ベル・クラネルの治癒魔法の使い方は間違っているだろうか? 作:救命団副団長
初日でオークを殴り殺す冒険者ってなんだろう。
地上に戻り、アーディは茜色の空を見ながら考える。
潜れるところまで潜ってみよう、と言ってみたは良いが、コボルトやゴブリンを粉砕し、キラーアントを踏みつぶし、ウォーシャドウを引きちぎり、上層とはいえ大型種を殴り殺すLv.1。
戦いづらそうにしていたのは、狭い階層。広さが出来てくると開放されたように動いていた。
いやまあ、わかっては居たけど。
フェルは時折ベルの横を抜けてくるモンスターを爪や牙で倒していた。
「これでマナポーションを買って、沢山の人を治療出来ますね!」
「良い心がけだけど、自分の為にも使いなよ?」
「自分のため、ですか? う〜ん………ナイフを新しいのにしたり? でも、今はこれでいいですかね」
ギルド支給品のナイフの柄に触れながら言うベル。そうだ、と妙案を思いつく。
「皆でご飯食べに行きましょう!」
ヘスティアは勿論、世話になったアーディ、アミッド。エイナも暇そうだったら誘ってみよう。
「あとシャクティさんやガネーシャ様も誘ってもらっていいですか?」
「うん、まっかせて」
いい使い方だね、と頭を撫でるアーディ。
「ああ、それと。アミッドさんには本当のこと話しておいたよ」
「え?」
「君が恩恵持ってなかったってこと。アミッドさんなら信用できるし、君はヘスティア様の恩恵をもらって
「え、あ……よ、良かった〜」
正直嘘を付き続けるのは得意ではない。もう嘘を重ねる必要がないと聞き、ほっと一息つくベル。
本当に素直な子だな〜、と気分を良くしたアーディがベルの頭を撫でる。
「あ、じゃあ僕エイナさんとアミッドさんを誘って、神様と合流しますね!」
「わかった。じゃ、お店は私のおすすめ教えたげる。場所はね……」
アーディはベルに店の場所を教えると、フェルに乗り『アイアム・ガネーシャ』に向かっていった。
「…………ねえベル君。ベル君ってサポーターだっけ?
「? いえ、冒険者です」
「そんなに抱えて、重くないの?」
「重いって、やだなあエイナさん。別に鉄を詰めてるわけじゃないんですよ?」
巨大なバックパックに魔石やらドロップアイテムを抱えて持ってきたベルに、エイナはこの子サポーターだっけと疑問に思うも良く解らない返しをされた。
取り敢えず中身を確認して見る。
「…………ねえベル君。この魔石、1、2階層の物じゃないよね? あとこれ、もしかしてオークの皮?」
「はい!」
「何階層まで潜ってるの!?」
「12階層です!」
「そんなこと聞いてるんじゃないの!」
「ええ!?」
バン! と使えを叩き叫ぶエイナ。何階層まで潜ったか聞いたのに!? と困惑するベル。なんだなんだと視線が集まる。
「どうして大型種が出る階層に初日から潜ってるのかなあ!? 私、危ないことはしないよう言ったよね!?」
「えっと……別に、危なくは……」
「危ないの! 毎年、油断した冒険者がその階層で大怪我したり、死んじゃったりしてるんだから! 一体何処の誰と行ったの!?」
「ア、アーディさんです!」
「え……ヴァルマ氏?」
「は、はい……」
と、その名を聞き驚きで冷静になるエイナ。
アーディ・ヴァルマ。オラリオでも屈指の人気を誇る第一級冒険者にして最高の
そしてめちゃくちゃ優しいお姉さん。そんな彼女が、無茶をさせるだろうか?
実はベルはかなりの才能を持っているからとか? 熟練のギルド職員達に半年も持たないと賭け事が行われていたのに? 因みにエイナはその話を聞いて怒りに任せ生き残るし担当になると叫んだ。
「う〜ん………うう〜〜ん……ベル君、ほんとに………ほんとーに大丈夫だったの?」
「はい。鍛えてますから……」
じーっと穴が飽きそうなほどベルを見つめる。嘘をついているようには見えない。
「はぁ……わかった。何も言わない………でも、一人で潜る時は安全第一。ベル君の将来の夢はダンジョン内での人助けなんでしょ? その前に自分が危険に合うようじゃ、助けられるものも助けられないよ」
「……はい」
「ん。よろしい」
と、ベルの頭を撫でるエイナ。
「あ、そうだエイナさん。この後、暇ですか?」
「この後? もうあがるけど、どうしたの?」
「良かったら一緒にお食事でもどうですか?」
「………………へ?」
食事に誘われることは何度もある。そのたびに上手く断ってきたエイナだが今回ばかりは反応に遅れた。
普通、食事に誘う冒険者というのは……まあその手の期待をにじませるものだ。ベルにはそういうのがないし、だからこそそう言うことはしないと思っていた。
「初のダンジョン探索で稼いだお金ですから、お世話になったエイナさんにお礼がしたくて」
純粋な善意で、事実なのだろう。駄目ですか? と不安そうに見つめてくるベル。保護欲がキュンキュン擽られる。
「もう、仕方ないなあ。場所は?」
「すいません、アミッドさん居ますか?」
「はい、何でしょう? ……ああ、ベルさん。初のダンジョン探索は終わったのですか?」
【ディアンケヒト・ファミリア】の店舗にやってきたベルがアミッドの名を呼ぶと、丁度カウンターにアミッドが居た。
「はい。だいぶ稼げました」
「それは何よりです。怪我などは……いえ、心配無用でしたね」
あのアミッドが。休日は薬品の配合したり調合の本を買ったりする仕事人間のアミッドが見知らぬ少年の仲良さげに話している。
誰だあれは、と興味持つ団員達。と……
「んん? 誰じゃお主は………」
団員達の心を代弁するように老神が現れた。ベルの汚れを弾く救命団のコートを見て同業者か? と首を捻り、しかし腰に指したナイフがギルドの支給品であるのを見抜き眉間にシワを寄せる。
「ここは貧乏人が来るところではないわ。薬が欲しいならミアハの所なら安く買えるからそっちにゆけい」
ただ帰れ、ではなく代わりの店を教えてくれるあたり、悪い神様ではないのだろう。言い方はあれだが……。
「彼は私の客人です」
「アミッドの? どういう経緯で知り合った……」
「子供の怪我を魔法で治しているのを見て、声をかけたんです」
「
これでさらに儲かる! と俗っぽいことを言う神。恐らくは彼がディアンケヒトなのだろう。
「よし! では早速
善は急げを体現したかのように早速ベルに己の恩恵を刻もうと奥の部屋に連れていくため腕を掴もうとするディアンケヒト。アミッドがそれを止める。
「残念ながらベルさんは恩恵を刻んで一年も経っていません。
「ぬぅ! 恩恵刻んですぐ
心底悔しそうに唸るディアンケヒト。誘ったが結局断らてしまったアミッドは気にせずベルに向き直る。
「それで、どのようなご用でしょうか?」
「はい、【ロキ・ファミリア】の時や、神様に誘われた時に色々教えてくれたりお世話になったので初のダンジョン探索で得たお金はお礼にしようと。一緒に食事でもしませんか?」
「……え」
「おお行って来い行って来い! アミッドよ、親交を深め必要な時に手伝いにこさせるのだ!」
本人を前に言うことなのだろうか?
アミッドは引き継ぎがありますので、と遅れるため合流場所を聞いた。
「…………えっと、こんばんはテアサナーレ氏。その……ベルく……クラネル氏に?」
「ええ………まあ、はい」
先に待っていたベルの横にアーディとヘスティア、シャクティとガネーシャが居るのを見て、思わず固まる二人。同時に足を止めた二人はまさかと同時にベルを見て、察した。
「そうだよね、お世話になった人沢山いるよね………」
「変な期待をするよりは、ミアハ様を相手にしているのと同じだと思ったほうが良さそうです……」
アミッドとエイナは同時にはぁ、とため息を吐いた。なんだか仲良くなれそうだ。