白き英雄譚   作:ラトソル

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日間ランキングに載ってたんだけど
ヒェェ
あれって通知とか来ないの?


やっぱり僕は有名人!

 アストレアとの話し合いを終えたベルはアストレアと共に神室を出る。Lv7であることを隠すか悩んだが、既にザルドとアルフィアの二人を同時に相手取っている場面を多くの人に見られている。中にはフィンもいたため、下手なことを言ってもすぐバレるだろうということで、レベルのみを公開することに決めた。それでもLv7が今になって急に現れたことをどう説明するのか悩んだが、そこは任せて欲しいとアストレアは言った。持つべきものは正義の神だなと思う。

 

 ベルの名前を知るアストレア・ファミリアとガネーシャ・ファミリアの一部には口止めを行うことにした。名前は「アル」とし、家名などは無いただの「アル」としてこれからは活動していく。

 

 それに、何故か発現していたスキル【時ノ旅人】。『神に嘘が通じる』という効果がどれほどなのかアストレアと確かめて見たが、本当のことを言えば正しく認識され、ベルが嘘をついても、それは神側からすれば真実として捉えられるらしい。『嘘か分からない』ではなく『真実』で捉えられるのは良かった。

 もしも判定が曖昧なものならば神はその違和感からスキルの存在に気づいてしまうだろう。彼らは全能ではなくなったが、全知である『神』なのだから。

 

 階段を降りて広間にたどり着けば、そこには11人の女性が集まっていた。その中でも目立つ赤髪の女性、アリーゼはベルとアストレアに気づいて手を振った。

 

「ベル! アストレア様!」

 

「お待たせしました、アリーゼさん」

 

「アリーゼ、お待たせ。それと、みんなに話があるの」

 

 アストレアは自らの眷属を見渡して話があると言った。その一言を聞いたリュー達は静かにアストレアの話を待った。

 

「話っていうのは、ベルのことなのだけど……あ、多分みんな知っていると思うけど、この子はベル・クラネル。所属ファミリアは言えないけど、オラリオ側の冒険者よ」

 

「それは大丈夫です! ベルは優しいので!」

 

「団長、アストレア様の話を折るな」

 

「そうだぜアリーゼ」

 

 輝夜とライラに責められたアリーゼはその声が聞こえていないのか、ふふん、となぜだか胸を張っていた。その仕草にイラッとした二人だが、アストレアが「続けるわね」と言ったので追求せずに話を聞いた。

 

「彼のことはこれからは『アル』と呼んで欲しいの。所謂偽名ね。あと、ベルの名前を知っている子に会ったらそのことも伝えて欲しいの」

 

「それはいいのですが……なぜ、偽名なのですか?」

 

 輝夜の疑問は尤もだ。所属ファミリアも不明、更には偽名で通すとなれば怪しい匂いを撒き散らしている。確かに、間近でベルの活躍は見ていたが、それでも理由くらいは聞いておきたいものだ。

 

「今言えることは、ベルの名前が今周りに知られるのは色々と不都合が生じるのよ」

 

 アストレアの言っていることは正しいが、色々と省いているため全てを話しているとは言えない。何か隠していることに気づいた輝夜だが、アストレアの言うことなので素直に引いた。

 

「他に質問はない?」

 

「あ、はい! ベル……じゃなくて、アルのレベルはいくつなんでしょうか!」

 

 アリーゼの質問は、他の団員も思っている事だった。彼女達はベルのポテンシャルの全てを見た訳では無いが、スピードだけ見てもずば抜けている。あれはLv5の【女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)】よりも速い。ならば、敏捷に特化したLv6なのか? とも思った。

 

 Lv6は現在のオラリオにはオッタルただ一人。それでも、ベルならばあり得ると思っている彼女達は答えを待つ。

 

 そこでアストレアはベルの方を見た。その視線に気づいたベルも向き返す。「あなたから言いなさい」という無言の圧に「分かりました」とこちらも視線で返した。

 

「Lv7です」

 

「「「……」」」

 

「Lv7よ」

 

「「「……は?」」」

 

 さらっと言ったベルの爆弾発言にアリーゼ達の思考が停止した。続けてアストレアがもう一押しとばかりに言うとかろうじて声は出せたもののまだ飲み込めていない様子だった。

 

 フィンはベルがLv7だと確信しているだろうが、アストレア・ファミリアはザルドとアルフィアとの戦闘を見ていない。だからベルのことは「すごい速い子」という認識でしかなかったのだ。Lv6でも驚きなのにもう一段階上だったなど考えもしなかった面々は開いた口が徐々に動き始め、止まった思考が動き出して事実を飲み込んだ。

 

「「「……え?」」」

 

 理解してもその衝撃がデカすぎて叫ぶことも出来ずによく分からない声を出した彼女らにベルは苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 ────────────────────────────

「いや〜、まさかマジモンの英雄様かよ」

 

「い、いや、英雄ってほどではないんですが」

 

「ゼウスとヘラの眷属と互角にやり合ったとは、凄いですねぇ」

 

「え、なんですかその喋り方」

 

「なにか?」

 

「ひぇっ、な、なんでもないです」

 

 ライラの『英雄』という言葉に照れたベルは、続く輝夜の喋り方に違和感を感じて指摘すると全く笑っていない笑顔で圧をかけられた。マジで怖かった。

 

 ベル自身は謙遜しているが、『英雄』というのは間違いではない。ベルの二つ名は【英雄(アルゴノゥト)】。【勇者】や【猛者】とも違う、下界の民と神々に認められたからこそ付けられた二つ名だ。それほどに、『英雄』の二文字は重い。

 

 暗黒期においても、ベルは二人のLv7を相手取り、理由はどうあれ、二人を退けている。その姿は、民衆からはまさしく『英雄』に見えただろう。

 ベルは知らないが、現在のオラリオでは大罪人二人を退けた英雄の登場に明るさが生まれている。

 

「あ。言うのを忘れていたけど、ベルにはこれからはアストレア・ファミリアとして活動してもらうわ」

 

「え?」

 

 当然のような報告に反応したのはベルだ。そんな話聞いていなかったし、何よりもアストレア・ファミリアは団員全てが女性で構成されている。ベルはハーレムを夢見ているものの、女性に対する免疫はあまりない。

 それ故の困惑だったのだが、周りを見れば意外と受け入れられているようだった。

 

「あの……僕がアストレア・ファミリアに入ってもいいんでしょうか? 僕男ですし……」

 

「アストレア様が認められたのであれば、私達は何も言うことなんてありません。それに、『英雄』様は女性に襲いかかるような殿方には見えませんしねぇ」

 

「……そ、そうですか」

 

「おい輝夜、引かれてんぞ。お前の本性もうバレバレなんじゃねえの?」

 

「……ちっ」

 

「聞こえてますよ……」

 

 やはり輝夜の仮面に慣れないベルだったが、どうあれ歓迎されているようなので内心ほっとした。

 

「……では、皆さん。これからよろしくお願いします」

 

「ええ! こちらこそよろしく、アル!」

 

 アストレア・ファミリアがベルを歓迎している中、一人のエルフの表情がやや曇っていた。そのことに初めから気づいていたベルは声をかけるか悩んだものの、その人物が自分にとって馴染みのある人だったこともあり、その人物へと近づいた。

 

「どうしました? リューさん」

 

「……クラネルさん」

 

 俯いていたのはリューだ。彼女は皆がベルの歓迎ムード──明るいかといえばそうでは無いが──の中でもお通夜ムードだった。

 声をかけられたリューはゆっくりと顔を上げベルのことを視認すると、ポツリと呟いた。

 

「……『正義』とは、なんなのでしょうか」

 

「っ」

 

「多くの者を、目の前で失って……救えた命を救えず、民衆には、石を投げられた……アーディを、失うところだった……」

 

「……はぁ。ぶぁ〜〜〜かめ」

 

 リューの言葉に返答したのは輝夜。彼女はリューの前に立つと仮面を剥がして喋りだした。

 

「『正義』を名乗る時点で、批判、中傷、叱責、そして『犠牲』など覚悟して然るべきものだ。今回はベル……いや、アルが居たからこそアーディは助かったが、私達はみな、覚悟していた。お前だけは、覚悟していなかった」

 

「────!」

 

「私は常に言っていたぞ、愚か者。全てを守ることも、全てを救うことも不可能だと……英雄でもない限りはな」

 

 そう言って輝夜はチラリとベルの方を見た。その視線にベルは気づいたが、すぐに視線を戻した輝夜に何も言わなかった。

 

「アルが居なければ、私達はアーディを失っていた。今は自らの不甲斐なさに苛立つが、もしも犠牲者を出しても、堪えはするものの、あらかじめ覚悟をしていれば、受け止めることは出来る」

 

「ばかな……馬鹿な! あらかじめ犠牲を見据えた覚悟など、そんなものを『正義』と呼んでいい筈がない! 少なくとも、アストレア様が掲げる『正義』は違う!」

 

「『現実』を見ろ、青二才。お前の実力は認めるが、やはり私たちの中で一番、心が弱い……青すぎる」

 

「っ! 輝夜ぁ!!」

 

 激昂したリューが輝夜に掴みかかろうと距離を詰めた。さすがにまずいと判断したベルが輝夜とリューの間に割り込みリューの肩に手を置き動きを止める。

 

「リューさん、落ち着いてください!」

 

「アル……教えてください……! 貴方は、犠牲を覚悟しているのですか……? ……我々が追い求める『正義』とは、なんですか……」

 

「リューさん……」

 

 動きを止めたリューは、ベルの両肩に手を置き、懇願するようにベルの目を見て語りかけた。それは、友を失いかけた、無辜の民を守れなかった故の葛藤。『正義』を何よりも大切にしたリューだからこそ、『正義』を見失った。

 リューが求める『正義』への答えは、ベルには出せない。それは、ベルの『正義』とリューの『正義』は異なるから。全く同じ『正義』を持っている者など、誰もいないだろう。結論、『正義』とは主観的なものなのだから。

 だから、ベルは今『正義』について語ることはできない。今そのことをリューに伝えても、混乱するだけだろうことは分かる。だから、ベルが今言えるのは一つだけだ。

 

「……僕は、『犠牲』を覚悟できていません」

 

「……ぇ」

 

 それは、問いかけたリューからしても意外なもので。そばで聞いていた輝夜を含めたアストレアファミリアも、Lv7であるベルが犠牲を覚悟していないのは驚きだった。

 

「……何を言っている? 何年も冒険者をしている貴様なら何人もの犠牲を見てきたはずだ。それなのに、覚悟ができていないだと?」

 

 冒険者という職業は、犠牲の上で成り立っていると言ってもいい。ダンジョンは未知の塊。今まで隣で笑っていた仲間が次の瞬間には死んでいるなんてこともざらにある。何年も冒険者をしていれば、そんな経験は幾度となくあるはずだ。

 

 だが、ベルは違う。その類稀なる成長速度による経験の浅さ。普通の冒険者ならば駆け出しと言ってもいい一年未満という短い歴でベルの覚悟は定まらない。

 

「僕は、二度、大切な人を守れませんでした」

 

 それは、ベル自身の生涯で守れなかった二つの命。一度目は、ベルのことをオリオンと呼び、『一万年分の恋』を約束した女神。二度目は、異端児(ゼノス)の中でも一番親しく、妹のように思っていた子。二度目、ウィーネはフェルズの手により蘇生されたものの、あれは『奇跡』と言えるものだった。間違いなく、ベルの目の前で失った命。

 アルテミスに関しては、理由はどうあれ、ベル自身が殺した。それらは、ベルの中に一生残り続ける後悔となるだろう。

 

 もし、フェルズの蘇生が失敗していれば。ベルは立ち直れなかったと自身でも断言出来る。それほどまでに、彼の心は脆い。

 

「僕は仲間を失えば、きっと後悔するし、立ち直れなくなるかもしれない。だから、目の前の命は取りこぼさないように。強くなろうと思ったんです」

 

「……アル」

 

「でも、僕だけじゃ全てを守れない」

 

 ベルは全てを救える訳では無い。救える範囲は膨大でも、オラリオ全体を守ることなど不可能。各地で同時に攻められでもすればベルだけでは取捨選択をせざるを得なくなる。

 

 ────だから。

 

 ベルはアストレアファミリアの団員を見渡した。

 

「だから、僕は皆さんの力を借ります。僕が救えない命を、みんなが。みんなが救えない命を、僕が。『犠牲』を想定になんて入れない。僕は全てを救いたい。────『英雄』のように」

 

「「「!!!」」」

 

 そう語るベルの姿は、まさしく『英雄』の姿。その場にいた全員が、ベルの言葉に息を飲む。

 それは、既に『英雄』と呼ばれる存在となっている者が発するからこその説得力。彼の言葉は、その場の者に深く刻まれた。

 

「……少し、見回りに出てきます」

 

 リューはおもむろにそう告げ、扉の方へと歩いて行く。彼女の中でも葛藤している。輝夜の言葉を聞いた。ベルの言葉を──『英雄』の言葉を聞いた。

 

『正義』についての異なる意見。輝夜の意見は認めたくない。それでも、いざその場面になった時、自分はどうするのだろうか。

 ベルは理想を語った。それはベルにその理想を叶えることの出来る力があるから。

 

 二人の中にはすでに確固たるものが備わっている。だが、自分はどうだ? 

 リュー・リオンの『正義』とはなんだ? 

 エレボスの言葉が。守れなかった民衆が。今までの価値観を壊す。

 

 リューの悩みは解決していない。これは自らの手で乗り越えるべきものだから。

 未来を知るベルは知っている。リューが乗り越えることを。

 それでも、サポートくらいはしなければと。

 

「アストレア様。僕も見回りに行っていいですか?」

 

「……ええ。────リューのこと、お願いね」

 

「──はい」

 

 そのことを察したアストレアはリューをベルに託す。アストレア自身がリューに『正義』を語ることは出来ない。正義の女神たるアストレアの言葉は全て正しくなってしまうから。

 どれほどリューの価値観と離れていても、それが正しくなってしまうから。

 

 ベルはリューの後を追う。アストレアは、その姿が見えなくなるまで見守ることしか出来ない。

 それは、他の団員も同じことで。

 

「……アストレア様。私、リオンが求める答え、出せませんでした」

 

「そう……なら、悩みなさい。考えて、考えて。そして、自分なりの答えを出せばいいと思うわ」

 

「……はい」

 

 アリーゼは、リューにかけるべき言葉が分からなかった。リューの求める答えを、自分は持っていないから。団長という立場のアリーゼは常に正しくあろうとしている。その重責は計り知れない。ベルに吐き出していて軽くはなったが、消えてはいない。

 でも、ベルが居れば。ベルならばリューの答えを見つけてくれると、そう思っている。

 

「ごめんなさい、輝夜。嫌な役をさせてしまって」

 

「いえ、私もリオンには言いたいことがあったので」

 

「……そう。ありがとう」

 

 アストレアは輝夜の語ったことは間違いでは無いと思っている。むしろ正しいと。それでも、その思想はリューとは正反対のものだから。それでも、いずれはリューもぶつかる壁だった。

 だからあれは、その事を理解している輝夜なりの気遣いだった。だから、ありがとう、と。

 

「──さっ、辛気クセェのは終わりだ。アタシらも見回り行くぞ〜」

 

 ライラが立ち上がって声をかける。それに同調するようにネーゼ達も支度し始めた。まだ闇派閥は、どこにいるのか分からないのだから。

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

「リューさん!」

 

「……アル?」

 

 星屑の庭を出て少し歩いていると、後ろから声をかけられたリューは振り向いた。小走りで駆け寄ってきたベルに首を傾げた。

 今のリューとベルはほぼ同い年。故にリューの顔は少し幼さが残っているわけで。

 

(か、かわっ!?)

 

 金髪エルフのその仕草はベルにクリーンヒットした。

 その必殺級の一撃を何とか耐えたベルは咳払いをして心を落ち着かせた。

 

「僕も見回りに行きます」

 

「……助かります、アル」

 

 先程よりは落ち着きが出てきたリューがベルと共に歩き出す。二人は辺りを見渡しながら被害地の状況を確認していた。

 

 歩きながら、リューはふとベルに話しかける。

 

「そういえば、アルは私のことを知っていたのですか?」

 

「え?」

 

「名乗る前から、私の名前を呼んでいたので。どこかで会っていたりしましたか?」

 

「……あ」

 

 ベルからすれば、リューとは深層での決死の冒険を共にし、幾度となくお世話になった存在。だが、この時代のリューは違う。リューからすれば、今まで見たことも聞いたことも無い人に名前を知られていたのだ。リューはLv3の第二級冒険者であり、正義の派閥の一員として知られているが、相手はベル。今までオラリオで見たことも無いベルが自分のことを知っていることに疑問を持ったのだろう。

 

 その疑問は正しい。正しいからこそ、ベルは非常に焦っていた。

 

(どっ、どど、ど……どうしよう!?)

 

 上手い言い訳がないかを必死に考える。あーでもない、こーでもない、とベルが思いついた言い訳は。

 

「え、と。リューさんは、有名ですから」

 

 シンプルイズベスト。お前有名人だから知ってて当たり前だろ? 精神である。ベルの挙動がおかしいが、リューは渋々ながら納得してくれたようだ。ベルはため息をこぼした。

 

「そういえば、なんだか街に活気があるように見えますね」

 

「……確かに」

 

 あれほどの大規模な闇派閥の襲撃があったにもかかわらず、民衆の目は死んではいなかった。ワイワイしている、という訳では無いが、それでもこの状況の中では活気があるように見えた。

 

 それに、道を歩いていてベルが感じたのは、視線。それもリューにではなく、ベルに対しての視線だった。

 それは敵意の視線では無いので、あまり気に止めなかったが、じっと見られるのは気恥かしいので、やはり気になる。

 

 そうこうしていると、ガネーシャファミリアの団員がいた。

 その中には、シャクティとアーディの姿も見えた。

 

 二人はあの時にベルの名前を聞いていた。だから、ベルの名前を口外しないことと偽名の件を伝えるためにベルとリューはガネーシャファミリアのもとへと歩を進める。

 

 こちらの気配に気づいたのか、シャクティがこちらを──ベルの方を見ると、目を見開いてアーディに声をかけた。声をかけられたアーディもベルの存在に気づいたのか笑顔でこちらへと小走りで駆け寄ってきた。

 

「リオン! ベ──むっ」

 

(あぶなっ)

 

 笑顔のアーディが大声でベルの名前を呼びかけたところでベルが瞬間移動並の速さでアーディの口を塞いだ。口を塞がれたアーディは何が何だか分からない風に腕をわちゃわちゃさせて表現していた。

 

「むむ、もむむもも!!」

 

(可愛っ)

 

「ア、アル!? アーディが!」

 

 その行動が可愛すぎてベルは手を離すのを忘れてしまっていたが、息ができず青くなっていくアーディを見たリューが止めに入り我に返ったベルが手を離した。はー、はーっ、とアーディが深呼吸していて申し訳なくなったベルの下へとシャクティが歩み寄る。

 

「……大丈夫か、アーディ」

 

「川の向こうで知らない人が手を振ってたよ……」

 

「す、すみません」

 

 見れば、どうやら先程までいたガネーシャファミリアはシャクティの指示でどこかへ行ったようだ。

 

「それで、どうしたの? 急に口を塞いで」

 

「えっと、アーディさん達にお願いがあるんですけど。僕の名前を口外しないで貰いたいんですよね」

 

「別にいいけど、なんで?」

 

「理由は……ちょっと言えないんですけど」

 

 理由が言えないことに「ん〜?」と唸ったアーディだが、ぴょこんと顔をあげると「まあいっか!」と言ってベルに詰め寄ってきた。

 

「じゃあ、これからはなんて呼べばいいのかな?」

 

「一応、『アル』で通しているので、そう呼んでいただけると」

 

「アル……アル……うん! じゃあ、よろしくね、アル!!」

 

(天使かな?)

 

 あまりの笑顔にアーディが天使に見えたベルは拝みかけたが寸前で耐えた。そこに、今まで会話に参加しなかったシャクティがベルに声をかける。

 

「偽名を使う理由は詮索しない。ただ、これだけは言いたい────アーディを、妹を救ってくれて、ありがとう」

 

 そう言って、シャクティは深く頭を下げた。突然のことにベルは慌てる。

 

「か、顔を上げてください!!」

 

「いや、君には感謝してもしきれない。私は、たった一人の妹を失うところだった」

 

「わ、わたしも! 助けてくれて、本当にありがとう、アル!」

 

 アーディも頭を下げて、二人の女性に頭を下げられたベルは対応に困った。ベルからすれば当たり前のことをした迄だが、二人からすればその重大性は違う。片や妹を失いかけ、片や自らの命を失いかけ、お互いに救われた。

 

「それに、君には多くの民も救ってもらった。これは私たちからだけの感謝では無い。民衆を代表して、感謝を」

 

 周りを見渡せば、多くの民がベルを見ていた。彼らは、ベルに救われたもの、中央広場にてベルの戦いを見た者。今ベルの周りに集う民衆にとって、ベルはまさしく『英雄』だった。

 

 周りからも次々と感謝の言葉が飛んでくる中、なんとか二人の頭を上げさせた。二人はまだ頭を下げ足りていないという顔だったが、ベルの疲れ果てた顔を見て渋々従った。

 

「アル。君の力をこれからも借りたい。協力してくれるか?」

 

「はい。僕にできることなら」

 

「あ! 私もー」

 

 シャクティの言葉にベルが頷き、お互いに手を取り合った。そこにアーディが乱入してきて二人の手を包み込んだ。アーディの視線は手からベルの後ろにいるリューへと向けられる。

 

「リオン! リオンもしよ!!」

 

「え? いや、私は……」

 

「いいからいいから!!」

 

 アーディはリューの手を掴んで二人の手があるところまで引き寄せた。強引に引き寄せたことでリューの体勢が崩れて体が前へと倒れる。

 倒れる寸前のところでベルがリューの体を受け止めた。

 

「あ」

 

「大丈夫ですか、リューさん」

 

 アーディはリューが他者との接触を極端に嫌っていることを知っている。今までリューに触れることができたのはアーディとアリーゼのみ。だから、ベルがリューの体に触れていることから、これから起こることに目を瞑りかけた。

 

「……ええ、大丈夫です」

 

「あれ!?」

 

 リューがベルのことを殴り飛ばすと思っていたアーディはリューが全く拒絶しなかったことに驚いていた。シャクティもリューのことを知っているため、リューがベルを拒まなかったことに驚きを隠せなかった。

 当のリューはというと、ベルが触っていた自分の体を見つめ、目をぱちぱちとさせていた。

 そんなリューにアーディが口をわなわなとさせて近づいた。

 

「り、リオン!? アルに触れても平気なの!?」

 

「……はい、なんともありませんでした」

 

「り、リオンがアルに体を許した〜〜!?」

 

「ぶっ!!?」

 

 その勘違いしかされないような発言にベルは思わず吹き出してしまう。シャクティはアーディへと近づき拳骨を落としていた。「ふぎゅっ」と言いながらアーディは撃沈する。

 

「それにしても、私も驚いた。お前が拒絶しない男がいるとは」

 

「私も今、驚いています。彼に触られるのは、嫌ではない。むしろ、心地いい」

 

「や、やっぱりリオン体を許して!? ふぎゅっ!?」

 

「お前はもう少し言葉を考えろ……」

 

 再度シャクティからの拳骨をくらったアーディは涙目になっていた。そのままリューに抱きついて「慰めて〜」と頭をぐりぐりした。リューは対応に困っていたが、アーディが突然動きを止めてリューの顔を見上げる。

 

「……リオン、なにか悩んでる?」

 

「え?」

 

 アーディは他人の心の変化に聡い。それが仲の良いリューならば尚更だ。

 

「リオン、私に相談して?」

 

「……アーディ」

 

 アーディのそのまっすぐな瞳に、思わずリューはアーディに自らの悩みを打ち明けた。その様子を見たベルはシャクティに少し離れたところを指差してそちらへと移動した。

 

 二人に声が届かない所まで来たベルとシャクティは止まる。

 

「しかし、お前のような存在がオラリオにいるとはな。【静寂】と【暴喰】を相手にして互角に渡り合ったと聞く」

 

「あのまま続いていたらどうなっていたか分かりませんけどね」

 

「それでも、だ。【猛者】は【暴喰】にやられたんだ。それだけでもお前の異常さが分かる」

 

「い、異常……」

 

「お前の存在は既にオラリオの大部分に広まっている。アルはこの都市にとって『英雄』だ」

 

 そこまで知れ渡っているとは知らなかったベルは『英雄』と呼ばれたことに嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な気持ちになった。

 

「それで……ここに私を連れてきた理由はなんだ?」

 

「リューさんのことはアーディさんに任せようかと思います」

 

 ベルはシャクティともリュー達がいるところでもない方向を向いた。

 

「あの方向から戦闘音が聞こえます。恐らく闇派閥かと」

 

「な!?」

 

 シャクティはベルが言っていた方向へと意識を澄ませる。Lv5であるシャクティの聴覚をもってしてもほとんど聞こえない音。さらに集中させれば、ほんの僅かな剣戟が聞き取れた。

 

「……恐ろしいな。流石と言うべきか」

 

「僕は今からそこへ向かいます。リューさんには僕が闇派閥の対処に向かったことを伝えてください」

 

 そう言うとベルは跳躍し、一瞬で屋根へ登ると一気に駆け出した。一瞬で姿が消えたベルの姿を見てシャクティは頼もしすぎる味方が出来たことに笑みを浮かべて二人の下へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 




構想自体は最後までできてるけど文にするのが難しすぎる
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