聖域にて、最古の英雄との邂逅を遂げる直前。
『おや……むむ、むむむむっ! 何やら強烈なシンパシーを感じるっ、感じるゾーイ! 目が見えなくなった恩恵かナ!!』
『絶妙に突っ込みづらいネタを出さないでくださいよ……』
『フハハハッ、見えてないけど我が妹のなんとも言えない呆れ顔が見にうかぶぅぅ〜!』
『ほんと元気ね、貴方……』
瞳を閉じ、女性二人に支えられながら歩み寄ってくる青年。
『これは────まさか』
『気づいたかい、フィーナ。彼から感じる気配……
『──有り得ないわ。ジュピターはアルと同化している。それとも、精霊というのは同一個体が存在するものなの?』
『いいえ。微精霊ならまだしも、精霊の最上位たる大精霊の位になれば同一個体が存在するはずがありません』
『んもうっ! ジュピターったら私というものがありながら他の男にうつつを抜かしちゃって! 浮気なんてひど……いや、おっさんの愛なんて要らないなぁ〜。よし、少年よ! ジュピターは君に上げよう!! 遠慮しないでネ☆』
『もうっ! 黙っててくださいアル兄さん! ていうか、雷の大精霊は兄さんの中にも気配感じてますから!』
三人のやり取りに呆気に取られ、言葉が出ない少年はたじろぎながら頬をかく。
『というか、よく見たら彼、アルにそっくりね……外見だけは』
『あ、私も思ってました。あの方は本当に隅々までアル兄さんを写した鏡のようで……中身を除いては』
『くぅぅうう!! オイッオイッ、オーイ! 言い方に含みがあるね御二方〜。いやっ、私の完成された紳士たる清らかな透き通るような魂はこの世の誰も適うはずもなく!!』
『『はいはい』』
『適当な相槌が私の胸に突き刺さるぅぅぅぅ!!』
『……あの、貴方達は……?』
道化を騙る青年は強烈な既視感と共鳴を感じ取りながらも普段のキャラを崩すことなく。
純粋無垢な少年は待っていても会話が途切れる気配がないと察知して自分の中に眠るジュピターと同じ気配を感じる青年へと会話を切り込み尋ねる。
『よくぞ聞いてくれた少年よ。本来私は死を偽造し隠居している身。真名を語るべきでは無いが君なら別だ! 我が名を聞く準備はいいかな! 耳の穴は清潔かい? あ、詰まってても貫通させるから安心だよ!』
『『五月蝿い』』
『両隣がずっと辛辣ぅ!! しかしめげない! さぁ告げよう! 私の存在は口外禁止ダヨ!』
『は、はぁ……』
瞳を閉じたまま青年は両隣で支える女性の手を離すと腕を大きく広げマントをはためかせ『さぁ、ご傾聴をっ!!』と天高く吠える。
『私の名前は……アルゴノゥト! ただのしがない詩人さ!! 少年よ、私の眼は光を失っており君の姿を捉えることは叶わないが、どうか君の名を教えてはくれないか!』
『──ベル・クラネルです』
青年……アルゴノゥトの名を聞き入れた少年……ベルはその名に覚えがありすぎるがためにたじろぎつつも自身の名前を告げる。
『ほお! 家名があるのか、高名な名家の出かな……いや、ふむ』
顎に手を添え考える姿勢をとるアルゴノゥトは数秒その体勢を保つと『……そう、か』と何かを理解したように道化の仮面がはずれる。
『君か……君なんだな。僕たちを乗せる船を継いでいくのは』
『船……?』
『──そうっ! 船さ! ベル、どうか君に担って欲しい!!』
『何、を────』
『英雄とは! 後世に語り継がれるべきである者達だ! その存在を、武勇を! 私達は未来へ遺さなければならない!!』
強く、自身の胸あたりを右手で叩き勢い余ったためか、ゴブフォッ、と咳き込みながら呼吸を整え胸に手を添える。
『探していた。私ではダメなんだ。私は綴ることしか出来ない。私が遺した英雄譚は時代と共に風化していき内容の改編が重なりやがて別物となり消え去るのかもしれない。それではダメなんだ。英雄の船を運び、受け継いでいく存在が必要なんだ────ベル。君に託したい』
『僕が……何故、会ってまもない僕に』
『君だ。君以外有り得ない。この先どんな者たちとで会おうとも君以上の逸材に出会うことは叶わないだろう。君が、君だけが。私達が……僕達が乗る【
聖域の上空を覆っていた雲が裂けていき、両者の間を激しく照らす。
そこが運命の分かれ道であるかのように、そして時代が大きく動くターニングポイントであることを示唆するように。
────【光の英雄譚ー聖火・断章ー】より抜粋。
◇◇◇◇
異変の察知は、扉が開く直前だった。
「────フェルズ、アルに……ベル・クラネルに繋げ」
『ウラノス……? 何を────』
「急げっ」
百年を超える付き合いであるウラノスの初めて見る切羽詰まった叫びを聞き、ただ事では無いことを察知したフェルズは慌てることなく眼晶を懐から取りだしベルへと繋げる。
「異界の扉が開かれた。59階層へ急げ、間に合わなくなる」
『──はいっ』
異端児達の元へヘスティアお手製のじゃが丸君を届けに行っていたベルと繋げた眼晶からはリドやレイ達の声がザワザワと聞こえていたがウラノスの指令を聞くや否や通信が途絶えたことから即座の行動を開始したことを知らせた。
『説明しろ、ウラノス。ダンジョンで何が起こっている。異界の扉とはなんだ』
祈祷の間にてダンジョンを観測し続けるウラノスは険しく顔を歪め拳に力が籠り肘掛けを強く握りしめる。
「このようなことが起きようとは……」
そして、59階層。
(──見えなかった)
左腕を肩から切断された激痛による脂汗が額を濡らし、ポーションは全て使い切っているか破損しているために傷口を強く握りしめて止血を試みるが熱く鮮やかな鮮血はその流出が止まらない。
(気づいた時には斬られてた。気配も、今ではこんなにも強く感じるのに)
「お前は最後だ、アリア」
「あな、たは……だれ」
歯を強く噛み締めなければ意識を失いそうな程だった。
四肢の欠損という人生で一度味わいたくもない経験に晒されあまりの痛みにLv6であるアイズでさえ視界がままならず機能しない。
「だれ……なの」
短く乱雑に斬られた髪や瞳に身体的特徴から見ればその女が以前遭遇した宿敵たるレヴィスであると判断が出来た。
しかし、こうして間近で観察し、相対したことで分かる違和感に気迫。それらは対峙したことのあるレヴィスとは相容れない底知れぬ恐怖を感じとる。
(あの人は、魔法なんて使ってなかった……それに、力の差がありすぎる)
モンスター同様、魔石を喰らうことで身体能力を神の恩恵が如く向上させる怪人と言えども、この急速すぎる成長と遥か高みに到達している女の力が常軌を逸したものでありアイズは痛みに埋め尽くされた思考の僅かに残されたリソースを用いて相手の正体を看破しようとする。
「私が誰か、か」
女が発動した魔法による焔の付与魔法はアイズの肌をチリチリと焼き付けるほどの熱量を感じさせるもその源たる女の周りにまとわりつく源泉は太陽の具現化がごとき熱量を保有しているだろうことがみてとれた。
「レヴィスとは呼ばれていたが……実際、私の正体など知る存在はこの世界に居ないだろうな……私を含め」
動くことなく会話に応じるレヴィスの姿に余裕や怠慢などではなく何時でもこちらの戦力を抹殺できるだけの実力に裏づけられた自信が垣間見える。
「──椿ッ、予備の槍を!! リヴェリア、攻撃魔法の展開……ダメだっ、防御魔法をっ!!!」
アイズが感じたのは一瞬だった。
自身の頭上を、ほのかに熱く感じる何かが通り過ぎた……ただ、それだけ。
それだけで……全てが終わっていた。
「────ぇ」
遥か後方から聞こえてきた爆発音と熱風は今では砂に汚れたアイズの髪を靡かせ顔を包み込む。
背中を突き飛ばさんと襲う暴風に前のめりになりながら右足を突き出して吹き飛ばされないようにその場に留まる。
「────ぁあ」
痛みに苦しむ顔はそのままに、暴風が発生した爆発地点へと振り返り現状の確認を目の前に佇むレヴィスの警戒を解くことなく行う。
「────ぁぁああっ」
木々など穢れた精霊との戦いで殆どが消え去っていたために今目に映る炎の全ては大地を焼き尽くす業火。
辺り一面全てが炎に包まれその規模は計り知れず、そしてアイズはその炎の拡大地点の中心地が59階層まで共に歩んできた仲間達がいた場所なのだと遅れて理解する。
嘘だ、有り得ない。みんなは無事に退避しているはずだ、と。
そう思うように無理やりに思考をゆっくりと頭を振ることで騙し騙しの改竄を行おうとしたところで目に焼き付いた炎の中に見える人影の数々。
「──【
────【
それは幼き日に封印を決意した、アイズの人生を象徴するスキル。
七年前の
過去、レヴィスが純粋な人間ではなく怪人であると理解しながらも使用する思考にすらならなかったそのスキル。
(──コレは、駄目だ)
目の前に立つレヴィスと名乗る女も容姿は対して変わらず、人間のそれと遜色ないと言えるだろう。
だが、もはやアイズには目の前の存在の姿が人間だなんて思えることはなく。
(──殺さなくちゃ)
左腕の流血は止まった。
アイズから放出される漆黒の風は恐ろしいまでの威力の向上を見せ不壊属性を持つデスぺレートが軋み、ダンジョン全体が揺れる。
距離として1Mも離れていない地点に佇むレヴィスは自身に向けて放たれる漆黒の風が鎌鼬となり頬に一筋の赤い線を作り上げたことを気にすることなく鬱陶しそうに手を顔の前で隠すように突き出し顔を歪める。
(コイツは、人間じゃない)
溢れる涙が重力に反発するかのように上へと昇っていく。
付いた膝をゆっくりと離し両足を地につけ徐に顔を上げたアイズの形相は酷く歪み……笑っていた。
(カイブツは……殺さなきゃ)
「────あハッ」
地面が陥没する。ただ直立しているだけだというのに両者に降かかる重圧だけが異次元の向上を見せる。
「一撃」
溢れる暴風は至る地面に壁を壊し尽くし、風から生じる音により会話は困難というほど。
しかしレヴィスの発する声は驚く程にアイズの耳へと入っていく。
それが人語として処理されるかは置いておいて、だ。
「受けてやろう。不意をついた詫びだ」
おぞましい長剣を風に飛ばされないよう地面へと突き刺し、無手となったレヴィスからの提案を理解してか否か、開幕の合図が鳴ることなくアイズは無造作に剣を横凪に振り払った。
「……失望させるなよ、アリア」
全てをなぎ払い、斬り捨てる無造作の一撃。
それはモンスターというカテゴリーならば今まで出会ってきたどんなモンスターであろうとも一撃の元に粉砕するだけの威力を遥かに超えた破壊力を秘めた一撃。
その一撃はアイズの向かって右側の障害物全てを破壊した。余波のみでクレーターを作り上げる理不尽な暴力。
それをレヴィスは……特に構えることなく、右腕に少し切り傷が刻まれるだけに留め防いでみせた。
「全力を見せろと言っている」
虫を振り払うように軽く手を靡かせる。
ぎりぎりと尚も進行を続けようとするデスぺレートはしかしレヴィスの肉体を切り裂くに至らず。
何故肉体がまだ残っているのか、心底疑問だと言うようにアイズは首を傾げ、そして思い出したかのように悲しみ、憤怒し、叫びながら後退する。
理性は見えず、怪物を殺すという衝動に突き動かされる人形となったアイズは本能のままに剣を構え、荒く息を吐き続ける。
「
指向性なんて存在しない純粋な風の解放。
技術もなく、ただ力の限り全てを破壊する漆黒の竜巻。
「こい」
対峙するレヴィスの様子はさして変わらず。
目が血走り視界が赤く染る中でレヴィスの姿だけは酷くおぞましく捉えるアイズはからっきしの魔力全てを一撃に集約して確実に目の前の敵を葬り去る過剰なまでの必殺という言葉すら生ぬるい一撃を放つ。
「──ァアアアアアアアアアアッッ!!!!」
リル・ラファーガと名付けられた必殺の一撃。
技名を告げることさえ無駄だと捨て去り、ただ目の前の存在を消し去るために放つ被害度外視の捨て身の一撃。
階層主を一撃で吹き飛ばしてなお余りある威力の一撃はオッタルの全力を優に超える殺傷能力を誇る。
コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス。
シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ。
同じ空気を吸うことすら、その存在を視界に入れることすらもう生理的嫌悪に似た衝動をアイズは抱える。
ただ、消えろ。そう念じながら、泣き叫びながら放たれた一撃。
レヴィスはゆっくりと右腕を前に突きだす。
所謂パーの形で突き出された掌に突き刺さり……貫通した。
止まった。
「──満足か?」
ぽかん、とアイズは口を小さく開ける。
ただただ呆然と突き刺した右手と五体満足で語りかけてくるレヴィスを眺めた。
「は────」
ダンジョンの階層を破壊するのではないかというほどに暴れ狂っていた漆黒の暴風がその勢いを収めていく。
そうして視界がクリアになってからレヴィスが目撃したのは未だ燃えたぎる地獄の業火が一瞬にして凍りついた現象。
「もうお前に用は無い」
デスぺレートから手を離し、先程までの勢いが嘘のように青ざめた表情のアイズは膝から崩れ落ち地面へと右手を突き出し瞬きも忘れて地面を眺めた。
長剣を引き抜いたレヴィスが剣を上段に構えると瞬間的に二人の間に突き刺さった雷の装飾が施された大剣から迸る雷がアイズを包み込む。
レヴィスは興味が無くなったと視界からアイズを捨て去り、最も興味のそそられる超高速で迫り来る存在へと剣を振り下ろした。
振り下ろす直前まで姿は見えず、はるか遠くに感じた強者の気配が今では目の前に迫っていることにレヴィスは口角を上げる。
瞬間、剣と剣が激しく衝突したと言うだけでは説明のつかない爆発音に金属音、そして大気が巨大な波動を発生させソニックブームに迫り肉眼で空気の揺れを見ることが可能なほどの衝突。
(強い)
たったの一合で捉える相手の力量。未だかつて出会わなかった強者に柄にもなく昂りを見せる。
対する乱入者……ベル・クラネルは、ウラノスの言葉から推定した以上の怪物が現れたことを理解したわけでも、アイズの悲惨な姿を目撃したからでもなく、ただただ呆然と……その名を呼んだ。
「──アリーゼ、さん……?」
思考の停止を、レヴィスは見逃さない。
「戦闘中に呆けるとは……随分と余裕があるな」
レヴィスの一撃が、ベルの左腕を斬り飛ばした。
◈◈◈◈
赤髪の怪人についての報告は受けていた。
実際に相対したことは無かったけど、アリーゼさんと似た特徴があるとは聞いていたからなんとなくの想像でしか出来ていなくて。
それでも、断言出来る。
これは、見た目に対する反応なんかじゃなくて。
例えるなら、魂の共鳴と言える何か。
たとえその人の見た目が彼女と遠く離れたものだったとしても、僕は全く同じ感想を抱くだろう。
あの、暖かく、人を引き寄せる笑顔溢れる清らかな女性が。
気高く、正義を追い求め日々研鑽を続けてくれているあの人が。
「──アリーゼ、さん……?」
彼女は間違いなく、アリーゼさんその人だったから。
「戦闘中に呆けるとは……随分余裕があるな」
左腕を斬り飛ばされた痛みなんかよりも、疑問が脳を埋め尽くす。
(なんで、どうして。有り得ない、偽物? いや、間違いなく、本物……!)
間髪入れずに襲いかかる彼女の長剣を右手に持ったヘスティア・ナイフで受け流し、続く正面からの蹴り飛ばしを後方に衝撃を流すように受けて蹴りの威力を利用し退避。
その際に呆然と眺めるアイズを抱え瞬時に距離をとる。
彼女は追撃する気配なく、僕をじっと観察する。
「
保険としてレフィに付けていた水の大精霊のおかげでレフィやフィンさん達は辛うじて生きてはいるものの火傷が酷く今はアミッドさんの万能薬と水の大精霊の治癒力に任せて回復を待っている。
「あ、る……」
青ざめた表情で生気を感じさせないアイズは震える手で僕の左腕があった場所を撫でる。
「大丈夫」
精霊の治癒力を左肩に全集中。炎により傷口が焼かれてはいるものの魔力もリソースとして消費して爆発的な回復力へと跳ね上げ左腕を再生させる。
ジュピターに回収してもらったアイズの腕を取り、精霊の水で傷口を清めてから合わせ、エリクサーと治癒力のアウトプットにより応急処置を施す。
「感覚が戻るまでは時間がかかるし、今はまだ薄皮一枚繋がっているだけだから……絶対に戦闘に参加しないで」
「い、いや……やだよ……みんな」
「生きてる。みんな無事だ。けど、みんな動ける状態じゃないから僕とあの人の戦闘で起こる余波から守る存在が必要なんだ」
左手の感触を確かめる。何度か握っては開きを繰り返し誤差がないことを確認してアイズの頭を軽く撫でて笑顔を見せる。
「大丈夫────勝つよ」
表情に色が戻り始めたアイズは少し迷いながらもすぐに頷き立ち上がる。
「お喋りは済んだか?」
急がず、左腕を支えながら飛び去ったアイズを横目に、声が響く方向へと身体を向ける。
「貴方は、誰ですか」
「またそれか。私の正体などどうでもいいだろうに」
「貴方からは、僕の大切な人の……大切な人達の気配がする。決して見逃せない……貴方は、誰ですか」
「さぁな。貴様の大切な存在など知らん。私の身体の素体にでもなっているのではないか? かつてレヴィスと呼ばれたなにか、それが私だ。呼び名が欲しいならばレヴィスとでも呼べ」
その名を聞き、やはりアリーゼさん達から聞いた怪人と同一名であることを知り、それでも相手の実力が報告のそれと全く一致しない事実が頭を巡る。
「私からも問おう。お前は何者だ」
「……さぁ、誰でしょう」
「いちいち癇に障る。まぁいい……【
「【
やはり彼女……レヴィスの扱う魔法はアリーゼさんが使う【アガリス・アルヴェシンス】そのもので。
けれどアリーゼさんが放つ燃え上がる赤とは違い何処までも煮え滾る地獄の業火を連想させる、赤を超えた紫。
「雷精霊に水精霊。お前はいくつの精霊と共存している」
「言うとでも?」
「愚問か。ならば出させるまでだ」
僕とレヴィスが飛び出したのはほぼ同時。
「やはり速いな」
速度では僕に軍配が上がる。けれどレヴィスの卓越した技術によりその差を埋められ、力は拮抗。
「くっ、ははははっ」
二合、三合……1呼吸のうちに数十という剣閃を煌めかせる両者の間に実力差は見られず、互いに全力を見せない様子見の時間が過ぎていく。
左手に鳴月を構え、右手にヘスティア・ナイフという二刀流により手数を増やしラッシュを仕掛けるが笑いだしたレヴィスはそれら全てを対処する。
「難儀な奴だな、貴様は。至った故に、ダンジョン内での全力を制限されるとは!」
「っ」
「ちょうど、下にアレの気配も感じる……お前にとっては最悪の環境というわけだ」
「何処まで知って──」
「そら。上げていくぞ」
互いの剣閃に磨きがかかる。鋭く息を吐くレヴィスの一撃一撃が空気を切り裂き、打ち合う僕の腕がビリビリと痺れる衝撃。
「【禍つ彼岸の花】」
「なっ────」
「──【ゴコウ】」
不意にレヴィスは長剣を左腰へと忍ばせ極東の居合の構えをとる。
続く詠唱に僕は虚をつかれ、魔力により生み出された五つの斬撃が放たれる。
(輝夜さんの……しかも、五つの斬撃に指向性を与えて強力な一太刀を作り出してるオリジナル……ッ)
魔法行使が不可能な距離で放たれた神速の抜刀を二刀を重ね合わせ受け止めようと試みる。
けれど、その剣撃は僕の力を大幅に超える一撃となり防御は完全にならず容易く弾き飛ばされた。
「カハッ……」
衝撃は肺を貫き空気が吐き出され鋭い痛みが胸を襲う。
折れているであろう肋を瞬時に治しスキルによるチャージを脚へ施す。
リンっ、と鈴の音が鳴るのは1秒に満たず、地面を抉りながら飛び出した僕は地面へと足が接触する度にチャージを実行し解放。
並行してヘスティア・ナイフに雷を纏わせチャージを開始。視界を埋めつくし焼き付くさんとこちらへと襲いかかる炎の濁流を回避し飛び上がる。
「
上空から地に立つレヴィス目掛け、ナイフを振り下ろしチャージした雷を放出。
切断力と破壊力を兼ね備えた神雷の斬撃がレヴィスへと直撃し、自然発生する落雷を大きく超える雷音が轟いた。
「チィッ!」
「【ファイアボルト】」
水を凍らせて空中に足場を作り、ワンワードで背後に展開させた炎の弾幕の放出とともに氷の足場を砕きながら一直線にレヴィスへと特攻する。
レヴィスは雷の直撃によりダメージは少ないものの体のシビレによる行動制限を課され、本来の動きよりも確実にキレが落ちていた。
1秒に満たないハンデだけど、それだけあれば10以上は切り刻める。
レヴィスの足元へ低く着地した僕は両足の健を斬り飛ばし、続け様に立ち上がりながらレヴィスの身体を下から上へと切り伏せていく。
長剣からの炎の放出を飛び上がり回避し、数発の炎雷がレヴィスへと飛来する中でひとつの炎雷をナイフに纏う。
「
体に水を纏い自傷覚悟で炎の中へと突っ込み、レヴィスの背後を取って横凪の一閃を放つ。
レヴィスが放つ業火が僕の身体を焼き焦がし、その傷を端から治していく。
ナイフがレヴィスに接触すると同時に爆発的な炎の放出が起こりレヴィスを吹き飛ばし地面へ何度も接触を繰り返しながら片腕で飛び上がりくるりと回転し威力を殺して着地した。