豊穣の王と黒き夜 ~あるいはヨと巫女のジムチャレンジ挑戦記~ 作:野傘
「「"ダイマックスの攻略手段"?」」
「はい」
『ウム』
さて、時は遡ってフィオたちがターフタウンへとたどり着いた日の夜のこと。
突如としてフィオに相談したいことがあると呼び出されたマサルとシャクヤ。そこで開口一番に「ダイマックスを攻略する」にはどうしたらよいか、と相談を持ち掛けられ、思わず口を揃えて"おうむがえし"をする。
「はあ、まあ相談内容は分かったけど……」
「ええと、何でまたいきなり?」
「それが実は……」
いきなり呼び出され、困惑した表情を浮かべる二人。そんな二人に対してフィオは、先のバドレックスとの会話――バドレックスがこのままでは勝てないと断言したこと――について話す。
「それで王さまとどうすべきか話し合っていたのですが……」
『ヨらのみでは中々よい考えが浮かばなかったのである』
「そこでお二方にお知恵を拝借したいと思いまして」
このままの状態ではダイマックスポケモンを操るジムリーダーに勝てない、ならばどうすればよいのか。ああでもないこうでもないと対応策を思案していたフィオとバドレックスであったが……これといって良い案が出ることはなく。そこでフィオよりも遥かに経験豊富な二人に助力を願おうということとなったのだ。
「どうにかお力をお貸しいただけないでしょうか?」
「なるほどね……うん、別に構わないよ」
「ま、わたしら一応センパイだし。コーハイの悩みに答えるのもセンパイの役目じゃんね」
「マサルさま……、シャクヤさま……!」
突然の相談にもかかわらず快く引き受けた二人に、フィオは感動で目を潤ませる。
(何と頼りがいのある者たちよ。ウム、
(はい! お二方は本当に優しく、また頼りになる方々です! わたしも見習わなければ!)
「で、肝心のダイマックス対策だけれども」
と、そんなフィオたちの感動はさておいて、早速話を進めるマサル。
"ダイマックス"は言うまでもなく強力だ。ダイマックス化による
つまりダイマックスポケモンとは膨大な体力と回避不能の大破壊力技を併せ持った、まさしく怪物の如き存在。だがしかし、災厄たる
「まあでも、一番王道な方法といえば」
「やっぱり
そういって二人は各々の手首に巻かれたデバイス――ダイマックスバンドを見た。
そう、ダイマックスが非常に強力な力だと言うのならば、自らもまたそれを使えばよい。相手と同じ土俵に上がれば、あとは通常のバトルと変わらない。ダイマックスにはダイマックスをぶつける――ガラルにおける対ダイマックス戦術の基本にして王道であった。
「そういえばフィオは
「でも、ジムで申請すれば
ダイマックスバンドは『ねがいぼし』という鉱物を素材として作られる、ポケモンをダイマックスさせるためのデバイスだ。そして『ねがいぼし』はダイマックスと深いかかわりがあると考えられているもので、ガラルで時折にしか産出しない、かなり稀少な鉱物である。
そんな稀少な鉱物を使用するためダイマックスバンドはかなりの高級品で、通常購入しようとすればその値段は成人でも手を出すのを躊躇うほど。故に一般トレーナーでは中々が手を出しにくい代物であり、所持者の数は多くない*1。
とはいえ、ダイマックスしたポケモン同士のぶつかり合いはガラルにおけるバトルの花形。多くの観客たちはバトルにそれを求めており、またリーグを主催する委員会でも興行的観点からそれを推奨している。そしてそれはガラル最大のバトルの祭典と言えるジムチャレンジにおいても例外ではなく、各ジムリーダーたちは基本的にスタジアムバトルにおいてダイマックスを使用することを暗黙の了解としている程だ。
そんな背景があるため、ガラル地方の各ジムではジムチャレンジ挑戦者に対し、チャレンジ期間中のダイマックスバンドの貸出を行っている。チャレンジャーなら申請すれば簡単にレンタルできる上、レンタル料は
自らもダイマックスすることでダイマックスに対抗しよう、という二人からの提案。それは実に理にかなったもので、非の打ち所がないものであった。なるほど、ダイマックスにはダイマックスをぶつける――強大な相手に同一の力で立ち向かうというのは王道中の王道の戦術だ。そして相手と同じ土俵に立てるならば伝説のポケモンたるバドレックスが負ける道理なし。実行するのにコストもかからない、実に素晴らしい提案である。
「……ええと、それはわたしも一度考えたのですが……実は問題がありまして……」
そんな素晴らしい提案にもかかわらず、当のフィオは浮かない顔。
――無理も無い、なぜならその案は他ならぬ彼女自身が真っ先に考案し、そして
「「問題?」」
「はい、それが……」
『ウム、オヌシらの言うその"だいまっくす"であるが――恐らく我が
その原因は他でも無い、彼女自身がダイマックスを使えないからだ。
『"だいまっくす"……
バドレックスのチカラとは即ち、
そして豊穣の王に仕える
『我が
ダイマックスはダイマックスバンドに取り付けた"ねがいぼし"を媒介に、周囲のガラル粒子をポケモンへと注ぎ込むことで発生する。故にガラル粒子を強制的に鎮静化させてしまう彼女がダイマックスを発動できないのも当然であった。
「そうなんだ、うーん」
「と、なると……」
ダイマックスの使用が不可能であると断言され、難しい表情を浮かべる二人*2。
ダイマックスという対ダイマックスの基本戦術を封じられたとなれば、打てる手は相当に限られてくる。
「後は『ひかりのかべ』とか『リフレクター』なんかを使って、時間切れまで粘るくらい?」
「それか、状態異常を使って動きを止めるとか?」
事実、ジムリーダーでありながらノンダイマックスをポリシーとするネズなどは、これらの戦法を駆使して幾度も
『否、それもまた難しかろう』
しかし、そんな二人からの提案もバドレックスはまた難しいという。
『まず"壁"を用いた耐久戦であるが……』
なるほど、確かに『リフレクター』や『ひかりのかべ』にはダイマックス技の威力をある程度まで減衰させる効果がある。だが、その減衰もあくまで
絶大な威力を誇るダイマックス技はあらゆる防御を貫通して相手にダメージを与える。それを前にすれば例え"壁"による減衰があったとて大ダメージは免れないだろう。果たして、今のバドレックスにそれが耐えられるのか。よしんば耐え抜いたとて、ズタボロの状態のまま競り勝つことが出来るのか。
零落した自らの身を鑑みれば――難しいと言わざるを得なかった。
そして"状態異常"を用いた戦術。これが難しい理由はもっと根本的なものだ。
「今のわたしの手持ちに状態異常技を使えるポケモンがいないので……」
そう、フィオの手持ちに状態異常技を使えるポケモンが一匹もいないのである。
彼女の今の手持ちはドロバンコとバドレックスの二匹。物理攻撃が主体のドロバンコは無論のこと、バドレックスも相手の動きを拘束する状態異常技を覚えていない。
いくら有効な戦術であろうとも、出来なければ意味がないのだ。
――尤も、例えそうした状態異常技を持っていたとしてもフィオがこの戦術を使うことはなかっただろうが。
フィオの目的は「
そう、求められるのは
「「「うーん……」」」
しかし
『……実を言えば手立てがないこともないである』
と、そこで再び口を開いたバドレックス。曰く、対ダイマックスについての手立てがないこともないという。
「そうなのですか、王さま?」
『ウム。ヨの有する権能に『豊穣の権能』というものがある。これを使えば
バドレックスの有する権能の1つ――『豊穣の権能』。大地より地脈の力を吸い上げ、対象の生命力を活性化させるこの権能があればダイマックスポケモンにも互角に立ち回ることが可能だ。
八方ふさがりの状態で見えた光明に、フィオの表情も明るくなる。
『――しかし、これも問題があってな』
だが、バドレックスの表情は厳しいまま。
それもいた仕方なし。なぜならこれには致命的な問題があるからだ。
『残念ながら、今のヨでは『豊穣の権能』を行使することが出来んのだ』
遥か太古の時代、飛来した禍つ星からガラルの大地を守護した代償として、バドレックスは己が神格の大部分を喪失している。その欠けた神格を補うものこそが人間の信仰であり、故にバドレックスが権能を行使するためには人間の信仰が不可欠。そして現在のバドレックスでは『豊穣の権能』を行使するだけの信仰がないのだ。
「くっ……! 私の王さまへの信仰が足りないばかりに……このフィオ、一生の不覚……!」
『否、
権能の行使に必要な信仰が足りないという事実に、グギギと悔し気な表情を浮かべるフィオ。だがバドレックスはあくまで数の問題であるとして彼女を慰める。
事実、バドレックスが最低限とはいえ権能行使能力と戦闘能力を維持できているのはフィオの抱く深い信仰心のお陰だ。
故に彼女の信仰が足りないなどということはありえない。『豊穣の権能』が使えないのは単純に要求される信仰量が彼女一人分ではとても賄えないほど多いというだけだ。
差し込んだと思った光明が潰え、再びの手詰まり状態。諦めきれぬフィオがどうにか『豊穣の権能』を行使することはできないのかと問うと、バドレックスは難しい顔で、
『……足りぬ信仰はあとほんの僅か。どうにか一時でも信仰を高めることができればあるいは……』
と、答えた。
――残念ながらフィオはすでにバドレックスへと無上の信仰を捧げ続けている。ゆえにこれ以上の信仰が必要と言われても、一体全体どう捧げればよいというのか。
そも彼女らがジムチャレンジに挑戦したのは来るべき「
だが、ここに至りジムリーダーを倒すためには今の信仰量では足りないという問題が発生した。即ち、信仰を取り戻すためには勝利が不可欠、しかし勝利のためには信仰が足りない、という本末転倒の状況。
そんな矛盾した状況をはてさてどう解決したものか。
フィオたちはそろって頭を抱えてしまうのであった。
◆
煮詰まっていた状態を打破したのは、意外なことにシャクヤであった。
切っ掛けとなったのはあまり考えすぎてもよくないと一度休憩を挟んだ時のこと。部屋のテレビをぼんやりと見ていたシャクヤは、そこでふととある番組に目を留める。
その番組は、ジョウト地方外縁部にあるという
「ほーん……」
普段の彼女であれば欠片も興味を抱かなかったであろう内容。しかし、信仰を力とする
なので
「ねえねえフィオー」
「はい、何でございましょうか?」
「いやさ、さっきテレビで大昔の人がカミサマのことを歌と踊りで祀ってたって言ってたんだけど……。
「歌と踊り……ですか? そうですね、歌の方はこれといったものはありませんが。踊りの方でしたら年に一度、来年の豊作を願って舞われる『豊穣の舞』というものが……『そ れ だ!』……ヒャアッ!?」
「うわっ!?」
王さまのことなら任せておけとばかりに、シャクヤからの質問に答えるフィオ。曰く、フリーズ村には年に一度『豊穣の王』へ感謝を捧げる舞というものがあるのだとか。
だが、彼女それを口にした瞬間、突如としてバドレックスが目を見開き叫んだ。
「お、王さま?」
「い、一体どうしたん? いきなりそんな大声出して……?」
『感謝するぞ、
「――何と!?」
「……へ?」
「そ、それは真でございますか!?」
『ウム! あまりにも永きに渡り信仰を抱かれなんだ故に忘れていたが、かの舞はかつて人の子らがヨのチカラを讃えるべく舞ったもの! 信仰厚き
「おおっ!」
一時の間とはいえ信仰を高めることができれば、『豊穣の権能』を扱える可能性も出てくる――即ち、勝利の目が出てくるのだ。
八方ふさがりの暗闇に一筋の光が射す。華々しき勝利への道筋が照らし出されたことに、顔を輝かせるフィオ。
「いやいやいやいや、いくら何でもジム戦の最中に踊るって無理があるっしょ」
だがそこで、盛り上がる主従にシャクヤからのツッコミが入る。ジム戦という真剣勝負の最中に踊るなんぞ無理だと。
彼女の
そんなシャクヤからのトレーナーとして常識的な指摘に対し、しかしバドレックスは余裕の表情。
『フフフフ、人の子よ、ヨを誰だと心得ておる? ――ヨは『豊穣の王』バドレックス! 古のガラルの神話にその名を刻みし存在!
「ええ……」
自身満々でそう答えるバドレックスに唖然とするシャクヤ。さもあらん、ガラル本土にて産まれ育った彼女はごく一般的な感性の持ち主、その反応となるのもむべなるかな。
だが一方でそんな彼女の隣に座る少女は、一般的なものとかけ離れた感性の持ち主であった。
「何という頼もしいお言葉……! ――畏まりました! このフィオ、全霊を以て舞わせていただきます!」
『ウム、期待しているぞ我が
「はい!」
バドレックスの言葉に目を煌かせ、一も二もなく舞い踊ること承諾するフィオ。豊穣の王の
ギョッとしてこちらを見るシャクヤの視線もどこ吹く風。早速準備に取り掛からんとする王に二つ返事で応える。
「本当にありがとうございます、シャクヤさま! シャクヤさまのお蔭でジム攻略の目途が立ちました!」
『ヨからも礼を言おう。オヌシの言葉が無くばヨも気が付かなんだ!』
「いや、ちょ、えええ……」
凄まじい勢いで進む主従の会話から完全に置いてけぼりとなったシャクヤ。だが、ボルテージが最高潮となったフィオとバドレックスはその様子に気付くことはなく。彼女に一言礼を述べるや、そのまま勢いよく部屋を飛び出していくのであった。
◆
「ただいま~。……あれ、フィオは?」
「……おかえり。いや、なんか、攻略方法が見つかったって言って出てった」
「あ、そうなの。見つかったんだね、それは良かった。――それで、結局どんな方法を?」
「……………………カーニバルなフェスティバルでダンスダンス?」
「どういうことなの……」
???「カーニバルだヨ!」
・豊穣の舞
フリーズ村に古くから伝わる伝統的な踊り。次の年の豊作を願って年に一度の祭りで舞われる。元々は『豊穣の王』の威徳を讃え、彼の齎す恵みに感謝を捧げるためのものであった。
その起源は『豊穣の王』が芽吹きを齎す際の動き――つまりは原作でバドレックスがにんじんを生やす際に行った