愛と呪いは紙一重   作:ランハナカマキリ

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子安つばめは呪術を学ぶ/虎杖悠仁は席を譲る

 

『今日、家来ない?』

 

それは思春期の少年少女達にとって、何か特別な雰囲気を強調するセリフの1つ。付き合ったばかりの彼氏彼女が相手の家でモジモジするのは、どんな恋愛漫画でも定番である。

 

 

「・・・え、今なんて?」

 

「明日、俺の家に来てくださいって言いました。」

 

 

 

(ひぃぇえぇぇえぇぇ!!?)

 

 

 

▲△▲△▲△▲△

 

『いや、やめて!!』

 

暗い部屋の中、足音を立てずに近寄る女の霊が、少女にじわりじわりと近寄って行く。そして、女の霊は裂けた口をニンマリとさせながら少女に襲いかかった。

 

にぃぃ!

 

『いやぁぁぁぁ!!!!』

 

 

 

 

 

 

「ひぃっ!!?ビリビリビリ!!!痛つつつ!?」

 

「あー惜しかったですね。でも映画後半の最初の方まで行けたのは良いと思いますよ。」

 

スクリーンの少女と同じタイミングで悲鳴を上げたつばめは、握っていたぶさかわいいナマズの人形から出た電流で痺れていた。彼女が何をしているかというと、話は朝に戻る・・・

 

 

 

朝10時

 

今日は土曜日なので学校はない。子安つばめは黎人に指定された公園に向かっていた。

 

『明日俺の自宅で呪術の訓練しますので、この公園で待っていてください。迎えにいくんで。』

 

 

頭の中で黎人の言葉を反芻するつばめ、何度も考えるうちに彼女の脳はある可能性に辿り着いた。

 

(これってまさか、お家デート!!?)

 

そう、子安つばめは同級生にも後輩にもかなりモテる。だが当の本人は恋愛面に関しては全くの初心者であった!最近同級生から聞いた恋愛系統の話に、『最近のカップルってお家デートも主流らしいよ!』と出ていたことがさらにその可能性の信憑性を増長した!!

 

(落ち着いて私、これはあくまで呪術の訓練よ。ただ黎人君と公園で待ち合わせして、そして彼の家にお邪魔するだけ・・・・・)

 

 

 

 

 

「ねぇ、あの人イケメンじゃない?」

 

「外国人かな・・・」

 

「ねぇ声かけてみない?」

 

 

 

「・・・ん?んんん?」

 

ヒソヒソ声で喋る女性達の視線の先を見る。

 

「・・・あ、先輩。」

 

「んんんんん!!?」

 

そこには黎人の姿があった。いや、声をかけられるまで気づけなかった。何故なら今の彼は顔に包帯を巻いていなかった。普段の学校生活でいつも巻いているから、外したら彼だと気づけない。普段眼鏡かサングラスをかけている人がそれらを外したら誰なのか分からなくなる、『メガネギャップ現象』(五条悟命名)というものである!!

 

そして、何より驚いたのは彼の素顔。キリッとした鋭い目に、目の周りを縁取る白いまつ毛。そして、まるで宝石のように青白く光り輝く瞳が、周りの注目を浴びていた。

 

 

つばめは数秒、その芸術品のような黎人の左目に硬直した。

 

「・・・・・。」

 

「先輩?どうしました?」

 

グィ。

 

(えっ、ちょっと待って距離感おかしいよ!!?近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い!!!?)

 

少し動くだけでキッスをしてしまいそうなくらい、黎人の顔が接近してきた。整った顔とその美しい眼、そして色気を帯びた優しい声によるトリプルパンチでつばめは耳の先端まで赤く染まった。

 

「・・・あ、すみません。自分よく言われるんですよ距離感がおかしいって。」

 

「え!あ、うん、大丈夫、大丈夫だから。」

 

(ひぇぇぇ!!危うくキッスされちゃうかと思っちゃった・・・)

 

 

 

 

 

数分後、黎人はバイクにつばめを乗せて家に向かった。

 

彼が今住んでいるのはとある街中の一軒家。普段は高専内にある寮で生活しているのだがわざわざ高専から通うのは正直言って時間の無駄。なので近場の一軒家を買ったのだ。特級術師の給料様様である。

 

 

自宅に着いて、家の中に入って来ていた上着をハンガーにかける。つばめは何か落ち着かないように周りをキョロキョロと見ていた。黎人は地下室への扉を開けながら着いてくるよう促す。

 

「こっちです。」

 

「え、あ、うん!!」

 

地下室はシアタールームだった。小さな映画館ほどのサイズだが、音響設備は大型映画館と同じだ。

 

「南雲玲奈クラスの呪霊は、呪術規定では『特級過呪怨霊』に分類されるんです。呪術には四から一、そしてさらにその上の特級という階級に分類される。彼女を祓える可能性があるのは、俺を含めた日本にたった4人しかいない特級術師だけでしょうね。」

 

「え、たった4人?」

 

「まぁ、呪いが見える人自体少ないですからね。それでも、正直しんどいと思いますよ?だからそれよりももっと楽な"解呪"を目標にします。」

 

「かいじゅ。」

 

「そ、何千何万もの呪力の結び目を解いていく。それが出来るのは呪われている貴女だけ。」

 

「なので、まずは呪力のコントロールから始めましょう。」

 

「呪力・・・確か負の感情でできるエネルギーだったよね。」

 

「exactly、呪術師っていうのは感情の火種から生まれる呪力を捻出する訓練から始まるんです。訓練方法は様々ですが、つばめ先輩にはかなりしんどいのをやって貰います。」

 

「し、しんどい?」

 

「コレです。」

 

そう言って黎人が取り出したのは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コイツと一緒に映画鑑賞です。」

 

様々な映画のBlu-rayとナマズの人形だった。

 

「映画・・・鑑賞?」

 

 

 

 

「映画を観ながら一定の呪力を流すんです。どんなビビった時でも胸糞悪い時でもね。ちなみに呪力がブレるとコイツが放電します。」

 

「え?この人形ちゃんが?」

 

「呪術高専の学長お手製の呪骸、『デンチくん』です。」

 

「じゅがい、でんちくん。うん、分かったやってみる!!」

 

「じゃあどれから観ます?ハリウッドの名作シリーズから日本のクソッタレ失敗漫画実写化映画B級サメ映画に地雷のフランス映画。色々です。」

 

「うーん、じゃあ実写映画から見よっかな!!」

 

「それならこれがいいと思います、製作費に10億かけたのにストーリーもゴミクズで俳優の演技もクソでオワコンになったんですよ。」

 

「うわー結構悪口言うね。」

 

 

▲△▲△▲△▲△

 

 

番外編、『虎杖悠仁は席を譲る』

 

これは黎人がまだ生徒会のメンバー達と関わりを持つ前の話。虎杖悠仁は『TEITO CINEMA』と書かれた映画館に来ていた。

 

「よし、着いた着いた!!えーと、上映までまだ時間あるしポップコーンとコーラでも買うか。あ、新しい映画のポスター置いてんじゃん!」

 

何故彼がここにいるかと言うと・・・

 

『あ、悠ちゃん!このチケットあげる〜金ちゃんがいっぱい貰ってね、だからお裾分けしようかなーって!後それからこの映画、男女2人で観に行くとその2人は結ばれるってジンクスがあるんだってー面白くない!?じゃねー。』

 

と、呪術高専4年『星綺羅羅』から貰った招待券を手に彼は映画を、1人で観に来ていたのだ。実は何人か誘ったのだが・・・

 

伏黒恵の場合

 

『悪い、俺その日任務あるから無理だ。』

 

釘崎野薔薇の場合

 

『噂とかジンクスと知らないけど、お前みたいなゴリラと恋愛映画見に行くなんて死んでもごめんだわ。京都のゴリラでも誘えば?』

 

吉野順平の場合

 

『あ、その映画なら僕昨日観たよ。面白かったな〜。』

 

 

というわけで1人で来たのだ。3年の先輩達は任務で不在、教師である五条悟は倫理的にアウトである。

 

 

 

 

映画開始前の、予告編が流れ始めた頃。四宮かぐやと白銀御行の顔はどんよりとしていた。理由は簡単、座席の場所がズレたのだ。白銀が座ったのは『G-12』彼は四宮にわかるように色々とヒントを出したのだが彼女が座ったのは『H-13』国民的マスコットであるペンタンと、化学物質であるペンタンを間違えたのだ。(ちなみにペンタンとは炭素数5個のアルカンの総称である。)

 

「四宮・・・ポップコーン食べるか?」

 

「あっはい。ありがとうございます。」

 

(・・・どうしてこうなったんだろう。)

 

まるで葬式のような顔の四宮の前、白銀の隣にある人物が座った。

 

「あ、隣失礼します。」

 

「えっ、あ、どうぞ。」

 

ピンク色の髪の根明そうな少年が、ポップコーンとコーラと数枚の映画のポスターを載せたトレーを持って現れた。そして白銀の隣、元々四宮が座るつもりだった場所に座った。

 

「・・・会長、ポップコーンありがとうございます。」

 

「だ、大丈夫だ四宮。別に、問題ない。」

 

 

 

「えーこの映画、ヒロイン変わるんだ。まぁ監督と色々あったらしいからな〜。」

 

と、呟きながらポップコーンを食べる少年。そんな彼をかぐやは怨みがましい視線で見つめていた。

 

(・・・この平民め。本当だったら、私がそこに座るはずだったのよ?あぁ、その席に座るためにこの私がどれだけ思考を巡らせ努力したと思っているのかしら。たった1人でこの映画を観に来たくせに、何て図々しーーっ)

 

「なぁ、あんたら。ひょっとして2人で観に来たのか?」

 

((ギクッ!!))

 

「いや、まぁな。それにしても、よく気付いたな、君。」

 

「いや他人だったら席挟んでポップコーン渡したりしないだろ・・・あ、ひょっとして席間違えたのか?あんたら。」

 

「うっ、それはーー「じゃあ俺、席変わるわ。えっと、四宮さんだったっけ。こっち座っていいよ。俺そっち座るから。」

 

 

((えええええーーー!!!?))

 

幸運の女神は2人に微笑んだ、この少年の姿をした恋のキューピットを通じて。

 

「い、良いのか?見ず知らずの相手のためにわざわざ・・・」

 

「いや良いって、せっかく恋愛映画を2人で観に来たのに離れ離れで見るなんて嫌だろ?」

 

「・・・ありがとう。それじゃあ、四宮。こっちに来るか?」

 

「は、はい。」

 

(ごめんなさい、私は心の中で貴方のことを蔑んだいたというのに、見ず知らずの相手に席を譲ってくれる優しさを向けてくれるなんて・・・)

 

 

この日かぐやは産まれて初めて、見返りを求めない優しさ(・・・・・・・・・・・)というものを知った。

 


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