「バブみ」が強いボクっ娘ギャルが、俺の恋路を邪魔してくる件について    作:けるたん

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第5話 可愛いだけじゃない大神くん

 かくして貴重な休日を返上して浜辺の清掃が始まったワケだが……。

 

「……どうしてこうなった?」

「ほら大神、口じゃなくて手を動かせ。まだまだゴミはたくさんあるんだからな?」

 

 そう言って砂浜に突き刺さるように落ちていた空き缶を拾いゴミ袋に入れていくヤマキティーチャー。

 

 羊飼さんの水着が拝めないと判明した1時間後の砂浜にて。

 

 俺は何故か水着姿のままヤマキティーチャーと2人で、ゴミ袋片手に人気(ひとけ)の居ない砂浜を散策していた。

 

 ほんと、どうしてこうなった?

 

「ハァ……なんで俺は休日に暑苦しいマッチョと一緒にゴミなんか拾ってるんだ? これも試練か?」

 

 俺は視線をはるか彼方の浜辺へと向ける。

 

 そこには男女ペアになった生徒たちが愛でも語らうかのように楽しそうな笑顔でキャピキャピとゴミを拾っていた。

 

 ちばけとんのか?

 

 舐めんな? 働け?

 

 さらにその向こう側では、我が心のアイドルである羊飼さんが何人もの男子生徒たちを引きつれた『白い巨塔』状態でゴミを拾っていた。

 

 その堂々とした立ち振る舞いに思わず「羊飼教授の総回診ですっ!」とナレーションを入れてしまったほどだ。

 

 いいなぁ、向こう側。楽しそうだなぁ……。

 

「せんせ~、俺たちも向こうの浜辺に行きましょうよぉ?」

「ダメだ」

「と、取りつく島がねぇ……。というか、なんでこんな誰も居ない隅っこの方で先生とバディを組んでゴミを拾わにゃならんのですか?」

「おまえを他人に関わらせるとロクなことにならんからな。キッチリ先生がワンツーマンで監視してやってるんだ。どうだ? 嬉しいだろう?」

「はい、嬉し過ぎて涙がちょちょ切れそうですよ」

 

 俺は心の中でため息をこぼしながら、黙々とヤマキティーチャーと2人で拷問のような静かな時間を過ごしていく。

 

 まるで俺の忍耐力でも試すかのように、ひたすらゴミを拾っていく。

 

 ところで『試す』と言って思い出されるのは、やはり去年の高校1年生の夏のことだろうか。

 

 あの日、俺たちは『試される』大地――北海道で文字通り男の……いや己の存在価値を『試される』コトになった。

 

 アレはヤマキティーチャーに無理やり生徒会主導の学力アップ合宿に参加させられた2日目の昼、山の上からイカダで川下りをする際に起きた出来事だ。

 

 体育のときの班決めもそうなのだが、俺たちが通っている森実高校は生徒同士が好きな相手と適当に班を組むフリースタイルが基本だったのだが、そのイベントの時だけは違った。

 

『川下り』という内容上、どうしても体力のある運動部、もしくは脳筋共を分散させる必要があったらしく、勝手に班が決められていた。

 

 まぁ確かに、俺や元気、アマゾンあたりが組んだ体力特化型チームと女子だけの仲良しこよし班では、イカダを漕ぐ速度に雲泥の差が出るであろうことは明白。妥当の判断と言わざるを得ないだろう。

 

 そして当日、バスで山の上まで登り、班ごとにイカダに乗って「さぁ、出発だ!」と川を下りだすのだが……まぁ誰しものが予想した通り、アマゾンが川へ転落。

 

 そこから神々が振ったサイコロを無視して、事態は急速に悲劇へと加速していった。

 

 入学してから数カ月の付き合いだが、こういうイベントごとに関しては、まず真っ先に何かをやらかすのはアマゾンの持ちネタというか、まぁ恒例行事みたいなモノになっていたので、別に奴が転落した程度では誰も気には留めなかった。

 

『あぁ、いつものことか』と生温かい目で見守る俺たち。

 

 だがここで予想外の誤算が俺たちを襲った。

 

 

 そう、アマゾンは泳げなかったのだ。

 

 

 まるで初めて『お●パブ』に来店したはいいが緊張のあまり結局お姉さんとお喋りしただけで何も出来ずにズコズコと帰って行く幼気(いたいけ)なチェリーボーイのように何も出来ないアマゾン。

 

 結果、救命胴衣を着けているおかげで溺れはしないが、イカダに戻れないという最悪の状況に(おちい)ってしまったのだ。

 

 さらにそんなアマゾンに追い打ちをかけるかの如く、北海道が牙を剥く!

 

 もうね、川の温度がすっっっっっごく冷たいの!

 

 夏直前だというのに、キンキンに冷えたビール並みに冷たいのね、コレ。

 

今宵(こよい)試されるのはおまえの方だ!』と言わんばかりにアマゾンの気力、体力、体温をガンガン奪っていく有様なのね。

 

 おかげで何とか班員がアマゾンのもとまでイカダを寄せるんだけど、ソレに乗り込むだけエネルギーは奴の中にはもう無いんだよね。

 

 かと言って、今回の班員は俺や運動部といったパワータイプの男子ではなく、「えぇ~、お箸より重いモノなんて持てな~い♪」と素で言い放ちかねない女の子や、This・is・インドア派の男子ばかりであったため、アマゾンを引き上げられるエネルギーを持った奴が誰1人居ない。

 

 それでも一応助けようと班員達はアマゾンの方へと手を伸ばすのだが……みな次々に川へ転落していく始末だった。

 

 傍から見ているとカッパが次々と愚かなる人類を川に引きずり込もうとしているようにしか見えず、最高に夏の風物詩を感じることが出来て思わずほっこりしてしまいそうになるのだが……女の子まで転落し始めるとなると話は変わってくる。

 

 なんせアマゾンの班には我らが森実高校の女神さまであり、野郎どもの憧れのマドンナ、羊飼さんが居たのだ。

 

 羊飼さんがアマゾンによって川へと転落したその瞬間、合宿に参加していた男たちの目の色が変わった。

 

 そこから先はもう、悲劇でも喜劇でもなく、男と男……いや(おとこ)と漢による魂の勝負である。

 

 羊飼さんを助けるために、複数のイカダが猛烈なデッドヒートを繰り広げ始めたのだ!

 

『ちょっと待って待って!?』と班員の女の子たちが悲鳴をあげようが『うるせぇ!』の一言で黙殺し、野郎共は己の肉体をこれでもかと酷使させ、イカダの速度を上げ羊飼さんを一目散に追いかける。

 

 高速移動するイカダが一瞬で一か所に集まり、結果浮いている羊飼さんを逆に()き殺しそうになっていた。

 

 が、残念ながら目先の欲望に我を忘れた男達(カスども)はそのことに一切気づくことはなかった。

 

 当時の奴らには『本末転倒』という四文字熟語はあまりにも難し過ぎたのだ。

 

 最終的にイカダとイカダをくっつけ白兵戦に持ち込む班や、班員同士で同盟を組み挟撃に乗り出す班が出始め、イカダは大破。

 

 気がつくとほとんどの参加生徒たちが川に落ちて流されていた。

 

 楽しいハズの川下りイベントは、蓋を開けてみれば血で血を洗う艦隊戦へ。

 

『助けて大神! ベストフレンド!?』と叫ぶアマゾン。

 

 だが残念ながら俺は元気と交渉して同盟を結ぶのに忙しくて……泣く泣くアマゾンを見捨てることに決めたっけ。

 

 ちなみに羊飼さんは1人スイスイと泳いで、同じく川に投げ出された半泣きの古羊をさっさと回収し、自力で川辺まで移動。

 

 そのまま古羊と一緒にスタスタと2人歩いて山を下りて行ったよ♪

 

 ほんとあの時の俺たちは若かったなぁ……。

 

「おいコラ大神、また手が止まって――ん?」

「どうしたんですか先生?」

「いや、なにやら防波堤の方がうるさいような……?」

 

 ヤマキティーチャーが眉をしかめながら、遥か彼方の方にある防波堤へと目を凝らした。

 

 釣られて俺もそちらに目を向けると、確かに防波堤の先端に多くの生徒たちが集まって、ザワザワしているのが見える。

 

 なにやってんだアイツら? 遊んでんのか?

 

 舐めんな? 働け? すべからず働け?

 

 なんてことを考えていると、防波堤の方から涙で顔をグシャグシャにした女子生徒がコッチに向かってやって来た。

 

 女子生徒は至極焦った様子で、何度も足を絡めながら俺たちのもとへ駆けてくる。

 

「や、山崎先生っ! た、大変ですっ! 大変なんですっ!?」

「いや、おそらく俺の方が100倍大変だね。なんせ――」

「うるさいっ! 今は大神の相手をしている場合じゃないの! ほ、本当に大変なのっ!」

 

 別にふざけているつもりはないんだけどなぁ……と口を挟もうとして――やめた。

 

「うぉっ!? ど、どったべ? 顔が真っ青だぞ、おまえ?」

「そんなこといいから! 先生、先生を呼んで!」

 

 女子生徒があまりにも血相を変えて言うものだから、つい彼女を観察してしまう。

 

 体はブルブルと小刻みに震え、歯がガチガチと小さく鳴っている。

 

 これは……恐怖?

 

 もしかして不良にでも襲われたのだろうか?

 

「おまえは確か、2年B組の桃地? どうした? そう焦てていたら、何を言っているのかよくわからんぞ? 先生はどこにも行かんから、まずは落ち着いて、ゆっくり話してみろ」

 

 と、俺の背後で女子生徒こと桃地ちゃんの様子を観察していたヤマキティーチャーが、ひょっこりと姿を現してそう口にする。

 

 桃地ちゃんは、大粒の涙をぽろぽろ溢しながら。

 

 

 

「せ、先生っ! た、大変なんです! わ、私たちがふざけて防波堤で遊んでいたせいで、古羊さんが! 古羊さんが海に落ちちゃったんですっ!」

 

 

 

 瞬間、ヤマキティーチャーの顔色が変わった。

 

 ティーチャーは切羽詰った様子で桃地ちゃんに詰め寄るなり。

 

「そ、それはどこだ桃地!? すぐ案内しなさい!」

「こ、こっちです!」

 

 駆け出す桃地の後ろを、俺とヤマキティーチャーは急いでついて行く。

 

 防波堤の方を見ると、確かに小さく誰かが水面で水しぶきをあげているのが見て取れた。

 

「お、おいヤバくないか? あれ完全に溺れてるぞっ!?」

「ッ!」

 

 生徒の1人がそんなことを口にした瞬間、桃地ちゃんを追い抜いて防波堤めがけて走り出すヤマキティーチャー。

 

 それに続くように何人かの男子生徒も防波堤へと走り寄る。

 

 俺も野郎共と同じく防波堤に走り出したい衝動に駆られるが、ここはグッと堪え、思考を巡らす。

 

 そこで俺は勘違いして持って来た浮き輪のことを思い出した。

 

「ッ!」

 

 防波堤へ駆けて行く生徒たちを尻目に身を翻(ひるがえ)し、浮き輪を置いている荷物の方へ駆け出す。

 

 120センチほどの大きな浮き輪を引っ掴み、ヤマキティーチャーたちの後を追いかけるように全力で防波堤の先まで突っ走る。

 

 防波堤の先では野次馬たちが声を荒げてパニックに(おちい)っていた。

 

「おいおいおいおいっ!? これ本格的にヤバくないか!? 波でどんどん沖まで行ちゃってるぞ! だ、誰かライフガード呼んで来い!」

「どいてっ! アタシが行く!」

「む、無茶だ羊飼! この潮の速さじゃおまえも溺れるぞ!」

 

 半狂乱になって海に飛び込もうとする羊飼さんを必死に取り押さえるヤマキティーチャー。

 

 そんな会長たちの姿を横目に俺は海面へと視線を向ける。

 

 確かに思ったよりも潮の流れが速い。

 

 おまけに防波堤の、しかも一番先から落ちたんだ。

 

 何度もこの海で遊んできた俺にはわかる。

 

 このあたりは地元民の俺でさえ足がつかない深い場所だ、間違いなく古羊の身長じゃ足がつかない。

 

 遥か彼方で溺れている古羊を見る。

 

 傍目から見ても、今にも力尽きそうだ。

 

 もう助けを呼んで悠長に待っている時間もない。

 

 

 

 ならどうする?

 

 

 

「……なんとかする」

 

 そうだ、最初から俺のやるべきことは決まっている。

 

「なんとかするっ!」

 

 そうだ、なんとかしろっ!

 

「なんとかしてみせるっ!」

 

 やるんだ大神士狼っ!

 

「俺なら出来る」

 

 おまえなら出来るっ!

 

「それだけの力が、俺にはあるっ!」

 

 もっとも合理的にっ!

 

「もっとも原始的なな方法でっ!」

 

 古羊洋子をっ!

 

「彼女をっ!」

 

 

 

――助けろっ!

 

 

 

 瞬間、俺の中でバチッ! とスイッチの切り替わる音がした。

 

「離して! 離してください先生っ! このままじゃ、洋子がっ! 洋子がぁ!?」

「落ち着けっ! 救急車と警察に連絡したから、あとは助けがくるまで待――」

 

 と、羊飼さんを後ろから羽交い絞めにしているヤマキティーチャーの横を全力で駆け抜けていく。

 

「えっ? お、大神くんっ!?」

「ッ!? バカ大神、やめっ!?」

 

 と驚いた声をあげる羊飼さんたちを無視して俺は――浮き輪を片手に、全力で防波堤の先端から海へ飛び込んだ。

 

 そのままガムシャラに溺れている古羊のもとまで泳いで進む。

 

 数メートル先で必死に息をしようと頑張る彼女。

 

 あれだけ苦しそうに暴れていたら、浮き輪無しだったら俺も一緒に溺れていたかもしれん。

 

 口の中に入った海水が、舌と喉の奥を塩辛くしていく。

 

 が、構わず全力で泳ぎ続ける。

 

 泳ぐ、泳ぐ、とにかく泳ぐ!

 

 やがて、何とか古羊の元に辿り着くことには成功したが、古羊は完全にパニックを起こしていて、それどころではなくなっていた。

 

「古羊、大丈夫か!? 浮き輪! 浮き輪があるからこれに掴まれ!」

「~~~~ッッ!?」

 

 古羊は自分の呼吸を確保するのに精いっぱいといった様子で、俺に体を掴まれても無意識に手足を動かして抵抗してくる。

 

「古羊ッ!」

「――ッ!?」

 

 ガシッ、と強引に顔をこちらに向かせ、鼻先がくっつきそうなほど近くで目を合わせる。

 

「もう大丈夫だから、浮き輪に掴まれ。な?」

 

 瞳の焦点が徐々に定まっていく。

 

 古羊の体から余計な力が抜けていくのが分かった。

 

 俺は浮き輪を思いっきり海水の中へ引っ張り、浮力を利用して古羊の上半身を浮き輪の上になんとか乗せる。

 

 荒い呼吸を繰り返す古羊が、落ち着くのを待ってから、ゆったりとした声音で尋ねた。

 

「ゆっくり、自分のペースで呼吸すればいいから」

「はぁ、はぁ、はぁ……? お、オオカミ……くん? ど、どうして?」

「今は無理に喋らなくていい。とりあえず、沈まないように浮き輪に捕まっとけ」

「う、うん……」

 

 俺はカラカラになった喉を震わせて「せんせ~っ!」とヤマキティーチャーの名前を呼んだ。

 

 その様子を見て、俺と古羊が無事なことを確認するや否や、あんなに騒がしかった防波堤の方にようやく落ち着きが戻って来た。

 

「ヤマキティーチャーの話だと、警察に連絡は入れたそうだから、あとは助けが来るまでゆったりしてようぜ?」

 

 コクンッ、と頷く古羊。

 

 濡れた制服のシャツが肌に張り付いて、スカイブルーのブラジャーが丸見えの彼女と、俺はゆらゆらと海藻のように海の中を漂うのであった。

 

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