豊穣の王と黒き夜 ~あるいはヨと巫女のジムチャレンジ挑戦記~ 作:野傘
あ、後一話で旅立つ予定だから……(震え声)
『フリーズ村のフィオ。ヨの言葉を解する唯一の信仰者よ。――どうか、ヨの
バドレックスの頼み――それはフィオに自身の
「
『ウム。オヌシには
「王さまの代弁者……、チカラと信仰を取り戻すお手伝い……」
『して、どうであろう。引き受けてはくれまいか?』
と、バドレックスから回答を促されるものの、当のフィオは困惑の只中にあった。
(巫女? わたしが……?)
王に仕え、その意思を代弁する巫女……その役割に自分が就く。『豊穣の王』の信仰者としてこれ以上無い名誉だ、しかも王からの直々の指名。さらにその仕事の内容も王の信仰を取り戻すための手伝いだという――断る理由はない。
だが同時に、なぜ今になっていきなり……という疑問も抱く。王がその気であるならば、もっと早くに信仰を取り戻すことも出来た筈。ならば、なぜ?
どうしても気になってしまったフィオは失礼と思いつつも、バドレックスに直接訪ねることにした。
「……王さまより直接「巫女に」、とご指名いただけたことはとても名誉なことで是非ともお受けしたいのですが……。その、なぜわざわざ
そこまで言ったところで、自身の言葉がまるで当てこすりのようであること気が付き、あわてて謝罪するフィオ。
「不躾な質問をしてしまい申し訳ありません!」と頭を下げる彼女に、しかしバドレックスは気にした様子もなく、
『否、謝る必要はない。オヌシの疑問ももっともである――そうだな、オヌシにも話しておかねば』
と言って、その理由を述べ始めた。
『まず一つ目の問い、なぜ
「わたしだけ……?」
『ウム、実は今のヨでは人間たちに意思を届けることは叶わぬのである。――「自分とは対話できているのに」という顔だが、それはオヌシの深い信仰心による例外よ。ともかく、人間たちから信仰を集めるには何より人間たちと意思疎通出来ねば話にならぬ。そこで唯一ヨの言葉を解せるオヌシにヨの代弁者となって欲しい、という訳であるな』
と、そこにバドレックスは少々気まずげな様子で、
『いやな、
と付け加えた。
「なるほど……そういった訳でしたか」
『ウム、そういうことである。――そして、二つ目の問いであるが』
バドレックスの雰囲気が変わる。
『オヌシには伝えておこう――今、
その口から飛び出したのは"破滅の危機"という不穏な言葉。
続けてバドレックスは語る、切っ掛けはフィオの信仰により少しだけチカラを取り戻したことからだ、と。
『ヨは取り戻したなけなしのチカラを使い、自らの行く末を占おうとしたのである。果たしてヨはこのままひっそりと消え往くのか、はてまた再び王としてこの地に返り咲くのか、とな』
バドレックスの持つチカラの一つ、過去と未来の全てを見通す『智慧』の権能。
それを使ってバドレックスは自らの行く末を見通さんとした。
『だが、ヨの見通した未来はそのどちらでもない――
彼が視たもの……それは衰亡とも復活とも異なる未来。
ガラルを襲う大災厄の光景。
『天を覆う黒き渦。地に満つる赤き「禍つ星」の光。闊歩する数多の
権能が視せた地獄もかくやというヴィジョン。
『幸か不幸か、ヨはその光景を……その災厄を知っていた』
それはかつて己が目撃した災厄の姿に他ならない。
『――その名、「
『かつて二度に渡りガラルを襲い、滅ぼしかけた……恐るべき大災厄よ』
◆
「
バドレックスが告げた災厄・「
「三千年前……伝説の英雄によって鎮められたという、あの……?」
『知っていたであるか……。ウム、その通り。彼の者らによって鎮められた大災厄が、今再びガラルの地を襲わんとしているのである』
「そんな……。食い止める方法は――」
『
『智慧』の権能が見せる未来は確実に起こる。これはいかなるものでも変えようのない運命だというバドレックス。だが……
『しかし、起こることは変えられずとも、起こった末の結果を変えることならできる』
確定しているのは「
『古き英雄は永久の眠りについた。彼の大災厄を鎮められるのは、今の世において最早ヨのみ』
バドレックスは言う、「
『故にこそフィオよ。ヨの愛し子よ。オヌシにヨのチカラと信仰を取り戻す手伝いを……いや――』
――『ヨと共にガラルを破滅の未来から救って欲しいのである』
バドレックスから伝えられた衝撃の事実。ガラルに迫る破滅の未来、それ防ぐために自らに協力して欲しい、と。バドレックスはそう望んでいる。
ならば――彼女の答えは決まっていた。
「――神慮、承りました。フリーズ村
膝をつき、胸前にて両掌を組んで深々と頭を下げる。
それは"
『おお、引き受けてくれるであるか!』
「はい、非才の身でどれほど王さまのお役にたてるかは分かりませんが……。それでも、精一杯お仕えいたします!」
顔を上げ力強く宣言するフィオ。
そんな彼女を見るバドレックスは花が咲くような笑みを浮かべていた。
『忠勤を期待しよう。よろしく頼むぞ、我が
◆
『では
「はい! 如何なることでしょうか!」
新たに
『ウム。オヌシに考えてもらいたいこと、それはどうすれば人間たちにヨのチカラを知らしめるか、である』
「王さまのお力を……?」
『然様。――おそらくであるが、ヨへの信仰が廃れてしまったのは人間たちがヨの存在を忘れ去ってしまったがためである。ならば、古のように人間たちにヨのチカラを知らしめることが出来れば、人間たちは再びヨのことを信仰してくれるのではないか、と思うのだ』
「なるほど、確かに先祖たちは王さまのお力を目の当たりにしたことで、王さまへの信仰を揺ぎ無きものとしました。ならば今の世の人々もお力を実際にその目でみれば、再び王さまを崇め信仰するようになる、ということですね」
『その通りである。――とは言え今のヨではチカラを見せるといっても限界があるのも事実。あまり大規模な権能の行使は出来んである。かと言って一人一人に見せて回るのは時間がかかり過ぎる。「
「かしこまりました! 王さまからのたっての願い、全霊を以ってお考えいたします!」
『ウム、頼んだであるぞ』
バドレックスからの頼みを受けてフィオは早速、考えをめぐらす。
(うーん……。王さまのお力を短期間で多くの人々に知らしめる手立て……)
とはいえ、考えろと言われてそう簡単に考え付けば苦労はしない。
(むむむむむ……。人々……大勢が注目……短期間…………あっ!)
その時、彼女の脳裏に天啓の如く閃きが走る。
「そうです! 王さま、ジムチャレンジに挑戦するというのはいかがでしょう!」
『――じむちゃれんじ?』
彼女が閃いたアイディア。それはジムチャレンジに挑戦してみてはどうかというものであった。
ジムチャレンジはガラル地方で年に一度執り行われるポケモンバトルの祭典である。その内容は定められた期間内にガラルに存在する8つのジムを巡ってジムバッジを集め、並み居るライバルたちを退けて最終的にチャンピオンへと挑むというもので――ガラル地方における一大興行であった。
勿論、興行となれば見に来る見物客の存在が不可欠。それはジムチャレンジも例外ではなく、むしろ一大興行ということもあってかその試合にはガラル中の注目が集まるほどである。
ならば――
「そこで王さまが直々にお力を振るわれ、華々しくご活躍なされれば――!」
『ガラル中の人間たちにヨのチカラを知らしめることができる、という訳であるか』
「はい!」
フィオからの提案にフムフムと頷くバドレックス。
なるほど確かに彼女の言うジムチャレンジなるもの、自らのチカラを知らしめるのに丁度よいかもしれない。
「さらに言えば何を隠そうこのフィオ、偶然にもジムチャレンジへの挑戦権を得ております!」
『なんと! そうであったか!』
と、そこでさらに彼女は自身も今年のジムチャレンジに挑戦するつもりであること、そして出発が数日後に迫っていることを伝える。
「はい! それでその……いかが、でしょうか……?」
『フーム……』
フィオからあらためて共にジムチャレンジに挑戦することを提案されたバドレックス。目を瞑り腕を組みながらしばらく考えた後、『ウム』と一つ頷いて……
『――相分かった。
彼女の提案を受け入れた。
「ということは……!」
『ウム。オヌシの"じむちゃれんじ"、ヨも同行するである』
「!! ありがとうございます! 王さまのお力があれば百人、いえ千人力! もはや優勝は決まったようなものでございます!」
華麗に戦うバドレックスの姿を想像し、思わず目を輝かせるフィオ。
『カラ、カラ、カラ……! そう
キラキラと輝く彼女からのまなざしを浴びてバドレックスは照れくさそうに、しかしどこか誇らしげに笑うのだった。
◆
バドレックスがジムチャレンジに同行することを喜び、興奮して思わず立ち上がったフィオ。その拍子に何かが彼女の懐から転げ落ちる。
『ム?
「え……? あっ!」
彼女の懐から転げ落ちたもの、それは彼女のスマホロトムであった。
慌てて拾い上げると画面はあちこちひび割れ、本体も傷だらけ、おまけにいくらボタンを押しても反応はなく、中のロトムも沈黙したままであった。どうやら先の『ハイパーボイス』の衝撃で壊れてしまったようである。
祖父からの折角のプレゼントを壊してしまったことに罪悪感を覚えたフィオであったが、すぐにそれどころではないことに気が付いた。
「た、大変です! わたし、村の方々に……おじいさまに何も連絡していません!」
そう、バドレックスとの出会いに舞い上がってすっかり頭から抜け落ちていたが、客観的に見れば彼女はほぼ神かくし同然で行方不明となっているのだ。フリーズ村では今ごろ大騒ぎだろう、祖父も心配しているに違いない。
「あ、あわわ……。ど、どうしましょう。早く帰らなければ大事に……!」
残念ながら連絡手段も
「王さま、申し訳ありません! 老齢の祖父がわたしの身を案じているやも知れず……大変心苦しいのですが、今宵はこのまま帰らせていただきます……!」
『ム、そうであるか。……しかし、オヌシをこのまま雪原に放り出すのも危険である。村の近くまではヨが付き添おう』
「王さまが直々に!? そんな畏れ多い……!」
『何、気にすることはないである。此度の一件、オヌシを
「(うう……王さまにお手を煩わせるのはとても心苦しいし畏れ多いのですが、かと言ってわたし一人ではフリーズ村まで戻ることが困難であることも事実……)大変申し訳ありません……、よろしくお願いいたします……」
恐縮しきった様子のフィオにバドレックスは気にするなと笑い飛ばす。
『カラ、カラ、カラ! 何を言う、この程度のこと面倒のうちにも入らんである。それに自らに仕える
王たる存在にそこまで言われてしまっては仕方がない。
かくして一人と一柱はカンムリ神殿を離れ、フリーズ村を目指し夜天の雪原を行くのであった。
◆
広大なるカンムリ雪原をひたすら歩むこと数時間、東の空が僅かに白むころにフィオとバドレックスはフリーズ村にほど近い『氷点雪原』まで辿りついた。
『氷点雪原』はフリーズ村のすぐ近くに存在する雪原だ。フィオにとっても馴染みのある勝手知ったる場所であり、ここまでくればこれ以上の付き添いが無くとも村へとたどり着ける筈である。
『本当にこの辺りでよいであるか?』
「はい。ここからなら後は一人で帰れますから」
とバドレックスに礼を述べつつ、これ以上の見送りは不要であると伝えるフィオ。
『うーむ、そうであるか。……念のため
しかしそれでも心配ではあったようで、バドレックスは彼女に自らの加護を与えるという。バドレックスが掌を翳せば、フィオの周りにみょみょみょと青い燐光が纏わりつき、彼女に吸い込まれるようにして消えた。
「わわ!?」
『ウム、これでヨシ。これでしばらく
「はい! 王さまもどうか息災で!」
『気遣い感謝である。――おお、そうだ。
「へ? 村の皆さまには内密に? ……王さま、その、理由をお伺いしても?」
別れの間際、村の者たちには自分のことを秘密にして欲しいと頼むバドレックス。疑問に思ったフィオが何故かなのか理由を尋ねると、バドレックスは悩ましげな表情でその理由を語った。
『うむ。……実はオヌシが産まれるより以前、人間たちが本当にヨのことを忘れてしまったのか確かめるべく、一度村を訪れたことがあるのである。しかし、その際に人間たちからはおとぎ話の存在と言われ、騒ぎとなってしまったのだ』
「そんな!」
『おそらくオヌシがヨのことを村の者らに話したとて信じられることはなかろうし、さらに万が一そのことが原因となって迫害されたとなれば一大事。故に、オヌシにはヨのことを秘密にして欲しいのである』
かつて村を訪れた時、村人たちは皆自身のことをおとぎ話の存在と認識しており、あまつさえ騒ぎとなってしまった。もしフィオが自身のことを村人に話せば、最悪迫害の対象となるかもしれない。そう思ったバドレックスはフィオの身を案じ、自身のことを秘密とするよう言ったのだ。
「王さま……」
自身のことを案ずるバドレックスの思いを感じ取り、フィオは何も言えなくなってしまう。村人たちが自身を迫害するなどとは到底思えないが、しかしバドレックスの気持ちも良く分かる。何せ村人の大半が、バドレックスをおとぎ話の存在として認識しているのは紛れもない事実なのだ。自身の実在を半ば否定されかけたバドレックスからしてみれば、彼らを信じられぬのもむべなるかな。
「……分かりました。今宵の出来事はわたしの内に秘め、決して村の皆さまには口外いたしません。豊穣の王に仕える
バドレックスを真っ直ぐ見つめ、決して口外しないと誓うフィオ。
『そうしてくれるとありがたいである。――何、村の者らには信仰を取り戻し、「
「――かしこまりました! フリーズ村の皆さまに、王さまの堂々たる凱旋を見せつけてあげましょう!」
村人にその姿を見せるのは全てが終わり力を取り戻した後だ、というバドレックス。
フィオは王の意向に賛意を示し、その際は堂々たる凱旋で以って村人たちにその威容を見せつけようと張り切る。
『カラ、カラ、カラ! ウム、その通りであるな! フフフ、今から人の子らの驚く顔が目に浮かぶようである』
そしてバドレックスもまた上機嫌に、自らの
◆
『では
「はい! 王さまもどうかご健勝であられますよう」
『ウム、気遣い大儀である』
そうして、『ではな』の一言と共に暁の空へと消えるバドレックス。
フィオはその姿が見えなくなるまで見送り続けた後、くるりと踵を返し、フリーズ村へ向け歩み出したのであった。
ちなみにここで言う"信仰"は認知度くらいに思って下さい。バドレックスが実在すると認識し、力を持っていると知るだけでもある程度の力になります。勿論、フィオちゃんクラスに信仰すればそれだけ戻る力は大きいですが、さすがに全員が全員にそれを求めるのは現実的ではありません。というか古代においてすらフィオちゃんクラスの信仰心は希少です。つまり、フィオちゃんは割とヤベー奴です。
・
正式名称は『豊穣の巫女』。古代のカンムリ高原において、バドレックスの身の回りを世話する役割を担っていた。感覚としてはアローラやヒスイにおける『キャプテン』に近い。
その他にも神殿内を掃除したり、神殿に詣でる人を案内したり、バドレックスの相談にのったり、祭りの際に舞いを行うなど様々な仕事があった。ちなみに『巫女』に選ばれた者には見返りとしてバドレックスの加護が与えられ、畑の収穫量が少し増えたり、病気になり難くなったり、身体機能が向上したりしたそうだ(もしかして:スーパーガラル人)。
・
かつてガラルの大地を滅ぼしかけたという大災厄。天を黒き渦が覆い、地には赤き「禍つ星」の光が満ち、数多の闊歩する
ガラルの地を滅亡寸前にまで追いやった災厄は、かつて二度起きたとされる。
一度目は天上より来たる「禍つ星」によって。
二度目は力を欲した「
・バドレックスの権能
フリーズ村の伝承によれば、『豊穣の王』バドレックスはそれぞれ役割の異なる三つの権能を有していたとされる。
一つは草木を芽吹かせ、荒地に実りを齎すという『豊穣』の権能。
一つは過去・未来、全ての出来事を見通し迷える民に導きを与えるという『智慧』の権能。
そして最後の一つが――荒々しき"冬"と静かなる"死"を駆り、立ち塞がる者全てを討ち果たすという『戦』の権能。
補足説明
・なんでバドレックス様は先に愛馬を探そうとしないの?
これは拙作と原作におけるバドレックス様の心情の差異が原因。原作においてバドレックス様はフリーズ村の村人たちが自身のことを「おとぎ話の存在」と認識していることを知り、「力を取り戻すためには人間の信仰などに頼ってはおれぬ」と愛馬を探す方向にシフトしたが、拙作においては主人公であるフィオちゃんが深い信仰心を抱いていたことで多少なりとも力が戻った結果、「人間の信仰によって力を取り戻す」ことが可能と判断。結果、フィオちゃんと一緒に信仰を取り戻す旅を決意したという訳。
また、バドレックス様は愛馬が自身の許を離れた原因を自身の力が弱まってしまったからと判断しているというのもある。現在の状態では例え愛馬を見つけたとしても以前のように制御することは不可能、そのため愛馬を取り戻すのは自身が力を取り戻した後ということ。
・なんで聖剣士はポス馬を追い出したの?
聖剣士たちがポス馬のことを知らなかったから。彼らがバドレックス様と出会ったのは、ポス馬たちがバドレックス様の許から出奔した後の時代。で、バドレックス様は異国からの客人である彼らに、身内の恥だからとポス馬たちのことを伝えなかった。なので聖剣士たちからしてみれば、ポス馬たちは完全にカンムリ雪原を好き勝手暴れ回る害獣でしかなく、そんな存在を追い出すのは当然。そして彼らは基本的にポケモンを追い出したとしても一々バドレックスには報告しない(バドレックス様自身が報告を不要とした)ため、バドレックスもポス馬たちが追放されたとは露知らず。結果、ポス馬たちは一般通過徘徊馬ポケモンとしてガラル中をフラフラすることとなった。
・つまり?
大体バドレックス様のガバ。
・主人公が銀髪ロリなのは?
作者の趣味。