UC0087、11月。
反連邦活動の制圧を大義名分とした『ティターンズ』により、地球連邦が牛耳られてから数年が過ぎた現在。
エリート部隊であるティターンズにはお呼びもかからない落ちこぼれの自分は、紆余曲折の果てに、反地球連邦組織『カラバ』に参加していた。
カラバはかの
その『館長』のディレクションにより、自分たちカラバのモビルスーツ部隊は、クソのような戦場で、陣地確保を余儀なくされていた。
ここは、キリマンジャロ。地球上でティターンズに残された、最後の有力拠点。
ティターンズ創設者にして指導者たるジャミトフ・ハイマンを捕縛するべく、カラバとティターンズの一大決戦が繰り広げられている場所だった。
※
「『少尉』! 陣地ビーム砲台こっち向きました!」
別に自分の指揮下と言うわけではないのだが、MSK-003『ネモ』を操るカラバのMSパイロットが、自分に向けて悲鳴を上げた。
「余所見するな、バカ!」
ネモの兵士を押しのけ、盾をかざして砲台との射線に割り込む。盾の向こうで砲台が煌めき、大出力のメガ粒子砲が、自分のネモシールドで弾けた。
自分のネモにも、背中の装備にもダメージはない。昨今の耐ビームコーティングはつくづく大したものだ。
「砲台が相手なら機動戦はない、射線に盾をおいておけば死にはしないぞ!」
「は、はいっ!」
自分の指示通り、怯える兵士は盾を砲台に向けて身を隠す。
再びビームが盾ではじき散らされるのを見届けて、自分は周囲に視線を巡らせた。こういう仕事は本来自分の領分ではなかったはずだ。
「隊長どこいった! 中尉の奴!」
「さっき流れ弾で落とされました!」
「くそ! ……ってことは俺がこん中じゃ一番ベテランか!」
「どうしましょう、『少尉』!?」
そう言うお前も少尉だろうに、そんな泣きそうな声で縋られても困る。こちとら隊長経験などないのだ。
もっとも、実際のところ連邦軍の中で、試作型の
仕方ないので、尊敬する隊長達のムーヴを参考に、現況を確認した。
戦況はきわめて不本意ながら、古式ゆかしい要塞攻略戦の様相を呈していた。
雪で覆われた山岳地に身を隠したティターンズの砲台とモビルスーツ部隊に対し、カラバはモビルスーツによる特攻作戦を仕掛けている形だ。
一応作戦目的はモビルスーツ部隊の足止めと、脅威度の高い砲台の排除なので、無理に戦線を押し上げる必要はない。しかし戦線を構築しているだけでも、うっかりするとすり潰される程度の火力で迎撃されている。
一方こちらの部隊は要塞を攻略するための決め手に欠けており、本命の攻略部隊が砲撃位置に移動するための時間を稼いでいる状態だ。防衛側としてはモビルスーツ部隊で自分たちを突破し、要塞攻略部隊を駆逐したいところであろう。
迎撃に、ティターンズで流行りの
ならば、こちらのやるべき事は、確実に戦線を維持することである。
「盾持ちを前へ! ビームに曲射はない! ビームコートを信じて進め!」
「しかし、これじゃ保ちません! 実体弾も混ぜてきてます!」
「C隊とD隊でデータリンクしろ! 実体弾の砲台のポイント出せ! こいつで撃ち抜く!」
実弾の砲台は、今回の作戦の優先破壊目標だ。それをガードの上から撃ち抜くための砲は、自分の機体に預けられている。
ジェネレーター搭載型の長距離用ビームカノン。宇宙でエゥーゴが使ったらしいメガバズーカランチャーに類する、外付けの大型メガ粒子砲だ。
何でも、エゥーゴはサブフライトシステムと大出力ビーム砲を兼用する装備の開発をしており、こいつはそのビーム砲部分のみのプロップモデルらしい。高精度照準用の強化型カメラも頭部に装着しているが、これも本来は砲に統合される予定だとか。
かつて180ミリだの何だのを振り回していた経験から、「長物はお前向き」と自分に押し付けられた物だが……。
「座標確認! 実弾砲台三基、ビーム砲台六基、『ガンタンク』が二機!」
「くそっ、タンクも残ってたか! 仕方ない、後ろの観測機を潰せ!」
ガンタンクは旧式ながら、その装備する砲の性能は現在においても脅威だ。実弾砲台よりも脅威度は高いと判断するべきだろう。
ガンタンクや『ビッグトレー』級陸上戦艦が砲撃する際、防衛陣地には距離を確定させるためのレーザー観測機が設置される。赤外線による測距も攪乱されるミノフスキー影響下の砲戦では、視差観測とこの観測機からのデータが頼りだ。
レーザー観測機は非常に小型で、トランク程度のサイズで機能する。しかし数がなければ機能しない上に、砲台に対して信号を送る必要がある以上、全ての観測機は砲台に対してちかちかと発光し続けなくてはならない。
つまり、戦線を押し出しさえすれば、発信されているレーザー通信を辿り、観測機の位置を特定するのは簡単だ。そしてそれが可能なように、モビルスーツのカメラと火器管制システムは調整されている。
自分の指示に従って、味方のネモやジムが後方に機銃を撃ち始めた。これでミノフスキーによる電磁波攪乱の効果とあいまって、砲台からの測距は大幅に精度を落とす。
「よし、『ド・ダイ』で上がる! 支援頼む!」
「り、了解!」
指示を下し、バックパックに直結されたビームカノンをドライブさせながら、地面に伏せさせていたド・ダイに飛び乗った。
「ビームカノン、フルチャージ。貫通モードに設定」
コンソールを叩き、モードを切り替える。
ビームカノンは直線にしか投射できない。実体弾のような曲射はできないため、標的に対して確実に直線を確保する必要がある。
そして、現在の実弾砲塔の多くは、その曲射の強みを活かすため、塹壕のような窪の奥に設置されている。(逆に言えば、現代のビーム兵器を擁するモビルスーツに対し、固定砲台は射程が勝っている間しか活用できない脆弱なものになっている)
故に、固定砲台をビームで破壊しようと考えると、高所を確保し、撃ち下ろすしかない。
故の、貫通モード。故の、ド・ダイによる高度確保である、が。
味方の弾幕に紛れての飛翔ではあるが、高度を上げるということは、当然格好の的と言うことであり、鈍重なゲタの上では満足な回避もできないのは当然のこと。
自然な帰結として、火線が自分のネモに集中した。
「んなろっ……!」
やや前傾姿勢で浮上し、盾で機体と足場をカバーする。ビームの集中砲火を浴びるが、ド・ダイの装甲とネモシールドのビームコートは馬鹿にしたものではない。そして、実体弾は観測機を潰して測距を甘くすれば、そうそう飛行するモビルスーツに当たるものではない。
機体を空中でフリップさせ、敵の照準を惑わせる。そして安定を取り戻したタイミングで、計算通りビームカノンが警報を発した。射撃準備完了。
「チャージ完了っ! 高速射撃、照準アルファからドイツまでフルオート!」
別に音声入力というわけではないのだが、操作ログを取っていた時の癖で、アクションを口に出した。
言ったとおりフルオートであるから、ネモはビームカノンを自動で発射する。
自動照準があてにならないのは、相手が動き、距離が曖昧だからだ。相手が動かず、距離が確定しているなら、モビルスーツの自動照準が標的を外すわけがない。
四連射されたビームが、狙い過たず壁面に埋もれた砲台を貫き、ついでに物陰のガンタンクを火柱に変えた。
「四つ! あとひとつは……つぅっ!?」
最後の獲物を探して閃かせた視線と、物陰のガンタンク砲から迸る火線が交錯した。
とっさに機体をリフティングさせたのが功を奏した。ド・ダイの分厚い底面装甲に榴弾が直撃する。この状況で、飛行状態のモビルスーツに実弾を当てるとは、あのガンタンクはいい勘をしている。
いや、賞賛している場合ではなかった。土台のド・ダイが火を噴いた。
安全装置が働き、足先のロックが外れる。臑裏のバーニヤを吹かしてド・ダイを蹴り飛ばし、空中に躍り出た。そして爆発したド・ダイの噴煙に紛れ、落下しながら照準を定める。
位置は概ね把握しているが、相手がガンタンクならば発射後移動していると考えるのが妥当だ。視界が晴れ、相手を捕捉するまでの速度の勝負となる。
距離、よし。射線、たぶんよし。姿勢は一瞬ならばネモの推力でも安定させられる。噴煙が途切れる瞬間を狙い、精密射撃モードのまま落下する。
そこで思い至り、とっさに右向きのバーニヤを全開にした。
「――――ッ!!」
直後、噴煙を吹き散らし、榴弾が機体の側を通過した。近接信管が作動し、空中で弾頭が炸裂する。
爆風で煽られた機体の手綱を引き絞る。つくづく、相手は良い勘をしている。噴煙の位置から盲目撃ちで撃ち込んできた。
おそらくあのガンタンクは前大戦の生き残りの手練れだろう。とっさに回避運動を取らせなければ、直撃を浴びていた可能性が高い。
だが、位置は知れた。
噴煙が途切れ、姿勢を安定化させた瞬間。おおよそ予想通りの場所に、遮蔽の陰に移動中のガンタンクの姿を捉え。
「――悪いな、ご同輩」
トリガーを引き絞り、ガンタンクをビームの光で消し飛ばした。
※
「実弾砲台とガンタンク、片づいたぞ! 信号弾上げ!」
「了解です、『少尉』!」
怯える少尉のネモが打ち上げた信号弾が、視界と着地する自分のネモを緑色に染めた。(もっともネモは元々緑色である)
身をかがめ、ビームカノンをバックパックに戻しながら、見上げる。この色は『安全確保』の意味合いだ。要塞攻略部隊が移動を開始する手筈である。
「安全確保、ね……。ずいぶん土砂降りの安全地帯だなぁ」
シールドで、雨霰と降り注ぐビームを受け止めながらぼやいた。仕留めたのはあくまで実弾砲台ばかりで、現在主流のビーム砲台は手つかずのままだ。
ネモシールドが優秀なのは実感したが、いい加減そろそろ耐ビームコーティングがダメになるのではないか。こちらが限界を迎える前に、本命が到着してくれるのを祈るしかない。
「こんな状況で、いったい何が来るっていうんですか! たとえ『ガンダム』が来てもこんなの手に負えませんよ!」
自分ではない方のネモの少尉が、盾を被るようにしながら悲鳴を上げた。
「うるさい、黙って亀やってろ!」
実のところ叱咤する側の自分も、いったい『要塞攻略部隊』がどういう編成であるのか、詳しい話は聞かされていない。普通に考えればビッグトレーなどの地上戦艦だが、こんな高地に持ってくるのは一苦労だろう。実弾砲台を嫌がるということは、Iフィールド搭載機だろうか?
そろそろ本格的にシールドが危うい。多少リスクが高くなろうと、もう一度ド・ダイを拾って砲台を減らすべきか――そんな検討を始めた頃、レーダーが妙な音を立てた。
「――ん?」
聞き慣れない音だった。レーダーが察知した、接近警報であることはわかる。OSが認識した機体に、あらかじめ割り当てられたアラームを鳴らす仕様だが、最近のモビルスーツ戦は変な新型機が次々現れるため、未確認機の接近音はすっかり聞き慣れている。
未確認ではないのに、聞いたことがないような音。とんでもないレア物が、近づいてきているという事になる。
首を180度回転させ、背後にメインカメラを向ける。映像を拡大すると、そこには白い壁があった。
「なんだ、雪煙……?」
それは、吹き上げられた雪の塊だった。何か巨大なものが、それも複数、後方から近づいてきている。
そこでレーダーが判別した識別名を見て、自分は絶句した。
「マジかよ」
自分の呟きを合図にでもしたように、雪煙の壁を貫いて、八条のビームが迸った。
煙を割り裂いて、白黒斑に塗装された、巨大な何かが姿を表す。
映像では見たことがあった。稼働時間はほんの十分ほどだったというが、その間に大量の連邦軍のモビルスーツと艦艇を葬り去ったという、ジオンの恐怖の象徴。
「『ビグ・ザム』……!!」
その恐るべき巨影が、実に八つ。
Iフィールドで降り注ぐビームを弾き散らし、一方的に大出力のビームで基地を蹂躙していく巨蟹の姿を目にして、自分はこの戦闘が決着したことを悟った。
翌日、ジャミトフ・ハイマンは脱出し、キリマンジャロ基地は陥落した。