豊穣の王と黒き夜 ~あるいはヨと巫女のジムチャレンジ挑戦記~   作:野傘

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ちなみにバドレックス様の台詞は基本、都度フィオちゃんが翻訳しています。
あと、画像メーカーで主人公フィオちゃんのイメージ画像を作ってみました。参考までにどうぞ。

【挿絵表示】



『荒野横行、粗野彷徨』だヨ

――ワイルドエリア・キバ湖西。

 

「なんと! 親元より離れて孤島の道場にて一年間の修行を!? ……それは、さぞかし大変であったのではないでしょうか」

「うん、まあ正直心細いこともあったけど……。師匠やおかみさん、他の門下生の人たちも良くしてくれたし――それに、マスター道場に入ることは自分で決めたことだからね。弱音なんて吐いてられないさ」

『信念をもって己が道を貫徹せんとするか。ウム、中々に気骨のある男子(おのこ)よな。アルトスの戦士(ダクマ)が付き従うのも頷ける』

「ま! あーま!」

 

 青々と水を湛えるキバ湖を右手に臨みながら、ワイルドエリアを西回りに進むフィオ達。時折、他愛のない話を挟みながら、エンジンシティを目指してひたすらに歩き続ける。時刻は昼を疾うに過ぎて、日は徐々に傾きつつあり、空は微かに茜色が差していた。

 とはいえ、天候に恵まれたお蔭か左手には既に中世に建てられたという見張り塔の跡が見えており、このままならば夜になる前にはエンジンシティまで辿り着けそうだ。

 

「いやあ、順調、順調。この分なら思ったより早く着けそうかな」

「本当でございますか!」

「うん。このままなら多分、夕方には辿り着けると思うよ。――それにしても本当に順調だったなあ。天気にも恵まれたし、珍しく野生ポケモンも襲ってこなかったし」

 

 集いの空き地を出てからここまでの順調な道のりを思い出し、ふとそんなことを口にしたマサル。実際、彼はエンジンシティまではもっと時間が掛かるものと見込んでいた。

 ワイルドエリアの天気はとても不安定で移ろいやすい。ついさっきまで雷雨だったのが、突如として日照りへと変わることも珍しくはないのだ。だが、今回に限っては幸運なことに、道中の天候は全て晴れ。悪天候に遭遇することもなく、スイスイとここまで歩くことが出来てしまった。

 

 さらに不思議だったのは、道中、野生ポケモンを一匹たりとも見かけなかったことだ。

 ワイルドエリアは人間の手がほとんど入っていない、手付かずの自然が残る場所。当然、そこには多くの野生ポケモンたちが生息しており、中には人間を見つけたら積極的に襲い掛かる種類もいる。そして過酷な生存競争を勝ち抜き、鍛えられたワイルドエリアのポケモンたちのレベルは周辺の道路のそれを一回りは上回っており、故にポケモンを持たない者に――あるいは持っている者にさえ――とってワイルドエリアは非常に危険な場所であった。

 それがどうだろう。今日に限ってはそんな野生ポケモンたちが一匹たりとも姿を見せないのだ。襲われる危険がないことは嬉しいが、どうしてもマサルは違和感を覚えてしまう。

 

『――ああ、それは恐らくヨの所為であろう』

 

 と、そんな彼の呟きを聞きつけたのか、バドレックスが口を開く。曰く、野生ポケモンが襲ってこないのは自分の所為であろう、と。

 

「そうなの?」

「そうなのですか、王さま?」

『ウム。まあ、自分で言うのは少し気恥ずかしいが、ヨは古くはガラルの全てを治めていた存在。力こそ衰えたが、それでも他のポケモンたちとは圧倒的に「格」が違うのである』

 

 バドレックスは力衰えたりとはいえ、かつてはガラルの全てを統べていた真性の神である。一神話体系の主神とも言える立場である以上、その存在は非常に高位だ。そんじょそこらのポケモンとは「格」が違う。故に、野生に生きるポケモンたちはその「格」の違いを敏感に感じ取り、決して手を出そうとはしないのだという。

 

「へえ。そうなんだ」

「みだりに力を振るわずとも、その御威光のみでポケモンたちを撫安(ぶあん)せしめる……流石です、王さま!」

『ウム。――それに付け加えれば、この場にはヨのみならずヨの加護を受けた巫女(プリエステス)も存在しておる。故、いつもより影響が強かったのであろうな』

 

 ただ在るだけで野生ポケモンたちを畏敬させるというバドレックスに崇拝のまなざしを送るフィオ。

 一方、マサルは……

 

("王さまの威光"って、すごいんだな)

 

 ポケモンたちのいない、静かな景色を眺めながらそう思う。

 

(でも少し意外だ。王さま(バドレックス)って、話してたら結構穏やかで気さくな印象だったのだけど)

 

 同時に、ほんの少しの違和感も。

 フィオを介して、という形ではあるが道中にてバドレックスと言葉を交わした際、マサルが彼に抱いた印象は穏やかで気さくなもの。確かに王を名乗るだけの威厳はあったが、それでも他者を威圧し遠ざけるような"暴君染みた"印象はなかった。

 だが、今のワイルドエリアの状態を鑑みると、野生ポケモンたちには異なる印象を抱かれているのだろうか。ポケモンたちは()()()()()()()()()()()()()()()()のように、その姿を見せない。

 

 ふと、自分達を包む静寂が何だか薄気味悪く感じられて、マサルは思わず身震いした。

 

(――いや、違う)

 

 だが、そこで気が付く。身震いの理由はそれだけではない。

 

(寒くなっている?)

 

 周囲の気温が急激に下がっているのだ。

 

「……何だか寒くなってきたような」

『ウム、妙に冷えるであるな』

 

 そしてそれは彼の気の所為では無かった。フィオが寒そうに腕を擦る様を見て、気温が低下していることを確信したマサル。試しにハア、と息を吐き出すと、吐き出した息が白く見えた。

 周囲が急に薄暗くなったことに気が付き、見上げると晴れた空を分厚い黒雲が覆いつつあるのが見える。

 

「――ワイルドエリアの天気は変わりやすい。この寒さだと……吹雪になるかも」

「本当ですか!? さっきまで、あんなにお天気だったのに!?」

「それがワイルドエリアだからね。――急ごう、出来れば吹雪く前にエンジンシティまで着きたい」

『ム、そうであるな。ヨのようなポケモンはともかく、オヌシら人の子が着の身着のまま吹雪の中に居るのは危険である』

「――! 分かりました、急ぎましょう!」

 

 吹雪く前にどうにか街まで辿り着きたい、というマサルに賛意を示すフィオたち。バドレックスは言わずもがな、寒冷地出身であるフィオも吹雪の怖さはよく知っていた。

 先に見ゆるエンジンシティを目指し、一行は足取りを早める。

 

 そんな彼らの周囲には雪がちらつき始めていた。

 

 

(――ッ! 間に合わなかったか……!)

(凄い風と雪……前が見えません!)

 

 吹雪く前にエンジンシティに辿り着こうと急いでいた彼らであったが、残念ながら間に合わなかった。走り始めた当初は周囲をちらつく程度であった雪は瞬く間にその量を増やし、あっという間に一寸先が見通せないほどの猛吹雪となって一行の行く手を阻む。

 

「――フィオ! 僕と手を繋いで、ポケモンをボールに戻して! この雪の中ではぐれたらマズい!」

「はい! ――王さま、中へ!」

『分かったである!』

「ダクマも! 戻って!」

「あーま!」

 

 轟々と吹き荒ぶ風に負けぬよう、声を張り上げて会話する二人。はぐれないようしっかりと手を繋ぎ、ポケモンたちもボールへと戻す。

 

「――マサルさま! エンジンシティの方角は!?」

「――多分、あっち! でも吹雪の所為で何にも見えない!」

 

 視界を遮る雪と風によって、二人は既にエンジンシティまでの方角を見失っていた。

 さらに先ほどまで居た場所からエンジンシティまでは開けた一本道だ。遮蔽物などなく、どこかで吹雪をやり過ごすことも出来ない。

 

(マズいぞ、これは……!)

 

 方角を見失い、さらには一時退避も難しいこの状況。マサルは内心で焦りを感じる。

 今の二人の服装はごく一般的なもので、このような吹雪の下で着用することなど考えられていない。当然、体温はどんどんと奪われており、このまま長時間この状態が続けば最悪低体温症の危険すらある。一刻も早く抜け出さなければ、と。

 と、その時、

 

「……! マサルさま、見てください! あそこに明かりが!」

 

 フィオの言葉にハッと、顔を上げるとそこには確かに明かりが見えた。

 

……ませんか……! ……どな…か…せん……! ……たかいませんか!」

 

 同時に吹き荒ぶ風に混じって聞こえる、人の声。

 

(人だ!)

 

 吹雪の中、誰かが呼びかけている。それに気が付いた瞬間、マサルはあらんかぎりの大声で叫んだ。

 

「ここです! ここに二人います!!」

 

 果たして彼の声が届いたのか、明かりが揺れ二人の方へと徐々に近づいてくる。やがて二人の目に、前方からやって来る人のシルエットが映る。そうして姿を現したのは、懐中電灯を手に白い制服に身を包んだリーグスタッフであった。

 一方のリーグスタッフも二人の姿を視認したのか、急いで二人の元へ駆け寄ってくる。

 

「ご無事ですか! 怪我人やはぐれた方などはいませんか!」

「僕たちだけです! 二人とも怪我はありません!」

「分かりました! 現在、エンジンシティ付近のワイルドエリアにて異常な暴風雪が観測されています! 危険ですのでお二人ともエンジンシティまで避難を! 私が先導します!」

「はい!」

「かしこまりました!」

「それではこちらへ! はぐれないように付いてきてください!」

 

 リーグスタッフの先導に続いて歩き出すフィオとマサル。そうしてスタッフに着いて行くこと数分、二人は無事ワイルドエリアとエンジンシティの城壁内まで到着した。

 

「ここまで来ればもう安心かと。お二人とも怪我や体調不良などはありませんか?」

「はい、大丈夫です」

「どこも問題はありません」

 

 屋内に辿り着きようやくほっと一息ついた二人。幸いにも怪我などなく、体調も問題ない。リーグスタッフから問いかけにも問題なしと答える。

 

「そうですか、それなら良かった。――暴風雪はしばらく続くものと思われます。風雪警報が解除されるまで、ワイルドエリアへの立ち入りはしないようにお願いします」

 

 どうやら暴風雪はまだ続く見込みらしく、二人にしばらくワイルドエリアに立ち入らないように忠告するリーグスタッフ。

 

「分かりました」

「承知いたしました」

「よろしくお願いいたします。それでは、私はこれにて!」

 

 リーグスタッフの忠告に了承の返答を返す二人。それを確認したリーグスタッフは、二人にこれにてと一声かけた後、職場へと戻っていく。

 

「お仕事お疲れ様でーす!」

「危ういところをお助けいただきありがとうございましたー!」

 

 二人はタッタタッタと走り去ってゆくリーグスタッフへ、そう感謝の言葉を叫ぶのであった。

 

 

「はあ……それにしても最後の最後で酷い目にあったね」

「そうですね。――ふふ、でも吹雪の中わたしの手を引いて進むマサルさまのお姿。とても恰好よかったですよ」

 

 全く酷い目にあったと零すマサルに、ニッコリ笑って自分を助ける彼の姿はかっこよかったと伝えるフィオ。彼女からのストレートな誉め言葉とキレイな笑みを直視し、思わずしてマサルは頬を紅潮させる。

 まあそれも仕方のないこと。マサルは14歳、お年頃。思春期の男子が美少女に正面から「かっこよかった」と言われれば、そりゃドキッとくらいはする。

 

「――ッ! ま、まあ、ねえ。そ、それくらい、紳士として当然というか?」

「……? マサルさま、お顔が赤いですよ? お熱でもあるのですか?」

「い、いや、大丈夫! 大丈夫だから!」

 

 頬を紅潮させたマサルに熱でもあるのかとズイと近づいてくるフィオ。そんな彼女にマサルは慌てて、自身は大丈夫であると伝えて距離を取る。

 

「そうなのですか? 先ほどまであれほど寒い場所におりましたから、てっきり……」

「大丈夫だよ! ちょっと暑くなっただけだから……!」

 

 そうなのか、と首を傾げるフィオを横目にマサルはどうにか紅潮を抑えようと「僕は紳士、僕は紳士」と内心で唱え続ける。果たしてそれが功を奏したのか、彼の顔色は数分で元に戻ったのであった。

 

 頬の熱が引いたのを確認した後、マサルは誤魔化すように咳払いを一つ。フィオにそろそろ街の中に入ろうかと提案する。

 

「んんっ! ――えと、それじゃあエンジンシティに入ろうか。いつまでも城壁内(ここ)にいても仕方ないしね」

「そうですね。そろそろ参りましょう!」

 

 マサルの提案に賛成したフィオ。彼女はマサルの後に続いて街に入ろうとして……

 

 

――…………オォーース…………!

 

 

「――えっ?」

 

 どこかで(いなな)きが木霊した。

 

「? どうしたの?」

「ああ、いえ。その……どこからか(いなな)きが聞こえた気がしまして」

「"(いなな)き"?」

「はい」

 

 フィオ曰く、吹雪の向こうから何かの高らかな(いなな)きが聞こえた気がしたのだとか。そこでマサルも耳を澄ませてみるが、聞こえてくるのは轟々と風の唸る声だけ。フィオの言う(いなな)く声など全く聞こえなかった。

 

「うーん、僕には聞こえないなあ……」

「――そう、でございますか……」

 

 自分には聞こえないというマサルの言に、自分の気のせいだったのだろうか、と思うフィオ。彼女はもう一度聞こえないものかと耳を澄ませてみるも、残念ながら再び(いなな)きを聞くことは出来なかった。

 

「むう……。確かに聞こえたと思ったんですが……」

「多分、この吹雪の音と聞き間違えたんじゃない?」

「そうなのでしょうか……?」

「うん、それに今日は色々あったからね。きっと疲れて幻聴が聞こえたんだよ」

「――そう、ですね。それに慣れない土地で少し緊張していたのかもしれません。申し訳ありません、マサルさま。突然変なことを言い出してしまって」

「気にしないで。――さ、エンジンシティに入ろう。ここも少し寒くなってきたし、それに人も待たせるしね」

「――はっ! そうです、お待たせしている方がいるのでした! こうしてはいられません! 急がなくては!」

 

 先の嘶きは気のせいだと結論付け、フィオはエンジンシティへと駆けていく。目指す先はエンジンシティ駅、目的の人物も首を長くして待っていることだろう、早く合流しなければ、と思いながら。

 

 

 猛る吹雪を引き連れて、白き王馬(おうま)は荒野を駆ける。

 地砕く馬蹄を響かせ、天高く嘶きながら。

 

 ――何処(いずこ)何処(いずこ)。主は何処(いずこ)に……。

 

 失った主を探して、どこまでも。




???「おうゴラァ、どこ行ったんじゃワレェ!」

・フィオちゃん
 ヒロインムーブをかまして思春期男子をドキッとさせる系のロリ。なお、本人にその自覚は一切ない模様。
 現在絶賛徘徊中のおうまさんの声を聞きつけるも残念ながらこれをスルー。愛馬はカンムリ雪原にいると思ってるからね、仕方ないね。

・マサルくん
 ガラル紳士を自称するお年頃男子。美少女の笑顔に思わずドキリ。
 だが残念、フィオちゃんは既にバドレックス様ルートが確定しているんだ。

・バドレックス様
 愛馬とニアミスするもボール内にいたためスルー。とはいえ、今再会したところで御す方法が無いので仕方ない。
 ちなみに「野生ポケモンに襲われない」くだりでバドレックス様が語った内容は本当。よっぽどの暴走状態か信頼するトレーナーの指示でもなければポケモンがバドレックス様とその加護を受けた存在を襲うことは無い。実はポケモンだらけのカンムリ雪原でフリーズ村がポケモンたちに襲われないのもバドレックス様の加護が残っているからだったり。で、それ以外の集落はバドレックス様の力が失われて加護が消えた結果、ポケモンたち襲撃を受けて村が維持できず消滅したという裏設定。

 豊穣の王は慈悲深き神、『畏怖』されども『恐怖』されることはないのだ。

・"まっしろあばれんぼう"
 厳冬の具現。荒ぶる冬の化身。太古の時代、カンムリの地に君臨したという白い暴君。
 かつて豊穣の王に調伏され、その愛馬となったという伝説のポケモンの片割れ。永い時を経て王が力を失った後は、その許を離れ再びカンムリの地を好き放題荒らし回っていた。
 しかし、その傍若無人な振舞を疎んだ聖剣士たちによってカンムリの地を追われ、現在はガラル各地で畑を荒らす厄介者となっている。
 自らの縄張りにかつての主の気配を感じ、急いで駆けつけるものの再会は叶わず。

 主従を繋ぐタヅナは今は無く、失われたキズナが再び結ばれるのは――まだ、先の話。

 ※ちなみにワイルドエリア内に野生ポケモンが出てこなかったのはコイツのせい。現在、ワイルドエリアはコイツの縄張りの一部となっており、不用意に姿を見せるとボコボコにされるため、気配を感じたらすぐに隠れるようになっている。なので今回のことはワイルドエリアのポケモンたちからしてみれば、自分達の町内にガチガチに警備を引きつれた王族と近所で有名なヤクザが同時に現れたようなもの。そりゃ家に篭って大人しくしている。
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