追撃してくる『ドリルモグラ』はホバートラックの推測通り四体で、しかも後からこれまた新型が続いていた。
『パン屋』が『ローパー』『パンダ』『カクガリ』と渾名した機体群は、奇想天外な姿のマシンばかりが並んでいたが、そのほとんどは二つの理由から、H11の敵ではなかった。
その一つは、それらのマシンがことごとく地上用、しかも近接戦特化どころか、掘削用、打撃戦用など、完全に特定の用途に特化した機体であったこと。
いま一つは、有り体に言ってしまえば、動きが鈍かったということだ。
初見こそ虚を突かれて苦戦したものの、手品は種が割れてしまえばどうということはない。明らかにアンバランスな、試作型どころかおそらく実験中の機体。それを扱うパイロットもあまりにも稚拙。新兵……? いや、ともすればパイロット訓練すら受けていない人間が搭乗しているのではないか。そう感じるほどに、その珍妙なモビルスーツ群は脆かった。
加えて、大きな疑問があった。
ザクが、来ないのだ。
ザクだけではない。大型のヒートソードを持つザクもどき(MS-07『グフ』)やスカート付き(MS-09『ドム』)といった実戦向きの汎用モビルスーツが、キャリフォルニアベースに侵入して以来、一度も姿を現していないのである。
「こりゃ、まともな戦力は本隊迎撃に回ってんのかね?」
苦もなく『パンダ』を腕のロケット砲ごと切り裂いて沈めた『パン屋』が推測を述べた。実際、ここまで基地防衛が脆弱となると、ジオンの決定的な戦力不足を疑わざるを得ない。
「疑念は妥当だが、そうであれば好都合だ。迅速に『ビルダー』を確保し、撤収するべきだ」
『若』のその指示ももっともであり、かくして第四小隊と合流した自分たちH11火事場泥棒戦隊は、キャリフォルニアベース深奥にまで浸透したのである。
*
「これが、『ビルダー』か」
一際背の高い倉庫の中に、それはあった。
巨大な……さしわたし10メートル近くもある、アーモンド状の装置。横腹には無数のケーブルが繋がれ、その上にはジオンの国章とジオニック社の社章が並んでいる。『山猫』の言っていた通りの外観だ。
周囲には冷たい靄が漂っている。冬の倉庫の中は冷え込んでいるのが当たり前ではあるが、これは行き過ぎだ。おそらく、このアーモンドの中には極めて強力な冷却機が内蔵されているのだろう。
「
首無しのジムから身を乗り出して、第四小隊の二番機パイロットがホバーに向けて怒鳴った。戦闘で頭部のメインカメラとスピーカーを失ったため、機体から声を出すのに苦労しているようだ。
「今のところ味方のジム以外にモビルスーツ駆動音なし。トラックらしい音紋は移動中。さっき追い払った連中が脱出してる感じです」
「なら今のうちだな。おい『ブービー』、解体作業やっとけ」
ジムの首がないので、自分の顎をしゃくって指示してくる。元々印象の良い同僚ではないのだが、成績がどっこいの相手に『ブービー』呼ばわりされる筋合いはない。内心で奴のことを『首無し』と呼ぶことに決めつつ、自分はジムを『ビルダー』の側まで近づけた。
ジムを膝立ちさせてハッチを開ける。こういう作業では、モビルスーツのモニター越しよりも肉眼で見た方がいい。双眼鏡の測距儀で筐体のサイズを大雑把に測定する。
「……コンテナに入れるには微妙に大きいですね。ケーブルを全部外して、ギリギリかな」
「できればサーバシステムをそういう運搬はしたくない。輸送機に突入させて搬出が理想だが……」
「うちの腕利きのミディアは余所に持って行かれてますからね。もうちょっと戦線が安定しないと」
ホバーから降りて『ビルダー』を見上げる『若』の注文に、頭を掻く。H11にはこういう突入作戦を得意とする輸送部隊もいるのだが、今現在、彼らは第一部隊……というかその隊長機が単独で遂行する特殊作戦に参加している。第一小隊の『パン屋』と『優等生』が第四小隊の作戦に参加しているのも、その辺の事情だ。
控えの輸送部隊も無能ではないのだが、いかんせん経験も度胸もエース部隊とは格差がある。無理をさせて無駄死にを出すよりは、作戦を堅実な方向に調整する方が妥当だ。
「すると、本隊がもうちょっと浸透するまで現状維持ってことになるか……大丈夫かな」
ジオンの倉庫を漁って装備は補充したものの、さすがにここで防衛陣を敷くには手札が不安だ。第四小隊と合流して頭数は倍になったが、弾薬が乏しいことには代わりなく、しかも戦闘で二番機が『首無し』になっている。
当人は『メインカメラがないだけで問題ない』と言っているが、視差測距ができないようではM粒子下での射撃戦はできないものと思っていい。
そんなわけで、現在『ビルダー』倉庫に侵入しているのは、『首無し』の二番機と、自分のジムの二機。そして指揮車であるホバートラックだけだった。他のジムは皆屋外で警戒に当たっている。今の所の戦力でもっとも効率的な配置をしていると言えるだろう……『首無し』と同格扱いはいささか遺憾ではあるが。
「で、これが割れて新作のザクが出てきたりするのか?」
「あ、そんなお菓子あったわね。チョコレートが割れたら玩具が出てくる卵みたいなの」
気を取り直そうとした自分の冗談に、ホバーから降りて周囲を物色していた『山猫』が乗ってきた。
「これはあくまで『ビルダー』の頭脳部分だ」
『ビルダー』のコンソールを弄り回しながら、『若』が自分達の冗談交じりの勘違いを訂正した。背後に立つ護衛の男共々、見た目通りの生真面目さである。
「実際に製造を行う工作機械やプリンタは……おそらくこのケーブルの先に繋がっている。あっちはおそらく冷却機の換気装置、こっちは電源に繋がっているな」
『若』の言葉に従い、視線をケーブルに沿って巡らせる。天井に向けて立ち上がったエアチューブや電源ケーブルは、梁に沿って左右の別施設へと伸びている。20メートルほどもケーブルを持ち上げるのはさぞ億劫だったのではと思うが、考えてみればモビルスーツを使えばどうということもない。
ジオンの施設の天井がやたら高い――モビルスーツで出入りできるサイズのものが多いのも、おそらくはモビルスーツの作業性を活かすためなのだろう。いずれ、連邦の施設も同じように、20メートル級の施設がスタンダードになっていくのだろうか。
「この装置一つで製品ができる訳じゃないのね」
「いつかはそういうものも作られる時代も来るかもしれないが、今の所は夢物語だな」
なぜか、『ビルダー』が割れてビームライフルが出てくるイメージが脳裏を過ぎった。
「それに装置のキャパシティに縛られていては物作りの幅が狭くなる。スタンドアロンで動作できることには価値があるだろうが、それでも外付けの出力装置との連携をやめることはないと思うがね……よし、システムが止まった」
『若』の宣言と同時に、『ビルダー』の唸りが止まった。
実際には、頭脳部分が冷え切るまでもう少し冷却機を動かす必要があるらしい。強引にサーバーを引き剥がすと、冷却が止まって『ビルダー』本体の量子計算機が溶解してしまうおそれがある……とは作業に取り掛かる前の『若』の解説である。
「じゃあ、後は冷却を待ってケーブルの取り外しか」
「そうなる。量子演算機が冷えるまでだから、10分もあれば充分のはずだが」
10分。適当に天井のケーブルでも数えていれば過ぎる時間だが、敵基地のど真ん中で無為に過ごすには長い時間だ。
そう考えたのは自分だけではないようだった。『山猫』はホバーに背中を預けて手元のスマートを眺めて思案していたが、やがて何かに確信を得られたのか一つ頷いた。
「それじゃ、その間にちょっと副業しておこうかしら」
「副業?」
「ス・パ・イ」
怪訝な顔の車長にわざとらしく言葉を切りながらウインクして見せる。なるほど、今なら追加の金蔓になりそうな情報も仕入れられるだろう。『山猫』の渾名は伊達ではない。
困り顔の車長に、『若』が溜息をひとつ吐き出した。
「こちらから行動を制限する権利はないが、あまり変なものに触らないことだ。この施設からは出ないように」
「わかってますよ、『若』様。……誰か付いてきてくださる?」
『若』の溜息がもう一つ重なった。
「……やれやれ。おい、頼めるか?」
「良いのですか、『若』」
「首輪がなければ東海岸まで飛び出しそうだ。こちらの護衛はモビルスーツもある」
「……了解しました」
巨漢の手を引いて、『山猫』は歩き出す。施設の地図はスマートに入っていたのだろうか、その足取りは淀みがない。巨漢の護衛を引き連れ、そのまま彼女は施設の奥に消えていった。
――と、思ったら、『ビルダー』が冷え切る前に戻ってきた。
「ちょっと、大変!」
自分達が『ビルダー』のケーブルの取り外しに取りかかった瞬間に戻ってくるとは、思いもよらなかった。いくら何でも早すぎる。
「どうしました、伏兵でも?」
「それどころじゃないの。施設の外接端末見てきたんだけど、大変で」
息咳きって駆けてきた『山猫』が、護衛の巨漢が差し出した水を飲み干し、大きく息を吸い込んで。
そして、一気に吐き出したのだ。
「赤警報、出てるのよ! 内容は核攻撃! 場所はここ、キャリフォルニアベース!」
■現時点で公開可能な独自解釈
▼ビルダーから出てくるビームライフル
特に語ることはない。夢物語のような時代(AGE)の光景である。
▼MSM-04N アッグガイ
『パン屋』によって『ローパー』と命名されたもの。言うまでもなく触手のようなヒートロッドが由縁である。
カリフォルニアベースで開発されるも、ジャブロー攻略戦では使用されなかった特化型MS。『ビルダー』によって提案され試作されたものの、実用に難があると判断され、倉庫で眠っていた。
▼MSM-04G ジュアッグ
『パン屋』によって『パンダ』と命名されたもの。正確にはレッサーパンダを意図したものだが、些細な違いである。
キャリフォルニアベースで開発された砲撃支援型モビルスーツ。ジャブロー攻略戦で使用される予定が、使用されないままお蔵入りしたのは他の特化型MSと同じ。
ガンダムUCでは砲塔でビームサーベルを受け止めていたが、これは腕部砲塔をビーム砲に換装したため砲身にビーム収束用のIフィールドが展開されているものと考え、一年戦争当時のモデルではヒートホークを受け止める性能はないものとした。
▼MSM-08 ゾゴック
『パン屋』によって『カクガリ』と命名されたもの。頭部に並ぶブーメランカッターを見ての評価である。
カリフォルニアベースで開発されるも、これまたジャブロー攻略戦では使用されなかった特化型MS。格闘戦に特化しているが、いくら強靱に作ったとしても素手での格闘戦はマニピュレータがもたないという当たり前の結論から、お蔵入りした。
後にUC0096のトリントン基地襲撃においてはヒートソードを装備したモデルが活躍した。