるんだからなぁ」
洋子は完全に凍りついた。
「でももったいないですよねぇ。あんな上玉、中々お目にかかること出来ないですよぉ? ねぇカオルさん?」
「まぁヤスの気持ちも分かる。確かにあんな美人、昨今中々見ないわなぁ」
「でしょう? そこでどうですか? あの羊飼っていう女を半殺しにする前に、おれ達で輪姦(まわ)しちゃいません?」
「おまえ……佐久間さんに殺されるぞ?」
「大丈夫ですよリーダーッ! おれ達が黙っていればバレませんって!」
天然パーマの物言いに感心する金髪頭と耳ピアス。
洋子はその言葉をカタカタと震えながら聞いていた。
純粋な悪意が身体を、心を
「それもそうか。よしっ! なら半殺しにする前に、俺たちで
「流石リーダーッ! 物分りがいいっ! 一生ついて行きますっ!」
「ガハハハハッ! よせよせっ!」
(ど、ど、ど、どうしようっ!?)
上機嫌に笑う金髪頭の声を聞きながら、洋子は必死に芽衣に電話をかけた。
だがやはり電源が落ちているのか、一向に繋がらない。
ラインで『メイちゃん、今すぐそこから離れてっ!』と送っても同じだ。
一向に既読がつかない。
「ど、どうしよう……」
洋子はオロオロと視線を
あっ、そうだ警察に電話しようっ! とも考えたが今から警察を呼んでも最低40分はかかる。
40分。
それはあまりにも致命的な時間だった。
男3人なら40分あれば女の子の1人、簡単に壊すことが出来る。
「あぅぅ」
洋子は苦しそうな声をあげた。
「ど、どうしよう?」
意味もなくパタパタと手を動かす。
「どうしよう?」
いい考えが……思いつかない。
こんなとき芽衣だったら、自分が思いもしない妙案を出すのだろう。
だが、残念ながら洋子は芽衣じゃない。
「どうしよう?」
だ、誰か近くの人に助けを求めようか?
ダメだ、こんな場所を通りかかる人なんて普通居ない。
とても助けを期待できる状況じゃない。
なら誰が?
一体誰が?
誰が自分の大切な親友を助けてくれるというのだっ!?
洋子は地面に目を伏せた。ぎゅぅぅぅ~、と瞳を固く
誰が助けてくれるというのか?
あの乱暴者の男たちから。誰が彼女の日常を守るというのか?
洋子はダンゴ虫のように身体を丸めた。
思い出されるのは羊飼芽衣との記憶。
地元を離れ、新しい土地でやっていこうと前向きになった彼女。
過去を振りきり、新しい自分として頑張っていた自分の親友。
何年もかけて、やっと普通に笑うことが出来るようになった大切な親友。
そんな親友の努力が今、理不尽にも叩き潰されようとしている。
一体誰が、そんな彼女を助けくれるというのか?
彼女の努力は洋子が1番よく知っている。
彼女は本当にこの1年、一生懸命やってきた。
なら誰が?
誰が? 誰が? 誰が?
誰がそんな彼女の努力を守るというのか?
その一生懸命さに
「……ボクだ」
いや『誰か』じゃない。
「ボクだ」
そうだ、ボクが。
――ボクがメイちゃんを守るんだっ!
茂みから飛び出す彼女の足は、もう震えていなかった。