ベル・クラネルの治癒魔法の使い方は間違っているだろうか?   作:救命団副団長

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怖がらないのは間違っているだろうか?

「【押し寄せる略奪者を前に弓を取れ】」

 

 

 背後から聞こえる詠唱。魔法を発動されるために紡がれる歌。その魔力を感じ取り、厄介と判断したのかレヴィスがレフィーヤを先に潰そうと駆け出す。

 

「【同胞の声に応え、矢を番えよ】」

 

 第一級の敵意。第二級で、後衛のレフィーヤからすれば恐ろしい筈のそれを、しかしレフィーヤは恐れない。

 

「はあ!」

「ちい!」

 

 ベルのナイフが迫り、砕けた大剣の僅かに残った刃で受ける。

 獲物を失ったレヴィスと獲物が健在のベルでは、僅かにベルに軍配が上がる。それでも決定力にかけるが…。だからこそ、レフィーヤを傷つけさせない。レフィーヤもまた、そんなベルを信じる。

 

「【帯びよ炎、森の灯火】」

 

 殴り、殴られ、斬りつけ、斬られ。しかしどちらもすぐに癒やす。そして、それには明確な差が生まれ始める。

 

「ちぃっ!」

 

 レヴィスの傷の治りが遅くなっていく。ベルの魔力にはまだ余裕がある。

 

「【撃ち放て、妖精の火矢】」

 

  溢れ出る魔力はレヴィスが発動させまいとするには十分で、当然極彩色のモンスターはその魔力に反応する。

 

「その人に、触れるな!」

 

 レフィーヤに迫る蔓を、牙を、全て切り捨てその残骸を芋虫に投げつける。接近されれば片手に貯めた治癒魔法弾を投げつけ吹き飛ばす。

 岩肌にぶつけた傷も回復し腐食液を撒き散らせなかった芋虫はベルの治癒魔法により癒やされていき、その魔力に惹かれた同族に噛み付かれ腐食液を彼等に浴びせる。

 

「ごあ!?」

 

 己に背を向けたベルをレヴィスが蹴り飛ばした。背骨が砕け、内臓が潰れる。

 

「【雨の如く降りそそぎ】

 

 詠唱はまだ完成していない。魔法は放たれない。起死回生の一手をここで潰すと走り出そうとしたレヴィスだったが何かに足を取られる。

 それは食人花の蔓。反対側を握るのは、ベル。斬った食人花の蔓を利用したのだ。

 

「【蛮族どもを焼き払え】!! 」

「飛んでけええ!」

 

 レフィーヤの詠唱が完了すると同時に、逃げ場のない空中に投げ出されるレヴィス。

 壁はない。足場もなく、回避は不可能!

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ 】!!」

 

 詠唱通り、雨の如く降り注ぐ炎で構成された大量の矢。本来なら広範囲に振りまかれる炎の豪雨がレヴィス一人に降り注ぐ。

 

「────!!」

 

 連続して響く轟音。炎に飲まれ、姿が見えなくなる。

 

「やりましたか!?」

「湖に落ちました。生死までは確認できませんでした…」

 

 レフィーヤの言葉にベルは苦虫を噛み潰したような顔でいう。レフィーヤはそうですか、と息を吐く。

 

「数もだいぶ削れてきましたね、あと少しです」

「はい。いってきます!」

 

 ベルはレフィーヤにマナポーションを投げ渡すと残りのモンスター達のもとに駆け出した。

 

 

 

 

「はっはあ! どうした【剣姫】、これが、この程度が第一級かぁ!?」

 

 純粋な技術ならアイズが勝る。だが異様な打たれ強さ、再生能力、ヒューマンとは思えぬ膂力はアイズを上回る。

 

「やはり神などに従う愚か者などこの程度だ! 『彼女』の寵愛を受けし私こそ、至高の──!!」

 

 仰々しく語りだしたオリヴァスに、巨狼がその爪を叩きつける。

 

「貴方は………」

「……………」

 

 ベルの連れていた狼型の魔物。灰色の毛並みを持つ大型級。咥えていた食人花の首をベッと吐き捨てる。チラリと何処かを一瞥した。

 

「………?」

 

 視線を追うと、地面に刻まれた斬撃の跡が見えた。ベルが放った緑の斬撃………アイズはあれを思い出す。

 

「そっか……ありがとう」

「……………」

 

 アイズのお礼に何を思ったのか、狼………フェルは残りのモンスターに向かって駆け出した。

 攻撃自体はアイズの方が当てている。頑強さと回復力で互角に持ち込まれているだけ。なら、やり方を変える。

 

「こう、かな………【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 アイズを包むように巻き起こる風。それが全て剣に集まり、速度と密度を増す。圧縮された空気が屈折率を持ち、アイズの持つ《デスペレート》の輪郭を歪める。

 

「おのれええ!」

 

 瓦礫から飛び出してきたオリヴァスはフェルの姿を探し、しかしこの場にいないことに気付き舌打ちするとアイズに向き直る。

 

「まあいい、まずは貴様からだ!」

 

 アイズは動かない。動けない。こんなやり方初めてだから。主神に騙され名付けた技、《リル・ラファーガ》の、()()()()

 

「グラ・トルベジーノ」

 

 圧縮された風がオリヴァスの脇腹の一部を削り取り───爆発した。

 

「────あ?」

 

 キョトンした顔で宙を舞うオリヴァスの上半身。胸より下はない。地面に倒れた下半身も足のみで、腹部が完全に消失していた。

 あまり実戦向きとは言えない。ためが長いし、動けない。己の力を過信したオリヴァスだから通じた技だ。改良の余地あり………。

 

「でも、終わり」

「っ! 食人花(ヴィオラス)ゥ!」

「っ!?」

 

 勝利を確信したアイズだったが………否、間違いなくアイズの勝利であったがオリヴァスは深層のモンスターもかくやというしぶとさで叫び、食人花を呼び寄せて、その身を咥えさせ、逃走した。

 

「逃さない!」

「私を守れぇ!?」

 

 アイズが追おうとすれば無数のモンスターがオリヴァスを守るために動く。このままでは逃げられる!

 とアイズが思った瞬間、一本の槍が食人花ごと口の中のオリヴァスを貫き地面に固定する。

 

「が、あ……!?」

「己が優位の時はしつこいぐらい攻め立てるのに、劣勢になれば逃げ出す。変わらないね、【白髪鬼(ヴァンデッタ)】」

「【ぶ、勇者(ブレイバー)】!!」

 

 オリヴァスは己を見下ろすフィンに憎々しげな目を向け、逃れようと必死に腕に力を込める。

 

「さて、流石に吹き飛んだ体を再生は出来ないようだけど、それでも元気だね。まだまだ治りそうだし、どうするか」

「関節を外すといいですよ。僕等みたいに自分で回復できる人は、それが一番です!」

 

 と、ベルがやってきてオリヴァスに向かって歩いていく。

 

 ゴグ、ボグ! ボギッ!ギャア!ア、オモッタヨリモロカッタ ゴグン!

 

「終わりました!」

 

 肩と肘と手首の関節を外され腕をだらりと垂らすオリヴァス。フィンは引きつった顔でベルを見る。

 

「う、うん。ありがとう……とりあえず、地上に戻ったら色々聞かせてもらおうか」

「っ! なめるなよ、人間が。例え私を捕らえたところで、『彼女』の寵愛を同じくするレヴィスが──!!」

 

 ボッ、とオリヴァスの頭部が消える。残された顎と舌がビクビク動く中、フィンとベルは()()()()()()()()()()に振り返る。

 森が広がっている。これでは大まかな方向しか……

 

「オオオオオ!」

 

 と、生き残った食人花の一匹がオリヴァスの胸を食い千切り、逃げ出す。元々街の端近く。完全に意識が別の方向に向いていたフィン達は反応が遅れ、食人花を逃してしまう。

 

「やられたな。口封じか………」

「それだけ、ですかね………」

「胸の魔石の事かな?」

 

 フィンの問いかけにベルは頷く。

 モンスターは魔石を喰らえば力を増す。オリヴァスの魔石もその法則に当てはまるのかわからない。だがもし当てはまるなら………それを、恐らく同じく魔石を持つであろうレヴィスが喰らったなら……。

 

「厄介なことになりそうだね、流石に7年前の再来になるとは思いたくないけど」

「7年前?」

「こっちの話さ。君もこの街に住んでいれば、いずれ知るだろう」

 

 オリヴァスが纏めてくれたおかげで残党は処理できた。後はフィンが勝利宣言する。指揮官の役目の一つだ。

 

「グルル」

「あ、フェル。お疲れ、じゃあ怪我人を治しに行こっか。結構疲れたよ。マナポーションも殆ど使ってるから、背に乗せて?」

「ワフゥ」

 

 仕方ない、と言うようにベルを咥え器用に背に乗せるとノッシノッシと歩き出した。

 

 

 

 

「……………」

 

 そんなベルをじっと見つめるアイズ。

 そうだ、お礼しようと駆け出そうとする。オリヴァスに勝てたのは、彼が意図してなかったとしても彼が見せてくれた技のおかげなのだ。

 

「あ、アイズさん!」

 

 そんなアイズにベルも気付き、フェルの背を撫でるとフェルが察して向かってくる。が、アイズは思わず固まる。

 『アリア』の名を聞き、追い詰められ、黒い感情が沸き立った今の自分が、無垢な笑みを浮かべてきた彼に触れていいのかと迷ったからだ。事実自分は、彼に逃げられてきた期間もあった。

 

「…………アイズさん」

「え……」

 

 と、思わず立ち止まり後ずさったアイズにベルがフェルの背中から飛び降り両手を優しく包むと己の額に当てる。

 

「大丈夫、怖くありません」

「え、あ………え、っと……」

「怖がったりしません。怖がらせちゃうかも、そう思ってあげられる優しい人なんですから」

 

 アイズの内心を読み取ったかのように当て、安心させるように優しく語りかけてくる。

 

「私は、優しくなんか………」

「優しいですよ。今も、僕を気にしてくれている。だから、何度だっていいます………僕は、貴方を怖がったりしない」

 

 それじゃ、とベルは怪我人の治療に向かった。

 

「アイズ、ここに居たのか…………アイズ?」

 

 レヴィスは間違いなく己より強い相手。オリヴァスに勝てたのも、彼が油断していたから。自分は弱い、もっと強くならなきゃ、そんな黒い衝動は何時の間にか消えていて、残ったのは……

 

「リヴェリア」

「何だ?」

「あの子連れて帰っちゃ………駄目?」

 

 あの白が欲しいという想い。

 

「ああ、駄目だ」

 

 だけど駄目だった。

 

 

 

 

「追いついたぞ、この糞パルゥムがっ!」

「ぎっ!?」

 

 Lv.1とはいえ、アビリティCを超えた冒険者の蹴りは小柄な少女を簡単に吹き飛ばす。

 呻くこともできず痛みに震える。起き上がろうとした頭を踏みつけられ石畳にぶつけ、視界に火花が散った。口の中に血の味が広がる。

 

「くそ、くそが! なめやがって、サポーター風情が見下しやがって!」

 

 苛立ったように何度も何度も蹴りつける。少女もまた恩恵を授かっている。そうでなければ死んでいただろう。

 いや、どのみち死ぬだろう。このままでは。

 手加減なんてない。殺す気もないのだろうが、止める気もない。殺したらどうするのか、慌てて逃げるのか開き直って死体を隠すのか。

 自分でも驚くぐらい冷静だ。これで、漸く()()()()という淡い期待があるからだろうか?

 足が振り上げられる気配。あ、これ死ぬ。

 そう思った瞬間、ゴッ! という音が聞こえた。蹴りは、来ない。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 片目は腫れ、もう片方も血で滲み良く見えない。見えたのは、白。それがなにか確認するまもなく、少女は意識を失った。

 

 

 

 

「…………なんですかぁ、これ?」

 

 起きたら『私は肋骨が折れてるのに気付いていながら他の人の傷を治すのに魔力を使いすぎ、折れたまま地上に戻りました』と書かれた板を首にかけた白髪の少年が銀髪の女性の前で正座していた。




フェルはダンジョン産でないのでアイズも受け入れやすい。ダンジョン産じゃないからなので、別にモンスターに寛容になったわけじゃない

因みに《リル・ラファーガ》は「小さな突風」という意味(リルはスラングでlittle ラファーガはスペイン語の突風)

《グラ・トルベジーノ》は「大きな旋風」。グラはとりあえずグランド(スペイン語で大きい)を略してトルベジーノは普通にスペイン語
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