”勝利”の先を得るために、彼女は剣を手に取った   作:第37番型眼鏡

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#16 敗北の後に

 ベッドに横たわるツムギは、目に見えて落ち込んでいた。

 

「どうして、私の剣は届かなかったのかな……」

 

 頭に浮かぶのはそればかり。気を紛らわそうにもウラヌスに届かなかった剣の事ばかり考えてしまい止まらない。さりとて周囲を見渡したところで、痛みに呻く怪我人ばかりで滅入ってしまう。

 

 片腕を失いウラヌスへの援軍が到着するという絶望的な状況だったが、ヴァルゼライドが戦闘に入ったことで何とかツムギはその場を離脱することができた。本当はヴァルゼライドに加勢したかったし、せめて自分の知り得る情報を伝えようとも思ったが、繰り広げられる次元違いの戦いを見てすぐに考えを改めた。

 その後は運よく深謀双児(ジェミニ)と合流できたものの、そこで限界が来たのか気を失い、気が付けば野戦病院のごとき即席の診療所でベッドに寝かされていたのである。

 

「はぁ……」

 

 右腕を挙げようとしたが何の反応も無い。当然だ、右腕は自分で斬り飛ばしてしまったのだから。今頃は英雄と怪物の戦いに巻き込まれて消し炭となっている頃だろう。鎮痛剤は効いているようだが、それでも失った右腕がジクジクと痛みを訴えかけてくるようで。

 

 ヴァルゼライドがウラヌス達と戦闘を始めてからどれだけ経ったのか。そもそも今回の主目的である粛清計画はいったいどういう顛末へ向かっているのか、疑問を挙げれば切りがない。だがツムギが気にしているのはそんな事ではないのだ。

 勝ちたかった。本当は今すぐにでも武器を取ってあの怪物たちの首を断ち斬り、私の方が強いのだと高々に宣言したい。だけど現実は武器を失い、片腕まで失った無様な敗残者でしかない。辛く苦しい現実とやらに圧し潰されそうなのはこれが初めての経験だ。

 

 勝ち目はあった。確かに星の性能や出力差こそ覆しがたいものがあったとはいえ、運も技術も性格も策もすべてが嵌まっていたのだ。なのに右腕を代償に払ってまで打ち込んだ斬撃は命まで届かず、目指した勝利は掌をすり抜けて零れていった。

 あそこまでお膳立てが整っていながら斬れなかったことが悔しくて仕方ない。客観的にはこの結果でも十分善戦したとは思う、けれど勝てる見込みがあったのならば、その細い勝ち筋を掴めなければダメなのだ。これでどうして最強を目指していると言えようか。

 

「こんな惨めな気持ちになるのは、初めてですね……ゼファーさんにも、顔向けできないじゃないですか……」

 

 目頭が熱い。我慢したいと思いながら、溢れてくるものは一切止まる気配がなかった。

 負けは負けとして受け止めて次の糧にすればいい。片腕を失ったとしてもまだ終わりでは無いのだから、これから精進すればいい。などと、言葉ではどうとでも誤魔化せる。

 けれど心に巣食った惨めさはどうしても誤魔化せず……天才剣士と謳われた少女は、初めて悔し涙を流すのだった。

 

 ◇

 

 後に『アスクレピオスの大虐殺』と名付けられたこの大事件の顛末は、今更語るまでもないだろう。

 暴走した二機の自律式星辰光(アステリズム)運用兵器を単独で破壊したヴァルゼライドは軍の内外問わず"英雄"として神聖視され、更なる発言権を得るに至った。加えて当日の本命たる血統派の一掃自体は滞りなく実行されていたこともあり、もはやアドラー上層部に彼と比肩し得る者はいなかった。

 

 結果、第三十六代総統は実質的に引退を迫られ、それを飲んだことで総統の位は空位となる。大虐殺の日に審判者(ラダマンテュス)が裏から手を回していたこともあり、この流れも驚くほどスムーズに進んだ。

 もはや誰が第三十七代総統の椅子に座るかなど論ずるまでも無い。大虐殺から数えて一ヶ月、クリストファー・ヴァルゼライドは民からも軍からも望まれながら総統の地位に就いたのだ。

 

 以上がツムギの知る政治の流れであり、眼前で玉座に腰かける男の新たな称号であった。

 

「ヴァルゼライド大佐──失礼しました、ヴァルゼライド総統閣下。何故私のような一兵卒がこの場に呼ばれたかは定かでありませんが、ひとまず就任おめでとうございます」

「感謝する。ああ、楽にしてくれて構わない。既にこの場は人払いも済ませてある」

 

 帝国のトップとなったヴァルゼライドから直々に呼び出しを受けるなど、ただ事ではない。

 しかも今の時期は彼も多忙を極めているはずだ。現にアルバートはもちろんツムギですら深謀双児(ジェミニ)での仕事に忙殺されているというのに、それを除けてまでの"内密な話"である。

 心当たりは、無いことはない。ヴァルゼライドとツムギを結ぶ共通点など多くないのだ、まして人払いする程の機密となれば──

 

「総統閣下がお聞きしたいのは、あの大虐殺で現れた二体の……"魔星"、でしたか。アレらについてですか?」

「察しが良くて助かる、その通りだとも。カンタベリー聖教国から送り込まれたアレら二体の人型兵器について、我々は便宜上"魔星"と命名した。また、俺が聞いた奴らの会話からそれぞれ"ウラヌス"および"マルス"と呼称することも判明している。奴らが此度の大惨事を引き起こした首魁で間違いない」

「なるほど、それはそれは。名前が判明しているならば、毎回回りくどい代名詞を使う必要は無い訳ですね」

 

 少しだけ意味深にツムギが笑った。ヴァルゼライドの表情は不動の形に結ばれたままである。

 魔星の出所に関してだが、現在アドラーでは『カンタベリー聖教国が大和の遺物を下に作り出した最新兵器』と発表されている。もちろんカンタベリー側はこれを正式に否定、最近新しく就任した若き教皇からも『遺憾である』との声明が届いている。

 

 直接剣を交えたツムギは、これに関しては聖教国に同感だった。

 

「ムラサメ中尉、君が戦った個体は"ウラヌス"の方だと記憶している。まずは奴を単独で押し留め、片腕を失いながらも民と街への被害を食い止めたことを賞賛させてほしい。遅くなってしまったが、近い内に相応しい賞与も出す予定だ」

「総統閣下直々とは恐れ多い。ですがお構いなく、私は私のやりたいように挑んだだけです。最後はまあ、あなたが来なければ無様に死んでいましたが」

「だとしても正当な努力による正当な報酬だ、受け取ってほしい」

「……ありがとう、ございます」

 

 複雑な心情を隠し切れない。あの場を収めたのはヴァルゼライドであり、ツムギは最終的に負けただけ。勝てもしなければ本来生き残れもしなかったのに、あたかも勝者のように報酬を貰うのはどうにも落ち着かない。

 とはいえ、個人的な感情をこの場で出すべきでないのも承知して、いったんツムギは頷いた。ここからが本題だ。

 

「さて、君に聞きたい事は一つだ。ウラヌスと名乗るあの存在について、何か()()()()()はあったか」

「ありました。というより、処刑されたカナエ・淡・アマツその人らしいことに私は驚きましたが」

「……やはり気付いていたか」

「私を知っていて、しかもやけに私に執着していたので」

 

 いっそう難しい顔となったヴァルゼライドを見て、事の重大さを改めて認識する。

 そう、表向き魔星たちはカンタベリー聖教国から送られてきた最新兵器と言われているが、実際は少なくとも片方がアドラー出身かつアドラーで処刑された令嬢なのだ。これがどうやって聖教国にまで流れつくというのか。ずっと疑問だったが、この謎を一発で解決できる仮説が存在する。

 

 つまり、

 

「中尉、君は恐らくこう考えていることだろう──『あの魔星たちは聖教国ではなく、アドラーで製作されたものではないか?』と」

「はい、そう考えれば辻褄が合います。あの悲劇の再発を防ぐためには聖教国よりむしろ、帝国内部の監査を進める方が良いのではと愚考いたしました」

 

 もちろん、そう考えたところで物証などまったく無い。だからツムギはこれまでその仮説を誰かに話したことは一度も無かったし、自分でも半ば信じられなかった訳で。しかしヴァルゼライドまでわざわざ確認するのなら、やはり()()()()()()なのだろう。

 ただ、だとすればツムギは今瀬戸際に立っている。魔星の製造元が本当にアドラー帝国ならば、すなわち秘中の秘であり暗部に関わる話題だ。迂闊な発言をすればそれだけで物理的に首が飛ぶ可能性だってあった。

 

「ですから教えてください、ヴァルゼライド総統閣下……あなたはいったい、どちら側なのですか?」

「すまないが、君にそれを語る必要性が無い。いや、知ったところで君の益になるとも思えない」

「なるほど……よく分かりました」

 

 実質的な答えも同然な言葉に、ツムギは右腰に提げた剣を意識した。嘘をついてまで否定をしないのは英雄としての矜持かもしれないが、おかげで警戒度は大きく上がった。片腕でヴァルゼライドに勝てるとは思えない。しかしここで消されるくらいならばと、いつでも抜刀できるように心構えを取る。

 だがヴァルゼライド自身は剣呑さとはどこまでも無縁のまま、あくまで座したまま警戒を強めたツムギを制した。

 

「それで、ヴァルゼライド閣下はこの私をどうしたいのですか? 口封じでもするのですか?」

「いいや、そのつもりは毛頭無い。現状君の仮説を証明できるものは何一つとしてない、これでは誰に何を言ったところで机上の空論として終わるだろう。加えて、優秀な帝国軍人をさらにもう一人この場で失う方が大いなる損失だ」

「いきなり総統の地位が空になったら困りますからね」

 

 精一杯の虚勢にもヴァルゼライドは眉一つ動かさない。

 この場では実質ヴァルゼライドに従う他なかった。以前ならばいっそこの場で最強へ挑むのも有りだったかもしれないが、拾った命を勝ち目の無い戦いで無為に捨てるのは躊躇われる。

 仕方なく警戒を解き、この場の生殺与奪を握る男の次の発言を待つ。

 

「君には今回の魔星との戦闘で得た情報を、余計な混乱を招くことを防ぐために外部へ漏らさずにいてほしい。無論、その分の対価はこちらの方で用意しよう」

「建前はありつつ、交換条件でもあるのですか」

「頼んでいるのはこちらだ。よってこれは君にも益が無ければ成り立たない」

 

 総統職に就いてなお公明正大に事を運ぼうとするのはヴァルゼライドの美徳だろう。しかしその取引内容が今後の帝国の行く末すら左右し兼ねない危うさを孕んでいるというのなら、これは本当に美徳と片付けてしまって良いものか。

 ツムギはこれでも軍属だ。誰かを守るために戦う事が嫌いでは無いし、ウラヌスとの戦いも民を守るという義信が無かった訳じゃない。だからこそ眼前に座っている、帝国のあらゆる全てを巻き込む超重量を持ったこの男に対して、確認するべき事があった。

 

「一つだけ聞かせてください、あなたはあくまで帝国に繁栄を齎すために第三十七代総統となった、そうですよね?」

「ああ、帝国繁栄のために戦うこの身には虚偽も私心も一切ないと誓おう。何があろうと最後まで、俺はこの魂を燃やし尽くして国家に奉仕すると決めている。万が一、再び魔星共がこの帝国を脅かすというのなら、俺は何度でも立ち上がり奴らを止める」

 

 ……あれだけの大虐殺を引き起こした怪物たちと、清廉潔白を良しとし英雄と称えられるヴァルゼライドに以前から関係があるなど信じがたい。帝国内部の暗部が勝手にあれらを生み出した結果暴走し、その後始末にヴァルゼライドが駆り出されたことで繋がりを得てしまったと考える方がよほど自然だ。

 

 そう思わせるだけの熱意と決意が、先の言葉には宿っていたから。結局ツムギは、そのように自分を納得させるしかできなかった。この場で正義感から追及を重ねた結果、藪蛇を突いて取り返しのつかないことになっては遅いのだ。

 

「……分かりました。ヴァルゼライド総統閣下、あなたの言葉を信じます」

「感謝する。この件の対価については叡智宝瓶(アクエリアス)に一任しているので連絡を待ってほしい。代わりに魔星に関する情報の秘匿義務をこの瞬間より発動させてもらうが、構わないな?」

了解(ポジティブ)、確かに受領いたしました」

 

 あくまで真面目に答えながら、ツムギの心はまったく別の事を考えていた。

 もしヴァルゼライドよりも強ければ、このような取引を行う必要はなかっただろうか? 自分が正しいと思う事を貫き通し、他者の判断に己の行く末を任せることもなかったはず。ツムギなりの正義や義信に従い、我を通すことが許されたかもしれない。

 

「話は以上だ。忙しいところを呼び出して済まなかったな、今後も帝国のためによろしく頼む」

「はい、不肖ムラサメの剣士ですが、あなたのご期待に応えましょう」

 

 本心半分、建前半分の態度で一礼してからツムギは部屋を後にした。

 カツカツと軍靴の音を響かせ、誰も居ない廊下を歩きながらポツリと呟く。

 

「強くなりたいなぁ……」

 

 目標を定めてから今日まで、擦り切れそうなほど幾度も口にした言葉だったが、今は新たな意味が籠っていた。

 

 ウラヌスとの戦い以降、再現なく膨らみ続ける強さへの欲求。"最強"を目指すためにもっと強くなりたいのはその通りだが、こうしてヴァルゼライドと言葉を交わして更なる欲求を自覚した。

 自分の有り方を曲げないためにも、やはり実力は必要なのだ。もしウラヌスに負けた後、ヴァルゼライドが来なければ彼女は悪徳の限りを尽くしたことだろう。弱ければつまり、そのような最悪を見過ごす事態にもなりかねない。別に目標以外どうでもいい訳じゃないのだ、人並みの願いも正義も当然ある。

 

「何のために"最強"を目指すか考えたこともなかったけど……断刃(ムラサメ)らしく誰かのためというのも悪くないかもね」

 

 願いを叶えるため、そして正しいことを貫くために、やはり強くならねばならない。

 左手で剣の柄を触る。使い込まれた剣は何も答えてくれないが、やるべきことを黙して示す。ツムギにできることなど、最後は剣を振るしか無いのだから。

 

 ◇

 

「──しかし、己は些か意外だったと言わざるを得ない。今後に発生し得る危険性も考慮すれば、彼女を消しておくことが盤石であったろうに」

「黙れよ、カグツチ。帝国軍人を愚弄することは貴様であっても許される事ではない」

 

 政府中央棟(セントラル)の地下、ごく一部の者しか知らぬ鋼の施設にヴァルゼライドの姿はあった。

 かつて旧日本軍が星辰光技術について開発していた際の大型施設、それが『大破壊(カタストロフ)』によってモンサンミッシェルと融合した結果誕生したのが政府中央棟である。

 故に、帝都の地下には今も大和(カミ)の遺産が眠っているのだ。たとえば、たった今ヴァルゼライドと対峙している神星(カグツチ)のような存在が。

 

「此度の大虐殺が発生したのは明確に我々の──いや、俺の落ち度だ。奴らを真っ当に制御できると慢心した結果、取り返しのつかない事態を引き起こした。その中で命を賭して戦った者へ報いるのは当然の事だろう」

「なるほど、おまえにとっては一理あるか。確かにあの剣士がウラヌスを十分ほどでも足止めしていなければ、犠牲は千人単位で増えていたはずだろう。おまえに取ってはありがたい限りか」

 

 硝子管(フラスコ)の中で揺蕩う半壊の人影は愉快そうに英雄の(さが)を指摘した。邪魔になるなら容赦しないヴァルゼライドだが、一方で善意や献身といった真っ当なあり方に敬意を払うのも事実である。

 とはいえ、英雄はあまりに一人で抱え込みすぎだともカグツチは思うのだが。先に言い放った『俺の落ち度』という言葉も、元を辿れば暴走した魔星が悪いのは確実で、むしろヴァルゼライドこそ命を賭して彼らを打倒した勇者である。

 

「最終的に氷河姫(ピリオド)殺塵鬼(カーネイジ)を打倒したのはおまえであり、あの剣士は結果だけみれば敗北したも同然だろう。確かに強化措置も受けていない身で氷河姫(ピリオド)に迫ったことには己も驚かされたが、それだけで便宜を図る必要は無いと考えるが……」

「おまえが何を言おうと決断は変わらん。彼女は俺が報いるべき功績を果たした帝国軍人であり、持ち得る情報も我々の脅威にはならないと判断した。故にこの話はこれで終わりだ、蒸し返すな」

「理屈は通っている、か……良いだろう、ここはおまえを尊重するとしよう。こちらとしても、魔星の問題点を洗い出す良い機会を得たのは事実だからな」

 

 カグツチにとって帝国で挙げた功績など心底どうでもいい。ただし、精神的な方向性が重要となる魔星が、その精神性が原因で後れを取る可能性が見れたのは一つ成果である。ならば一種のテスターとして今後も監視下に置いて利用するのは有りだろうと人工知能(バイオコンピュータ)は導き出した。

 英雄と魔星の思考は交わっているようで、その実は交わらず平行線である。ツムギ・ムラサメという一星辰奏者の処遇を取っても、結論が同じでも過程が大きく違うのがその証左だ。

 

 互いに認め合い波長は合う。けれど同時に認めがたく、それ故にいずれ打倒しなければならない存在──まさしく宿敵と呼ぶに相応しい関係性こそ、ヴァルゼライドとカグツチであり。いつかヴァルゼライドが語った『いずれ雌雄を決すべき相手』に他ならないのだ。

 

「実戦稼働のデータは多く取れたが、死想恋歌(エウリュディケ)は未だ目覚めずか」

「ああ、特に変化はない。錬金術師(アルケミスト)からも特に報告は上がっていない」

「そうか……色即絶空(ストレイド)露蜂房(ハイブ)はどうなった?」

「どちらも問題なく起動しているさ。ああ、色即絶空(ストレイド)の制作者の件は知っているか?」

「無論だ。奴には俺との模擬戦闘を交わすことと、ムラサメ中尉への対価を用意することで手切れ金とした。履行され次第市井に下るのを許可する予定だ」

 

 彼らだけにしか分からぬ会話が続々と紡がれていく。しかしどれも予定調和の域を出ていないのか、特に驚く内容もなく淡々と進められていた。

 

錬金術師(アルケミスト)以降の魔星は至って問題なく動作している……となればやはり、理論の不備より月天女(アルテミス)自体の問題と考えるのが妥当か」

「だろうな。いっそのこと、新たな素体を探すのも視野に入れるべきだ。そのために今後は戦線を拡大していくのだろう?」

「あくまでも最終手段だ。俺たちの身勝手で犠牲にした少女に報いるためにも、駄目だからと簡単に見切りを付けることなど許されない」

「分かっているとも、それがおまえの難儀なところであり、美点でもあるのだから」

 

 だから己は、おまえこそ協力者に相応しいと決めたのだから。

 言外にそう示しながら、満足気にカグツチは笑みを浮かべた。先の大虐殺で魅せた勇姿といい、英雄然とした態度を崩すことなく貫くことといい、やはりヴァルゼライド以外に己の代行は務まらない。

 

「ああ、楽しみだな……おまえとの『聖戦』が待ち遠しいと感じてしまう。己にそのような感情は無かったはずだろうに、壊れてしまったのかな?」

「所詮は旧日本の置き土産、壊れているというなら千年前からとっくに壊れているのがおまえだろう。だが案ずるな、既に壊れているからと手を抜く真似は一切しない。"勝つ"のは、俺だ」

「ふっ、いいや、"勝つ"のは己さ──」

 

 深き鋼の底で強大な星々は胎動する。

 アスクレピオスの大虐殺を終えた今、彼らが回す運命の歯車はさらに一つギアを上げて進むのだ。




ヴァルゼライド閣下のヒロイン、カグツチ(迫真)
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