白き英雄譚   作:ラトソル

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さて、今回は誰と出会うのでしょうか


会いたかったぜぇ〜、フィィィン!

「やれ! 襲え! 無知の罪人どもを血祭にするのだァ!」

 

「み、みんなっ、早く逃げるっす! ガレスさん達がいる場所まで──」

 

 とある区画にて、ロキ・ファミリアの一部団員と闇派閥が交戦していた。闇派閥は相変わらず市民を狙い、悲鳴が上がっている。その中にいたのはロキ・ファミリア所属のラウル。彼は市民の避難を最優先させていた。

 

「死ねっ、冒険者!」

 

「ひっ!?」

 

 ラウルへと闇派閥の刃が迫る。まだまだ未熟なラウルは闇派閥の殺意に圧され、腰が引けてしまった。

 

「抜かせ、童ぁ!」

 

「がああ!?」

 

 ラウルを斬りつける刃を寸前で止め、そのまま斬りつけた。その男をラウルが見ると、見知った顔だ。

 

「あ……ノ、ノアールさん!」

 

「下がっていろ、ラウル。そんな引けた腰では、剣も振れまい」

 

「で、でも、自分も戦わないと……!」

 

 怯えながらも、ラウルは剣を取ろうとする。その姿を見たノアールが何かを言う前に、ドワーフの男が口を開いた。

 

「モンスターくらいしか碌に戦ったことのない若造が何を言ってやがる。ここは大人しく老兵(ロートル)に任せろ」

 

「年季だったらフィン達にも負けやしないよ。【ロキ・ファミリア】の先達の言うことが信じられないかい、ラウル」

 

「ダインさん、バーラさん……」

 

 続いてやってきたアマゾネスの女性もロキ・ファミリアの古参。誰もがラウルよりも戦闘経験が圧倒的に多い者達だ。

 

「お前は裏方に徹しろ。避難民を連れていけ、女子供の悲鳴は聞き飽きた。……アナキティまで前線に巻き込んで──」

 

「ノアール! 闇派閥の増援だ! ちと多いぞ!!」

 

 前方から闇派閥が大勢で攻め込んでくる。誰も彼も殺意に満ちていた。「ちっ!」と舌打ちしたノアールはラウルに指示を出してから自分は前線へ出ようと──

 

「……なに?」

 

 今まさに接敵しようとしていた闇派閥の集団が一斉に倒れる。その中で、一人の冒険者が立っていた。

 純白の髪を持つ少年。

 

「────」

 

 ラウルはその後ろ姿に、自らが尊敬するフィンとも違う──『英雄』の姿を幻視した。その立ち姿に見惚れ、ラウルは言葉が出ない。

 

「……ノアール、あれは……」

 

「ああ、フィンの言っていた特徴と一致しとる」

 

 純白の髪を持ち、視認不可な速度で駆ける紅い目の冒険者。それは目の前の人物の特徴と一致する。

 

「フィンのところへ連れていくか……」

 

 ノアール達はその冒険者のもとへと近寄る。フィンにはその冒険者の特徴と共に、もし会うことが出来たなら連れてきて欲しいと依頼されていた。

 

 ノアールはその冒険者の足元に転がる闇派閥を見ると息を飲んだ。

 

「あの一瞬で、か」

 

 誰も死んでいない。全てが気絶で済まされている。あの一瞬で傷をつけずに戦闘不能に追いやるなど、もはや神業と言っていい。

 

「もし、そこの少年」

 

「はい?」

 

 声をかけられた冒険者はこちらへと体を向ける。その顔は、歴戦の冒険者とは言えない幼さが残った顔つきだったが、全身から滲み出るオーラが強者の香りを撒き散らしていた。

 

(友好的か)

 

「お前さんにうちの団長と会って欲しいのだが、着いてきてくれまいか?」

 

「団長……はい、構いませんよ」

 

「すまぬな……ラウル! この少年をフィンのもとへ案内しろ!」

 

「……あ、はいっす!」

 

 未だにボーッとしていたラウルはノアールの声にビクッとするが我に返るとこちらの方へと走り寄ってきた。

 

「そういえば、君の名前はなんというのだ?」

 

「僕ですか? 僕は──」

 

 柔らかい笑みを浮かべた少年がこちらを向く。その顔を見るだけで、不思議と安心できるような気がした。

 

「『アル』と言います」

 

 

 ──────────────────────────────

 

 ラウルに連れられギルドの前までやってきたベルはラウルに「こ、ここで待っててくださいっす」と何故か緊張したような口調で言われたので待機している。

 周りには人が大勢居り、その半分以上がベルのことを見ていた。見たことの無い冒険者だからか、或いはベルの戦いを見ていたのか定かではないが、妙にむず痒い思いなので早く来て欲しい。

 

「ラウルさんが呼びに行く、ってことは、やっぱりフィンさんだよね」

 

 ベルはラウルと面識がある。ラウルがロキ・ファミリア団員ということも知っているため、フィンが来るだろうと予想がついた。

 この時代のフィンとは中央広場では会ったが、面識はない。向こうはベルのことを知らない。でも、ベルはフィンの脅威を知っている。神にも迫る思考力でベルとの会話から情報を抜き出してくるだろう。下手のことは出来ないな、とベルは若干の不安を浮かべた。

 

「やぁ、待たせたね」

 

 透き通った声が聞こえる。ギルド入り口から、一見すれば子供にも見えてしまう体格、だがしかしその圧倒的カリスマにより【勇者(ブレイバー)】の二つ名を獲得したロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナがこちらへと歩いてきた。その横にはロキ・ファミリア主神であるロキもいる。

 フィンは少しの笑みを浮かべ、ベルの全身を捉えていた。

 

「はじめましてかな、白き英雄」

 

「そうですね……て、なんですかそれ?」

 

 フィンの発した『白き英雄』という単語に引っかかる。聞き返したベルにフィンは当然のように答えた。

 

「【暴喰】と【静寂】を相手に互角の戦いを繰り広げていたんだ。実際、【暴喰】には勝っていた。その姿は、まさしく『英雄』のそれだ」

 

「ど、どうも……」

 

「顔も名前も知らない冒険者だったからね。特徴的な白髪から人々は君のことを『白き英雄』と呼び出したのさ」

 

 ここに来てから何回呼ばれたか分からない『英雄』という言葉。何回聞いても慣れないベルは照れたようにしていた。

 その様子も観察しているフィン。彼はベルの一挙手一投足を見逃さぬようにしている。

 

「僕も君の名前は知らないんでね。よければ教えてくれないかい?」

 

「あ、はい。アルと言います」

 

「アル、ね……そういえば、こちらの紹介がまだだったかな。僕はフィン・ディムナ。ロキ・ファミリアの団長をしている。横にいるのは僕たちの主神であるロキだ」

 

「うちがロキや。よろしくな〜」

 

「よろしくお願いします、フィンさん、ロキ様」

 

 知ってるけど、と思いながらも返事をしたベル。ロキは笑いながらベルに挨拶をしたが、その実品定めをしていた。

 フィンはちらりとロキの方を見た。同時にロキもフィンの顔を見て頷く。

 

(彼がアルだという名前なのは、ロキの反応からして本当なのだろう。でも、()()()()()()()

 

 オラリオに何年もいるフィンだが、アルという名前は聞いたことがない。フィンはベルが戦っていた場面を見ている。有り得ないと思いながらも、Lv7ということを半ば確信していた。だが、それがおかしいのだ。

 フィンは上級冒険者の名前はだいたい目を通している。第一級以上など、当たり前のように全員覚えている。にもかかわらず、フィンはアルという名の冒険者を知らない。

 

(都市外の冒険者……いや、それは有り得ない)

 

 ダンジョン以外にも、モンスターは存在している。しかし、都市の中と外ではモンスターの強さは全く違う。外のモンスターを倒しても大した経験値にはならず、都市外の冒険者は総じてLvが低い。ほとんどがLv1、一国にLv3が一人いればその国は強く、Lv4など英雄の域だ。それ以上など、ありえない。『闘国(テルスキュラ)』という例外もあるが、かの国はアマゾネスの戦士が育てられている。ヒューマンであるアルは有り得ない。

 

 考える素振りを見せず、その実思考を回しているフィンはベルから情報を得ようとしていた。

 

「じゃあ、アル。君はどこのファミリア所属なんだい?」

 

「アストレア・ファミリアです」

 

「アストレアのとこやと?」

 

 ベルの答えにロキが反応する。それも当然。アストレア・ファミリアは全ての団員が女性で構成されている派閥。最高Lv3の中堅派閥だ。その中に男がいたなど神会(デナトゥス)でも聞いたことがない。

 

 実際の恩恵はまだ天界にいるヘスティアのものだが、今活動しているのはアストレア・ファミリアであり、【時ノ旅人】の効果もあり、ロキには真実で通っている。

 

(女神アストレアの眷属……彼女の眷属なら、こちら側と判断していいだろう)

 

「アル。君のレベルを聞いてもいいかい?」

 

「Lv7です」

 

「──っ」

 

 ベルがLv7だとは、確信していた。していたが、いざその事実を聞くと、やはり動揺はしてしまうものだ。念の為ロキの方を見るも、ロキは嘘でないことを目で訴えていた。

 

 動揺はした──が、嬉しい誤算だ。

 Lv7。しかも、同じLv7であるザルドを上回り、アルフィアとザルドを同時に相手取れる技量。そんな切り札(ジョーカー)を手に入れられたことはこの暗黒期において大きすぎるものだ。

 

 ザルドとアルフィアが闇派閥側へと渡ったことにより崩れた天秤がベルの登場により覆った。

 

(それにしても……)

 

 改めてフィンはベルを見る。ベルの容姿は少年のそれだ。神の恩恵により容姿はある程度保つことができるとしても、明らかに若い。アイズのように、幼少の頃から冒険者として経験値を蓄積させていたのか。それでも、この若さでLv7ははっきり言って異常だ。

 もしかすれば、なにか特別なスキルが──

 

(……いや、やめておこう)

 

 ステイタスの詮索は御法度。そんなことをしてベルからの信用を失えば貴重な戦力を失ってしまう。それは避けたい。

 それに、なぜだか彼には嫌われたくないと、思ってしまった。

 

「──アル。少しすれば、各ファミリアの代表が集い会議をするだろう。その時、君にもその会議に参加して欲しい」

 

「僕が参加してもいいんですか?」

 

「君だから参加して欲しいんだよ、アル」

 

「……そう言うのでしたら」

 

 重要な会議に参加することに気が引けてしまったベルだったが、フィンからの言葉に承諾した。

 

「会議が決まり次第、アリーゼ・ローヴェルに連絡する。彼女から聞いて欲しい」

 

「分かりました」

 

「それまでの間は、君には遊撃手として動いてもらいたい。各地で闇派閥が潜んでいる。判断は君に任せる。被害が起こっている地点へ随時向かって欲しい。いけるかい?」

 

「もちろんです」

 

 フィンからのしんどい依頼にも、ベルは嫌な顔せずに引き受ける。それは、フィンからすれば、とても眩しいもので。

 

(こういう部分も、君は『英雄』なんだね)

 

 単純に強いから『英雄』と呼ばれているのではない。思想や行動、全てを加味して『英雄』なのだと分かる。今のフィンのように、『英雄』を演じているのではない。彼こそが真なる英雄なのだと。

 

(嫉妬してしまうよ)

 

 そんな考えとは裏腹に、フィンの表情は清々しいものだった。

 

 フィンはベルの眼を見据える。今までの見定めるようなものではなく、ただ純粋に。敬意を表して。

 複雑な言葉などいらない。ただ、単純な言葉でいい。

 

「アル──頼んだよ」

 

「──はい! それでは、また!」

 

 その言葉と共に、ベルは今なお活動している闇派閥の対処に向かった。初速から人智を超えたスピードを出したベルの足元には深く足跡が残っていた。

 

「……まじか」

 

 その速さを真正面で体感したフィンは予想外すぎる光景に思わず呟いてしまった。

 

「煙立てて行きよったなあ、あの少年は。てか速すぎやろ〜」

 

「煙っ」と言いながら手で顔の前を扇ぐロキはベルが残していった足跡を見た。そこにはくっきりと足跡が残っており、周りにはヒビが入っている。

 

「ずいぶんあの子のこと買ってるんやな、フィン」

 

「そうだね……」

 

「正直、意外やわ。フィンが初対面の人間を認めるのは」

 

「僕も驚いてるよ。今までこんな気持ちになったことはなかったからね」

 

「……ま、ウチはまだ計れてないところはあるけどな」

 

 ひび割れたコンクリートの欠片を蹴り飛ばしてロキはベルが飛び去ったであろう方向を見る。

 

「あの少年……アル、やったか? あの子が言ってたことは全部ホンマやった。アストレアんとこの子ってことも、Lv7なのも。なにもかも、な」

 

 周りからは忙しなく動いている冒険者達が立てている音のみが聞こえる。蹴り飛ばしたコンクリートの破片がコロコロと音を響かせていた。

 

「ウチらの質問に答えてる時のアルはウチらを……いや、フィンのことを信用してた」

 

「それは僕も感じたよ」

 

「少なくともウチはあんな子は今まで見たことも聞いたこともない。それやのにあの子はこっちを信用してた。なんでやろな?」

 

 むー、と腕を組みながら悩む素振りを見せるロキ。フィンはその横で先程のやり取りを振り返っていた。こちらは少しばかり警戒して対話を臨んでいたが、あちらの警戒心はどこか別のところに向けられているように見えた。それに彼はこちらに友好的だった。それも初対面とは思えないほどに。

 

「アストレアの子って言うんやったら、まあ少なくとも安心やけどな」

 

 まだ何か引っかかっているようなロキが腕を頭の後ろに回して空を見上げた。空は相変わらずの曇り空だ。

 

「Lv7……今までどこに居ったんか、とか。色々思うところはある。でも、にしては、あの子は純粋すぎるな」

 

 一度会話をしただけでもわかってしまうほどのベルの純粋さ。それはLv7という歴戦の冒険者とは思えないほどのものだった。フレイヤのように、魂の色を見ることの出来ないロキやフィンでも、彼の魂は汚れていないことが分かった。

 

「正直、彼からは歴戦の冒険者という風格は見えなかった。彼のポテンシャルはLv7の最上位だろうけど、ね」

 

「でも」と、フィンはロキへと向けていた顔を空へと向けた。その横顔は、子供のように純粋な顔だ。

 

「アルがザルドとぶつかり合っていた時、僕は見たんだよ」

 

「……なにをや?」

 

 フィンとロキの目が交わる。フィンの目は、ロキが見たことの無いようなほどに輝いていた。

 

「かつての最強たるゼウスとヘラのファミリアとも違う──『英雄』の姿を、ね」

 

「──」

 

 ロキはフィンの野望を知っている。なぜ【勇者】という二つ名を欲したのかも、すべて聞いた。彼は己の悲願を果たすために『人工の英雄』になる道を進んだ。大衆が求めるフィン・ディムナを体現した。

 そんな『人工の英雄』であるフィンは見たのだ──『真の英雄』を。誰もが一度は憧れた存在を。

 

 そう語るフィンの表情は、羨望であり、憧れであり……嫉妬を混ぜたものだった。

 フィンのコンセプトは依然変わらない。大衆が求める『フィン・ディムナ』を演じる。今までと変わらない。でも。それでも。

 

 そうなってみたいと、思ってしまう。

 

「……にしても、『英雄』か。これは危ないんとちゃうか?」

 

「なにがだい?」

 

「アイズたんや。あの子は『英雄』を嫌ってる……いや、()()()()()()()()()。あの子がアルと会ったらマズイんとちゃう?」

 

「確かにね……」

 

 ロキとフィンはアイズ・ヴァレンシュタインの過去を聞いている。なぜ彼女が英雄の存在を否定するのかも。彼女の英雄に対する思いは誰よりも強い。アイズがベルという『英雄』と出会えばどうなるかは分からない。

 

「でも、なんでかな。不思議と彼なら任せられる気がする」

 

「……ホンマ、アルのことを信用してるんやな」

 

 彼のことは深く知らない。それなのに、何故か信用できてしまうのは、彼が『英雄』足り得ているからなのか、はたまた別の要因からなのか。それは定かではないが、信用できるという点で二人が同意し笑みがこぼれる。

 

 彼ならば──アルならば、アイズ・ヴァレンシュタインの英雄になれるのではないか、と。

 

 

 ────────────────────────────

 

 闇派閥が暴れている箇所を数個鎮圧した後、他に被害が出ている箇所は見当たらなかった。耳を澄ませど爆発も剣戟も聞こえない。

 

 この時代に来てから久しぶりに感じる静けさ。今までずっと駆け回っていたベルは町並みを歩きながら見ていた。

 綺麗な状態の建物は存在せず、どこかしらに欠損が生じている。崩壊しているものも少なくない。それでも市民が絶望していないのは各ファミリアの奮闘によるものか、ベル・クラネルという英雄の存在が認知され始めている故か。恐らくその両方だろう。

 

 既に『白き英雄』の評判は都市中を駆け巡っている。その特徴を知るものも多い。ベルが歩いている時に何人かに声をかけられたり視線を感じるのはそのせいだ。

 

「僕が居た時とは、全然違うな」

 

 ベルが居た時代とは風景が全く違う。それはボロボロになっている町並みもそうだが、知らない店や、更地になっている場所。これだけでも、過去に来たんだということが実感できた。

 

「……当たり前だけど。みんなが僕のことを知らないのは、ちょっときついな」

 

 この時代のベルは某神と共に都市外で生活している。ベルのことを知っている人などオラリオに居なくて当然なのだが、やはり寂しいものは寂しい。

 

「リリは、多分オラリオにいるよね」

 

 同じヘスティアファミリアの小人族の少女を思い浮かべる。リリは生まれた時からオラリオにいたはずなので、今もここで生活しているはずだ。

 会いたい気持ちはもちろんある。でも、それは自分の知っているリリとは別人だから。

 

 ヴェルフと命と春姫はまだオラリオには居ない。この暗黒期に巻き込まれていないというのは安心できることだが、やはり会いたい。

 相手は自分のことなんて覚えていないだろう。知らないだろう。でも。それでも会いたいものだ。

 

「神様……」

 

 天界にいる自らの主神を思い浮かべる。彼女は今何をやっているのだろうか。不思議とぐーたらしている姿しか思い浮かばないので笑ってしまう。

 

「……僕、頑張ります。神様」

 

 この時代に来たからには自分のできることをしようと、天界にいるヘスティアに向けて宣言する。返事は聞こえない。でも、不思議と勇気が湧いてきた。

 この時代に来ても、何故かヘスティアの恩恵は生きている。理由は分からないが、それでも、この恩恵があるというだけでヘスティアとの繋がりを感じる。

 

「よしっ!」と気合いを入れ直したベルは辺りに意識を向けながら町を歩いた。しばらく歩いていると、見知った建物が見える。

 ベルはその建物に何度か入ったことがあった。リューとのジャガーノート戦やクノッソス戦の後。そのボロボロの体を癒してくれた聖女のいる場所。半ばトラウマがあるそこはディアンケヒト・ファミリアのホーム。そこには負傷した市民や冒険者が多く居て、治療員(ヒーラー)らしき人達が忙しなく動いていた。

 

 その中でも一際目立つ女性がいる。銀髪のウェーブの掛かったロングヘアが特徴的な神秘的女性。【戦場の聖女(デア・セイント)】アミッド・テアサナーレ。ベルは彼女に何度か世話になっている。その度にトラウマが生まれていた。

 

 彼女のガチギレを目の前で体験したことのあるベルはまだ幼いアミッドの姿を見ただけで震えてしまった。患者であったベルに手を出したヘスティアとリリにガチギレした聖女の姿は記憶に新しい。

 

 アミッドは複数の患者を同時に治療していた。この時代から活躍していたと思うと尊敬するし、やっぱり怖い。

 

 別のルートに行こうとしたところで治療を終えたアミッドが顔を上げた。その時ベルはアミッドの方を見ていたため彼女と目が合う。

 ベルは肩をビクつかせた。アミッドはこちらを見るとその無機質な表情を崩し、目を見開いていた。その様子に先程までビクついていたベルは首を傾げていたが、続く耳に入ってきた音色に意識が奪われた。

 

「っ!! これは!?」

 

 その音をベルは知っている。いや、体感した。中央広場で相対したザルドと、もうひとり。アルフィアが使っていた魔法。その音色がベルの鼓膜を震わせる。

 その音がなった場所はここから少し遠い。急ぐベルは先程のアミッドの表情を忘れすぐに現場へと駆けた。

 

 

 アミッドは一瞬にして姿を消したベルの方向をじっと見つめる。数秒眺めた後に崩していた顔を正したアミッドは頭を抱える素振りを見せてため息をついた。

 

「……どうしてあなたまでいるのですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ベル君はレシラムでした

後、第三者視点でのベルの呼び方をアルかベルか悩んでるのですがどっちがいいでしょう?(地の文)
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