先程までの激戦が終わりを告げ、ミノタウロスは自身の勝利を確信し、吹き飛ばした相手へとトドメを刺しに向かった。
一歩、一歩と歩いていく速度は恐ろしい程に遅い。
先の戦いの余韻に浸っているのか、はたまたこの戦いが終わって欲しくないと願っているのか。
────こんなものか
荒ぶっていた鼻息は鳴りを潜め、ミノタウロスの頭に浮かんだのは『落胆』であった。
母たるダンジョンに植え付けられた『破壊衝動』。本来ならば逆らうことの出来ないそれを押しのける強い願望。
いつか約束した『再戦』を果たすときが来たのだと。
今こそ決着の時であると。
待望がようやく叶う。好敵手と戦える。
そして来た機会を掴み、やっとの思いで剣を交じえた。
その結果が、これか。
自身の肉体に無数につけられた傷は浅い。この程度、致命傷になどなるはずもなかった。
それに引き替え、数発の攻撃で相手は倒れてしまった。一瞬だった。
もちろん、戦っている最中は高揚した。
相手の速度はこちらを大幅に超えていた。その点は認めよう。
それでも、なんと呆気ないことか。
故に、落胆。
あとはトドメを刺すのみ。『破壊衝動』に駆られたこの身は、見逃すという選択肢を与えなかった。
対象は、すぐに見つかった。
木々は吹き飛び、更地となっているこの地では見つけやすいので当然と言えるだろうが。
点のように映っていた何かはだんだんと大きくなっていく。
そして、全身がはっきりと見える位置にまで辿り着いた。
それの周りは赤く染まっていた。血溜りを作り、身体はピクリとも動いていない。胸が停止しているのは、呼吸をしていない証拠なのか。
嗚呼、終わってしまう。
歩みは止まることは無い。あと少しで辿り着いてしまう。後は大剣を振り上げ、そのまま下ろすだけ。
その後は、周りにいた人間の元に行く。
目的を果たしたこの身は、ただ破壊を振りまく機械となる。
距離が縮まっていく。もう間もなく辿り着いてしまう。対象の身体を見ていたミノタウロスは、ピクリとも動かなかった指が震えたのを見逃さなかった。
そして、今度は口が震えながら開く。こちらに聞こえないほどの声量で相手が呟いた。
瞬間、稲妻が迸る。
眩い光に包まれ、その光量に瞳を薄くする。まだ光の余韻が視界に残る中、そこに倒れていた存在が消えていた。
どこだ、という疑問と同時に、身体に違和感を感じる。
左手の感覚がない。
そして、どさり、と重量のある何かが地面に落ちた音が聞こえた。
下を見下ろせば、そこには手のようなものが落ちていた。いや、見間違うはずがない。あれは自分のものだ。左腕を見れば、あるはずの手が綺麗に切り落とされており、傷口がバチバチと雷に焼かれていた。
「ヴ、ヴモオオオオッッッ!?」
知覚することができなかった。なにより、今まで薄皮を斬ることしかできなかったのに、左手を切り落とされた。
驚愕により、ミノタウロスの絶叫をあげる。今も雷により焼かれ続ける左腕を抑える。焼かれたことにより傷口は塞がっていたが、ダメージが持続して与えられた。その痛みは絶大だった。
フー、フーッ、と息が荒くなる。目が血走り、怒りが湧き出る。そして、強大な気配を感じる後ろに勢いよく振り返った。
血走った瞳で睨んだそこには、自身の手で倒したはずの男が背中を見せて立っていた。その体には目で見えるほどに稲妻が迸り、全身を包み込んでいた。静電気によってか、髪が重力に逆らい上へと逆立つ。
そして、出血していたはずの傷口は完全に塞がっていた。粉砕した左腕も、見る限りでは元に戻っている。
ミノタウロスの意識が向いたのは、右手に握られた漆黒のナイフだったもの。短いナイフのはずだったそれは、雷を纏い刀身を拡大していた。
記憶が蘇る。
そうだ。あの時も持っていた。雷を纏った剣を。
────嗚呼。
怒りはそのままに、喜びが溢れ出す。
痛みに歪んでいた顔はニヤリと口を横に伸ばし、笑みを作りあげた。
────そうだ。そうこなくては。
背を向けていた相手が──好敵手がこちらに振り向く。血で赤く染まった口元を手の甲で拭い、紅い瞳をこちらに向けた。
「────決着を」
身体が歓喜に震える。ようやくだ。好敵手からの言葉が全身を駆け巡る。
この時を待っていた。
────さぁ、決着を!
「──ヴォォォオオオオオオオオ!!!」
大剣を握りしめ、ミノタウロスは力強い一歩を踏み出す。
正真正銘、最後の戦いが幕を上げた。
────────────────────────────
稲妻が駆け巡る。
剣と剣がぶつかり合う事に、雷が落ちたと錯覚するほどの音と衝撃が響いた。
ミノタウロスが大剣を振り下ろす。ベルはそれを雷を纏ったナイフで僅かに拮抗させ、受け流した。
その勢いを利用して回転し、踵でミノタウロスの頬を撃ち抜く。ぐらついたミノタウロスは右脚で地面を砕き大規模な衝撃波を生み出し、ベルを後退させた。
両者が立て直す間に、ベルは自身の体の状況を確認する。
かなりの量の血を失ったものの、
雷の大精霊をその身に宿したことで、ベルに流れる血には大精霊の血が含まれている。『精霊の奇跡』と言えるほどの驚異的な治癒力により大抵の傷は魔力を集中させれば瞬く間に治る。
【ケラウノス】。
雷属性の付与魔法であり、精霊魔法でもあるそれは、対象のステイタスを底上げするだけにとどまらず、癒しをもたらす。
瞬間的な効果こそないものの、病気、傷、呪い。全てに効果がある。
精霊の血に加え、魔法を使用しているベルの体は、傷つく毎に治っていく。魔力を使用する以上無限ではないが、ベルの魔力総量は莫大なものである。
さらに、この魔法は、付与のみにとどまらず。
任意での放出が可能なのである。
雷の大剣を振るう。ミノタウロスとは距離があるものの、大剣が通った道筋に雷が放出され、雷の斬撃となりミノタウロスを襲う。
雷故に回避不可の速度。必中の斬撃はミノタウロスの身体を削り、そして痺れさせる。
同じ精霊由来の魔法であるアイズの【エアリエル】を超える性能。まさにチートと言えるであろう性能。しかし、漆黒の猛牛は食らいつく。
一撃撃ち合う毎にベルの動きは速くなり、重くなる。だが、ミノタウロスはそれ以上のスピードで動きが最適化されていた。
この怪物は生まれてまもない。赤子のようなものである。
前世の感覚はあれど、今の肉体の使い方など分からない。今までは、力に任せた動きでベルを圧倒していた。それが、高速戦闘の中で洗練されていく。目も慣れてきた。未だ追えないベルの姿だが、予測を織り交ぜて対処する。
こちらへ飛来する雷は大剣で防御。間に合わなければ地面へと流す。
先程までとは比べ物にならないほどの成長。これはもはや『進化』と言えるほどのもの。ランクアップに迫る勢いで、漆黒の猛牛のポテンシャルは跳ね上がっていた。
しかし、『進化』と言えるほどの成長をしているのはミノタウロスだけではないのだ。
数分前の自分をはるかに凌駕する速度、力、手数。
もはや数値だけでは測ることの出来ない実力となったベルは、しかしミノタウロスに決定的な一撃を与えることが出来ずにいた。
フェイントを織り交ぜながら、複数の残像を残し、ミノタウロスへと迫る。当たれば致命傷。されどミノタウロスの驚異的な反応速度に加え、未来予知に近いほどにまで研ぎ澄まされた野生の勘により防がれる。そしてミノタウロスからの追撃から逃れるために距離を取り、また駆け出す。
このやり取りが何度繰り返されているだろうか。左手を失っているにも関わらず、こちらの攻撃を捌き切るミノタウロスが異常なのだ。そして、このミノタウロスは未だに発展途上。一合斬り合うごとに成長する。
それはベルも同じだ。
スキルによるステイタス自動更新。この戦いの中で、ベルは驚異的なスピードで経験値を蓄積していく。常に発動している【ケラウノス】により『魔力』は跳ね上がり、敏捷もそれに追随するように数値を伸ばしていく。ミノタウロスの異常な耐久を誇る肉体に一太刀入れる事に、力の数値も増加する。
両者がそれぞれ別の方法で成長していく。その成長速度はお互いに同等。故に魔法によって互いの実力は並んだものの、追い越すことはない。いや、むしろ引き離されている。
(どうすれば────)
相手の実力が跳ね上がるのを知覚しながら、有効な一手を模索していると、ミノタウロスが大剣を地面へと振り下ろした。
壮絶な爆発を生じ、衝撃波と飛び散る石により後退を余儀なくされる。土煙が舞い、一時的にミノタウロスの姿を失うが、気配で様子を伺う。
一向に動かないミノタウロスの気配。土煙が散り、ようやく見えだしたのは、左腕を地面に突き刺したミノタウロスの姿だった。
(何を────)
地面に深く埋まっている左腕を引き抜く。その腕の先には、左手が生えていた。
(自己再生!? いや──)
新しく生やした手の感触を確かめるかのように閉じて開くを繰り返す。その質感は明らかにミノタウロスの手では無いのが判断できた。ダンジョンの中にいるモンスターが使う自然武器のようなものかと考え、すぐに駆け出す。感触を確かめ終わったミノタウロスはすぐさま大剣を横に振るった。
その大剣の軌道に合わせるように体を反らす。紙一重で回避し、失速しないままに雷の大剣で斬りつける。雷は内部まで浸透し、一瞬体を痙攣させるも、すぐさま地面へと電気を逃がし、追撃を加えてくる。その一連の動作は、明らかに最適化された動き。今までよりも数段早くなった動きでベルに迫るその手は、やはり虚空を掴んだ。
その程度では今のベルに触れることすら出来ない。それほどまでにベルのスピードは跳ね上がっている。しかしミノタウロスに対しても有効打が無い。なにかきっかけがあれば。距離を取ったベルは模索する。そこで、ふわりとしたなにかが頬を撫でた。
「……白い、風?」
何も出来なかった。
目の前にいた怪物を、ただ恐れた。見えなくなったのに、今なお私の身体は震えている。
アルが、目の前で殴り飛ばされていたのに。私は見ていただけ。
アルは今も一人で戦ってる。私の英雄は、孤独に戦っている。
ダメだ。そんなのは、ダメ!!
一人が寂しいのは、知ってる。置いていかれる怖さも、もっと知ってる!!
アルは私を、私たちを守るために戦ってるのに、私は震えて待つだけなの……?
違う。そんなのダメに決まってる。
私の英雄。誰も、私の前になんか来てくれなかったのに。アルは来てくれた。
私は、守られるだけなのはもう嫌!! 私も、
……でも、私が行っても足手まといなのは分かる。
あの怪物の前じゃ、私は邪魔なだけ。
どうしたら、どうしたら、アルを守れる……?
どうしたら、どうしたら、どうしたら────
「……精、霊……?」
アルがいる方から、精霊の気配を感じた。
震える足に鞭を打ち、体を起こす。
────多分、私に出来るのはこれくらい。
「────【
ふわりとアイズの前に白き風が出現する。突き出した右手の前で収束していく。
「お願い……お母さん。私の英雄の元まで、届いて──」
凝縮された風は、意志を持ったようにまっすぐと進んでいく。それを見送ったアイズは、その風を追うように、ゆっくりと歩いていく。
「アル……」
少女の思いは風となり、英雄の元へと届いた。
優しく触れた風は、そのままベルの体を包み込み、雷と混ざりあっていく。
「これ……アイズの……」
バチりと弾く雷と優しく包み込む白き風。雷を纏った大剣にも風は纏わり、風と雷の出力が拡大された。
一気に膨張した大剣は、ゆっくりと元の大きさへと戻っていく。しかし、以前までよりも内包されているエネルギーが跳ね上がっているのが分かった。
雷と風。全く異なる属性であるものの、精霊という共通点において、互いの相性ははまりあった。
高まり合う圧力に危険を察知したミノタウロスが迫る。それに対して、ベルは大剣を振るった。その軌跡に沿って放出される雷風。一直線で対象へと突き進む雷風を回避するも、避けきれずに角の先端に当たった。そのまま突き進む雷風は角を切り取り、まっすぐ進んでいく。
驚異的な威力を目の当たりにしたミノタウロスはこれ以上の成長は不利になると判断し、短期決戦に意識を切り替え。ベル自身も魔力の残量が心許なくなってきており、またミノタウロスの成長スピードは衰えることがないことを理解し、こちらも短期決戦へとシフトした。
【
全力で潰しに来ているミノタウロスの攻撃を躱しながら、ヘスティア・ナイフにスキルにより蓄積させていく。
リン、リンと鈴の音が響き、白い光の粒が収束していく。
チャージ中なので、大剣を使うことができず、回避に徹する。全てを避け切られるミノタウロスは苛立ちが募るも、中身は冷静だ。このままでは埒が明かないことを判断したミノタウロス。今好敵手が蓄えている力が最後の一撃となるのだろう。それを避ければ自身の勝ちが確定する。それが最善手。確実に勝つ方法。
────そんなこと、知ったことか。
それでは真正面から勝ったことにならない。何より、自分が納得いかない。相手の最高の一撃を打ち砕いてこそ、勝利の雄叫びをあげられるのだ。
猛追していたミノタウロスが突然距離を取った。不思議に思ったベルを置き、ミノタウロスは握っていた大剣を後ろへと投げ捨てた。そして、上体を低くし、地面へと手を着いて突進の姿勢をとる。
「──ッ!!」
それは猛牛の出せる最大の一撃。お前の一撃を真っ向から打ち破るという意思表示。ニヤリと笑ったミノタウロスに、ベルの全身がブルりと震えた。
それは悪寒によるものか? いや、断じて違う。それは、武者震いだ。命を懸けた殺し合い。そんな状況にもかかわらず、ベルは高揚していた。このような最高の舞台、二度と訪れないだろう。ならば、こちらもそれに恥じない最高の一撃を────
リン、リンと鳴っていた小さな音は、次第に音色を変えていく。
ゴォーン、ゴゥン。
鈴の音は次第に鐘の音に。それも大鐘楼となって18階層に木霊した。
「鐘の音……?」
自分達には被害が来ないほどの距離で、しかし視認できていた距離での戦闘を見ていたリヴェリアは、鳴り響く鐘の音に意識が奪われた。
目の前で繰り広げられていた激戦。倒れたと思われていたアルの復活とともに、幾度となく雷が鳴り響き、稲妻が迸っていた。戦いの内容など分からない。Lv5程度がついていける次元など軽く超えた頂上決戦。
鳴り続けていた雷が音を潜めたと思った矢先、次に聞こえてきたのは大鐘楼だった。ダンジョンでは聞くはずのない音色、しかしひどく心安らぐ音色に安心していく。
ベルの戦闘が始まってからオッドアイの瞳を瞼を開いて見せ、刹那を見逃さぬように見続けていたアルフィアは鐘の音に聴き入った。
「美しい……」
雑音を嫌うアルフィア。彼女が親しみ聞く音など数え切れるほどにしかない。しかし彼女は鐘の音に嫌悪感など微塵も浮かばせず、ただ聞き入った。そして同時に悟った。自らの役割を。
(そういうことか、好々爺の系譜……だからあの時私に血を分けたのか)
「おい、若輩共」
「「あ"?」」
同じく鐘の音を聞いていたリヴェリアと輝夜は邪魔されたことと若輩と貶されたことに怒りを含めて睨みつけた。怪我人からの威圧など軽くあしらうアルフィアは足を前へと動き始めた。
「少し出る。この場は任せるぞ」
「何? どういうことだ、何を────」
リヴェリアの言葉を待たず、一方的に要件を伝えたアルフィアは駆け出した。満身創痍の自分達が追いつける訳もなく、女王の自分勝手な行動など反応するだけ疲れると諦めが着いていたリヴェリアは深くため息をついた。
「──ん」
リヴェリアでも、輝夜でもない声がした。金色の髪を垂らし、清らかな音色を出したのはミノタウロスの咆哮により気を失っていたはずのリューだ。鐘の音につられたのか、目線をベルがいる方向に向けられており、意識が段々と覚醒していく。
「……アル」
現状がどうなっているかなど理解はできていない。しかしベルが戦っているということだけは分かった。今の自分には何も出来ないから。無意味かもしれない。それでも、祈る。
起きた末っ子に小言を挟まず、輝夜は今から起きる全てを目に収めるために意識の全てを前方で起きることに集中させた。
ゴォ-ン、ゴゥン
ベルの大剣が光り輝く。その光量にふさわしいほどのエネルギーが蓄積され、放たれるその時を今か今かと待ち続けている。
(ッ、ここまでか……)
本来ならばまだまだチャージ可能。だがしかしベルには魔力が残されていない。これ以上ためれば一撃を放つ前に気絶してしまう。今のベルにできる最大のチャージが完了した。ミノタウロスは脚に力を入れ、筋肉を膨張させ、最高のコンディションを作り上げていた。
互いの目線が合わさる。開幕の合図なんてものはない。しかし、動き出しは示し合わせたかのように同時であった。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「────【
弾丸のように撃ち放たれた巨体と雷風を纏った大剣が衝突する。地面が陥没し、遠く離れているはずの迷宮の内壁を砕く程の衝撃波が放たれた。
その衝撃波は迷宮を揺らし、地上へと伝わる。地震となって地上を揺らしていることなどこの2人には関係ない。
全ての力を込めた互いが今放つことの出来る最高の一撃。ミノタウロスは肉体の全てを。ベルは残る魔力の全てを込めた一撃。
互いの全力。過去最高の一撃は両者拮抗し、そして徐々に戦況は傾いていく。
(────押される!?)
ベルが振り下ろした大剣が徐々に押し返されていく。数ミリずつ、しかし確実に押し負けている。
ベルは
加えて、魔力の残量。全開の【ケラウノス】、その前の魔法連発。
深手はない。ダメージが蓄積されているとはいえ、些細なことだった。左手も代用している。むしろ傷を負ったことで闘争本能が刺激された。
何より相手は待ち望んでいた好敵手。どんな状態であったとしても最高の一撃を撃てている。
ゆっくりと、ベルの踏ん張る足が後ろへと押し出されていく。
「ッ! はああああああ!!!!」
歯を食いしばり、喉を震わせて叫ぶ。全ての力を込め、拮抗しようとするも、押される速度が緩まるのみだった。
お互いの一撃が重なる中、衝撃と爆音が鳴り響く。ベルの叫びは霧散していき、ゆっくりと敗北のカウントダウンが始まっていた。
(力が足りない!! 魔力がもう底をつく! どうすれば────)
「────アル!!」
爆音が鳴り響く中、少女の声が響いた。
届くはずなどないのに。少女の声ははっきりとベルの耳に届いていた。
はぁ、はぁと息を乱し、髪をボサボサにしながら、アイズがそこにいた。自分の非力を理解しているから、決して駆け寄ってきたりはしない。ただ、あなたは一人では無いのだと。それを伝えたいがために、見守る。不安の色は何一つない。ただ信じていると。
私の英雄が、負けるはずないんだと。
(────アイズ、ありがとう)
「────ああああああああああ!!!」
限界を迎えていたはずのベルがさらに力を込める。下がり続けていた体はピタリと止まり、両者が拮抗した。
しかし、押し返すことはない。それには足りない。あとひとつ。なにかがあれば勝てる。
コツン、コツンと音を鳴らし、誰かが後ろから歩いてくる。
「【祝福の禍根、生誕の呪い、半身喰らいし我が身の原罪】」
近づいてくる気配と共に、詠唱が聞こえてくる。聞いたことの無い詠唱。しかし、声は知っていた。
「【禊はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪】【神々の喇叭、精霊の竪琴、光の旋律、すなわち罪禍の烙印】【箱庭に愛されし我が運命よ砕け散れ。私は貴様を憎んでいる】【代償はここに。罪の証を持って万物を滅す】」
「【哭け、聖鐘楼】」
魔力が高まる。真横までに来て並び立った女性に背中を押された。そちらを見れば、瞼を開き美しいオッドアイをベルへと向けて微笑む女性が立っていた。
「【ジェノス・アンジェラス】」
破壊の鐘の音が鳴り響く。広範囲に渡り殲滅するその大魔法が、全てミノタウロスへと向けて放たれた。拮抗していた両者の一撃が傾く。魔法のひと押し。それにより、ミノタウロスが押されていく。放たれた魔法は一撃を与えるだけにとどまらず、ベルのナイフへと纏わり、その威力を底上げした。
ミノタウロスの膝が折れていく。雄叫びを上げて抵抗するも、既に拮抗は終わっていた。
────何故だ。
────また横槍を入れるというのか。
────また他者からの力を受け入れるのか。
「ヴォオオ────」
「ああああああああああああああ!!!!」
────いや、私も他者から力を得た、か。
────ならば、この結果に何も言うまい。
────だが……嗚呼、それでも。
────次に戦う時が来るのならば。
────その時は、誰の介入も無く……全力で。
ついに角が切り落とされ、大剣が振り抜かれる。地面にまで振り下ろされた大剣は大地を砕き、ミノタウロスの体を光が包み込んだ。その剣撃は止まることなく突き進み、クレーターを作りながら階層の端まで到達し、壁に巨大な剣撃の跡を残し、上空へと登って行った。そのまま天井を貫き、階層を超え、10階層程登った辺りで消滅する。その一撃は光を失い不気味な色に照らされていた18階層を眩しく照らした。
パラパラと石が飛び散り、目の前が巨大な空洞となる。下の階層に到達しているほどの巨大な穴を目の前にして、ベルの体がふらりと傾いた。
倒れる前にアルフィアが優しくベルの体を支える。戦いの邪魔にならないように遠くで待機していたアイズが心配そうな表情でこちらへと走ってきていた。
「アル……!!」
ゆっくりとベルを座らせると、アイズが泣きながらベルに抱きついた。
血や土で汚れた服を気にすることなくアイズは顔を押し付けて背中にまわした腕に力を込めた。
「……ありがとう、アイズ」
ベルは微笑みながらアイズの頭を撫でる。その後に感謝の言葉を伝えると、隠していた顔をベルに向けて、「うんっ!」と笑顔を向けた。
少しの間撫で続けたベルはおもむろに頭に乗せていた手を離す。手が離れたことでベルの顔を見ようとしたアイズだったが突然耳を押さえられてあたふたとし始めた。
そしてベルは静かに見守っていたアルフィアの方へ顔を向ける。
「ありがとうございました、アルフィアさん」
「礼は要らん。私が勝手にしたことだ。それに奴をあそこまで追い込んだのはお前だ」
「それでも、です」
「……そうか」
ベルの感謝に口角を僅かに上げる。よく見ないと分からないほどだったが、ベルは気づくも指摘はせず。すぐに表情を戻したアルフィアがベルの状態を見た。
「……出血に加え、
「分かってます……でも、最後に一つだけ」
耳を塞がれて何も聞こえずわちゃわちゃしているアイズを他所に、「なんだ」とアルフィアが端的に尋ねる。
「……アルフィアさん。生きてください」
「……なに?」
「アルフィアさんと……ザルドさん。生きて……『ぼく』を、お願いします」
「……お前」
「二人で……『ベル・クラネル』の所に……お願い、します」
瞼を完全に閉じ、耳を塞いでいた手の力が抜け、解放されたアイズは意識がないベルを見て瞳がうるみ出したが、深く呼吸をしていたことから気を失っているだけだと分かり胸を下ろしていた。
「……メーテリア。まだそっちに行けそうにないよ」
ベルの願いを聞き入れたアルフィアは天を見上げ、今は亡き妹へと謝罪する。そして寝息を立てている妹の子の頭を軽く撫でた。
「────他でもない【英雄】の頼みだ。分かったよ、ベル」
アルフィアの目は完全に開いており、誰が見ても分かるほどに、笑っていた。
『偉業を確認』
ベル・クラネル
Lv7(ランクアップ可)
力:SSS1230
耐久:SSS1496
器用:SSS1110
敏捷:SSS1543
魔力:SSS1322
幸運:C
耐異常:D
逃走:F
連攻:F
精愉:G
剣聖:H
《魔法》
【ファイアボルト】
・速攻魔法
【
・対魔法魔法
【ケラウノス】
・付与魔法
・雷属性
《スキル》
【
・早熟する。
・懸想が続く限り効果持続。
・懸想の丈により効果向上。
【
・能動的攻撃に対するチャージ実行権
【
・猛牛系との戦闘における、全能力の超高補正。
【
・神の権能の一部無効化。
・戦闘時の『敏捷』と『器用』のアビリティに高補正。
・ステイタス自動更新。
【
・精霊魔法の行使。
・負傷時、発展アビリティ『治癒』の一時的発現。
しれっとスキル進化するスタイル。
次回でアストレアレコードは終了です。
原作突入するかは分かりません。多分しますけど。
続編として別で投稿するか、このまま章分けで投稿するか悩む