「……ッ!? 何だ、こりゃ……!!」
自分のジムがその場にたどり着いたとき、そこには目を疑う光景が広がっていた。
最初に目に飛び込んできたのは、『首無し』のジムだった。仰向けに倒れ、全開のハッチの中は真新しい鮮血に染まっている。
『首無し』のジムは、全身に銃弾を浴びていた。おそらくはザクマシンガンと同等の弾丸が、至近距離から雨あられと撃ち込まれている。
そして、不可思議なのはここからだ。『首無し』のジムの周囲には、濃褐色のモビルスーツが五機、”群がっていた”。機動兵器の表現としては相応しくないかとも思ったが、そう形容するのがもっとも適切だと感じたのだ。
機体は、おそらくジオンの水泳部の一種(MSM-04『アッガイ』。この時点では自分は固有名を知らないが、便宜上アッガイと呼称する)であろうと思われた。断言できないのは、それらが水中用MSにしては珍しく、すべてが腕に火器を装着(保持ではなく。手で握っていない)しているからだ。
そして何より異様であるのは、その挙動。それらは全てが『首無し』のジムを取り囲み、高速で屈伸運動を繰り返していたのだ。
何かの宗教儀式だろうか。ひたすら屈伸を繰り返し、思い出したようにマシンガンで『首無し』のジムを撃つ。なるほど、全身の弾痕はこれのためか。このアッガイ達は、『首無し』のジムが倒れた後、動かなくなってから銃弾を撃ち込んでいるのだ。
「なんだこいつら、意味がわからねぇ……」
『首無し』……いや、デルタ2と呼ぼう……がもう死んでいるのは明らかだ。もうパイロットのいないモビルスーツを撃つことに意味はない。弾薬の無駄、時間の無駄。銃声で他のモビルスーツが集まってくる可能性を考えると、何一つとしてメリットがない。
自分が接近したことで、アッガイの群れは屈伸を止めた。またも、反応を考えあぐねてでもいるかのように、棒立ちで自分を観察する。それは、モノアイがぎょろぎょろ動いて、自分の方向を向いて停止したことから見ても明らかだ。
不気味さに気圧されて、一歩、機体を退かせてしまった。
――瞬間、アッガイは一斉に動いた。
統率されてはいないが、筋道の通った動きに見えた。指揮している何者かがいるわけではなく、それぞれが個別に、己の論理に従った動き。相手が気圧された、あるいは脅威としての動きを見せたことに反応した動き。
――まるで、野生動物のような動き。
もちろん、それはただ飛びかかってきただけではない。やけに体躯に対して巨大なマシンガンを乱射してきたかと思うと、逆腕に装備された『直立カニ』に類似した大型の鉤爪を振り上げてくる。まったく同じモーションで一斉に襲いかかってくるその姿は、何かの悪夢のようだ。
「クソ、速い……じゃない、近い!?」
接近されて、違和感の正体がわかった。機体が表示している敵機との距離よりも、実際の距離が近い。おおよそ半分か、三分の二くらいだろうか。そのため、敵機が飛びかかってくる速度が体感で倍近くになっている。
さては、またか。早朝に遭遇した偵察機もそうだが、モビルスーツのOSは形状から機体が特定できた場合、実際の観測データよりも記録されている諸元を優先する傾向がある。それを補助・修正するためにあるのが頭部の視差測定カメラだが、これは誤差が発生しやすく、信頼できる数値を出すまで時間がかかるのだ。
「諸元修正! 視差測定を優先に切り替え!」
音声入力でモードを切り替えると、敵機のステータスが一新された。
全高、12メートル。
「ちっちぇえ!?」
鉤爪からサイドステップで身をかわしつつ、驚愕を吐き捨てた。
モビルスーツの標準的なサイズは18メートル。これはおそらく人間をそのまま十倍に拡大させたのが始まりであろうと言われているが、実際のところジオンが開発した新型小型核融合炉によって決定されているらしい。モビルスーツに搭載できて、出力的に十分な性能を発揮できる最適なサイズが、この18メートルという数字なのだという。
だが考えてみれば、動力の問題さえクリアできるなら、小さいモビルスーツを作れないわけではないのだ。そして、小型であろうとも、通常機と同じ武器を使えば、同じ攻撃力を発揮することができる。
「クソッ、はしっこいし、数が多い……!!」
プチアッガイ(と呼称することにする)は小型とはいえ、火力的には五機のモビルスーツを同時に相手をしているのと変わらない。
間断なく飛びかかってくるプチアッガイに反撃を試みるが、数が多すぎて武器を照準している余裕がない。モーションが単調であること、そして乱戦になると射撃の手が緩むことから、まだどうにか対応できているが、既に全身の被弾量は馬鹿にならない。
ああ、なんてこった。どうして自分は、こんな相手に180ミリなんて長物を持ってきてしまったのか!
射線から逃れようと機体を走らせる背後で、爆音と銃声が轟いた。あれは、ミディアの方向だ。あちらにも、このプチアッガイが襲ってきたのだろうか。救援要請を示す信号弾は、ホバーから打ち上げられたものだろうか。
早く片付けて、合流しなくては。だが、可能なのか? 相手は小型機とはいえ、一対五。通常であれば負け確定、最良でも援軍待ちの遅滞戦術が精一杯の状況だ。
第一小隊の『パン屋』や『優等生』が合流してくれるのが期待できる最良の展開だが、果たして間に合うのか。
――散った思考を責め立てるように、警告音がコクピットに鳴り響いた。
見れば、鉤爪を振り上げたプチアッガイの一体が、右の脇腹のあたりから跳ね上がってくる。
回避できない。これは致命傷になる。
そう思った瞬間、砲を持ったままの右腕を振らせていた。
「くっ、らぁぁぁぁぁ!!」
――砲が、激突した。
炸薬の爆発力を封じ込めて弾丸を射出させる構造は、言うなれば鋼鉄の棍棒だ。もちろんモビルスーツ相手には致命傷にはならないが、牽制の役には立つ。
くらいに、思っていたのだが。
砲身が激突したプチアッガイが、くの字型に折れた。
比喩ではない。本当に砲身を軸にへし折れたのだ。
180ミリの折りたたみ式の砲身が、ロックが壊れて二つに折れた。もう使うことはできないだろう。目に見えて、砲身が曲がっている。
そして、へし折れながら転がったプチアッガイは、地面に叩きつけられたかと思うと、火花を散らして破裂した。あれは、おそらくはバッテリーの化学発火だ。
そこで思い至った。あれはモビルスーツの技術を応用して作られたものだが、必ずしもモビルスーツと同等の性能を発揮しているものではない。
小型化するということは、装甲、そして構造材も薄くなるということだ。12メートル級ということは、通常のモビルスーツの2/3程度の装甲厚しかないということにもなる。そして装甲の強度は、材質が同じという前提においては、厚さに対して一次関数的に比例しない。
――脆いのだ。根本的に。
「――――っせぇっ!」
だから、とっさに振り抜いたビームサーベルがかすめただけでも胴体を切り裂かれ、機能不全に陥るし。
「みっつめっ!!」
予想通り一回で動作不良を起こしたビームサーベルを投げつけられた衝撃で、動きが止まる。
モビルスーツという兵器の長所は数多くあるが、ひとまずは戦車を超える大質量の装甲を、戦車を超える機動力で運用できることだ。それを成立させるために、新型のミノフスキー・イヨネスコ型核融合炉の存在がある。バッテリーで駆動させることも可能ではあろうが、少なくとも現在の技術で、核融合炉を超える効率で動かすことはできない。それができるなら、MI式核融合炉の登場前にモビルスーツが出現している。
ではどういうことなのかと言えば……このアッガイは、モーターが弱いのだ。モーターは全体の傾向として、大きい方が強い。小型化は可能だが、同じ技術で作るならば、そして同じ電力を消費することを前提とするならば、大きい方が強いに決まっている。
――だから、動きが止まった隙を狙って、このように質量に任せて踏みつければ、抗うこともできない。
くしゃり、と機動兵器らしからぬ軽い音がして、プチアッガイの胴体が潰れた。
「あと、二機か」
使い物にならなくなった180ミリを捨てようとして、砲身に添えられたバイポッド支持棒に気づく。おあつらえ向きの強度がある、それなりの長さの棒だ。
「張りぼてをぶん殴る程度には、使えるだろうよ!!」
支持棒をもぎ取り、警棒よろしく握りしめた。
結果、宣言通り。
自分は”バイポッド支持棒による撃墜記録”という、説明し辛いスコアを二つ得ることとなった。
▼MSM-04TB アッガイ(タイニー・ボーン)
通称プチアッガイ。タイニーボーンとは「小さく産まれた」という意味である。
MSM-04をダウンサイジングして開発された、史上初の12メートル級戦闘用モビルスーツ。ジャブロー攻略戦のために、狭隘なジャブロー都市部での市街戦を想定して作られている。
比較的戦争の初期段階で開発されたもので、その時点では連邦軍の量産型モビルスーツの存在は想定されていなかった。ゆえに、本機は対モビルスーツ戦ではなく、基本的には破壊工作と戦車および対人戦闘を行うことを想定している。
原型機のMSM-04がザクに水中戦機能を付加するというテーマで作られたものであり、ザクの構造をそのままシンプルに詰め込まれていたため、内部構造に余裕があった。これを融合炉を排して大型のバッテリーを搭載、コクピットブロックの小型化を施すことで、原型機に比べて2/3ほどのサイズに縮小することに成功している。(なお、アッガイ自身にも頻繁な再設計によってサイズがまちまちなモデルが存在した模様)
小型化の結果、内蔵火器の多くは装備不能となっている。両腕を短銃身化されたザクマシンガンやドップの機銃、対戦車ロケット砲など、他の兵器の流用品に換装することで戦闘を行う。バッテリー駆動の代償として極めて稼働時間が短く、かつビーム兵器の運用は不可能。装甲も2/3どころか半減しており、通常のモビルスーツとの格闘戦になった場合、触れられただけで破壊される危険性すらある。
また、操縦席が当然のように小型かつ窮屈で、普通の体格のパイロットでは操縦が困難。試験中の事故による負傷・死亡者の多さと、連邦軍がモビルスーツの運用を開始したこともあって、人間が使用する兵器としては採用されずお蔵入りした。
傷痍兵や少年兵を搭乗させることも検討はされたようだが、さすがに廃案となった。
MSM-10『ゾック』の運用プランのひとつ『モビルフォートレス構想』において搭載機として使用するプランもあったが、実現しなかったようだ。
これ自体はほぼ失敗作の烙印を押された機体だが、ビスト財団経由でアナハイム・エレクトロニクスにデータが渡り、プチモビルスーツやミドルモビルスーツへと技術が転用。この機体の子孫が一千万機以上生産され、民生市場を席巻することとなった。
そして小型融合炉が誕生したUC0110年代以降には、この機体の基礎設計を引き継いだ小型モビルスーツがサナリィで開発されることとなる。
▼中折れ式180mm滑腔砲
RX-79[G]が使用していたものの発展型。重装甲の水陸両用機が出現し、対装甲装備としての砲が必要になったため、取り回しを改良したモデルが急造された。
RX-80PRペイルライダーが装備しているものに近い中折れ式で、コンテナの中に収納できるのが特徴。しかし嵩張るという事実に変わりはないので、二つ折り状態でコンテナの側面にホールドすることの方が多い。
取り回し全振りで完成度が低く、威力も命中精度もRX-79[G]のものより劣る。発射時のブレが大きいため、バイポッドの使用が推奨される……が、携行性の高いバイポッドの開発が間に合わず、もっぱら盾をバイポッド代わりにして使用された。
盾をバイポッドにする際、高さ調整を行うためのアタッチメントも存在したが、実際に使用された記録は、『少尉』による打撃武器としての利用のみである。