白き英雄譚   作:ラトソル

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お・く・れ・た!


飛翔(ポイニクス)

『──生き、て』

 

 そう言った彼女は、瓦礫に下半身を押しつぶされながら静かに目を瞑った。

 

 槍を携え真紅の瞳を輝かせる勇者は虫を払うかのように跡形もなく消し飛ばされた。

 

 妖精の女王は炎の奔流に呑み込まれ灰すら残ることなく姿を消した。

 

 ────嗚呼、またひとつ光の柱が昇った。

 

 ドワーフの英傑は踏み潰され、その余波で狼の半身が消し飛ぶ。

 

 アマゾネスが、猫人が、白と黒の妖精達が、等しく赤い薔薇を散らしていく。

 

 何も見たくないと、目を瞑りたかった。そんな僕を庇い、パルゥムの少女の頭が潰れた。

 

 脚が震えた。現実を理解したくなかった。またしても、親友が、麗しい姫が、極東の乙女が潰えていく。

 

 光の柱はもはや数え切れない。その中に黒い闇の柱が登っていることに気づくことは無かった。

 

 

『──まだ、早い』

 

 

 その光景は、瞬きの後に記憶から消えていた。

 

 飛翔(ポイニクス)

 

 

 ◇◇◇◇

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは、相対している相手の状態の把握に意識をさいた。

 

 出会ってから七年。その期間の中でも見たことの無い彼の隠された魔法またはスキル。

 全てを知っているとは自惚れるつもりはなくとも、しかし誰よりもアルのことを知っているし、触れ合っていると断言出来るほどにアイズはアルを理解しているつもりでいた。

 

 そんな自分でさえも知らなかった未知が目の前に広がり、僅かな混乱を見せる。

 

「っ、【目覚めよ(テンペスト)】!!!」

 

 こちらをじっと見つめるアルの瞳。その双眸を見て今までの特訓とは訳が違うことを認識したアイズは詰まることなく唯一にして最大の魔法を唱える。

 超短文詠唱とは思えない出力の風がアイズの体を包み込み能力の向上を促す。デスぺレートを構えアルの一挙手一投足に注意を向ける。

 

 瞬きひとつ許されることは無い相手との対峙に緊張が走る。アルの速度を知っているがためにアイズは全神経を注いで目の前の情報を観測し続ける。

 

 瞬間、景色が変わる。

 

 前にいたアルが僅かに遠のく。何故、という疑問が浮かんだ直後に感じたのは腹部に伝わる激しい痛みと背中に何かが激突した衝撃。

 

「かハッ!!?」

 

 突き抜ける痛みが脳に伝達され肺に溜まっていた空気が漏れ出る。一瞬の出来事に脳が現状把握ができず、情報が完結しないために混乱状態へと陥った。

 

(なに、が)

 

 揺れる瞳は焦点が合わず、呼吸が乱れる。痛みがおさまることの無い腹部へと左手を添えて痛みを和らげようと試み、右手に握る剣だけは離すことは無かった。

 現状把握がままならない中、長年培われた冒険者としての直感が危険信号を発し、ぼやける視界をそのままに右へと大きく跳躍すると先程まで自分がもたれかかっていた岩肌へと何かが砕ける音と共に激突し砂埃を巻き上げる。

 

(水の砲撃っ、生成した水の塊を放出するだけだから詠唱も予備動作も必要ないんだ)

 

 痛みに慣れ、視界が回復しだしたことによりアイズは自分がアルに蹴り飛ばされたのだという事実を正確に読み取り、アルの周りに浮び上がる複数の水の塊を見てその性質や脅威を察知する。

 

(水自体は避けられない速度じゃないし、威力も防御出来れば十分耐えられる。けど)

 

 間髪入れずに放たれる水の砲撃は即座にアルの周りに生成され、弾切れが起こらないという事実はアイズも予想していたのか驚きはなく風により自身の身体を加速させて水を避けるも、右手に持つ愛剣を前に突き出せばそれに呼応するかのように金属音と拮抗する手応えを感じる。

 

(私が捉えられるギリギリの速さと力に落としたアルが水と同時に攻めてくるから対応が遅れる!)

 

 剣を押し返すことは出来ず、しかし押し込まれることもない。絶妙に調整された力加減に舌を巻く余裕もなく苦しい表情を浮かべるアイズは相手の力を利用して後方に自ら跳ぶことにより頭上から迫る水弾を回避する。

 

 攻撃手段が水ということもあり白宮殿の至る所が水で濡れている。未だアイズの体には風を纏っていることにより水の一滴さえも付着している様子は見えず、しかし疲労からくるものではない汗が一粒頬を伝う。

 

 息を荒らげることはなく、開幕から終始優勢の立ち位置にいるアル……もとい、ベル・クラネルは挑戦者であるアイズを観察して深い溜息を吐いた。

 

(っ? 水を解除した……?)

 

 周囲に浮かんでいた6つの水が浮力を失い自由落下し、ぱしゃりという音とともに地面を濡らす。一本の漆黒のナイフを逆手に持ち脱力した様子でアイズを観察していた。

 

「次があると思ってるの?」

 

 アイズの一歩先に予備動作なしで移動し突然目の前に現れたように錯覚したアイズがベルの存在を知覚した瞬間に今度はアイズが認識できるギリギリの速度でナイフを振るうという卓越した技術と相手との実力差が大きくなければ出来ない芸当を熟す。

 

(っ、押される!)

 

 拮抗しつつもアイズよりも少し強い力加減に調整し常にベルが優位を取る状況を演出してアイズを極限の状態へと追い込む。

 

「断言する。ここで()を越えられないのなら、君は一生停滞する」

 

 身長差から鍔迫り合いが起こりベルが上から押し込む形となりアイズが逃げる道を塞ぐ。両手を用いて片足を下げて踏ん張り押し返そうとするも片手のベルは微動だにせずに感情の籠らない瞳がアイズの双眸を貫く。

 殺気とは全く別の圧力を感じてアイズはベルから視線を逸らすことは出来ず、地面にヒビが入り膝が折れるのを何とかこらえる。

 

「言ったはずだ。『殺す気で来い』って」

 

 今回の決闘。全ての戦闘の始まりはベルからのもの。そしてアイズは必ず後手に回りベルの攻撃を回避することだけに集中していた。

 無論、カウンターを狙っているだとか、観察の途中だったのだとか、そういう話では無いし、それらが悪いとも言っていない。

 

 ただ、今のアイズには勝利への『飢え』が足りていなかった。

 相手がアイズの英雄(アル)だからという部分も含まれているのかもしれない。内心では勝てないという諦めが僅かにでも存在するのだろう。

 それらを正確に読み取り、今のままでは器の昇華には到底及ぶことは無いとベルは判断する。

 

「安全な戦いなんて存在しない」

 

 押し込んでいたナイフの力を弛め、行き場を失った力が上へと流れていきアイズの体勢が崩れる。その隙にベルは調整しながらもLv5相手には充分なダメージとなる蹴り上げをアイズの腹部へ向けて放つ。寸前で左腕を忍び込ませガードするもギシギシと骨が悲鳴を上げてアイズの体が宙を舞う。

 

「────今のままだと、死ぬよ」

 

 そのまま軽く跳躍して追い討ちをかけるように構えるデスぺレートを無視して反対側の壁に向けてアイズを蹴り飛ばす。僅か数発の攻撃は確実にアイズの身体にダメージを蓄積させ左腕は痺れ機能が半減。風も展開し回転しながら勢いを殺そうと試み変わり続ける視界が安定してきたところでゾクリと背筋が凍るような感覚に襲われた。

 

「【水よ(アクア)】」

 

 精霊魔法の超短文詠唱により現れる現象は先程までとは違いベルの周囲に水の塊は見えず目を凝らせば見えるほどの極小の水滴が一粒ベルの手元に溢れ落ちる。

 

「なんて魔力……っ」

 

 外から2人の戦いを俯瞰するリヴェリアは精霊との距離が近いハイエルフということもあり魔力の高まりを察知。その異常性に瞠目しながら遠く離れた自分にも迫り得る危険を予感すると自身を守るために詠唱を始めようとすると突如足元に飛来してきた大剣が雷の壁を展開しリヴェリアを囲む。

 目の前に突き刺さる大剣から感じる魔力や存在感が大精霊のそれだと気づくと新たな驚愕を見せ格子状に展開された雷の隙間から見える眼前の光景を観測する。

 

(間に合わないっ!)

 

 ベルの手元から地面へと落ちる濃密な魔力の塊である水滴の発動を防ぐ選択肢を即座に切捨て階層主が生まれ落ちるために広大な白宮殿の空間を利用しベルから極力遠い地点を目指し来るであろう攻撃に備え風を全力で展開。

 

「──ニヴルヘイム」

 

 魔力の塊である水滴が地面へと接触し、その衝撃で封じ込められ圧縮していた魔力が解放。付随して精霊の水が急速に温度を低下させていき絶対零度に到達。ベルの足元を除く地面、壁へと一瞬で冷気と氷が侵食し白い大理石で構成された空間は瞬く間に氷の世界へと様変わりする。

 

 不規則に氷柱や氷の槍が生成され足元に迫る氷の侵食から逃げるために空中へと躍り出たアイズに向けてそれらの猛威が振るわれた。

 

「【風よ(テンペスト)】ッ!!!」

 

 風の補助により体勢を無理やり固定し周囲から迫る氷柱に向けて剣に風を纏わせ大きく振るうことによりほとんどの氷槍を砕くことに成功するも時間差で迫る数本の氷を砕くことは叶わず脇腹や肩に氷がかすり僅かに血が吹き出すことはなく、傷口が即座に凍結し血液の流出を防ぐ。

 

「ぐっ」

 

 失血のリスクを免れたものの凍傷という問題に直面し僅かにその規模を拡大させつけられた傷付近の感覚が無くなる。

 

(寒いっ。腕が震える、力が入らないし足場が満足に機能しない)

 

 急激な温度変化、想定しなかった寒暖差により精霊の護符を持ち得ないアイズの身体が震え始め口から出る息は白く、呼吸をする度に肺に冷気が入り込み違和感が拭えない。

 

 凹凸は存在するとはいえ不純物を含まない精霊の水の表面に摩擦は限りなくゼロに近く、踏ん張ろうにも足が滑り移動も満足に行えない。

 足場だけでも機能させるためにアイズは風を纏った剣を地面に叩きつけ傷をつけることにより足場を形成する。

 

 元々この空間に存在していた水分が凍りつき空気が白く輝きだして視界を僅かに遮る。その中でも黒い髪を持つベルの姿ははっきりと確認できた。

 

 ────強い。

 

 凍える息に喉を震わせながら素直にそう感じた。

 

 ────強すぎる。

 

 ウダイオスを一撃で打倒したような圧倒的な力を見せていないながらに既にこちらは満身創痍。言い表せない程の力の差が両者には生まれている。

 

(ああ、そうだ)

 

 ベルの表情は冷徹になりきれていなかった。何かを待つような、期待するような瞳。ベル・クラネルの善性を隠せない暖かな眼差し。

 そして、どこか悲しそうに歪む表情も見て取れる。

 

(独りの怖さも悲しみも、知ってるのに)

 

 父に、母に置いていかれた経験が。

 かつて18階層の死闘において『アイズ・ヴァレンシュタインだけの英雄』に誓ったはずだったのに。

 

 隣に並びたいと、そう思った。

 一緒に戦いたいと、そう願った。

 独りにはしないと、そう誓った。

 

「──うん」

 

 呼吸を整え、気持ちを整え。そうして覚悟を決めたアイズの眼差しを受けてベルは口角を上げる。

 

 実力差がなんだ。強いからなんだ、と。それが今挑まない理由にはなり得ないと、アイズは改めて剣を握る力を強める。

 金の双眼がベルを射抜く。この戦いが死闘であるのだと認識し直す。

 

 勝てば器は昇華され、負ければ冒険者としての自分は死ぬ。仕切り直しは有り得ない。

 

 身体が震える。それは寒さから来るものなのか、英雄に挑むことへの緊張なのかは定かではない。

 しかし、分かっていることは一つだけある。

 

「アル。私は」

 

 砕けた氷の大地に足をかけ、腰を落とす。もう待ちの姿勢には戻らないと、今度は自分から攻める意志を持つ。

 

「今日、冒険をする」

 

 踏み込んだ地面は足形に陥没し、氷の破片を巻き上げながら音を立てて砕ける。二人の距離を一歩で潰したアイズは上段からの振り下ろしをしかけ、その剣をナイフで受け止めたベルの中には言い表せないような高揚感が生まれていた。

 

(今、初めて二人の気持ちが理解出来たかもしれない)

 

 後進を育てる。ザルドとアルフィアから託された願い。七年間……正確には六年間だが、この世界において英雄と呼ばれるようになった自分の責務を初めてこなせているように感じた。

 

(楽しい)

 

 自分が教え育ててきた冒険者が殻を破るその瞬間が訪れようとしている。まともな指導ができたとは到底思えない。けれど、今まで前を歩いていただけの自分に追いつこうとしてくれているアイズの存在が何よりも嬉しい。

 

「【白き風よ(テンペスト)】ッ!!」

 

 指向性を持ちながらも荒ぶるばかりだったアイズの風が純白の風に様変わりし、その出力が桁違いに増幅される。その威力は、ただ発動しているだけで氷を砕きアイズが通った道には既に氷塊が散らばるだけで本来の地面が見えるほど。

 

(同じ精霊由来の魔法でも、【ケラウノス】と比べたら出力が桁違いだ。流石アリアさんの風だな。同じLvなら普通に押し負ける……『アリア』?)

 

「ハアっ!」

 

 力を制限している影響から、アイズの一撃に拮抗を許さずに大きく後ろへと後退する。甲高い音と衝撃、白き風が雷の結界に守られるリヴェリアの元まで届いていた。

 

 攻撃の手は緩めることは無い。アイズは足を止めることなく疾走する。氷が砕けても冷気は健在であり、激しい高速戦闘で深く息を吸い込む度に肺が冷却され痛みを感じるもアドレナリンの分泌によりその影響は現時点において無視できるものとなる。

 

『──【永遠(トワ)ノ凍土ノ如ク氷結セヨ数多ノ(ヤイバ)代行者タル我ガ名ハ水精霊(ウィンディーネ)水ノ化身(ケシン)水ノ女王(オウ)】』

 

((超高速並行詠唱っ!?))

 

 激しく攻めたてるアイズの剣筋を全てナイフでいなし、移動しながらベルは詠唱を口ずさむ。口を高速で動かし、どこか無機質のようにも感じる声音でベルは最速で魔法発動に至る詠唱を完遂させた。

 

『【アイシクル・エッジ】』

 

 ナイフを持たない左手を突き出し、魔法発動の動作を相手に見せつける。それによりアイズは突き出された手から魔法が飛び出てくると予感するもある意味精霊に最も近しいアイズの第六感が働き突き出された左手を無視してその場で上体を大きく逸らすと手とは関係の無い地面に魔法陣が展開され巨大な氷柱が上へと向けて放出された。

 

 目の前を通り過ぎた氷柱による風圧で髪が靡き滲み出る汗が吹き飛ぶ。柔軟な肉体により崩れた姿勢のまま手を地面につき足払いを仕掛ける。それをベルは軽く跳躍することで難なく回避するも続けて繰り出された鋭い蹴りは回避できずに腕と脚でガードするも宙へと身を投げ出される。

 

「【炸裂(ルギオ)】」

 

 身動きの取れない隙を狙いアイズは最高の一撃を放つ準備を試みるもベルの小さな呟きに従うかのように上へと放たれていた氷柱が炸裂し、無数の鋭い氷の矢となって広範囲に降り注ぐ。

 

「【ファイアボルト】」

 

 驚異ではあるものの風と剣の併用で砕くことができるとふんだアイズはしかしベルの背後に展開された10を超える魔法陣に考えを改める。

 

 凍えるような冷気に包まれた空間に似つかわしくない熱量を含んだ炎雷が姿を現し、それぞれが意志を持っているかのようにアイズに向けて射出される。

 広大な空間を利用し逃げの一手を決めると縦横無尽に駆け出し進路に降り注ぐ氷柱を砕きながら突き進む。

 

 氷の大地に着弾した炎は氷を急速に沸騰させると水蒸気となり体積を増幅させながら蒸発して行った。

 

 ほとんどの炎から体を捻るなどをして回避し、壁際に到着すると垂直な壁へと脚をつけ最後の炎を剣で一閃することで左右に分断させた。

 

 ゴォン、ゴオーン。

 

 鳴り響く鐘楼の音。それは両者に次が最後の一撃であることを告げる合図となる。

 

 両隣に着弾した炎から僅かな暖かみを感じ、呼吸を整えるアイズは少し離れた眼前に着地したベルのナイフに炎と淡い光が見えると足を屈ませて風を全力で展開させる。

 

「リル────」

飛翔(ポイニクス)

 

 脚に風を集中させ一時的に脚力を増幅させると氷だけでなく白宮殿の外壁をも砕きながら音を置き去りにした跳躍で一直線に前へと突き進む。脚へ纏わせた風は上半身へ、そして突き出した右腕に纏わせ階層主でさえも一撃で屠りえる至高の一撃にしてアイズ・ヴァレンシュタインの必殺。

 

 対するベルは僅か数秒のチャージを終えると炎を纏わせた漆黒のナイフを横一文字に一閃。目にも止まらぬナイフの軌跡に沿うように紅い炎の軌跡が描かれるとそれはたちまち勢いを増していき業火となって燃え盛り不死鳥のごとき姿を見せ『斬撃』となりこちらに迫るアイズを迎え撃つ。

 

「ラファーガァァアアッッ!!!!」

 

聖火の英斬(アルゴウェスタ)

 

 突き進む白き風と燃え盛る聖火は衝突し、階層を揺らすほどの衝撃波を生み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……どうなった!?」

 

 白宮殿を覆う氷は先の一撃で全て砕け散りダイヤモンドダストのような幻想的なまでの光景を演出する。

 

 氷が砕け舞い散る音のみが木霊し、それ以外は不気味なまでに静寂を保っていた。

 

 衝撃波が伝播しLv6といえどその風圧は無視できるものではなく杖と腕を顔の前で交差させ風から身を守ると目の前に映るであろう決着に意識を向けた。

 

 気づけば雷の結界は解除され、足元に刺さっていたはずの大剣も姿を消している。自由の身となったリヴェリアはしかし戦闘が終わっていないという僅かな可能性を考慮しその場から踏み出した一歩で抑え場を俯瞰する。

 

 逸る鼓動を抑え、瞠目しながら視界を遮る氷の幕を吹き飛ばしてやりたい衝動に駆られながらも落ち着いてきた視界に目を凝らす。

 

 どのような結末であろうと見届ける意志を持って……そして、目に映る光景に目を見開いた。

 

「────頑張ったね」

 

 映る人影は二つ。どちらも2本の足で立っているものの、一方の影はもう一人に体を預けていた。

 

 アイズの服は黒く焦げ、傷が目立ちボロボロとなっている。頭をベルの胸元に預け脱力しているかのように片腕を垂らしていた。

 対するベルは無傷であり、装備にも汚れは見当たらずもたれ掛かるアイズの体を支えて髪を優しく撫でる。

 

 アイズの胸が一定のリズムで上下する。呼吸も安定しており、気絶しているであろうことが見て取れた。

 

「……()()()

 

 リヴェリアが瞠目しながらある一点を見つめる。そこには、アイズが未だ落とさず握りしめる剣の切っ先がベルの左肩に僅かに触れているという光景。

 

 ベルの身体に傷をつけるほどの一撃ではない。命を脅かすものでもなかった。

 

 しかし、確実にアイズの一撃はベル・クラネル(英雄)に……届いたのである。

 

 リヴェリアは確信する。ウダイオスを単独で討伐する以上の偉業が目の前で達成されたことを。

 

 ベルは頬を緩ませる。英雄候補が殻を破り、自分に一撃を与えたことを。

 

 アイズは知らずに眠る。自身が偉業を成し遂げたことなど気づくまもなく、ただゆっくりと息を吸い、眠りについていた。

 

 頭を撫でられたアイズは意識を手放していながらに、頬を緩ませ年相応の表情で眠っていた。

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