白き英雄譚   作:ラトソル

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今回は短いです。次回への導入も兼ねてるのですいませんm(_ _)m
次回と次次回は長くなる予定なので許して……


なんか来る度に荒れてるな、ここ

 雲ひとつ無い青い空の下。

 

 ぽつりと建っている一軒家の中で、幼い少年は本を読んでいた。

 棚の中には、いくつもの種類の『英雄譚』。祖父が用意してくれたそれらを、その少年はもう何周も読んでいた。

 

 その傍ら。

 木製の椅子に座る女性は『英雄譚』とは違う本を片手に静かに目を閉じている。

 

 今この家には夕ご飯の準備をしている者が奏でる音だけが存在していた。

 

 見方によっては、気まずいと思ってしまうほどの静かさだが、少年はこの時間が好きだ。

 

 元々この家には少年とその祖父の二人で暮らしていた。しかし半年ほど前、突然訪れてきた二人の男女。

 今ではこの四人での生活が当たり前となっていた。

 

 現在、足だけを出した状態で畑に埋まっている祖父が用意してくれた英雄譚だが、何周も読み返している少年は少し飽きてきた。

 

「ねえ、お義母さん」

 

 少年は今まで読んでいた『アルゴノゥト』を閉じて床に置く。そして今まで音を立てずに目を閉じていた女性に声をかけた。

 

 目を閉じたまま「どうした?」と返す。

 

「新しい『英雄譚』無い? ここにあるの全部読んじゃった」

 

 自分が感じていた『飽き』を女性にぶつける。灰色の長髪を持つ女性は少年の言葉に何を思ったのか少しの笑みを浮かべた。

 

「……なら、私が知る『英雄』の話を聞かせてやろう」

 

「ほんと!!」

 

 ゴン! と鳴ってはいけない音が少年の頭から響いた。少年の前にはいつの間に近づいたのか女性が拳を作っていた。

 

「騒ぐな。次に騒いだら殴るぞ」

 

「もうなぐっています!!」

 

 頭から煙を立たせながら非難の混じった視線を女性へと向けた。

 

「静かにすることが条件だ。決して雑音を立てるな。いいな?」

 

 その問いに少年は口を開けることなく頭を上下に振ることで答える。

 女性は「いいだろう」と呟きもう一度椅子に座り直した。

 そして、頭の中に残り続けている『英雄譚』を語り始める。

 

「これは、私が知る中での『最新の英雄』であり、『最高の英雄』である、一人の『白き英雄』の話だ」

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 夜が明ける数分前。

 中央広場ダンジョン前には冒険者の集団がいた。

 

 正義の使徒アストレア・ファミリアの全団員、ヘルメス・ファミリア、ロキ・ファミリアよりガレス、リヴェリア、アイズ。

 そして、『英雄』ベル・クラネル。

 

 エレボスが用意した『大最悪』討伐のためダンジョンへと潜る即席のパーティだ。

 

 今から始まるは、『決戦』。

 闇派閥とオラリオの総戦力のぶつかり合い。

 

 この場に集う冒険者は皆『決戦』にふさわしい装備を身につけている。

 

「リューさん」

 

「どうしました、アル?」

 

「その装備、すごく似合ってますよ」

 

 元々ベルの好みは金髪、エルフ。今のリューは好みどストライク。加えて今着ている装備もお世辞抜きで似合っていた。単純に思ったことを言っただけ。本人はそう思っているが、リューはその言葉を聞くと凄まじい勢いでベルから顔を背けた。

 

「???」

 

「リューさん?」

 

「「「うわ、まじか……」」」

 

 自分の行動に理解が及んでいないリュー、なぜ顔を背けられたのか分からないベル、そしてその二人を見てアストレア・ファミリアの団員はベルの天然ジゴロを目の当たりにした。

 

 その視線の中を、アリーゼが突っ込んで行く。

 

「ねぇねぇ、アル! 私は!! 私を見ての感想は!!」

 

「え? えっと、似合っていますよ」

 

「でしょ!! もう! 完璧美少女である私に見惚れちゃったのね、アルは!!! でもしょうがないわ!! だって私だもの!!! 美しく生まれてごめんなさい!!」

 

「「「イラッ☆」」」

 

 腕をまくりながらアリーゼに近づくライラやネーゼ達。その様子を見ているリヴェリアは頭を手で抑えてため息をこぼしていた。

 

「気を引き締めろ、小娘ども。決戦前じゃぞ」

 

「あら! ガレスのおじ様も私の美しさに見とれたのかしら! 熱い視線を感じるわ!!」

 

「誰もお主に見とれてなどおらんわ」

 

 羽交い締めにされながらも調子を崩さないアリーゼに調子を崩される。

 苦笑していたベルの元にてくてくとアイズが近づいてきた。

 

 ベルの前まで来たアイズはじっとベルの顔を見つめる。無言で向けられる視線に困惑する。

 どういうこと? と思っていると、不意にアイズは自分の服に目線をずらした。

 まさか、と思いつつもベルは推測の元口を開く。

 

「似合ってるよ、アイズ」

 

 アイズの表情が満足気に緩まった。どうやら正解だったようで、この難問を解いた自分を賞賛した。

 思わずアイズの頭を撫でた。急に撫でられたことに嫌な表情ひとつせずむしろ気持ちよさそうに身を預けていた。

 

「お前たち、もうすぐ夜が明けるぞ」

 

 リヴェリアの声にその場の全員の気が引き締まる。妖精の王族としてのカリスマだろうか。彼女の言葉はひどく芯にまで響いた。

 

「作戦通り、道中のモンスターの対処はアルに任せるが……いいか?」

 

 この集団の中で、いや都市の中で最も体力に自信があるのはアルだ。18階層までのモンスターなど、アルからすれば息をするより簡単に倒せる。

 

 今のダンジョンは荒れている。モンスターの大量発生も不思議ではないほどの環境になっている故のリヴェリアの心配だったが、ベルには杞憂だった。

 

「問題ありません」と即答したベルに頼もしさを覚えたリヴェリアは『英雄』の存在を再確認し前を向いた。

 

「わたしも、モンスター倒すよ?」

 

「じゃあ、討ち漏らしをお願いね」

 

「負けないよ」

 

 対抗心を燃やすアイズに「なんの勝負?」と思ったベルだが、都市に雄叫びが響く。開戦の合図だ。

 

「行くぞ!!」

 

 リヴェリアの号令により、ダンジョンへの進軍が開始された。

 全速力では無いものの、高レベル冒険者が集まっているため、その進行速度は凄まじい。

 

 1階層

 

「モンスターいないわね!!」

 

 2階層

 

「なんだか進むの楽だわ!!」

 

 10階層

 

「インファントドラゴンだわ!! ……あれ、消えた?」

 

 15階層

 

「ミノタウロスって目が合っただけで灰になるの……?」

 

 17階層

 

「……」

 

「……あ、モンスター」

 

「もう消えたがな」

 

「……私たち、いる?」

 

「やめろ団長。現実逃避をするな、虚しくなる」

 

「わたし、一体も倒せてない……」

 

「アイズ。今回は相手が悪かったんだ」

 

「皆さん、もう少しで18階層です」

 

「「「お疲れ様です」」」

 

「?? ありがとうございます?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 17階層から18階層への連絡路を走り抜ける。

 18階層に到達したベル達が見たのは『楽園』と呼ばれるにふさわしい美しい風景────ではなかった。

 

「なっ──」

 

「…………なに、これ」

 

「……これが、18階層? あの美しかった……みんなが好きだと言った、迷宮の楽園……?」

 

「森が燃えてる……緑も、空も消えた……」

 

「……本当にダンジョンなのかよ、ここは。こんな光景、拝んだことがないぜ……」

 

「熱い……息が、苦しい……」

 

「……まさに、『地獄』だな」

 

 まず感じたのは熱。燃え盛る大地、澱んでいる水晶。もはや楽園などではない、輝夜の言う通りの、地獄。

 

 その変わりきった風景に、思わずライラが悪態をつく。

 そして、第一級冒険者である二人は別の感想を抱いていた。

 

「これは、まさか……いや、これでは、まるで……!」

 

「ああ、まさしく『竜の壺』……! 深層域と同じ状態になっておる!」

 

「『竜の壺』……? ガレスのおじ様、それは一体──」

 

 ガレスの言葉の中に聞き慣れない単語があることにアリーゼが疑問を抱いた時、下の階層から炎が立ち昇る。それは18階層にいるモンスターすらも巻き込み、焼き尽くす業火。

 

 その炎を受けて形を保ったモンスターはその身を炎で包みながら半狂乱となりこちらへと向かってきた。

 

「火達磨のモンスターとはな……! 仕方あるまい、迎え撃つぞと言おうと思ったが、もう消えているか」

 

 輝夜の横を光が通り、遅れて突風となり黒い長髪をなびかせる。その風が消える頃には、既にほとんどのモンスターが灰に還っていた。

 

「……なんか、あのモンスター達も出オチみたいで可哀想ね」

 

「「「ちょっと分かる」」」

 

 近くのモンスターを倒し終えたベルは汗ひとつかかずに戻ってくる。

 瞬間、ベルがいる場所を炎の柱が貫く。

 

「アル!!」

 

「大丈夫です」

 

「うわっ!!」

 

 直撃したかのように見えたベルの身を案じたリューの叫びは、真横から心配されている本人の言葉で答えられた。

 

 ダンジョンが爆発しているようにも見える現象に疑問を覚えた輝夜に答えたのは、ガレスだ。

 

「直下の階層からの砲撃じゃ!」

 

「な……ッ!?」

 

「間違いなく、目標の『大最悪』だ。下の階層域から進出するため、岩盤を破壊しているのだろう」

 

「未だ男神(ゼウス)女神(ヘラ)のみしか踏破していない層域、『竜の壺』。儂らもまだ『ギルド』から提供された情報でしか知らんが、平然と『階層無視』の攻撃が行われていると聞く。52階層から始まる『地獄』の領域……それと同じことを敵はやっているのだろう」

 

「これが52階層相当の地獄絵図だってのか!? ふざけんなよ、もう規模が違いすぎて何が何だか分からねぇ!」

 

 ガレスの言葉により現状を再確認したライラが毒を吐く。

 

『竜の壺』。

 ベルはLv7であり、都市最強の座を得たが、未だ『竜の壺』には行ったことがない。それはヘスティア・ファミリアの団員のLvが低いためである。そのため、ベルは今初めて『竜の壺』を疑似体験している。

 初めて見るダンジョンの形態に、若干テンションが上がった。

 

「『大最悪』はまだ姿を現していない! 今のうちに準備を──」

 

「────余計なことはするな」

 

 静かながらもその声を聞いた者に動揺がはしる。居るはずのない存在を知覚する。

 

 コツリ、コツリと灰の長髪を揺らし歩いてくるのは、アルフィア。

 

「この景色の延長こそが神時代の終焉。五月蝿く、醜く、暴悪な、全ての終末に相応しい儀式。だからこそ、雑音はみな静寂へと還れ。抗うことに意義など持たせるな」

 

「【静寂】の、アルフィア……!」

 

「どうやって、ダンジョンに……!?」

 

(まさか……人造迷宮(クノッソス)を使って……?)

 

「私が答える義理はない……が、お前達は驚いていないな、道化の眷属」

 

「フィンが示唆していた……『大最悪』以外の、何よりも厄介な敵の出現を」

 

「そもそもフィンの『勘』に導かれていなかったのなら、儂らはこの場にいないからのぅ」

 

「そうか。どちらにせよ、どうでもいい。『最悪』が現れるまで、もう間もなく……喚かず、動かず、哭かず、沈黙の僕となることを約束しろ。であれば、手を下さずにいてやる」

 

「「「……っ!?」」」

 

 威圧されている訳では無い。それでも、淡々と要求を突き立てていく強者に対する、畏怖。リュー達は思わず息を飲む。

 

「神塔とともに時代が潰えるその時まで、黙って見届けると誓えるのならば──」

 

「────ムリね!!!」

 

 シリアスな空気をぶち壊す。そのままアリーゼの力説は続いていく。最後には「フッフーン!!」と胸を張って絶対悪たるアルフィアに威張る。

 

 調子が崩れる。けれど、今回は効果的面だ。強ばっていたみなの表情が柔らかくなっていく。

 

「それに、私たちにはアルが居る!! あなたなんて、簡単に倒してみせるわ!!」

 

「己の力で討ち果たそうとせず、強大な力を頼りにする。だからお前たちは弱者のままなのだ、弱輩ども」

 

「っ! 言っ、てくれるじゃない!!」

 

「動揺が隠せていないぞ、小娘。まあいい、それよりも、だ──英雄の伴侶となる作法は知っているか?」

 

「「「は?」」」

 

「英雄の遺伝子は次代へと繋いでいく必要がある。伴侶となる存在が不可欠なのは自明だ。支え、子を成していくに相応しい存在が、な」

 

 急に語り出したアルフィアに周りは呆然とする。アルフィアが『英雄』と口にする際にその双眼をベルの方へと向けるため、居心地が悪い。

 

「まあ、どこの馬の骨とも分からん輩が英雄(ベル)の伴侶になると言い出せば叩き出すがな」

 

 もはや私情を挟んでいるのでは? と思うまでの内容は、ベルには『英雄』という言葉が別の言葉に聞こえていた。

 

 ──そこで

 

「来たな」

 

 階層の中心に大穴が作られる。ほとばしる炎は今までの比ではなかった。規模、熱量、共に最大級のそれは、18階層を貫く。

 

「地面が、丸ごと……!!」

 

 階層が崩壊する。もはや階層としての機能などないに等しい。

 

「馬鹿な……早すぎる!!」

 

「──破壊に苦しむダンジョンの慟哭──そして、誕生祭(バースディ)

 

「「「!!!」」」

 

「邪悪の胎動。最悪の根源。原初の幽冥の名の下、契約をここに果たす────さあ、【終焉】を連れてきてやったぞ」

 

 突如出現した大穴から、『怪物』が顔を出す。

 階層主クラスの巨体。禍々しいオーラに包まれた『大最悪』は、モンスターの中でも最強の力を保持する────竜の姿をしていた。

 

 その姿はおぞましく、醜悪だ。

 ダンジョン深層に何度も潜ったことのあるリヴェリア達でも、見たことの無いその姿。

 

 戦慄しているもの達の中で、一人の少女は目を瞠目させ、拳を強く握りしめていた。

 

「『神の力』によって引き寄せられ、37階層より生まれた黒き異形。名をつけるとしたら、そうだな──『神獣の触手(デルピュネ)』といったところか」

 

「邪神エレボス……!! 神がダンジョンに侵入するだと!?」

 

「バベルは崩れ、神代は終わり、約束されし真話が始まる。そう──『闇と混沌の時代』だ」

 

「っ!!」

 

「正義の眷属達に、道化の眷属。お前たちは『英雄』の引き立て役でしかないことを自覚しろ。そして祝え。そして死ね」

 

 エレボスの告げる死刑宣告の間も、『大最悪』は暴れ続ける。

 おぞましいまでの口を開き、禍々しい炎の塊をいくつも放ち、無差別に攻撃をしている。エレボスの警護をしている闇派閥の者も、その攻撃に巻き込まれ、灰と化していた。

 

 皆が『大最悪』へと注意を向ける中、ベルは違う場所へと視線を向けていた。

 

 ベルは知らない。

 なぜ『彼女』が『怪物』を──特に『竜種』を憎んでいるのか

 

 ベルは知っている。

『彼女』がモンスターを憎んでいることを

 

 風が吹き荒れる。

 一人の少女を中心に、ただただ暴風を撒き散らす。

 

「…………ふーっ、ふーっっ…………!!」

 

 美しい金の双眼が、今ではひどく澱んでいる。

『仇』を睨みつけるように敵意を散らし、歯を食いしばり、無感情だった顔には憎しみの感情をさらけ出していた。

 

「あれは──」

 

 風が強まる。

 

「あれは──っ」

 

 吹き荒れる。

 

「あれはっっ────!!」

 

 ──黒き風が少女を包んだ。

 

「──うああああああああああああああああああああっ!!」

 

「アイズ!? 待てっ! 行くな──!!」

 

 少女の視界が黒く染まる。自らの瞳が映し出すのは、殺す対象のみ。周りの音を無視し、ただ目の前の敵を殺すために叫びながら駆けていった。

 

「リヴェリアさん! 僕が行きます!!」

 

 リヴェリアへと一声かけ、ベルは道中のモンスターを殺しまくって暴れ続けるアイズの元へと走る。

 リヴェリアもアイズの元へ行こうと一歩踏み出す。

 

「【動くな(ゴスペル)】」

 

「ぐっ!!!」

 

「リヴェリア様!!」

 

『大最悪』と同等の存在により、リヴェリアの歩みは阻止された。放たれた魔法は直撃させる気がなかったのか、リヴェリアの足元に着弾するも、その衝撃と破裂した地面の破片が飛び散り、吹き飛ばされた。

 

「この先へ行くことは許さん。それでも行きたいと言うのなら行動で示せ」

 

 アルフィアの魔力が膨らんでいく。それが示すのは戦闘。「この先へ行くのであれば私を倒して行け」と伝えてきたことにリヴェリアの眼光が鋭く光る。

 同時に、魔法主体で戦うリヴェリアだからこそ、この場にいる誰よりも理解した。

 今、自分達がどれほどの埒外と相対しているのかを。

 

「みんな! 戦闘準備!! 作戦通り行くわよ!!」

 

「来い、冒険者共。英雄の作法を教えてやる」

 

 




もうちょいで書きたいとこかけると思ったらテンション上がってきた
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