ベル・クラネルの治癒魔法の使い方は間違っているだろうか?   作:救命団副団長

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死んだはずの男が居るのは間違っているだろうか?

 リヴィラの街に津波のように襲いかかるモンスターの群。人類に敵意を向くモンスターの母胎であるダンジョン内の街は何度も壊滅して、何度も建て直されてきた。その光景は見慣れたものだ…全方位からでさえなければ。

 本来なら相手するのも馬鹿らしいと早々逃げ出す物量。そしてどこかの派閥の上級冒険者が問題を解決したら素知らぬ顔で自分達の街だと戻ってくる。

 しかし今回は逃げることも叶わず戦う羽目に。

 まあ、ただ逃げてるだけじゃ殻は破れない。仲間と手を組んでいようとも、先達に助けられていようとも、彼等は試練を超えた。偉業をなした。戦えぬ者は、ここには居ない。

 

「うおおお! やられ、てっ傷がない!?」

「そこに怪我人が居るんだ! 誰かはこ……居ない!?」

「消えた、俺の目の前で消えたぞ!」

「待たせたな!」

「うわあああ!? 無傷、そんな、重症だったのに……ゆ、幽霊!」

 

 芋虫を近付けぬように魔法や矢を放つ後衛。その後衛に迫る食人花達の対処に当たる前衛。

 その前衛で怪奇現象が起きていた。

 食人花の推定Lv.は3から4。打撃に強く斬撃に弱いという明確な対処法があろうとリヴィラの住人にはかなりの強敵。大半の者にとっては格上だ。

 当然怪我をする。けど治る。重症を負い動けなくなる。けど何時のまにか居なくなりモンスターに襲われることはない。

 暫くすると無傷で戻ってきた。

 

「…………凄いな、彼」

「ああ、しかし活動範囲を明らかに超えているな」

 

 それを遠目で確認するフィンとリヴェリア。彼等には怪奇現象の正体が見えていた。

 戦場を駆け回る兎……ではなくベル。

 怪我人に触れ傷を癒やし、重症人は一度安全な場所まで運んでから一気に数秒で癒やす。

 回復速度も練度も高い。

 

「少しやり方は違うけど、アミッドが居てくれるのと同様と考えてもいいかもね」

「あの子に匹敵する治療師(ヒーラー)に出会えるとはな………」

 

 気になるところといえば治癒魔法を投げて芋虫を吹っ飛ばしたりしてるところだろうか? 食人花に食われそうになった瞬間あれに当たって吹き飛びながらも回復した冒険者見てなければ攻撃魔法と思ってたかもしれない。

 

「おっと、来たようだ」

 

 と、築かれた防壁の一部が破壊される。まだ外側とはいえ、そこそこ頑丈に作っていた筈の防壁が宙を舞う。

 そのまま連続して防壁が破壊されていく。

 

「はっはー!」

「うん、元気だね」

「あ? ぐげ!?」

 

 我が物顔で最後の防壁を突き破ってきた襲撃者を槍で殴り飛ばした。

 

「づぅ! 貴様、【勇者(ブレイバー)】! 何故ここにぃ!」

「『明らかに人手が薄いのは誘っている。そこ以外を攻める……と、読んでくると思っているだろうな。その裏をかいてやる』」

「っ!」

 

 困惑する白装束に、骨を被った白髪の男。太陽を拒み続けたかのような病的な白さを持つ男は己の内面を読み取ったかのようなフィンの言葉に強張る。

 

「『ただ裏をかくだけではつまらない。自分の圧倒的な力を見せてやる』………そう考えて、わざわざ一番壁が分厚い此処を狙ったのかな? これみよがしに見せつける兵力といい、見せびらかすのが好きなんだね? おかげで解りやすいよ」

 

 最もこれは、高い探知能力を持つベルに伏兵の有無を確認してもらったからこそ取れた手ではあるが。モンスターをどこまで精緻に操れ、どれだけ考えて行動してるかは、初めての事ゆえ情報がなかった。

 

「フ、ギィィィ!?」

 

 そうとも知らず全て掌で転がされていると感じたのか、男は忌々しげに唸る。

 

「『彼女』に選ばれなかった凡俗めが、賢しげに吠えるなああ!!」

 

 警戒していた赤髪の女ではなかった。が、その仲間と見ていいだろう。捕まえて、何者かを聞き出す。

 

「愚かな神々に啓蒙する愚者よ! 『彼女』に愛されし我が身と相対した愚かさを呪うが良い!」

「その『彼女』とやらについても、是非とも聞かせてもらいたいね」

 

 ダン! と地面を蹴り迫る白髪の男。その速度からの推定、Lv.5(第一級)。特に力に対して自身があるのか文字通り力任せに拳を振るう。

 一撃一撃がなるほど、確かに強力だ。ともすれば力だけならLv.6に届きうる。が、それだけ。

 

「ごっ!?」

 

 石突で顎を殴られ、よろめいた瞬間多頭のヘビが如く迫りくる槍の雨。一方的だった。一方的に男が押されている。

 

「馬鹿な、何故だぁ!?」

「弱者を甚振り強者を避ける………そんな戦いばかりしてきた者の戦い方だ。なぜそのレベルまで成長できたのか不思議でならないよ」

 

 明らかに第一級の能力値(アビリティ)なのに、戦闘技能は稚拙に過ぎる。ランクアップには長い年月をかける都合上、どうしたって戦闘経験を積まなくてはならないのに彼のそれは弱者を痛め続けた暴力性。

 とても偉業をなしたとは思えない。何らかの方法で能力値(アビリティ)だけを底上げしたかのような。

 

(そうなると、未だ姿を表さない赤髪の女もその手の類か? 報告にあった異常な堅牢さと回復能力、一致する点は多い)

 

 もっと早く勝負をつけるつもりだった。しかし力以上に耐久が高い。おまけにつけた傷も回復を始めている。

 

「なるほど、これは確かに厄介だ」

 

 これで戦闘技能まであったらと思うと、笑えない。だが、親指の疼きは彼ではない。

 

「おのれえ! 食人花(ヴィオラス)! その小人を食い尽くせえ!」

「逃げるのかい?」

「ぬかせ! エニュオの甘言に乗るのは癪だが、『彼女』の為に私には果たすべき事があるのだ!」

 

 エニュオ。また知らぬ名だ。人名か神名か……。話を聞く限り良好な仲ではないようだが………。

 

巨蟲(ヴィルガ)!!」

「っ!」

 

 男を追おうとしたフィンだったが腐食液を持つ芋虫が行く手を遮る。あらゆるものを溶かす最悪の液体を吐き散らすそのモンスターを、フィンとて無視できない。

 追い打ちとばかりに食人花が芋虫に蔓を振るいその身を破裂させ、飛び散る腐食液。後ろに飛び回避したが距離を取られる。

 

「感じるぞ! 『彼女』の気配……貴様か!」

「いい!?」

 

 褐色の犬人(シアンスロープ)の少女にまっすぐ向かう男。『彼女』とやらの気配が、彼女の持つアイテムから発せられているのだろう。

 

「あ、あっちいけ!」

「ぬっ!?」

 

 犬人(シアンスロープ)の少女は抱えていたバッグをぶん投げる。腐食液を撒き散らす芋虫の方へ。

 

「ぬあああ!!」

 

 これには流石に男が反応を遅らせる。自らの足を溶かしながら腐食液の水溜りをかけ、鞄を受け止めようとした瞬間──

 

「ぶっ!?」

 

 グシャリと何かに踏みつけられる。ベルだ。

 男を浮島代わりに腐食液溜まりに着地しバックをキャッチしながら跳ねる。その衝撃で男がさらに沈んだ。

 

「ああ、バッグが溶けてる!」

 

 腐食液をわずかに浴びたバッグの一部が溶け中身が溢れる。慌てて受け止めるベルだったが布も溶け中身が顕になった。

 

「…………カエルの卵?」

 

 それは、半透明の球体に丸まった胎児。緑の皮膚に、女であることを象徴するかのような髪。異様に大きな瞳でジッとベルを………というよりは虚空を見つめている。

 ブンブン上下に振ってみるベル。

 

「フィンさ〜ん! どうしますこれ、もう割っちゃいますか〜!?」

「それは困る」

「え………」

 

 ゴッ! と鈍い音と共に衝撃が走りベルが地面に叩きつけられる。地面が罅割れ、陥没しベルの頭部が半ばで沈む。

 それでも足らぬとベルを叩きつけた赤髪の女はベルを持ち上げ再び叩きつけようとしてグニッと妙な感触に阻まれる。

 

「何だ、これは」

 

 何時の間にか現れた緑の半球体。それが地面をベルの頭から守るように衝撃を飲み込んでいた。弾力を持ったそれは、ベルごと女の腕を弾き飛ばす。

 

「っ!」

「はあ!」

 

 体を回転させ女の腕から逃れたベルは勢いそのまま蹴りつける。防いだ女だったが、ベルの足にも弾力のある膜が現れており、その弾力を用いてベルが女から距離を取る。

 

「頭割れるかと思った………」

「だ、大丈夫かよ………いや何で大丈夫なんだよ?」

「やだなあルルネさん、地面は鉄の塊じゃないんですから思い切りぶつけられても痛いだけですむに決まってるじゃないですか」

「普通は潰れるぞ!?」

 

 ドクドク血を流すベルは傷を癒やしながら女を見る。女もまたベルを睨んでいた。

 

「頑丈な奴だ………その上、傷はすぐ癒やすときた。面倒な」

「貴方がそれを言いますか」

「……………」

 

 お前も言うな、みたいな視線をベルに向けるルルネ。

 

「僕は治癒師(ヒーラー)ですからね。多少の傷は傷に入りません」

「時代と共にあり方を変えたか、厄介な」

 

 いいえこいつだけです、とルルネは思った。

 

「まあいい、それを渡せ」

「嫌です」

 

 ミシッとベルの持つ宝玉から嫌な音が聞こえ女が目を細める。

 

「これが何か知らない。でも、これにこの町の人達を苦しめてまで手にする価値があるとは、僕は思えない」

 

 ミシミシと音がなり、中の胎児が怯えるように身を震わせる。と……

 

「逆だ、小僧。この街に、『彼女』の手を煩わせる価値すら存在しない」

「っ!」

 

 腐食液に溶かされながら男が起き上がる。骨の兜は完全に溶け、彼もまた高い再生能力で溶けかけた顔が治っていく。

 

「は、お前………その顔は!?」

 

 その顔に見覚えがあるのか、ルルネは目を見開き叫ぶ。

 

「ありえねえ、だって………死んだはずだろ!? 千切れた下半身だって、見つかったって…………!」

「知り合いですか、ルルネさん……」

「………闇派閥(イヴィルス)

「イヴィ……?」

「過去オラリオに存在した、邪神の眷属………都市に破壊と死を振りまいた最悪の集団だよ。彼奴はその幹部、【白髪鬼(ヴェンデッタ)】、オリヴァス・アクト!」

 

 白髪の男、オリヴァスはふん、と不敵に笑う。

 

「懐かしい名だ。だが私は愚かにも愚昧なる神々に踊らされていたあの頃とは違う」

「何が違うってんだ!? あの頃から何も変わらねえ、また死と破壊を振りまいて! 今回だって、こいつがいなけりゃ何人死んだと思ってやがる!!」

「くだらんな。どうせ皆滅ぶ、遅いが早いかの違いだ。何より、何が、と………そう愚問を口にしたな?」

 

 その顔に浮かぶ感情は………優越感?

 

「何もかもだ! 私は『彼女』の代行者! 『彼女』より、種を超越した力を授かったのだ!」

 

 再生中の体の前面。その胸、腐り落ちた胸の肉の奥に極彩色に輝く結晶。

 

「そうだろう、レヴィス?」

「くだらん。お前は冒険者の相手をしていろ、あの兎は私が狩る」

「『彼女』の力の一端にあのような小僧が触れていることが問題なのだ。早急に離さねば、二人で行くぞ」

「………………」

 

 どうやらこの二人はあまり仲が良くないらしい。ベルはチラリと視線を別の方向に向ける。

 

「フィンさん!」

 

 剛速球。

 突然の行動に第一級の力を持つ怪人達すら反応に遅れ、ベルが叫んだ名からフィンの方へと振り返る。だが………

 

「うん、手に入れたよ」

 

 僅かに角度がずれており、受け止めたのはアイズ。フィンに向かうべく隙だらけのオリヴァスを吹き飛ばし、ベルに向かおうと己に背を向けるレヴィスに迫る。

 

「なめるな!」

「っ!!」

 

 急制動、からの反撃。圧倒的な身体能力を持ってして行う駆け引きとも呼べぬ力技。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!!」

 

 宝玉を上に投げ、《デスペレート》を両手に構え放つ風を纏いし一撃。レヴィスが風に飲まれ吹き飛ばされ水晶の柱に激突した。

 

「アイズさん!」

「大、丈夫………あ、宝玉」

 

 ゴン、と音を立て地面に落ちる宝玉。慌てて取りに行こうとする二人。と……

 

「今の風………」

 

 水晶の瓦礫を押しのけレヴィスが立ち上がる。ベルと………そして同様でなくとも同量の感情を乗せた瞳でアイズを見据える。

 

「お前が『アリア』か………?」

「────!!」

 

 その名は、アイズにとって無視の出来ない名前。ロキやフィン、リヴェリアとガレス以外はアイズと関連させることなどありえぬ名。

 じゃあ…………彼女は誰だ?




因みにこのレヴィスはロングだ! 変装する必要がなかったらね
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