豊穣の王と黒き夜 ~あるいはヨと巫女のジムチャレンジ挑戦記~   作:野傘

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※メイン小説に詰まった結果現実逃避で衝動的に書いた。
※設定フワフワで書いているのでガバ多数。ツッコミ所はスルーオナシャス!
※DLC要素多め、独自要素マシマシ。
※ガラル神話に対しての捏造設定有り。
※王を讃えよ(バドレックス様かわいいよバドレックス様)。


『フリーズ村の少女』だヨ

 ガラル地方の最辺境カンムリ雪原。数多くの自然と伝説が息づく寒々しくも美しい大地。そんなこの地に唯一存在する有人村、それがフリーズ村である。

 フリーズ村の産業は主に農業と、時折やって来るもの好きな観光客相手の民宿業であり――それ以外の産業など無いに等しい。村役場の観光課も新しい観光の目玉を作ろうと頑張っているが、大した成果もなく。そのため若者たちのほとんどは職を求めてガラル本土に出ていってしまい、結果フリーズ村は住み慣れた土地を離れるのを嫌がった老人ばかりが残る典型的な過疎の村となっていた。

 そんな過疎の村の中で、"彼女"は数少ない()()の一人であった。

 

「花を まあるく くぐらせて~♪」

 

 フリーズ村の村長宅に可愛らしい歌声が響く。そこに居たのは針仕事をする一人の少女。少女は年の頃なら十二であろうか、同年代と比較して小柄な体躯に幼げながらも美しい顔立ち、背中の半ばまで伸ばされた髪は雪原に降る雪のような白銀で、手元を見つめる瞳は澄んだ湖面のような鮮やかな青、頭頂部から特徴的な一本のアホ毛が伸びており彼女の歌に合わせてピコピコと動いている。

 

 少女の名は"フィオ"。フリーズ村村長の孫娘である。

 

「たてがみ はさめば 王のため~♪」

 

 フィオが口ずさんでいるのはフリーズ村に古くから伝わる民謡の一つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()の歌だ。

 既に捧げものが作られなくなって久しいが、彼女は針仕事をするとき必ずこの歌を歌うことにしていた。この歌を歌いながら作ると、不思議と刺繍の出来がよくなる気がするからだ。

 

「~♪ 出来ました、っと」

 

 丁度、一節歌いきったところで手掛けていた刺繍が完成した。縫い上げられたのは青く輝く美しい花の刺繍。これもまた豊穣の王に縁あるものだった。

 フリーズ村の伝統的な紋様が縫われた刺繍はこの村の特産品の一つだ。特に彼女の作ったものは評判が良く、時折来る観光客にも人気の品であった。

 

「よし。これだけあれば大丈夫ですね」

 

 出来上がった刺繍を机に置き、そう独り言ちるフィオ。机上には彼女が作った刺繍がこんもり積み上がっていた。

 

「(しばらく家を空けることになりますから、今のうちに縫い貯めておきませんと。……いえ、まあ来てくださる観光客の方の数を考えると、これだけあれば大丈夫だと思いますが)……はあ」

 

 昨年フリーズ村に数えるほどしか観光客が訪れなかったことを思い出し、フィオは思わず溜息を吐く。

 元々少なかった観光客の数はここ最近の寒冷化でますます減っており、民宿業を続けていくのもどんどん厳しくなっている。

 追い討ちをかけるように、寒冷化は主産業である農業にも打撃を与えた。作物の収穫量が年々減っているのだ。祖父が、"土がどんどん痩せ細っている、雪原の土地そのものがもうダメになっているのかもしれない"、と嘆いていたのを聞いた。

 愛すべき故郷の未来に暗澹たる思いを抱いたフィオだったが、すぐに頭を振って気持ちを切り替える。

 

(いけないいけない、そんな気持ちになってしまってはダメです。フリーズ村には美味しい野菜とカンムリ雪原の綺麗な景色があります。フリーズ村の魅力が広まればガラル本土の方々ももっと観光に来てくれる筈です)

 

 だからこそ、

 

(今回のジムチャレンジ。頑張って活躍して、ガラルの皆様にフリーズ村をアピールするのです!)

 

 拳を握りそう決意するフィオ。

 そう、彼女が長期間家を空ける理由、それはジムチャレンジに挑戦するためであった。

 ガラル中の注目が集まる一大興業であるジムチャレンジ。そこで活躍できれば故郷であるフリーズ村の宣伝になるのではと、彼女は今年のジムチャレンジに挑戦することを決意したのだ。

 祖父の伝手を使ってどうにか推薦状を書いてもらい、長期間家を空けるための準備を進めること数ヶ月。とうとう出発まであと数日というところとなっていた。

 

「ただいま帰りましたぞ〜」

 

 ジムチャレンジに意欲を燃やすフィオの耳に、聴き慣れた男性の声が聞こえてきた。

 出かけていた祖父が帰ってきたようだ。彼女は手にした裁縫道具を置き、祖父を出迎えに玄関へ向かう。

 

「おじいさま、お帰りなさい。ご用事は無事済ませられましたか?」

「おや、フィオ。お出迎えご苦労様です。ええ、用事は無事済ましてきましたぞ」

「それなら良かったです。お外は寒かったでしょう。今、お茶を入れますね」

 

 そう言うとフィオはパタパタと台所へ駆けて行った。

 

 

「おお、こんなに沢山縫い上げたのですか。フィオは凄いですねえ」

「えへへへ。いつお客様がいらしても大丈夫なように頑張っちゃいました」

「ああ、そうでしたか。そう言えばフィオが出発するまで後少しでしたねえ……」

 

 食卓でお茶を啜りながら和やかに談笑する祖父と孫。フィオは祖父とこうして他愛のない話をするのが好きだった。祖父は聞き上手で幼い頃からフィオの取り留めのない話をいつもニコニコと聞いてくれたものだ。ジムチャレンジに行ってしまえばこんな時間もしばらくは無いのかと思うと、フィオは少しだけ寂しい気持ちになった。

 いけないいけない、と心に湧き上がった寂しさを打ち消し、誤魔化すように祖父に質問する。

 

「そういえばおじいさま、ご用事というのは一体何だったのです? 朝お出かけになられる時にお聞きしましたら、『帰ってからのお楽しみです』と仰っておられましたが……?」

「おお、そうでしたそうでした。ええ、ええ。実は用事というのは()()を受け取りに行ってきたのです」

 

 そう言って祖父が取り出したのは手のひらより少し大きいサイズの箱。

 

「これは、箱……ですか?」

「はい、そうです。フィオ、こちら開けて貰ってよろしいですかな」

「わたしが……? ……かしこまりました」

 

 祖父から箱を開けるよう促されたフィオは、不思議に思いつつも箱を開けようとして――

 

――ケテー!

 

 独りでに箱が開き、中から何かが飛び出してきた。

 

「わ!」

「ホッホッホッ。中々に元気がよろしいようで」

 

 飛び出した何かはそのまま浮遊し、クルクルとフィオの周囲を飛び回る。フィオはその何かに見覚えがあった。確かこれは以前テレビでみた――。

 

「スマホロトム……?」

 

――ケケ♪

 

 フィオが呟いた言葉へ、スマホロトムは正解と言わんばかりに回転してみせた。

 

「おじいさま、これって……」

「ホッホッホッ、驚きましたかな。ジムチャレンジに挑む孫へ、ジジイからの細やかなプレゼントですぞ」

「プレゼントって、そんな! こんなに高価なもの……」

「何の何の。フィオは普段からワガママ一つ言わず、村のためによく働いてくれておりますからな。偶には祖父に"孫を甘やかす"という祖父らしいことをさせてくだされ」

「おじいさま……」

「それに旅となれば危険な目に遭うこともあるでしょう。そんな時にスマホロトムがあれば、それを使って助けを呼ぶことも出来ましょう。なのでフィオ自身の安全のためにもこれを受け取って欲しいのです。――勿論、旅先で寂しくなった時はいつでも電話を掛けて貰って結構ですぞ」

 

 そう言って、ホッホッホと笑う祖父。冗談めかしているが、フィオには祖父の自身を心配する気持ちが痛い程分かった。何せスマホロトムというのは一般の家庭でも少し躊躇するくらいには高価だ。無論、あまり裕福とは言えないフィオの家では何をか言わんや。祖父にとっては相当な負担だっただろうに。

 

「……分かりました。プレゼント、ありがたく受け取ります。――そして見ていてくださいおじいさま! フィオは必ずやジムチャレンジを勝ち抜き、フリーズ村の名をガラル中に宣伝いたします!」

 

 祖父に心配を掛けぬため、そして寂れゆく村を救うため、決意を新たにフィオは宣言する。ジムチャレンジにて必ずやフリーズ村の名をガラル中に知らしめて見せる、と。

 

「――ええ、ええ。フィオ。あなたは本当に、私には勿体ないくらいによく出来た孫ですよ」

 

 むん、と可愛らしく拳を握る孫に祖父は目を細めながらそう返したのだった。

 

 

 明くる日。東の空から朝日が顔を出す頃にフィオは起き出した。

 手早く身支度を整え外に出る。頬を撫でる早朝の冷たい空気が、彼女にほんの少し残っていた眠気を吹き飛ばしてくれた。

 

 夜明けの陽射しを浴びながらうーんと伸びをするフィオ。

 

(今日は良い天気になりそうです。絶好の畑仕事日和ですね)

 

 たっぷり陽射しを堪能して目を覚ましたフィオは次に朝の日課に移る。

 納屋から掃除用具を取り出し、彼女が向かったのは村の中心、畑を見守るように安置された『豊穣の王』の像の元。

 朝日を浴びる像には昨日降った雪が薄らと積もっており、何処となく燻んだ雰囲気を醸し出していた。

 

(おはようございます。"王さま")

 

 像の元に辿り着いたフィオは積もった雪を手にしたはたきでパタパタと払っていく。ある程度雪を払い終えたら、今度は綺麗な布で像を磨く。傷つかないよう丁寧に、真心を込めて。

 時間をかけてしっかりと磨いた後、フィオは満足気な表情で像を見る。彼女の掃除のお蔭で積もっていた雪はすっかり落とされ、像には僅かな汚れもなくなっている。先程まで纏っていた燻んだ雰囲気も消え、像に刻まれた表情も心なしか凛々しく見えた。

 掃除が終わったら次は祈りの時間だ。フィオは像の前で両手を握り、目を閉じて頭を垂れる。

 

(どうか今年もわたしたちに良き実りをもたらしてくださいますよう)

 

 毎日『豊穣の王』の像を掃除し、御前にて祈りを捧げる。それが幼いころからのフィオの日課だった。

 

 フリーズ村村長の孫娘として生まれた彼女は、物心着く前からこの村に伝わる『豊穣の王』の伝説を聞かされて育った。娯楽の少ないこの村において、『豊穣の王』の伝説は酷く魅力的で、フィオは祖父へ寝物語によく"王さま"の話を聞かせてとせがんだのを覚えている。

 孫娘が興味を持ったことがよほど嬉しかったのか、祖父は家にあった古い神話の本まで引っ張りだし、フィオが満足するまで読み聞かせてくれたものだった。

 そのことが切っ掛けとなって村の『豊穣の王』の像が修復されることに繋がったのだが、これはまた別の話。兎も角、幼い頃から『豊穣の王』の伝説に慣れ親しんだ結果、彼女は自然と"王さま"に対して崇敬の念を抱くようになり、今ではすっかり熱心な『豊穣の王』の信仰者となっていた。

 

 ジムチャレンジでしばらく帰ってこないということもあり、いつも以上に時間をかけて祈りを捧げたフィオ。祈りを終えた彼女は立ち上がり、一礼して像に背を向ける。帰ったら朝食を作り、食べ終わったら畑仕事、と脳内で今日の予定を確認しつつ彼女は家に戻ろうとして――

 

『―――』

「…………え?」

 

 突然、何者かに呼び止められたように感じて背後を振り返る。しかしそこにあるのは物言わぬ像だけ、声を発する者など誰もいなかった。

 

(……気のせいでしたか)

 

 大方、ジムチャレンジで浮ついた精神による幻聴だろうと結論付け、それ以上気にすることなく彼女はその場を後にする。――故に彼女は気が付かなかった。背後にて一瞬、『豊穣の王』の像が()()()()を放っていたことに。

 

 

「――ふう、よし! これだけやれば後はお祖父さまだけでも大丈夫な筈です」

 

 時刻は過ぎてその日の夕方。フィオは自ら耕した畑を見ながらそう呟いた。彼女はジムチャレンジでしばらく家を空けるため、その間の畑の世話は祖父一人で行うことになる。祖父はまだまだ元気だが、それでも結構な歳だ。力仕事はキツイだろう。彼女はそんな祖父の負担を少しでも減らすため、出来る限り畑仕事を進めてきたのだ。その甲斐あってか彼女の目の前に広がる畑はすっかり整えられており、祖父一人であっても無理なく世話が出来るであろう状態となっていた。

 

 これで心置きなくジムチャレンジに出立できる。フィオはそう思った。

 

 ――バ〜ン!

 

 そんな彼女の横で鳴き声を上げるポケモンが一匹。畑仕事を手伝ってくれた彼女の手持ち、『うさぎうまポケモン』ドロバンコであった。ドロバンコは何か訴えるかのように再度「バ~ン」と声を上げる。

 

「おっとっと、忘れてました。ドロバンコさんもお疲れ様です。今、外しますね」

 

 相棒からの訴えに気が付いたフィオ。彼女に着けていた耕具を外し、労うようにポンポンと首元を撫でてやる。ドロバンコは心地ち良さそうに目を細めていたが、しばらくすると今度は何かを催促するように鳴き、フィオの服の裾を噛んでクイクイと引っ張る。

 

「ふふふ。はいはい、こっちは忘れてませんってば」

 

 そう言うとフィオは懐からフリーズ村特産の人参を取り出し、ドロバンコに与えてやる。ドロバンコはあっという間に食べ終わると、もう無いのかと言わんばかりに再び服の裾を引っ張る。フィオがさらにもう二、三本人参を与えると、ドロバンコは嬉しそうに人参を頬張った。が、食べ終わった途端、もっと、もっとと言わんばかりに鳴き声を上げる。

 

「ダメです。今日の分はもうお仕舞い。これ以上は食べたらお夕飯が食べられなくなっちゃいますよ」

 

 両腕でダメ、と×印を作り、ドロバンコのおねだりを拒否するフィオ。ドロバンコは不満げな声を上げるが、フィオは断固とした態度で彼女の要求を突っぱねる。

 

「そんな不満そうな声を出してもダメなものはダメです。――その代わり、今日はお夕飯の後でリンゴをあげますから」

 

 「リンゴ」という言葉を聞いた途端に目を輝かせるドロバンコ。先ほどまでの不満げな態度はどこへやら、すっかり上機嫌な様子であった。フィオはそんなドロバンコの分かり易い態度にクスクス笑いつつ、彼女に家に戻るよう指示を与える。

 

「はい。それではドロバンコさんは先に家に戻って、お祖父さまからお夕飯を貰ってください。わたしはこちら(耕具)を片付けて帰りますので」

 

 ドロバンコはフィオの指示に了承するよう一声鳴くと、そのまま家に向かってトコトコと駆けだす。そんな彼女の後姿を見送りながら、フィオも道具を片付けに納屋へと向かうのだった。

 

 納屋に耕具を片付けしっかり鍵を閉めたフィオ。早く帰って夕飯を作らなくては、と急ぎ家路に就こうとした、その刹那。

 

『―――』

(…………声?)

 

 不思議な声が聞こえてきた。

 それは今朝、『豊穣の王』の像の前で呼び止められたものと同じ、耳ではなく頭の中に直接響くような――そんな不思議な声だ。

 

(……わたしを、呼んでいる……?)

 

 声は酷く微かでその意味を聞き取ることは出来なかったが、フィオにはどうしてかその声が自分を呼んでいるように感じた。

 

(――行かなきゃ)

 

 『参れ、参れ』と呼びかける声を聞く内、フィオの中に何故かその声の元へ赴かなくてはという気持ちが湧き上がる。フワフワと、夢現の心地のままフィオは歩み出した。

 フリーズ村の柵の外、カンムリ雪原へと。

 




フィオ
 カンムリ雪原フリーズ村に住む少女、同村の村長の孫娘。年齢は12歳ほど。体型は小柄で、背中の半ばまで伸ばされた雪のような白銀の髪と湖のような青い瞳を持つ――つまりは銀髪ロリである。銀髪ロリである(重要)。チャームポイントは頭頂から伸びたアホ毛。
 その性格は素朴で素直。滅多に怒ることのない心優しい少女であるが、時として誰が何と言おうとも自らの意思を貫き通す頑な一面を見せることも。
 フリーズ村で唯一といってもよい『豊穣の王』の厚い信仰者。村長の孫娘として物心つく前からカンムリ雪原に伝わる『豊穣の王』の神話と触れてきたためか王を深く崇敬しており、その神話のほとんどを諳んじることが出来る程。
 普段は家業の農業と民宿を手伝っている他、村おこしのために役場と協力して色々と活動を行っている(最近ではお土産として『豊穣の王』(の木像)がプリントされたTシャツを作ったり)。ジムチャレンジに挑戦することを決意したのもその一環。ただしトレーナー免許をとったのは最近(通信教育)のためバトルの腕は未知数である。
 相棒ポケモンはドロバンコ(♀)。元々は農業の手伝いのため祖父が貰って来たポケモンで、トレーナー免許取得に際して彼女に譲られた。

※主人公(イメージ)
【挿絵表示】
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