豊穣の王と黒き夜 ~あるいはヨと巫女のジムチャレンジ挑戦記~   作:野傘

11 / 19
お待たせ、メイン小説を書いてたら遅くなっちゃった。
今回はホテルイベント+開幕式。ガラル神話に対して捏造設定があるのでご注意を。


『開幕!ジムチャレンジ!』だヨ

 ホテルスボミー・インはエンジンスタジアムに隣接する高級ホテルである。スタジアムに隣接する、というその立地から高い宿泊費にも関わらず宿泊客の絶えないガラル屈指の有名ホテルだが、現在は運営会社であるマクロコスモスによりジムチャレンジ挑戦者たちの宿泊施設として貸切り状態となっていた。

 

「わあ……」

 

 そんなスボミーインに一歩足を踏み入れ、フィオは目の前の広々としたロビーに思わず感嘆の声を上げる。

 

「これが……、都会の一流ホテル……!」

『ほほう、ヨの神殿とは比べるべくもないが、中々に広々としているであるな』

 

 豪華さ、清潔さ、上品さ――そのどれを取っても一流のスボミーインは、同じ宿泊施設ではあれど単なる民宿に過ぎないフィオの実家とまさしく"月とカムカメ(スッポン)"。次元の違う施設レベルにフィオは思わず圧倒される。

 

「んじゃ、アタシはちょっくら手洗ってくるから、フィオはロビーで待ってて」

「あ、はい。かしこまりました」

 

 と、そんなフィオにシャクヤが声を掛ける。手を洗ってくるのでその間ロビーで待っていてくれという彼女の言葉にフィオは了承の意を返し、小走りで去る彼女を見送った。

 

(さて)

 

 シャクヤが手洗いを済ませている間、フィオはロビー歩き回り、絢爛豪華なその佇まいをじっくりと観察する。

 

(都会のこんな高級ホテルに宿泊できる機会なんて滅多にありません! 民宿業で活かせるものはないかしっかり見ておかなければ!)

 

 都会の高級ホテルとド田舎の民宿。正直比べるべくもないが、同じ宿泊業であることには変わりない。フィオは民宿業で活かせるものは無いかと熱心にロビーを見回した。

 

(――あれ? 王さま?)

 

 そして気が付く。自身の傍にいた筈のバドレックスが、いつの間にかロビー中央に飾られた像の元へと移動していたことに。

 

(一体、どうされたのでしょう?)

 

 バドレックスは飾られた像――剣と盾を持つ英雄像を見上げ、何やら頭を捻っている様子。そんな王の様子が気になったフィオはその元へと歩み寄り、不思議そうな表情で像を見つめる王に一体どうしたのかと尋ねる。

 

「王さま。何やらご熱心にこちらの像を見つめておられるようですが、どうされましたか?」

『おお、巫女(プリエステス)。いや、何故だかこの像に妙な既視感を感じてしまってな。はて、どこかで見たことでもあったかと頭を捻っていたのである』

「まあ! そうなのですか」

『ウム。――そうだ、巫女(プリエステス)よ。オヌシはこの像が何の像なのか知っておるか? 像の由来が分かればこの既視感の理由も分かるやもしれぬ』

「むむむ……。残念ながらフィオはこの像について存じ上げませんが、しかしこのホテルの従業員の方なら何かご存知かもしれません。わたし、聞いて参ります!」

 

 バドレックス曰く、この剣と盾を携えた像に妙な既視感を覚え、どこかで見たのか頭を捻っていたのだという。そして像の正体が分かればこの既視感の理由も分かるかもしれない、と。

 残念ながらフィオはこの像が一体何の像なのか分からなかったが、しかしホテルの従業員ならば知っているかもしれないとフロントへ聞き込みに行く。

 

 数分後。聞き込みを終えて戻って来たフィオにバドレックスはどうだったかと問いかける。

 

『して、巫女(プリエステス)よ。どうであったか?』

「はい! 従業員の方にお聞きしましたところによれば、こちらの像は三千前に「黒き夜(ブラックナイト)」を鎮めたとされる、剣と盾の勇者を象ったものとのことです」

『――なんと!』

 

 従業員から聞き出した像の正体。それは三千年前、「黒き夜(ブラックナイト)」を鎮めガラル地方を救ったという伝説の英雄を象ったものだという。フィオから像の由来を聞かされたバドレックスは目を見開き、次いでどこか納得したかのように深く頷いた。

 

『カムゥ……そうであったか……。ならばヨのこの既視感も頷けるというもの。――しかし、今の世において()()()()()()()()()()として伝えられているのであるな』

 

 目をつむり、うんうんと頷きながらそう呟くバドレックス。フィオはそんな王の言葉を聞き、ふと疑問を抱く。

 

「(()()()……?)王さまは彼の"剣と盾の英雄"をご存知なのですか?」

『ウム! 何を隠そう彼の者らは三千年前、「黒き夜(ブラックナイト)」を鎮めるべくヨと共に旅した仲間。何者よりも強く、そして気高い――ヨの古き友である』

 

 英雄を知っているのか、というフィオからの問いにバドレックスは、彼らは共に旅をした仲であり、自身の古い友なのだと答える。

 

「なんと! 王さまが彼の英雄とご友人!? それに「黒き夜(ブラックナイト)」を共に鎮めたと!? 何という偉業……流石です、王さま!」

『止せ止せ、あまり褒めるでないである。――あの時、ヨが行ったのは手助け程度のこと。「黒き夜(ブラックナイト)」を真に鎮めしは()()()()よ』

 

 バドレックスがかつて英雄と共に「黒き夜(ブラックナイト)」鎮めたと聞き、目を輝かせてその功績を褒めたたえるフィオ。そんなフィオにバドレックスは自身の出来たことなど彼らの手助け程度のこと、「黒き夜(ブラックナイト)」を鎮められたのは彼らのお蔭であると語る。

 と、そこでフィオはバドレックスの言葉に違和感を抱く。

 

「――あの、王さま。申し訳ありません、先ほどからお話を伺っておりますと、まるで剣と盾の英雄が一人ではない、と仰っているかのように聞こえるのですが……」

『ウム、その通り。どうしてだか今の世においては"一人"として伝えられているようであるが、ヨと旅をした()()()()()は二人組であった』

 

 英雄は一人だけではなかったのか、というフィオの問いに、「是」と返すバドレックス。彼曰く、三千年「黒き夜(ブラックナイト)」を鎮めるべく共に旅をした人間は二人組であったという。

 英雄は剣と盾と携えた一人の若者だと思っていたフィオ*1は、何の気なしに語られた歴史の真実に驚愕する。

 

「ええっ!? 剣と盾の英雄は二人組だったのですか!?」

『如何にも。『剣の従士』ソルドリウス、『盾の従士』シルドラッド――いや、シルドミリアであったか。剣と盾を携え、()()()()()()()()()()()()、勇敢なる人の子らであった』

 

 そう、懐かしむように目を細めて言うバドレックス。彼の口から語られたのは、歴史の果てに消えた剣と盾の英雄の素性。聞くものが聞けば興奮のあまり卒倒すらしかねない、英雄たちの歴史的真実を聞かされて、しかしフィオは「ほえー」と驚いた顔をするばかり。無理も無い、彼女は別にガラルの歴史について専門的な知識など持っていない。故に自身の聞かされた情報が、学術的にどれだけの価値を持っているのかなど気付けはしない。これが現在同市に滞在中の某助手ならば気付けたのかもしれないが、残念ながらこの時彼女とフィオは接点などない他人同士。話を聞ける筈もなかった。

 

『――しかし、解せぬ』

 

 と、バドレックスはそこでほんの少し怪訝な表情を浮かべる。

 

『アヤツラの傍らには必ず()()()()が居った筈であるのだが……』

「彼の者ら……? それは一体――」

 

 剣と盾と英雄の像を見上げ、本来共に在る筈の存在がないことを訝しむバドレックス。フィオは彼の口走った「彼の者ら」という言葉が気になり、それが一体何なのか尋ねようとして――しかし出来なかった。

 

「お待たせー。いやー、ゴメンね。結構待たせちゃった!」

「シャクヤさま!」

『おお、戻って来たであるか』

 

 用事を済ませたシャクヤが戻って来たからだ。

 単なる手洗いの割には妙に時間がかかっていたが、それはトイレのついでにチェックインも済ませてきたからだという。

 

「ほい、これ鍵ね」

「ありがとうございます。申し訳ありません、そこまでしていただいてしまって」

「大丈夫、大丈夫。ま、今回はアタシがホストみたいなもんだからね。こんくらいやって当然っしょ」

 

 恐縮するフィオに手をひらひらと振って、気にするなと伝えるシャクヤ。今回のジムチャレンジは本土に慣れた自分がホスト側、ならばこの程度のことはやって当然である、と。

 

「んじゃ、もう部屋に行きますかー。今日はちょっと疲れちゃったし、それに寝坊して明日の開会式に遅れる訳にもいかないからねー」

「うふふ、確かにそうでございますね。――では、王さまも参りましょうか」

『ウム。行くとしよう』

 

 今日はもう休もうというシャクヤの提案に頷くフィオとバドレックス。何せ、明日はジムチャレンジの開会式だ。うっかり夜更かしして寝坊する訳にもいかない。

 部屋へと向かうシャクヤに続いて、フィオたちもまたエレベーターに乗り込む。さきほどまで抱いていた筈の疑問は既に頭にない。

 

 バドレックスが呟いた「彼の者ら」についてフィオが知るのは、もう少し先の話である。

 

 

 明くる日。

 

 ワー! ワー!

 

 エンジンスタジアムに満ちる歓声。それはスタジアム内の数千人もの観客たちから、たった一人の人物に向けて発せられた声援だ。そんな観客たちに手を振りつつ、スタジアム中央のコートへと進み出る一人の男。

 年齢は中年ほどだろうか。褐色の肌に整えた髭、永く伸ばした前髪を撫でつけ右に流すという独特な髪型に小太りの体を上等なスーツで包む、まさしく出来るビジネスマンといった風貌の男。彼は所定の位置まで移動すると、さながら訪れた観客たちに挨拶をするかのように大きく手を拡げる。

 

 ――レディース アンド ジェントルマン!

 

 瞬間、拡声器によって増幅された男の声がスタジアム全域に響き渡る。

 それは待ちに待ったジムチャレンジの始まりを告げる口上。

 

 ――私、リーグ委員長のローズと申します

 

 スタジアムに集った観客たちに、そして映像を通してこの光景を見ているガラル中の人々に向け、口上を述べるこの男の名は――"ローズ"。ガラルリーグを主催するリーグ委員会のトップであり、同時にガラルの産業の大半を支える巨大企業グループ・マクロコスモスの経営者である人物だった。

 

 ――いよいよ! ガラル地方の祭典、ジムチャレンジの始まりです!

 

 堂々たる姿勢で以って、そうジムチャレンジの開幕を宣言するローズ。

 観客たちから発せられる歓声が一際大きくなり、地鳴りのようにスタジアムを震わせた。

 

 そんな開幕式の様子を、選手控室のモニターで眺めながらフィオはこれまで感じたことのない緊張と高揚感に身を震わせていた。

 

(いよいよ、始まってしまいました……)

 

 ジムチャレンジ。年に一度ガラルで開催されるバトルの祭典。ガラル中から集ったトレーナーたちがチャンピオンの座を掛けて競い合う争奪戦。去年まで観戦する側であったそれに、今年は挑戦する側で参加する。それも単なる物見遊山のような参加ではない。

 フリーズ村の名を知らしめるため――そして来たる「黒き夜(ブラックナイト)」に備え、バドレックスの威光をガラル中に轟かせるため、フィオは何としてでもこのジムチャレンジを勝ち抜かねばならないのだ。

 今更ながらのしかかる使命の重さを自覚し、フィオの内心へ果たして自分に出来るのか、と不安が頭を擡げてくる。

 

(――いいえ!)

 

 ぴしゃりと頬と叩き、挫けそうな心を叱咤する。

 何をいまさらなことを考えているのだ。カンムリ神殿で豊穣の王(王さま)巫女(プリエステス)となった時――いや、衰退する故郷を憂い、ジムチャレンジに挑戦することを決めたあの時、決意したではないか。必ずやジムチャレンジを勝ち抜くのだと。ならばこんな所で弱気になってどうするのだ。

 それにジムチャレンジはまだ始まったばかり、試練(ミッション)の1つも挑んでいないではないか。成功できるかどうかなど、せめて試練に挑んでから考えるべきだろう、と。

 

(――その通りであるぞ、巫女(プリエステス)

(王さま……)

 

 そんな自分自身への叱咤を読み取ったのか、ボール内のバドレックスから思念が届く。

 

(やってもいないことを悩んでも仕方あるまい。やれるかどうかなど、やってみるまで分からぬ。まず、やらねば始まらぬのだ。ならばオヌシが行うべきは、ただ()()ことよ)

 

 悩む前にまずはやってみることだ、とフィオを諭すバドレックス。

 "それに"、と彼は付け加えて――

 

(何より、オヌシにはヨが――この『豊穣の王』バドレックスがついているのだ。恐れることなど何もない)

 

 と、激励した。

 

(――はい!)

 

 そうだ。自分には王さまが――偉大なるバドレックスがついている。彼のチカラを、その偉大さを、威光を今の世で最も良く知るのは他ならぬ自分ではないか。ならば何を恐れることがあるというのか。ちっぽけな自分では一人では出来ずとも、偉大なる王とならば成し遂げられるに決まっているだろう。

 

 信奉する(かみ)より直接の激励を賜ったことで、フィオの心は奮い立つ。眼を瞑り、拳を握って力を込める。再び眼を開いた時、その顔にすでに不安の色は無かった。

 

 

 ――それではジムリーダーの皆さん、姿をお見せください!

 

 と、聞こえて来たローズ委員長の言葉に、バッと視線をモニターへと戻すフィオ。

 

(――! 来ました!)

 

 同時に客席からは今までで最高といってもよい大歓声が上がる。

 

 ――ワアアアアアア!

 

 ――パチパチパチパチ!

 

 ――オー! オー! オーオーオーオー!

 

 鳴り響く歓声、拍手、チャント。それらを雨あられと浴びながらコートへ入場してきたのは、各々カラフルなユニフォームを身に纏う7人の男女。威風堂々と入場してきた彼らに移動カメラが張り付き、ローズ委員長の口上に合わせて一人、一人アップで映し出していく。

 

 ――ファイティングファーマー! くさタイプ使いのヤロー!

 

 柔和な顔でにこやかに手を振る大きな帽子を被った男性。ベビーフェイスに似合わないマッスルは日々の農作業の賜物。

 ちなみにライバルは自分自身。

 

 ――レイジングウェイブ! みずポケモンの使い手、ルリナ!

 

 優雅なモデルウォークで歩みを進める褐色肌の女性。端正な顔に微笑みを浮かべ、観客席に投げキッス。

 これで男性たちはイチコロ。

 

 ――いつまでも燃える男! ほのおのベテランファイター、カブ!

 

 東方風の顔立ちの初老の男性。背筋のピンと張ったその姿勢、まさしく異国のサムライのごとく。

 身に着けているタオルはエンジンスタジアム売店にて好評発売中。

 

 ――ガラル空手の申し子! かくとうエキスパート、サイトウ!

 

 キビキビと歩く大柄な少女。隙を見せぬ立ち振る舞いは、年若くとも戦士のソレ。

 なお、趣味はスイーツ巡り。

 

 ――ファンタスティック・シアター! フェアリー使い、ポプラ!

 

 ピンクの衣装に身を包み、ゆっくりゆっくり歩く女性。ジムリーダー70年目の大大ベテラン。年を経てもなお変わらぬ、気品のある佇まい。

 しかし年齢は16歳。それがガラルのマナーです。

 

 ――ハードロック・クラッシャー! いわタイプマスター、マクワ!

 

 スタイリッシュに歩く太ましい体の金髪の男性。輝くグラサンが今日もバッチリ決まってる。

 ファンクラブ会員一号はお母さん。

 

 ――ドラゴンストーム! トップジムリーダー、キバナ!

 

 スラリとした体躯の長身の男性。甘いマスクのイカしたあん畜生。撃ち抜いたハートは数知れず、今日も自撮りで女が墜ちる。

 現在、チャンピオンに十連敗中。

 

 ――一人、きておりませんが……

 

 欠席した1人を含めて、都合8人。ガラル地方が誇るスター。メジャーリーグ・ジムリーダーたち。

 そして彼らはジムチャレンジにおいてチャレンジャーたちを篩にかける試験官でもある。チャンピオンに挑戦するにはまず、彼らを全て打倒せねばならない。

 

(あれが……ジムリーダー)

 

 コート中央に整列するジムリーダーの姿を眺めながら、フィオはゴクリと唾を飲む。

 あれこそがチャレンジャーに立ちはだかる8つの難関。チャンピオンへの道にそそり立つ、高く険しい壁。彼らを超えねばチャンピオンへの挑戦など夢のまた夢。

 

(――でも!)

 

 強敵を目の当たりにして、しかし彼女に恐れはない。決意を胸に必ずや彼らを打倒せんと闘志を燃やす。

 

「フィオ、フィオー? 何か燃えてるとこ悪いけどそろそろアタシらもコート行くよ」

「あ、はい!」

 

 と、そんな彼女にシャクヤから声が掛ける。周りを見れば確かに控室から選手たちが次々と出て行っていた。

 それに気が付いたフィオはあわててシャクヤの後を追いかけるのだった。

 

 

「はあ……! とうとう始まったのですね、ジムチャレンジが……!」

 

 開幕式を終えスタジアムを出たフィオとシャクヤ。開幕式の熱気に充てられたのか、フィオは何やら興奮冷めやらぬ様子である。

 

「アハハ、フィオったらテンションアゲアゲじゃん」

『カラ、カラ、カラ……! ウム、気力充溢、意気軒高。良き顔であるな、巫女(プリエステス)よ』

 

 ふんすふんすと鼻息荒く、拳を握って気合を入れる彼女を微笑ましく見つめるバドレックスとシャクヤ。そこでふと、シャクヤはあることを思い付き――次いでニィと笑みを浮かべた。

 

「――ねえねえ、フィオ」

「はい! 何でしょうか、シャクヤさま!」

「アタシたちってさ~、まだ会ってから1日も経ってないんだよね~」

「――むむ! そういえばそうでございますね」

 

 そう、何のかんの言ってフィオとシャクヤはまだ顔を合わせてから1日も経っていない。互いのパーソナリティのお蔭でかなり打ち解けているものの、実はお互いのことについてあまりよく知らないのが現状なのだ。

 

「アタシたち、これから一緒に旅する仲じゃん? もっとお互いについて知っておいた方がいいと思うんだ~」

『フム、確かに道理であるな』

「なるほど、確かにそうです」

 

 故にシャクヤは言う、自分達はもっとお互いについて分かり合うべきだと。そう言われたフィオとバドレックスは、彼女の言葉に「確かに」と同意する。

 

「でしょでしょ~。だ・か・らぁ――」

 

 ウンウンと頷く一人と一柱の姿を見て、ニヤリと笑うシャクヤ。

 そして彼女は腰元よりモンスターボールを取り出し、フィオたちに向けて言った。

 

「――()ろうよ」

「…………へ?」

 

 ボールを掲げ、突如してそう言い放ったシャクヤにフィオは理解が追い付かず、思わず間抜けな声を上げる。

 

「……あ、あの。シャクヤさま……その、"やる"というのは……もしかして……?」

「そんなの決まってるっしょ? ――ポ・ケ・モ・ン・バ・ト・ル♥」

 

 シャクヤからの突然のお誘いに恐る恐るその内容を尋ねたフィオ。そんな彼女にニッコリと笑ってシャクヤが返したのは無論のこと「ポケモンバトル」であった。

 

「やっぱりさ~、トレーナー同士分かり合うのは~、これが一番の近道みたいな~」

「ええええ!? こ、困ります! わたしはポケモントレーナーじゃ――」

 

 完全無欠のバトルのお誘い。反射的にフィオは断りの言葉を口に出して、そこでハタと気が付いた。

 

(そうです、今のわたしはポケモントレーナーではありませんか)

 

 フリーズ村に暮らしていた時、宿泊客にバトルを申し込まれることもあった。しかしその度にフィオは、自分はポケモントレーナーではないからと、バトルを断り続けてきた。だが、現在の彼女はちゃんと資格を得た正規のトレーナー……しかもジムチャレンジの挑戦者である。ならばこそ、ここで勝負を受けないのはトレーナーとして名折れではないのか。

 

『――ほほう、これは巫女(プリエステス)の実力を見るよい機会であるな』

 

 そこへさらにバドレックスが追い打ちをかける。

 

巫女(プリエステス)よ。オヌシにはヨがついているとはいえ、いざ「黒き夜(ブラックナイト)」に対面したとなれば、何が起こるかは分からん。故に、オヌシ自身もまた災厄に抗うだけの実力を身に着ける必要がある。――よい機会だ。オヌシの今の実力をヨに見せてみるがよい』

 

 「黒き夜(ブラックナイト)」はガラルを滅ぼす大災厄。幾らバドレックスがついているとはいえ、その時何が起こるかは分からない。いざという時のために彼女自身もまた強くなる必要がある。だからこそ、ここで自分に今の実力を見せて欲しいのだ、とバドレックスは言う。

 

「王さま……」

 

 崇拝する王にそう言われてしまっては仕方がない。それにバドレックスが見るというならば、これは即ち天覧試合。豊穣の王に仕える巫女(プリエステス)として、天覧の決闘に背を向けることなど出来る筈が無かった。

 

「――分かりました」

 

 瞑目し、深呼吸を一つ。再び眼を開けば、そこにあるのは純然たる闘志に満ちた視線。

 

「シャクヤさま。その勝負、お受けいたします」

「――そう来なくっちゃ!」

 

 決意の表情で勝負を受けたフィオに、シャクヤは「そうでなくては」とますます笑みを深くして応える。

 

 そうして二人がやって来たのはエンジンシティ内に設けられた簡易のバトルコート。フィオとシャクヤは互いにコートの端に立ち、モンスターボールを手にいまかいまかとその時を待つ。

 視線を交わす両者。浮かべる表情は正反対。一方は笑みを浮かべ、一方はどこまでも真剣。しかし共通するのは――お互い、強烈な闘志を放っているということ。

 

『では――』

 

 審判席に浮遊するバドレックスが高々と手を掲げる。

 両者、各々ボールを持つ手に力を込める。

 

『いざ尋常に――』

 

 これからは始まるのはトレーナー同士、勝敗を賭けた真剣勝負。

 どちらも勝利を譲る気は無く、故にどちらかが敗北するまで終わらない――神聖なる決闘。

 

 そして、バドレックスが掲げた手を振り下ろし――

 

『勝負――開始!』

 

 同時に、二人は開閉スイッチを押し込んだ。

 

「さあ、出番だし! "チゴラス"!」

「お願いします! "ドロバンコ"さん!」

 

  ポケモントレーナーの シャクヤが 勝負を しかけてきた! 

*1
彼女はカンムリ雪原に伝わる神話などについては諳んじる程に詳しいが、ガラル本土の伝説については一般的ガラル人と変わりない程度の知識しかない




次回、初ポケモンバトル。

・フィオ
 バドレックスからガラル神話の真実を聞かされ「ほえ~」顔。
 これから始まるジムチャレンジに不安を抱くが、王さまの激励でそれも解消。
 そして、シャクヤと人生初のポケモンバトル。結果は如何に。

・バドレックス
 実は三千年、英雄たちと共に「黒き夜(ブラックナイト)」を鎮めていた。
 当時すでに愛馬に逃げられていたため、手助け程度にしかならなかったとはいうものの、彼がこの時譲り渡した「巨人殺し」の権能が無ければ「黒き夜(ブラックナイト)」を打倒することは叶わなかったため、実はMVPだったり。
 彼が何の気なしに語る昔話は聞く者が聞けばGRS(ガラル・リアリティ・ショック)を引き起こしかねないガラル的真実である。コワイ!

・シャクヤ
 興奮気味のロリに勝負を吹っ掛けるギャル。
 実は若干バトルジャンキーの気がある。

・ガラルジムリーダーズ
 ガラル地方のジムリーダーたち。正確に言えば今季メジャーリーグの面々。
 拙作では剣版を採用。オニオンくんとメロンさんは今季マイナーです。ただし、別途登場はさせる予定。
 紹介時の文章については適当。あまり深く考えんといてください。

・英雄
 かつて「黒き夜(ブラックナイト)」を鎮めたという伝説の勇者。現代では剣と盾を持った一人の若者として伝わっているが、実は二人組。なお、なぜ一人として伝わったのかというと、近代ごろに英雄伝説をもとにして書かれた「ガラル英雄伝説」という小説が原因。これが有名になり過ぎた結果、一般ガラル人の間で英雄が一人だという認識が広がってしまった。なのでキチンと歴史を学んでいる人の間では、英雄が二人だということは常識だったりする。
 拙作独自設定として、本名はソルドリウスとシルドラッド(シルドミリア)。元々、異国の生まれで「師」と共にガラルへと渡ってきたらしい。なお、シルドラッドとというのは所謂対外的な呼称で、シルドミリアの方が本名。なぜシルドラッドと名乗っていたかと言えば、それは性別の所為でナメられないようにするため。つまりは――男装女子である。

・「彼の者ら」
 英雄の傍らに在ったもの。共に異国より渡り来た彼らの「師」。不撓なる剣の騎士、不屈なる盾の騎士。「黒き夜(ブラックナイト)」を共に鎮めた英雄の片割れであるが、その存在は歴史の彼方に忘れ去られている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。