ベル・クラネルの治癒魔法の使い方は間違っているだろうか?   作:救命団副団長

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酒場に入るのは間違っているだろうか?

「ここがね〜、私のお気に入りのお店。値段はちょっと高いけどそのぶん美味しいし、店員さんもきれいで強い人ばかりだから騒ぎが起きてもすぐに収まるの」

 

 『豊穣の女主人』と言う店名の店。店の外からも活気が聞こえるほど繁盛しているらしく、それを誇らしげにしているのはアーディの性格から考えて知り合いが働いているのだろう。

 

「というわけで、ごー!」

 

 と、扉を開ける。酒を飲み豪快に笑う冒険者達に料理や酒を運ぶ若葉色のジャンパースカートに白のエプロン姿のウェイトレス達。店の奥ではドワーフの女性が料理を作っている。

 

「いらっしゃいませ………アーディ」

「やっほーリュー。今日も綺麗で可愛いね、抱きついていい? えい!」

「まだ何も言ってません!?」

 

 入店に気づき声をかけてきた()()のエルフの給仕に突然抱きつくアーディ。同性とはいえ他種族との接触を嫌うエルフが困った顔をしながらも受け入れているあたり、仲がいいのだろう。

 

「ほらベル、リューだよ。すっごく可愛いでしょ?」

「はい!」

 

 因みにベルの理想は『金髪』! 『エルフ』!

 ベルの好みのど真ん中。ウサトの周りの綺麗な人達を見た経験がなければ一目惚れしていたかもしれない。

 そう、ウサトは色んな女の人と仲良かった! やっぱりウサトさんはすごい!

 と何故か勝手に兄弟子の株を上げるベル。

 

「アーディ、こちらの方は?」

「んっとね、ベルだよ」

「………………」

「…………?」

「………え、それだけ?」

 

 名前を紹介し、次の言葉を待っていると無言のリューに首を傾げるアーディ。紹介がそれで終わったと気付いたリューは思わずそう声を漏らした。

 

「あ、えっと…ベル・クラネルです。縁あってアーディさんのお世話になって、他にもお世話になった人を誘ってダンジョン初探索のお金を使おうかと………」

「それは………いい心掛けですね。貴方のような方がアーディの友人になってくれて、私も嬉しいです」

 

 アーディを引っ剥がしながら微笑むリュー。

 

「改めて、私はリュー・リオン。元【アストレア・ファミリア】の冒険者で、今はこの『豊穣の女主人』の店員をしております」

「アストレア? 君、アストレアの眷属か! そっか、懐かしい。アストレアもここにいるのかい?」

「…………いえ、訳あってオラリオには居ません」

 

 と、何処か悲しそうな、あるいは申し訳無さそうな顔をするリュー。知己について聞きたくはあったが、不用意に踏み込むべきではないと判断するヘスティア。

 

「では、案内いたします。こちらへどうぞ」

 

 と、リューに案内され席につく一同。声のよく通るガネーシャが音頭を取る。

 各々メニューを見て、酒や料理を注文していく。ベルの稼ぎを知っているアーディは遠慮せず、知らないアミッドと知っているエイナは今後必要になるだろうからか遠慮がちに、ヘスティアとガネーシャはその辺気にせず頼んでいく。

 

「では、ベルの初ダンジョン探索及びこの出会いに、乾杯!!」

「「「かんぱーい!!」」」

 

 ガン! と酒の入った木製のジョッキがぶつかり合う音が響く。祝われている本人が奢る、不思議な宴会が始まった。

 因みにベルは酒を飲める。救命団団員達に昔飲まされたからだ。あと甘いのが苦手だったがとある国のお姫様に好き嫌いはいけませんと、好きになってもらうまで食べてもらいますと食わされまくって平気になった。

 あの頃は食べたぶんを消費する為に地獄を見た。いや、ほぼ毎日見てたわ。

 

「それにしても、ベル君凄かったね。初日で潜った階層、新記録なんじゃない?」

「そうなのですか? まあ、確かにベルさんなら………何階層に? 5階層? まさか、10階層?」

「12階層」

「ぶふ!?」

 

 アミッドは思わず飲んでいた酒を吹き出した。健康に影響の出ない薬用酒。独特の匂いがあるそれがベルに引っかかる。

 

「ああ! す、すいませんベルさん!」

「あ、いえ………き、気にしないでください」

 

 人によってはご褒美だが生憎とベルにとっては良い気分のするものじゃない。まあそれでもアミッドを責める気にはなれないが。

 

「へ〜、それってやっぱりすごいの?」

 

 とオラリオの常識を知らないヘスティアは首を傾げる。ガネーシャは「うむ、ガネーシャだ!」と叫ぶのでまあ凄いことなのだろうな、と思っているとエイナが叫ぶ。

 

「すごいすごくないの問題じゃありません! ヴァルマ氏! あ、えっと………アーディ・ヴァルマ氏!」

「アーディで良いよ。お姉ちゃんは?」

「シャクティで良い」

 

 私、怒ってます! と言う雰囲気を醸し出すエイナ。まあ気持ちはわかると特に気にした様子のないアーディ。

 

「初日から12階層って、何を考えているんですか!? ベル君が危険な目にあったらどうするですか!?」

「いや〜……私もね、思ったよ? ダンジョンはモンスターだけじゃなく環境もある。都市外の人は例えLv.3だったとしてもまずダンジョンの雰囲気を味わうべきだし、ベル君も少し危なそうになったら、その時点で止めようかなって………」

 

 と、アーディは遠い目をする。

 

「でもベル君予想以上に強くって………どんどん進んで、流石に中層は良くないな、って引き返したの」

「そんな話、素直に信じられる訳ありません! どこの世界に恩恵を受けて二日目で、ダンジョンに潜るのは初めてで12階層まで行ける冒険者が居るっていうんですか!」

「「ここ…」」

 

 とベルが自分を、アーディがベルを指す。ベルを拭いてやりながらアミッドも何とも言えぬ顔をしていた。

 

「エイナ・チュール。クラネルをそこらの冒険者と一緒にするな。同列に考え、常識を教えるだけ無駄だ。先日、門で暴れた冒険者の噂を知っているな?」

「は、はい。一応………」

「多少誇張されているが、あれは恩恵を得る前のクラネルだ……」

「…………え?」

 

 Lv.2やLv.3の衛兵もやられたというあの?

 どんな恐ろしい都市外眷属がやってきたのかと、ギルド職員達を戦慄させたあれが、ベル?

 いや、誇張されているのだったか? それでも、多分衛兵相手に暴れたのだろうし………。

 因みに誇張されている部分は暴れた者が筋骨隆々だの………()()()()()()()()()()()()()()()()()だったりする。

 

「それは初耳ですが………ベルさん?」

「その……都市外でテイムしたモンスターで一騒動あったって言ったじゃないですか? その時に……」

 

 アーディが取り持つ前に、暴れていたと。

 

「まあ幸い怪我人は一人も居なかったが」

「はい! 僕は救命団ですから、傷を残さないようにするのはお手の物です!」

「救命団とは………」

 

 何で人を救う救命団が人に攻撃して怪我させない方法を熟知しているんだ。

 エイナはなんだか疲れたと頭を押さえる。

 

「ベル君が、実は強いっていうのは………そうは見えないけど信じるよ。でも、ダンジョンは油断ならないんだからね? 人を救いたいって思いは立派だけど、無茶をしないように」

「解ってます。自分を守ってこそ、それが僕を鍛えてくれた人の教えで………自分も皆も守る、それが僕の憧れた人の言葉です」

 

 と、誇らしげな、懐かしそうな顔をするベル。

 

「ローズさん……師匠は滅茶苦茶だし怖いし鬼のような人ですけど、本当は誰よりも優しくて。ウサトさんは格好良くて何時も誰かの為に頑張れて、僕が憧れた物語の英雄が、そのまま目の前に現れてくれたような人達で………だから、あの人の弟子として、あの人の弟弟子として、自分の命を粗末にするのだけはしちゃいけない。そう思ってます」

「…………そっか。なら、信じてあげる」

 

 それにしても、ローズ。いや、名前が一緒なだけか、とエイナは一瞬浮かんだ同僚の顔を頭から消す。

 

「英雄かぁ、それがベル君の原点なんだね」

「子供っぽいですかね?」

「ううん、良いと思う。私も英雄大好き!」

 

 と、笑顔で返すアーディ。照れくさそうなベル。それを微笑ましげに見つめるシャクティ、ガネーシャ、ヘスティア。

 

「ベルさんが居た救命団……きっと、素晴らしいところだったんでしょうね」

「はい。皆さん盗賊みたいな顔してますけど、根は優しい人ばかりでした」

 

 盗賊?

 まあベルが言うのだから、優しい人たちだったのだろう。

 

「あそこにいられたのは、僕にとって誇りです。だから、一人でも多くの命を救いたい。守りたい……そのためには、より危険な下の階層に行けるぐらい強くなりたい。もちろん、地上でも怪我している人がいたら治しますよ」

「…………貴方は……そうですか。それは、素敵な信念ですね」

 

 グッと拳を握るベルを見てアミッドが微笑む。と、ドンと新たに料理が追加された。

 

「話は聞こえたよ。冒険者成り立ての坊主が随分大層な夢を持ったもんだ。冒険者はそうじゃなくちゃね! これは奢りだ、精をつけてダンジョンに挑むんだよ!」

 

 ドワーフの店主が豪快に笑う。アーディがありがとうミア母さん! と呼ぶ中ベルはジッとミアというらしい店主を見つめ、首を傾げる。

 

「なんだい? あたしの顔になにかついてるかい?」

「いえ、なんかこの感じ……………懐かしいような…………あ! このムカつくことは取り敢えず暴力で解決しそうな気配、性格は違うけどローズさんそっくり!」

「はっはっは! 生意気な坊主だ!」

 

 ズドゴン!

 ベルはデコピンで吹き飛ばされた。

 

「てめえ毎度毎度いきなり! って、あ! 違った……すいません! つい、ローズさんにする時と同じ反応を!」

「気にしなくていいよ。そのローズって人は、そんなにあたしに似てんのかい?」

「はい! 忠告より先に手が出るところが良く似てます」

「そうかい、そいつとは気が合いそうだね」

 

 「ミアお母さん以外にそんなやつが?」「この世の終わりにゃ」などと言い合う店員たち。

 「つーかなんであの駆け出しミア母ちゃんのデコピン食らってピンピンしてるにゃ。しかしいいケツしてるにゃあ」という店員も居た。

 

「………ベル君って、怒ると口調変わるんだね」

「ウサトにい……ウサトさんが怒る時はきちんと声に出したほうがいいって叫ぶ特訓とか手伝ってくれて、少し口調がうつっちゃって………」

 

 照れくさそうに、でもどこか嬉しそうなベル。

 それだけ強く彼の印象に残るウサトと言う人間に、その場の誰もが興味を持つ。

 

「昔話を聞きたいところだけど、今はお酒とご飯を楽しもっか」

「はい!」

 

 そうして6人の宴会は、そのまま暫く続く。

 

 

 そして、店を出て解散しようとする一同をベルが呼び止める。

 

「実は皆さんにこれを………」

 

 人数分に用意された箱。

 ヘスティアは小さな銀色の鐘が付いたリボン、アミッド、アーディ、エイナ、シャクティにはブレスレット、ガネーシャにはネックレスが入っていた。

 

「やっぱりお食事だけじゃ、僕の気がすまなくて……受け取ってくれませんか?」

「もちろん!」

「わぁ、ありがとうベル君!」

「感謝する」

「ベル君、ありがとね」

「うむ! これはガネーシャだ!」

 

 少し不安げだったベルは、皆のその言葉に嬉しそうに笑った。




次回
ダンジョンで出会うのは間違っているだろうか?
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