白き英雄譚   作:ラトソル

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 太陽が浮かび上がり、光が地上を照らし出す頃。

 目覚めている人は少ない。起きていても早朝から始まる店の準備などだろう。ダンジョンに潜る冒険者など、この時間には存在しない。ダンジョンに冒険者が居たとすれば、遠征か、深く潜っているものか、はたまた18階層のリヴィラの住民か。

 

 17階層、嘆きの間。

 階層主であるゴライアスが出現する空間。巨大な体を収めるには十分すぎる空間が空いており、直径では100mを容易に超えるだろう。

 

 そんな空間で鳴り響いているのはモンスターの叫び声などではなく、火花を散らす金属音。それも生半可な威力ではない甲高い音が素早い間隔で鳴り響いていた。

 

 相対しているのは二人。金色の髪を靡かせながら縦横無尽に駆け回り、相手を翻弄しようと動くのはロキ・ファミリアのLv5【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。第一級冒険者である彼女の攻撃、加えて魔法さえ使っている彼女と渡り合えるのは同じLv5でも難しい。そんな彼女の瞬きの間に描く幾重もの剣閃は──相手の体に当たることは無い。

 

「ッ!!」

 

 アイズの相手をしている男は、彼女とは対照的に全く動かない。アイズとの戦闘が始まってから、彼は一歩たりとも動いていなかった。

 

 アイズの剣が彼の体に迫る。途端、軌道が逸れる。アイズの目には、微動だにしない男の姿が映っていた。ナイフを握る腕は下がったまま。しかし自身の攻撃は通用しない。

 

 実際は男は腕を動かしている。単純な話だが、その攻撃を捌く動きがアイズの動体視力をはるかに上回っているだけ。故に動いていないと錯覚している。男からの反撃はなく、全ての攻撃は逸らされている。

 

 アイズの息は荒々しくなっていた。もうどれだけ時間が経過しただろうか。その間全力で動き回って息切れで済む彼女の体力を褒めるべきだろう。しかし男には汗ひとつ見られない。余裕の顔でアイズを見ていた。

 

(────強い)

 

 流れる汗が頬を伝い、地面へと落ちていき染みを作っていく。七年前からの目標である目の前の男との差を見せつけられ、改めて彼の強さを理解した。いや、こんなもので彼の強さは計り知れない。本気の彼を見たのは七年前の一度きり。あの時より確実に強くなっている彼の強さは埒外のものだろう。しかし、それでも。

 

(アルの横に並びたい……!!)

 

 男……アルの構えは一見して油断しているように見える。しかしそれは油断などではない。構える必要がないからだ。アイズからすれば、あの脱力した状態でさえ隙がないと思えるほどに、アルの速さは異次元だった。

 

 不意に、髪を伝った汗が右目に落ち、視界が遮られる。右手の甲で汗を払おうとアルから意識を少し離してしまった。瞬間、視界が塞がった。

 

 否、距離が離れていたアルが目の前まで来てアイズの顔に蹴りを繰り出したのだ。音を置き去りにした超速の一撃は顔の前で停止し、遅れて風を斬る音が耳に届き、そして押し出された風圧が降り注ぐ。寸止めで収めたことでアイズに傷はないが、風圧で髪が揺れ、汗が吹き飛ぶ。目は見開いたまま固定され、思考が停止していた。

 

「今日はここまで、かな」

 

「──ぁ」

 

 目の前まで迫った脚を下ろし、用意していたタオルをアイズに渡す。ようやく動き出したアイズはタオルを受け取ると顔をタオルに沈める。

 

(……遠い)

 

 物理的なアルとの距離ではなく、実力の差が違いすぎた。先の蹴りも本気ではないだろう。しかしその一撃だけで、アイズは十分自身の『死』を感じ取れるものだった。対人では使うことがない【エアリエル】を使ってもなお縮まることの無い距離が二人の間には存在していた。

 

 その差は歴然で。誰もが諦めるほどの距離。しかし、アイズは諦めない。自身の憧憬に辿り着くために。だから、アイズは焦っていた。もう数年もランクアップができていない。ステータスの伸びも遠征で些細なほどに上がった程度。

 

「そろそろみんな起きる頃だろうから帰ろう、アイズ」

 

「うん……次はいつ修行してくれるの?」

 

「分からないけど……当分先になるかな」

 

「……分かった」

 

 互いの予定──アル次第だが──が合えば行ってきたこの手合わせ。定期的なものだったが、次の間隔が空くことに若干の寂しさがあると同時に、成長した自分を見せるために更なる特訓をしようと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄昏の館。

 

 オラリオ現2大派閥の内の片翼を担っているロキ・ファミリアの拠点。城のような風貌で、抱えている団員の数が多いことを物語るほどに巨大だ。

 

 現在は昼時。既に昼食を食べ終えた者がほとんどであり、ダンジョン探索に出向いている団員たちはまだダンジョンの中にいる。ホームに残っているのは事務作業がある者などだろうか。

 

 ホームにいる数少ない者の内の一人、ロキ・ファミリア団長フィン・ディムナは団長室にて頭を抱えていた。目を通す書類などは残ってはいるものの、既に片手間に終わる程度にしか残っておらず、故にフィンの悩みの種は別のところにあった。

 

「……参ったね」

 

「まったくだ」

 

 独り言のように呟いた彼の言葉に返したのは副団長でありハイエルフのリヴェリア。腕を組み凛と佇む彼女の姿はただそこにいるだけで圧巻される。そんな二人を悩ませているのは、先日の1件。

 

 同ファミリアのベートが駆け出しの冒険者を侮辱したことから始まった。自分達の失態を並べ、危険に晒した冒険者を笑いのネタにして楽しみゲラゲラと嗤う。リヴェリアが注意しても酔いが回っているベートは止まらず、酒場に木霊するほどの声量で告げていった。

 

 その後だ。ベートが店員に喧嘩をふっかけ、一方的に拳を向け──敗北した。その店員……アル曰く、ベートは酒に酔って気絶した、と言っていたが。

 

「酒の飲み過ぎ、という訳が無い」

 

 フィンの言葉を肯定するようにリヴェリアは頷いてみせる。一部始終は見ていた。あの時豊穣の女主人にいた者たちは全員見ていただろう。Lv6。オラリオでも最上位と言っていい実力を持つ二人……しかし、ベートが気絶した瞬間に何が起こったのかは分かっていない。

 

 証拠はない。しかし確信している。アルがベートを気絶させたのだと。あの時のベートは半ばヤケになっていた。酒もあるが、つい先程起きた本人も自分が何をしたのか聞かされて顔を青くしていた。あの時は話し合いは成立しないことは一目瞭然、故にアルは強行突破したのだと。

 

 二人はアルの実力を知っている。全てを見た訳では無いものの、あの暗黒期を過ごし、実績を目の当たりにしている。リヴェリアに至ってはあの神話の戦いとも言える激戦を見たのだ。だからあの時、アルがどう切り抜けるのかを注視していた。一挙手一投足を、隙なく観察していた。

 

 しかし、何も分からない。

 

 腕がぶれた……そんなことすら分からない。彼らの目では、「ベートが突然倒れた」ようにしか見えなかった。

 

 アルは実力も、経歴も全て隠している。豊穣の女主人で働いていることも知らなかったが、数年前にアイズと通りを歩いている時に、ちょうど買い出しをしていたアルに飛びかかったことで存在を認知した。髪色も瞳も変わっていたし、どこか存在感が薄いように感じられたが、アイズは何処にいても見つけて飛びついていた。流石に行き過ぎた行動なので、人目に付くところでアルに飛びつくのは止めるように言い、渋々アイズは承諾した、が。

 

 気が緩んでいたのか、他の何かに気を取られていたのか。約束なんて頭から消し飛んだアイズがアルに飛びついた。それも酒場全体の注目を集めた場で。当然、その後のファミリアは荒れた。更には噂が都市中に広がり、「【剣姫】の男」という話がそこかしこに出回っている。

 

「アイズが向けているのは、恋愛の類のものかは定かではないけどね」

 

 アイズがアルに向けているのは『憧れ』の感情。他にも色々と混ざっているだろうが、『恋』をアルに向けているのかは定かではない。それはアイズ本人にしか分からないし、そもそもアイズは『恋』なんてものを知っているのだろうか。

 

 しかし、本人が恋をしているかどうかは重要ではあるものの今の論点では無い。問題なのは、アルがロキ・ファミリアでは無いこと。

 

 アルがどの派閥に所属しているかは知らない。少なくとも、ロキ・ファミリアでは無い。他派閥同士での付き合いというのは、何かと問題が出てくる。同じファミリアでの恋愛に比べて、他派閥での恋愛は盛り上がる。どれだけの期間残り続けるのかは分からないが、数ヶ月は覚悟しなければならないだろう。

 

「アルがロキ・ファミリア(うち)に入ってくれたらこんなに悩むことも無いんだろうけどね」

 

「有効な手段だろうが、望みは薄いだろうな」

 

 二人だけの空間で、シンと静まった後に、互いに深くため息をつくとこの先に待っている苦労を思い描き再度頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇアイズ!!あの人誰なの!?」

 

 二人の苦労人が頭を悩ませているのと同時刻。

 遠征が終わった直後ということもあり、遠征に参加した者たちは一日の休暇を命令された。

 アイズも今日は表立ってダンジョンに行くことは出来ないためホームで休息をとり、今朝に行ったアルとの手合わせの反省をしていたところでティオナ達が来たのだ。

 

 突然やってきたティオナに驚き、そして何故か目を輝かせているティオナを不思議に思いながら首を傾げる。

 

「あの人……?」

 

「昨日の酒場の男よ」

 

 情報が少ないティオナの文脈にティオネが詳細を加えた。テンションの高い妹を呆れたように見ながらも、彼女も昨日の男の正体が気になっているようだ。ティオネの言葉でようやく誰のことを言っているのかが分かり、首が元の角度に戻る。

 

「アル、のこと?」

 

「分かんないけど多分その人!」

 

 当然ティオナ達は例の男の名前を知らないため、アイズの言う『アル』と自分たちが思っている男が同一人物かは定かではないが、昨日の出来事はかなり印象の大きいものなので恐らくあっているだろうと話を進める。

 

「アイズって、そのアル?って人と知り合いなの?仲良さそうだったじゃん!」

 

「どうして、アルのこと知りたいの?」

 

「酔ってたって言っても、ベート(あのバカ)の攻撃を受けてもビクともしないで、しかも全部捌くなんて只者じゃないもの」

 

「最後酔っ払って倒れてたけどね〜」

 

 もちろんこの二人もあの場にいたため、ベートとアルのやり取りは見ていた。

 ベートはLv5であり、更にはいつランクアップしてもおかしくないほどの実力者であることを二人は知っている。酔っていても並の冒険者では吹き飛ばされるだろう。しかしアルは直撃したベートの腕をなんともないように受け、そして攻撃を全て避けて見せた。それほどの手練なら2人が……いや、冒険者が知らないはずがない。

 最後にベートが倒れたのは酒のせいだと団員達は聞かされ、例に漏れないティオナがケラケラと笑いながら話すとアイズは軽く首を振る。

 

「違うよ」

 

「え?なにが?」

 

「ベートさんは、アルに気絶させられた」

 

「「……は?」」

 

 笑っていたティオナもティオネも、ポカンと口を半開きにして呆然とする。それほどにアイズの言ったことが理解不能だったからだ。二人はベートが倒れた瞬間を見ていた。その時のアルも。二人の目には、ただそこにいるアルと倒れるベートが映っていた。腹を殴ったところも、首に手刀を当てるところも、何も二人は見ていない。

 

 団長であるフィンは、ベートは酒により倒れたことを伝えていた。二人はそれを信じていたが、目の前の少女は否定したのだ。あたかも気絶させたところを見ていたように。

 

「アイズはアルって人がベートを気絶させたとこ見たの?」

 

「……見えなかった、よ」

 

 悔しそうに、落ち込んだように少し俯き語気が弱まりながらつぶやくアイズに二人は対応に困った。二人が目の前で何故か落ち込んでいる少女の次の言葉を待っていると、もう一人一緒に来ていた少女の肩が何かをこらえるように震える。やがて、我慢の限界を迎えた少女は二人の間を抜けて前に出る。

 

「アイズさんっ!!」

 

「レフィーヤ?」

 

 距離が近いにもかかわらず大声を上げた少女、レフィーヤの声にアイズは顔を上げる。そこに映るのは目が血走って興奮が収まらずに荒く息を吐くエルフの少女がいた。

 

「レ、レフィーヤ……?」

 

「ど、どうしたのよレフィーヤ」

 

 いつもと違うレフィーヤの様子に戸惑う姉妹のことなど視界に入っていないほどに荒ぶっているレフィーヤは聞きたかったが聞いてもいいのかとずっと悩んでいたことを告げた。

 

「ア、アイズさんはっ!その男とどういう関係なんですか!!?」

 

「「……え?」」

 

 予想もしていなかった質問にティオネとティオナは先程と同様に唖然とした。アイズも何を言われているのかあまりピンと来ていないのか首を傾げているが、レフィーヤの内心は穏やかなものではなかった。

 

 レフィーヤの記憶にあるのは宴が始まってから少し。アイズ達と話し出し、少し経ったほどで彼女の記憶は飛んでいた。無論、酒の飲みすぎのせいである。夢の世界へ旅に出ている間に騒動は起こったため、彼女は当時の記憶はなかった。

 気持ちよく眠りにつき、清々しい朝を迎えた彼女はいつも通り朝食を取るため食堂へと向かうとそこにはいつもと雰囲気の違う同僚たちが居た。そして聞いた。あの噂を。

 

 ────アイズさんって、付き合ってるっぽいよな。

 

 持ち上げたスプーンが床に落ちた。石のように固まった体は動く気配すらなく、目の焦点はどこにも合っていない。何かの聞き間違いだろうか。そうだ、そうに違いないと、崩れかけた心を何とか保とうとするところで、また話し声が聞こえる。

 

 ────昨日男に抱きついてたもんな。

 

 バキッ、と何かが壊れる音と共に少女の心は崩れていく。世界から自分だけ色を失い、真っ白になったレフィーヤはサラサラと砂になり散っていくような感覚を覚えた。

 

 レフィーヤにとって、アイズ・ヴァレンシュタインという冒険者は憧れの存在だ。彼女の中でアイズの存在は大きく、尊敬を超えた眼差しを向けている。今まで畏れ多く声をかけることを躊躇っていたものの、遠征時に会話をしたことによりレフィーヤの中でのアイズは更に上位の存在へと昇華した。

 

 その憧れの存在に、男がいる?

 私が見ていなかった時に抱きついていた?

 あの人におじゃま虫がついている?

 

 促さずとも耳に入る情報は彼女の精神を崩壊させ、遂に無我の境地へと突入した。そして決めた。本人に確かめようと。それはもうすごい笑顔で決めた。周りの同期は引いていた。

 

 そして、今。ティオナに誘われチャンスだと悟ったレフィーヤはついて行き、遂に運命のときを迎えた。この返答によっては、自分の命が決まる。それほどの決意を持って告げた質問は、ようやくアイズの頭で理解されると、アイズは躊躇いもなく答える。

 

「アルは、私の英雄」

 

「」

 

「「レフィーヤぁ!!!??」」

 

 レフィーヤだからこそ分かる、憧れのものに向ける眼差し。それを目の前にいるアイズはしていた。それだけではなく、遠い何かを見つめるような、そして大切なものを見るような、そんな瞳。それを理解したレフィーヤは、既に壊れていた精神が遂に限界を迎え、白目を向きながら崩れ落ちる。そばに控えていた姉妹は突然崩れ落ちたレフィーヤを慌てて支え、力が全く無い少女の頬を叩きながら意識を取り戻そうと必死になり、この場はカオスなものへと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秘密の手合わせを終えて誰にも気づかれることなく豊穣の女主人へと戻るとまだ起きている人達はミアしかおらず、アルは朝の仕込みを手伝っていた。ミアにはある程度の事情は伝えているため戻ってきたアルをみても追求はせずタオルと着替えを渡してくれる。

 

 時間が経ち、他の従業員達も起き始め仕事へと入っていくと、やはりアルは昨日のことについてからかわれた。

 

「ヒューヒュー、ニャァ」

 

「相変わらず【剣姫】に好かれてるにゃあ。隅に置けないやつニャ」

 

「アンタら、後でどうなっても知らないよ」

 

 近寄って肘でつんつんとニヤニヤしながらつついてくるアーニャとクロエは長い間ちょっかいをかけていたが、先が分かっているルノアは呆れたように傍観し、そして視界にエルフが映った瞬間に三人から距離をとる。

 

「アルに近づきすぎだ」

 

「フゴッ!?」

「ブニャッ!?」

 

 両手を使い同時に二人の後頭部を拳で叩きつけると、頭を抑えながら痛みをこらえて悶えている二人を冷たい瞳で見下ろすリューは殺人者のそれだった。決して一人の女性がしてはいけない顔だった。地に伏した二人を見て苦笑を浮かべたアルにリューは近づくと顔をアルの顔に近づける。

 

「あまり人前での過度な接触は褒められたものでは無いかと」

 

「す、すいません……」

 

「……まぁ、【剣姫】ならば問題ありませんが」

 

 離れ際に呟いた声はしっかりとアルの耳に伝わっていたが、言葉の意味は理解できなかった。その前にリューの服装に注意が向けられる。

 ウェイトレス姿ではなく、ローブを身につけマスクをつけた変装をし、バトルクロスを身に纏うリューの姿だった。腰には木刀がつけられていることから、何処に行くのかはわかった。

 

「ダンジョンに向かうんですか?」

 

「はい。ミア母さんから半休を頂いたので」

 

 見送りのために二人で店の入口まで向かい、少し外に出て立ち止まる。

 

「みんなのところに、行ってきます」

 

「っ……そう、ですか」

 

 リューの目的を聞いて、一瞬悲しみと後悔の感情が表に出かけるも、リューが振り返る頃にはいつも通りの表情を作り見送る。違和感を感じなかった彼女は「それでは」と言う一言とともにバベルの元へと向かっていった。既に冒険者たち達がダンジョンへと向かっているため、人混みに紛れ姿が消えるまでアルはリューの姿を目で追い、そして耐えるように拳を握りしめる。

 

『──まだ、言わないのか』

 

 突然、路地裏の方から声が聞こえた。変声機を使っているのか、男性か女性か判断がつかない中性的な声、それをアルは知っている。そちらの方を向かず、視線はリューが消えた方に向け続ける。

 

「……まだです。リューさんはまだ乗り越えてない。今伝えたら……壊れるかもしれない」

 

『……そうか。君達の判断ならば何も言わない』

 

「はい……それで」

 

『ああ。オラリオの外、デダインの村の先にある「黒の砂漠」にて異常が見られた。調査、並びに可能であれば原因の排除を頼む。君がいない間、異端児達は彼女達に付いてもらうから安心して欲しい』

 

「分かりました」

 

『すまない。頼んだ』

 

 気配と足音が離れていき、路地裏に顔を向ければ既にそこには誰も居ない。

 ミアに休暇をもらうべく、仕込みをしているミアの元に向かった。

 

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