Fateの二次創作、短いですが投稿しました。よければどうぞ。
ふと、思い出した。
オラリオに来る数年前。お祖父ちゃんと二人で過ごしていた世界に、お義母さんとおじさんが加わって。
世界が広がって、彩られていった。
おじさんの料理は美味しくて。畑仕事とか、薪割りとか、一緒にやったりして。狩猟なんかにも、連れて行ってくれた……魔物は指一つで弾け飛んで行ったけど。
お義母さんは、寡黙で静寂を好む人だったけど、お義母さんとの静かな時間は心地好くて。僕の話も、相槌は少ないけど、意識を向けて飽きずに聞いてくれて。
……英雄譚の話に興奮して、声が弾んだ時には容赦のない拳骨が飛んできたけど。
直接聞いたことは無いけど、実は高名な冒険者とかでは無いのだろうか。二人とも、自分の事を話そうとはしていなかったから、良くは知らないけど。
お義母さんから、【白き英雄】の話を聞いて。しかもそれが現代の話で、僕はその
その話をしている時のお義母さんの顔は、どこか楽しそうで。だから僕も、嬉しくなって。
『英雄になる』……そう言った時から、おじさんの笑顔がトラウマになったけど……追いかけっこ……筋肉ダルマ……大剣……ウッ、頭がッ!!
……今思い返しても、おじさんの修行という名の理不尽は、全くもって稽古と呼べるものではなかったなと、思わずため息をついた。
逃げ足だけは早くなっていって、家では英雄譚を読んで。
僕が名前をつけた【白き英雄譚】の続きは無いのかな、なんて思って、お義母さんに聞いてみたけど、そんなものはなくて。
でも、お祖父ちゃんに聞いてみたら、その前日譚と、そして続きを聞かせてくれて。
前日譚は、明るい内容とはとても言えなかったけど、英雄の誕生秘話のようなものが聞けて。
その話をお義母さんにした時、何か悩んでいるような表情を浮かべていたのは印象に残っていた。
そんな、楽しかったり、トラウマを植え付けられたり、平凡な日々と言え無いかもしれないような生活をすごして少しした時、一度だけ。
僕は────【英雄】の姿を、見たのかもしれない。
「────ル様っ、ベル様っ!!」
早朝、太陽が地上を照らし始めて間も無い頃。バベルの元へと、冒険者達が姿を見せ始め群を見せるほどになった頃、僕は少し下から聞こえてくる少女の呼ぶ声に目を覚ます。
「大丈夫ですか、ベル様? 疲れが溜まっておられるのでは?」
「ん、大丈夫だよ、リリ。おはよう」
僕よりも一回りほど小さく、
おはようございますっ、ベル様! と、元気な声で応えてくれたリリと待ち合わせをしていた僕はどうやら眠っていたようだった。寝不足という訳では無い筈だけど、少し気が緩んでいるのだろうかと、心の中で自分を叱責する。
それでは行きましょう、というリリの横へと、彼女と歩幅を合わせてダンジョンの入口へと足を向けた。
(久しぶりに見たな、あの夢)
(僕も、あの人みたいに)
脳裏に過ぎるのは、夢の内容。映し出されるのは、今僕が持っているナイフのようなものを持った男の人と、大剣を持ったザルドおじさんが笑い合いながら、地面を陥没させながら戦争さながらの攻防をしている光景だった。
「ベル様? 苦虫を噛み潰したようなお顔をされてどうしたんですか?」
付随して、その二人が発する金属音やら爆裂音やらに機嫌を損なった
『喧しい』
『……え、詠唱無しで、魔法並の砲撃っ……』
『お、前……冗談抜きで、世界最強だぞッ……』
『そのような肩書き興味も無い……まだ暴れ足りないのなら、お前達まとめて相手をしてやるが?』
『『いえ、大丈夫です……』』
毛量の多い髪で風を切る音が聞こえてくるほどに、頭をブンブンと大きく振る。忘れろ、忘れろ、と、念を込めるのを忘れずに。
そうだ、なにかの勘違いだ。黒髪の男の人と、ザルドおじさんが、当時の僕じゃ見えないほどの戦闘をしてる中に、お義母さんが指を弾いただけでさっきまでが嘘のように二人が沈黙した光景なんて見てない見てない!
「ううん、なんでもないよ。お義母さんがおかしいだけだから」
「答えになってないのですが……?」
困惑したような、怪訝な目を向けるリリに気づくことなく、僕は「忘れろ、忘れろ」と心の中で唱え続けながら、ダンジョンへと足を踏み入れた。
『おにいさん、お義母さん達の知り合いなの……?』
あの時。
輪郭が朧気な程に覚えてはいないが、黒い髪が特徴的なあの人に、幼かった僕が聞いた簡単な質問。
『僕は────』
あの人は、なんて答えたんだっけ────。
◇◇◇◇
アミッドさんからの
「────そういえば、今日か」
37階層を目前とした時、やけに静かな……そう、強大な何かが生まれ落ちる前兆を感じ、そしてダンジョンに入る前に確認しておいたギルドの貼り紙を思い出す。
階段をのぼり、一面白の世界となっているであろう白宮殿を目前に、地面が……いやダンジョンが揺れる。地響きとも捉えられるその揺れは、これから生み出されるモンスターのスケールを助長させ、良いタイミングだったなと思った。
不可視のポーチに右手を突っ込み、すぐに目当てのものを抜き出す。それは、今僕が装備しているナイフと短刀とは異なり、長さを持った刀だ。
取り出したそれを、左腰に添えるように構え、右手を刀へと添える。
そして、砂埃を撒き散らしながら生まれ始めている階層主を視界に収めると同時に、刀へと
「【
鐘の音──とは程遠い、鈴の音が鳴り響く。
詠唱とともに、雷が刀へと纏わり、バチバチという音が漏れ出る。
予想通り、生まれ落ちたのはインターバルを明けたばかりの階層主、ウダイオス。相手は此方を向いた状態で生まれ落ち、初めから僕の存在を知っていたかのように紅く光る双眸でこちらを見据えると、続けざまに地中から歪な形をした大剣が出現した。
────
今までも、単独でウダイオスに遭遇することはあった。その度に、ウダイオスは大剣を出現させていた。明確な条件なんかは分からないけれど、その武器はもう知ってる。
ゆっくりと生成されていく大剣の柄を握ったウダイオスは、もう待てないとばかりに強引に引き抜くと、勢いそのままに振りかぶる。
(10秒
ちょっと溜めすぎたかもしれないな────そう思いながら、僕は白く淡い光を纏う刀を軽く握り、腰を僅かに落とした。
「────"
雷を纏う刀を抜刀。止めることなく振り抜いた軌跡をなぞるかのように、世界が斬れた。
振り抜かれた刀から放出された雷は、鋭利な斬撃となりウダイオスへと飛来し、骨だらけの体に拮抗することなく、そのまま奥の外壁へと抜けていく。
世界から音が消えたと錯覚するほどに、この技────『絶』は、音を発さない。
数年前。輝夜さんから抜刀術を教わる機会があり、その時に考案した技。
数ヶ月の鍛錬と構想の末に編み出したこれを輝夜さん達に見せた時、返ってきた反応は予想に反し、引いた目でこちらを見るアストレア・ファミリアの皆さんと呆れたように顔に手をやる輝夜さんだった。
『……違う、そうじゃない』
そう言った輝夜さんに、他の皆さんはウンウンと首を縦に振っていた。
ステイタスをフル動員し、抜刀にのみ意識を注いだ神速の抜刀術。そして魔法をかけあわせることで、飛ぶ斬撃を可能とし、それは抜刀の速度と比例して、回避不可の速度で一直線に標的を両断するまで進み続ける。
遠距離に向いた攻撃という訳では無いが、ダンジョンのワンルーム程度なら……白宮殿なら、ちょうど射程に困ることは無い。周りの被害を考えないでいられる環境なら、かなり重宝している技だ。
『……え、ナニソレ。空間切断に片足突っ込んでるんですけど……やばァ、怖ァ……』────この技を見たとある武神の言葉を、僕は知る由もない。
斬撃が通った障害物に、亀裂は存在しない。ただ、定規で真っ直ぐ線を引いたかのように、美しい直線が刻まれていた。
そしてその気配が強まっていく中で僕は。
────やっべ。
冷や汗を流しながら、自身の過ちに気づきつつあった。
いや、待て、落ち着け。状況を整理しよう。
ここは何処だ……37階層、白宮殿。
今目の前にいるのは誰だ……アイズとリヴェリアさん。
……どうして、二人が、二人だけで、ここに居る?
不鮮明である僕が冒険者になって間もない頃の出来事。正確な時期は覚えていないが、大きな事件やらニュースやらはだいたいの順番程度で覚えている。
今のアイズはLv5。確か、Lv6になった偉業の内容は、深層の階層主の単独討伐だったような……。
────
そして、目の前にいるアイズの、様々な感情が入り交じったような表情に、僕はもう一度心の中でこう叫んだ。
────やっべっっっ。
語彙力なんて71階層辺りまで飛んで行った。至って冷静そうな顔を保っているけど、僕は内心荒れに荒れていた。
やばいやばいやばい。アイズのランクアップの契機を壊したっ!? えっ、今日!? なんで今日なの!? 言ってよ、神様!! 分かるわけないか!!
「アル、か……?」
平然を装いつつも内心冷や汗が止まらずに後悔と焦燥が行ったり来たりしている中、リヴェリアさんの声に正気を取り戻す。
「……なぜ片膝を地面についているんだ」
「え……あ」
反射的に土下座を繰り出そうとしていたのか、無意識に僕は膝を折り曲げ頭を下げる体制へとリーチをかけていた。
ああ、ダメだな。アルフィアさん……お義母さんを前にした時、咄嗟に土下座をする癖が染み付いてしまっているらしい。いや、もちろんお義母さんの機嫌が損なった時だけだよ? そういう時は、だいたい土下座している僕の隣にいるザルドさんが吹き飛ばされるんだけど。
なんでもないですと言うと、リヴェリアさんは灰をまきあげているウダイオスの残骸に意識を奪われているのか、どこか浮ついたような返事を返す。アイズは先程から黙っているままだ。
「
「
「単独で……51階層、か……フッ」
どこか達観したような……例えるなら、理解することを諦めたかのような顔で斜め上を見上げると、僕の顔を見てまたひとつ溜息をこぼした。な、なんかごめんなさい……。
階層主であるウダイオスが生まれ落ちた直後であり、そして『絶』により深い傷を負ったこの階層は修復を優先しており、完全に修復し終えてもモンスターを産み落とすことはしばらくの間は無いだろう。
したがって、この空間で音を発する存在は僕を含めた3人だけ。リヴェリアさんがどこか達観しているように上を仰ぎ、アイズはなんとも言えない表情で黙っているため、気まずい沈黙が流れていく。
な、なにか喋らないと。そう思い、既に僕の中では分かりきっている、しかし確証は無いからと少しの希望を胸にリヴェリアさんに問いかける。
「あの、二人はどうしてここに……?」
「……ん? ああ。アイズの要望でな。私はただの付き添いだ。恐らく、ウダイオスの単独討伐を狙っていたのだろう。まあ、そのウダイオスも今ではこの有様だがな」
「グホッ……」
どうやら、僕の仮説は当たっていたようで、罪悪感というか自己嫌悪というかなんというか。
いや、ほんとどうしよう……そう思い目を泳がせている中、今まで黙ったままだったアイズがこちらへと近づいてきていた。
「アイズ……?」
狙い定めていた獲物を奪い取られ、行き場を失った闘争心は表に出さず、しかし身体の奥深くで燻り続けているのが見て取れる。言うなれば消化不良とでも言うべきか。様々な感情を内包したアイズは僕の目を見て、そして逸らして、また見つめてを繰り返すばかり。
人と話すことが苦手という訳ではなく、言葉にして相手に伝えることが苦手であるアイズは今の心境をどうにか言語化しようと必死なのだろう。
今自分が思っていること、今の状況、そして、僕にして欲しいこと。いつもなら端的に要件を言える彼女は今、自分の全てを伝えようとしてくれているのだ。
言葉にするには長く、複雑で、まとめにくい内容だけど、それを今精一杯自分の中で整理して僕に伝えようとしてくれている。だから僕は彼女の言葉を待つ。最終的な要求が予想がつくとはいえ、今ここでこちらから結論を切り出すのは彼女の努力を否定することに繋がるから。
リヴェリアさんも、アイズが何かを伝えようとしていることは分かっていて、だから何も話さず、外からアイズを見守っていた。
「……すごく、強い
悩みながら、詰まりながら、それでもアイズは言葉を紡ぐ。
「アルにも稽古してもらってる、のに。何年もLv5のままで、ステイタスも、伸びてなくて」
ピクリ、とリヴェリアの鋭く長い耳が揺れた。
「だから……えっと……」
「うん」
「だから……今日、冒険をしようって、決めたの」
今のままではダメだから。僕の知らないところで、アイズよりも強い相手と戦って敗北した経験でそれが強く押し付けられて、成長する決心がついたのだと彼女は言った。
そして、今アイズが言った内容はまだ終わりではなく、僕への要求が残っていて。その内容を先読んで、僕は心の中で後悔の念に苛まれた。
「アル────」
僕は今まで、不定期でアイズとの稽古を行っていた。でも、それはとても稽古と呼べるものではなくて。アイズの攻撃を僕が捌いて、極々偶に反撃を加えるというものだった。
アドバイスはもちろん送るが、アイズが傷を負うことはまず無い。僕は、アイズを傷つけることに覚悟がつかなかった、傷つけたくなかったんだ。そんな自己中心的な理由で僕は本当の意味での『戦闘』をしなかった。
加減を間違えれば、怪我をするかもしれない、顔に傷が、冒険者生命に支障が出るかも、と。
僕はまるで理解していなかった。いつまでも僕はアイズを『女の子』で、守るべき『子供』で、『妹』で。
違うんだ。目の前の彼女をよく見ろよ。彼女は護られるだけの弱者でもなく、小さな子供なんかでもない。
彼女は────『冒険者』なんだ。
傷つく覚悟などとうにできていて。迷って、挫けて、どうしようもなくなって。それでも立ち上がって、前までの自分を常に乗り越えていく冒険者なんだと、今ようやく僕は理解することが出来た。
「私と……戦って」
腰に携えた愛剣である『デスぺレート』に手を置いた彼女の姿は正しく剣士そのもので、いつの日か僕が憧れ、目標となった『彼女』と姿が重なった。
「鍛錬じゃない……本気の、決闘」
薄れてしまっていた彼女の姿に、思わず目を見開いてしまう。先程までの悪い沈黙はなく、今ではこの静寂が心地よいとさえ感じる。
動揺はなく、気持ちの整理も済んだアイズの瞳には僕の姿だけが映り込み、壁を乗り越える決意の熱が宿っている。
開いた瞳を一度閉じ、思い浮かべたのは託された二人の英雄の姿。
表の舞台に上がることは許されず、されどオラリオを愛した二人が不甲斐なさを噛み締めながら、僕に託した唯一の願い。
彼女達を鍛えることしか出来ず、オラリオである程度の自由を与えられた僕に与えられた使命とでも呼べるもの。
「分かった……でも、約束がひとつ」
刀は使わないために、魔道具のポーチの中へと収納し、後ろに携えた漆黒のナイフをゆっくりと抜き取る。
「これだけは守ってもらう。じゃないと、偉業認定されないと思うから」
「……うん」
戦闘の規模を察知し、リヴェリアさんはルームの端まで跳躍する。リヴェリアさんが距離を取ったことを確認してから、僕は精霊に抑えてもらっている魔力を解放した。
「〜〜〜〜〜ッッ!?」
僕を中心に膨大な魔力が放出され、暴風となってアイズを襲う。完全に意識外からの風であり、質量すら感じさせる魔力の密度はLv5のアイズをしても不意打ちでは踏ん張りが効かず数十メドルほど吹き飛ばされ、空中で勢いを殺して着地していた。
風は止まり、辺りに残るは僕が放った魔力の残滓。それらは全て、蓋を外してこぼれてしまった上澄みのみであり、僕の魔力総量は大して減っていない。
「【
あの二人の英雄の真似事を、僕はできるのだろうか。僕の中で二人は最高の英雄であり、英雄としての格が僕と二人では雲泥の差があるだろう。
二人は未だ目指すべき頂きであり目標。その在り方は決して真似できるものではなく、僕にはその才能が宿ってはいない。
でも、今だけは、と。
下手で、歪で、ハリボテでしかない『英雄像』を、今だけは騙らせて欲しいと思った。
僕の体を囲むように、拳大の水滴が回転しながら浮かんでいるのを呆然と見ながら、アイズは剣を抜きこちらを見据える。しかし完全に意識が切り替わっていない彼女に対して、僕はもう一押しに僕からの要求を口にした。
「────殺す気で来い」
紛い物で、薄っぺらいものでも、今だけは英雄としての肩書きを名乗ろう。
「さあ……『英雄の作法』を教えよう」