豊穣の王と黒き夜 ~あるいはヨと巫女のジムチャレンジ挑戦記~ 作:野傘
苔むした石垣と柵、積み上がった牧草ロール、のんびり転がるウールーたち……視界の先に広がるのはガラル地方ではありふれた何の変哲もない牧場の景色。
それはフィオにとっても、故郷のカンムリ雪原でよく見かけた景色だ。ただ唯一異なる点を挙げるとするならば、その景色が青空と太陽の下ではなく、人工照明で照らされた屋内にあることだろう。
そう、フィオが今いる場所はターフスタジアム内に設えられたジムミッション会場。彼女はジムリーダーへの挑戦権を得るため、今まさにミッションに挑まんとしているのであった。
「ターフタウンポケモンジムでのミッションは! 牧場で転がるウールーたちを最終的にあちらの囲いまで導くことです! 道中にはいくつも妨害が仕掛けられておりますが、それをどう攻略するかも試験の一環! どうにか突破してミッションを達成してください!」
「はい!」
ジムミッションの内容を伝えるレフェリーに、フィオは元気よく返事を返す。彼女の返事を受けてレフェリーはコクリと頷くと、続けて彼女に何か質問はないかと問うた。
「あ! それでしたら1つ。ミッションを行うに当たって、手持ちポケモンの力を借りてもよろしいのでしょうか?」
「はい、構いません。ポケモンとの連携能力を図るのもジムミッションの役割の1つ。手持ちポケモンと協力しての攻略はむしろ推奨されています」
「——なるほど! ありがとうございます!」
「はい。それ以外にご質問はありますか? ……ありません、と、かしこまりました。それではチャレンジャー、スタート位置に就いてください!」
と、そこでレフェリーはフィオに、スタート位置へ移動するよう指示を出す。そして彼女が指定の位置に就いたことを確認し、ジムミッションの開始を宣言した。
「それでは……ジムミッション、スタートです!」
ジムミッション開始の合図であるホイッスルの音が会場に響く。それを耳にすると同時に、フィオはスタート位置より一歩踏み出し、すぐさまボールを2つ手に取った。
「お願いします! ドロバンコさん!」
――ばあーん!
掛け声とともに開閉スイッチを押し、中のポケモンを解放する。飛び出て来たのは彼女の頼れる相棒――ドロバンコ。
そしてもう一匹――
「王さま、ご出陣を!」
『とうとうヨの出番であるな!』
神王、出陣。
巨大な蕾冠を揺らしながら、
フィオはバドレックスがボールから飛び出すと同時に恭しく一礼、バドレックスへと臣下の礼をとる。
「では、王さま。ご随意に」
『ウム、任せるである』
『フフフ……
王がその手に携えしもの、その名も"キズナのタヅナ"。人間たちより捧げられた感謝の証、かつて荒ぶる愛馬を御し、共に駆けるために使われた豊穣の王の神具――のレプリカである。
何を隠そうこのタヅナ、神王の華々しき初舞台を飾るべく、フィオがかねてより準備していたものだ。オリジナルの素材がもう手に入らないため、出来上がったのは残念ながら単なる布製だが、しかし作られた製法は紛れもなく当時のソレ。故に材質以外は寸分違わずオリジナルのタヅナそのものの――フィオ渾身の一品である。
久方振りに捧げられた、人間からの感謝の証。捧げられなくなった理由がまさかの材料不足だったという真実に驚愕したりもしたが、それはそれ。信徒から捧げられた供物を受け取ったのならば、その祈りに応えるのが神としての務めだ。
"キズナのタヅナ(レプリカ)"をしっかと握ったバドレックス。彼はフンフンと鼻息荒く待機するドロバンコに近づくと、ヒラリとその背に跨った。そして見事な手さばきで手綱を噛ませ、豊穣の力を流し込みその精神を同調させていく。
――ばーーん?
流れ込む豊穣の力と神王の意思に戸惑うドロバンコであったが、しかしすぐさまその状況に適応、大人しく王の指示を待つ姿勢となる。かつて荒ぶる神であった王馬をも手懐けたバドレックスの手に掛かれば、兎馬一匹を従わせることなどあまりにも容易いことであった。
バドレックスが軽くタヅナ引けば、彼の意思に従ってドロバンコは速足で歩き出す。そのまま具合を確かめるようにフィオの周りを二、三度回った後、バドレックスは満足げな様子でドロバンコを停止させた。
「王さま、お加減はどうでしょう?」
『ウム、悪くない。素材が違う故にかつてのソレと全く同じとはいかんが……使い心地に限っては以前と遜色なしである。良き仕事であるな、
「お褒めいただき恐悦至極。製法を伝え続けた先祖たちも、冥府にてきっと喜んでおりましょう」
『カラ、カラ、カラ……! そう願いたいものであるな。――では、征くとするか!』
――ばーーーん!!
そう言うと手綱を強く引き、ドロバンコへと指示を送るバドレックス。下された指示に従い、ドロバンコは高らかに嘶きを上げて駆けだした。
◆
――グメー
――グメメ~
暢気な鳴き声を上げながら牧場内をのんびりとうろつくウールーたち。各々が好みの場所で寛ぐその様はどこまでも牧歌的だ。
――……メ? ……! メェ~!?
と、そんな牧歌的な牧場内に突如、"ドドド"と大地を震わせる蹄の音が鳴り響く。聞き慣れぬその音に驚いたウールーたちは本能に従い、一目散にその場から逃げ出そうとした。
『聞け! ウールーたちよ!』
だが次の瞬間、威厳に満ちた声が鳴り響いたことで、ビクリとその身を静止させる。
彼らが感じ取ったのは、声の主が持つ圧倒的な"格"。今まで一度として感じ取ったことのないそれが、ウールーたちの湧き上がる恐怖を塗りつぶし、自然とその視線を声の主へと向けさせる。
そうしてウールーたちがと振り向くと、そこに居たのはドロバンコの背に跨る一匹のポケモン。全身にうっすらと蒼く輝く燐光を纏い、威風堂々と歩みを進めるその姿には、思わず跪いて平伏してしまいそうになるほどのカリスマが宿っていた。
ウールーたちの視線を一身に浴びながら、バドレックスが進み出る。そうして目論見通りウールーたちの意識が自らへと向けられていることを確信するや、高らかに名乗りを上げた。
『ヨは"豊穣の王"バドレックス! 古の御代に在りて、このガラルの地を統べし王である!』
同時に権能の出力を上昇させ、その身を蒼く輝かせるバドレックス。その神々しい輝きはまさしくガラルの大地を流れる地脈の力の具現化――大地を統べる王権の発露に他ならない。
初めて目の当たりにした地脈の力に途轍もない畏怖を覚えるウールーたち。それは遺伝子に刻まれた記憶。ガラルに産まれ、ガラルに生きる全てのポケモンが共通して持つ、根源的な感覚だった。
――
ウールーの群れにその意識が浸透したことを見て取り、バドレックスは再びその口を開く。
『今、このガラルの地に脅威が迫っている! 古の大災厄――「
同時にバドレックスは権能を行使しウールーたちの精神に干渉、自らの記憶にある
――メ、メエエエエ……
天を覆う黒渦、大地を満たす紅い光、万物を蹂躙する
そんな彼らへ畳み掛けるようにバドレックスは告げる、今見た光景は悪夢などではないと。
『オヌシらが垣間見たのは決して
――メエエエエエェーーーー!?
他ならぬバドレックスに、自分たちが目にしたのは空想の産物などではなく、遥か太古の昔に起こったことであり、同時に近い未来に起こり得る景色である――と断言され、ウールーたちは恐慌寸前の状態となる。
そんな彼らにバドレックスは、それまでの重々しい口調から打って変わった、安心させるような穏やかな口調で語り掛けた。
『しかし、案ずるな。このような未来を防ぐために、ヨが出て来たのだ』
バドレックスは言う、自分が出て来たのはこの"破滅の未来"を防ぐためであると。
『ヨはかの大災厄の復活を予見し、これが齎す破滅の未来を防がんと再びガラルの地に立つことを決めた。そして今、ヨは我が
そして、こうしてジムチャレンジに挑戦しているのもその一環である、と付け加えて――
『ジムチャレンジを終えヨが真に己のチカラを取り戻した暁には、必ずや彼の大災厄は打ち払われ、ガラルを襲う破滅の未来は覆ることとなろう!』
――メエエエ……!!
力強くそう言い切ったバドレックスに、ウールーたちは目を輝かせながら感嘆の声を漏らす。
何せ、バドレックスから感じ取れるのは大地そのものを思わせる雄大さ。それほどの存在が問題なしと断言するならば、破滅の未来が訪れることはないに違いない。
絶望の未来から一転して、希望の光明を見出したウールーたち。彼らは各々の方法で"豊穣の王"を讃える。
――
ウールーたちからの称賛を一身に浴びながら鷹揚に頷いていたバドレックス。
『だが……』
が、突如眉を顰め、今度は困ったような口調で呟く。
『実を言えば、このままではそれも叶わぬかもしれないである……』
――……メ!?
先の力強い発言から一転、バドレックスのどうにも弱弱しい言葉にウールーたちは動揺する。
『ヨが現世より隠れて幾星霜――その間にチカラの源であった信仰は失われ、ヨは大幅に力を落としている。情けないことであるが、今のヨでは「
恥じるように、悔し気に、しかし隠すことなくバドレックスはウールーたちに今の己の状態を伝えていく。
『――故に』
そこで一度言葉を切って――そしてようやくバドレックスは
『ヨには
――権能出力上昇。
――対象精神への同調開始。
バドレックスが内に秘めた、ガラルを守り抜くという強い意志。そして神王のその意思は、権能によって精神を同調していたウールーたちへとさざなみのように伝搬し、その感情を掻き立てていく。
『"豊穣の王"バドレックスが問う! オヌシらの内にガラルを救わんと志す者はおらぬか! ――ヨと轡を並べ、共に
トドメとばかりにバドレックスが問いかける。自らと共にガラルを救わんとする勇士はいないのか、と。
そして神王の権能により使命への熱が伝搬されていたウールーたちに、その言葉を無視することなど出来なかった。
――
バドレックスの呼びかけに、ウールーたちは口々に我こそと声を挙げる。
次々と挙がる熱狂的な声に満足気な様子で頷いていたバドレックス、そしてウールーたちの一通り聞き終えた後、再び口を開く。
『ウム! オヌシらの雄心、ヨにしっかと伝わったである! ――さあ、勇士たちよ! ヨに続け! 共にガラルを救おうぞ!』
掛け声とともにドロバンコを駆るバドレックス。蒼い燐光を煌かせ、目標たる牧草ロールへ向けて疾駆する。
――
疾駆する神王の後を雄たけびとともに猛然と転がっていくウールーたち。バドレックスの加護を受け、その身は僅かに蒼く輝いていた。
顕現したるは神王に率いられし神の軍勢。王のカリスマによって駆り立てられ、熱狂を以て試練を征する
やがて軍勢の前に、聳え立つ牧草ロールの壁が現れる。進軍を阻むその壁を前に、バドレックスは片手を掲げ、自ら率いる兵たちに一声命ずる。
『――打破せよ!』
――メエエエエエエッ!!
神王より下された命に応えんと、ウールーたちは猛然と牧草ロールへ突進する。
総勢20匹のウールーによる『たいあたり』。一斉に放たれたそれは牧草ロールの壁を一撃で粉砕し、軍勢の前に新たな道を開かせた。
『見事なり! さあ、我が朋友たちよ! 征くである!』
自らの命に従い、見事、道を塞ぐ壁を突破して見せたウールーたちへ称賛の言葉を掛けるバドレックス。そのまま彼はタヅナを操り、
――
――
――
走り出す王を追って、ウールーたちもまた動き出す。ミッション会場に再び現れた白き軍勢。それは先頭をひた走る神王を切先とした槍のごとく、立ちはだかるモノ全てをなぎ倒し、突き進んでいく。
そんな白き軍勢の後続、一切の障害が排されたミッション会場をフィオは駆け抜ける。
(言葉と己がカリスマで以ってか弱きウールーたちの群れを雄々しき戦士の集団へと変貌せしめる……お見事です! 王さま!)
本来であれば追い立てられるだけであったウールーたちの群れを、逆に自らの意思で王を追いかける軍勢へと変貌させる。バドレックスのその見事な手腕にフィオは内心で舌を巻く。
これこそが神王バドレックスのチカラの一端。ガラルに住まうあらゆるポケモンたちを従え率いる――「戦」の権能。ガラルを統べる大王の姿を目の当たりにして、フィオはバドレックスに対する信仰をますます深めるのであった。
◆
バドレックス率いる軍勢は立ちはだかる牧草ロールを次々と吹き飛ばし、悠々とミッション会場を駆け抜けていく。
道中の妨害役として配置されたワンパチたちは、迫る軍勢の勢いに恐れをなして逆に逃げ出し、挑戦者の実力を測る筈のジムトレーナーたちも、あまりに想定外すぎる事態を前にあんぐりと口を空けるのみ。
結果、ウールーたちの進撃はさながら無人の野を行くが如く順調なものとなり、ミッション開始からほどなく全ての牧草ロールを吹き飛ばすに至ったのである。
さて、とうとうゴール目前の十字路に至ったバドレックスとウールーたち。そのままウールーたちは誰に命ぜられることもなく、進んで囲いの中へと収まっていく。
そうして総勢20頭のウールーたちが全て囲いの中へと入り終えた時、後続を走っていたフィオがバドレックスに追いついた。
「王さま!」
『おお、追いついたであるか。して、
「はい! ウールーたちを率いて野を駆ける御姿はまさしく勇壮無比! 正しく神話の如きご活躍に、このフィオあらためて心服いたしました!」
『カラカラカラ! そうであるか、そうであるか!』
先のバドレックスの進撃を褒めたたえるフィオ。大仰ながらも本心から発せられた言葉に、バドレックスは満足気に頷いた。
『おおう、そうだ!』
と、そこで何かに気が付いたように後ろを振り向いたバドレックス。その視線の先には左右の囲いにズラリと居並ぶウールーたちの姿があった。
『――ウールーたちよ。此度のオヌシらの働き……実に見事であった。こうして
共に轡を並べ、その指揮のもと駆けた神王を崇敬の眼差しで見つめるウールーたち。そんな彼らの視線を一身に浴びたバドレックスはおもむろに手を挙げ、自らに従ってここまでやってきた勇士たちへと感謝の言葉を述べる。
『ヨと共に駆けしオヌシらの姿、実にアッパレであった! その勇姿をヨは決して忘れぬ! 約束しよう、オヌシらの活躍を遥か未来にまで語り継ぐことを! オヌシらはガラルの危機に馳せ参じ、ヨと共に駆けし勇士であったとな!』
そんなバドレックスに対し、ウールーたちもまた口々に告げる。
――おお、王よ! ガラルの遍く地を治めたもう、偉大なる御方よ!
――我ら、ガラルに産まれし民なれば!
――子々孫々、伝えよう。我ら王の許へと馳せ参じ、共に轡を並べる栄誉を得たと!
自らはガラルに産まれ、ガラルの大地に生きる民。故郷の危機を救う王の一助となれたこと、これ以上の名誉などありはしないと。
ウールーたちからの称揚にバドレックスはただ外套を一振りすることで応えた。
次の瞬間、振られた外套より蒼い燐光が舞い散り、ウールーたちへと降り注ぐ。
舞い散る蒼い燐光を全身に浴び、ウールーたちは自らの身に溢れんばかりの力が漲るのを感じる。
降り注いだ燐光の正体、それはバドレックスの有する権能の欠片。これを有する者はガラルの大地に在る限り、バドレックスの加護を受ける。
そして加護を受けることは、バドレックスと一種の繋がりを持つことであり――――彼と霊的に共に在り続けることに他ならない。加護ある限りウールーたちはバドレックスの存在を感じ続け、その身には王の振るう力の一端が宿るのだ。
即ち、これはウールーたちを真に共に
自らの内に
発せられた叫びは凱歌の如く、ミッション会場に響き渡る。
鳴り響く歓声を背に、バドレックスは
傍らに白銀の巫女を連れ、兎馬の背に跨り威風堂々と歩むその様は、まさしく王の凱旋。
神代にてガラルの遍く地を統べし偉大なる王の姿がそこにはあった。
◆
さて、ジムミッションを突破し、無事ジムリーダーへの挑戦権を獲得したフィオ。権能の行使で疲労したバドレックスたちをボールに戻し、出口まで進む。
「「フィオ!」」
「シャクヤさま! マサルさま!」
そして彼女がスタジアム受付まで戻ると、先にミッションをクリアしていた二人が声を掛けて来た。
「ミッション突破おめでとう。驚いたよ。まさかあんな方法で突破するなんて思わなかった」
「そーそー。てか、本当にどうやったの? なんか頭デカいのがいきなり光ったと思ったら、ウールーたちが皆くっついていったけど……」
フィオのミッション突破を労う二人。そこで口をついて出たのが、彼女の突破方法についての疑問だった。
二人が疑問に思うのも無理は無いだろう。このミッションの本来の形は、いかにして逃げるウールーを追いかけて囲いまで導くか、というもの。道中に配置された種々の妨害もそれを前提として作られているのだ。
故にフィオたちが突破に使った方法は前代未聞。ウールーたちを指揮して障害物を打破させるなど、あまりにも想定外に過ぎる。
「ふふふ、それはですね……」
と、そんな二人の疑問に対し笑顔で――「
彼女の熱の篭った解説を聞く内に、二人の顔は徐々に驚愕に染まり、最後まで聞き終わった頃には唖然となっていた。
「――という訳なのです!」
「ずっと
「じゃあ、ワイルドエリアでの話も全部本当だったんだ……すごいな、
「そうなのです! 王さまはとても凄いお方なのです!」
ジムミッションで見せたバドレックスのチカラに感心する様子の二人。彼らがバドレックスのチカラを認めたことに、満足げに頷いていたフィオだったが、そこで何かを思いついたようにポンと掌を叩く。
「そうです! お二人もこの機会に王さまを信仰されてはいかがでしょう? 王さまを信仰すれば五穀豊穣、健康長寿、武運長久……さらにさらに、いまならなんと良縁成就に夫婦円満の御利益まで付いてきますよ!」
"豊穣の王"の力を目の当たりにした二人へ、ここぞとばかりにバドレックス信仰を布教するフィオ。瞳をキラリと煌かせ、期待に満ちた表情で二人を見た。
「「いや、遠慮しとくよ/しとくし」」
「ええっ!?」
が、当の二人からは秒で断られてしまう。
「な、なにゆえ……?」
「いやあ、どう考えても」
「怪しい宗教の勧誘にしか聞こえないし」
「そ、そんなあ……」
渾身の布教を怪しい宗教の勧誘と評され、がっくりと落ち込むフィオ。とはいえ、彼女の言っていた内容はその通り怪しい宗教勧誘そのもの、残念でも無ければ当然の結果である。
「うう、仕方ありません。信仰とは自由であるべきもの、お二方が無用と仰られるならば無理にとは言えません……」
「あはは……何かゴメンね」
「別に
実際、二人はバドレックスのチカラそのものは認めている。ウールーたちを従わせる異能染みた力、
ただ、それはそれとして"信仰"などという仰々しい言葉で語られると、若干引いてしまうのも事実。宗教的活動に馴染みが薄い二人にとっては、色々な意味でハードルが高かった。
故にフィオも今回は素直に引き下がる。強引な勧誘はかえって逆効果、『豊穣の王』の名に悪いイメージが付かないよう布教には慎重を期すべきだろう。何、先は長いのだ。機会はこれからいくらでもある。
王は自らの存在を知らしめるだけで十分と仰っていたが、しかし自身と同じくらい信仰を抱いた人間が増えても困ることは無い。それに二人が王を信仰するようになれば「
密かな野望を胸に、フィオは二人への布教計画を練るであった。
「で、こうして三人ともミッションを突破することができた訳だけど……」
と、そんなフィオの野望はさておき。三人は無事ジムミッションを突破し、ジムリーダーへの挑戦権を獲得することができたのだが……しかし、これはあくまでもスタート地点に到達しただけ。ジムバッジを獲得するためには、まだ
「明日、僕はそのままジムリーダーに挑戦するつもりだけど、二人は?」
「そりゃもちろん——!」
「——挑戦します!」
ジムミッションをクリアしたトレーナーはクリアした翌日からジムリーダーに挑むことが可能。故に明日さっそく挑戦すると言ったマサル、そしてそれは二人も同じであった。
そこで突如としてフィオはハッとした表情を浮かべる。
「はっ! そうです! こうしてはいられません! ジムリーダー様に挑むための準備をしなくては! ――シャクヤさま、マサルさま! 申し訳ありませんがフィオはここで失礼します!」
「あっ……!」
「ちょ、フィオ……!」
そう言うが早いかジムから飛び出していくフィオ。止める暇もなく駆けて行った彼女の背中を、二人は茫然と見つめる。
「行っちゃった……というか、準備って言ってたけど――まさか」
「昨日言ってた
フィオが二人に残した言葉――"ジムリーダーへ挑むための準備"。その言葉で思い出されたのは昨日の出来事。バドレックスが思いついたジム攻略のための荒唐無稽なアイデア。
「「ええ……」」