或るパイロットの年代記   作:DOH

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UC0087 アデン(3)

 自分達アウドムラMS部隊が到着したときには、アデンの市街地は火の海になっていた。

 

「おいおいおい……マジかよ」

 

 ド・ダイから見下ろす光景に、喉がひりつき、それしか口に出すことができなかった。

 

 黒煙に覆われた市街地は、まっすぐなビームによって二つに切り裂かれていた。

 

 飛び散ったビームの飛沫によって穴だらけになった町並みは、屋内から炎を吹き上げている。都市密度はそう細かくないにも関わらず、焼夷弾でもぶちまけたかのように一面が燃え上がっているのだ。メガ粒子砲の爆発に加え、恐らく追加の砲による攻撃が加えられている。

 

 火力的に、ビグ・ザムの砲しか考えられない。

 

 あまつさえ、数多くの巨大な足によって横断され、踏みにじられている。砲撃を加え、そのままモビルアーマー部隊で通過したということなのか。

 

「大尉、市街地周辺にアデン基地所属MSの残骸を確認。四機分のビーコンです」

 

 自分と同じくド・ダイに乗った『ジムⅡ』が通信してくる。アウドムラ飛行隊に属する僚機だ。パイロットは顔馴染みで、渾名は『信奉者(フリーク)』。『英雄』に対する信者めいた態度からそう言われている。自分と同等のベテランで、階級は自分より上の中尉である。

 

「アデンの飛行隊だな。攻撃されたことで、防衛本隊は基地手前に後退しているはずだ。残党軍を追跡する、続け」

「了解、大尉」

「はいはい、よっと」

 

 指示を言い残して『英雄』のゼータ・プラスが先行した。その後に『信奉者(フリーク)』のジム、そして自分のネモが、それぞれゲタに乗って追跡する。

 

 飛行しながら、装備を確認する。このままいけば、自分達はたった三機でビグ・ザム六機とモビルスーツ六機を相手にする羽目になるかもしれない。

 

 一応、ビグ・ザム相手を想定した装備は可能な限り備えてある。『英雄』のゼータ・プラスは標準装備のビームガンのほか、マウントラッチにクレイバズーカを二丁搭載し、腕には増設のグレネード弾を装備している。完全に対Iフィールドを想定した装備だ。

 

 『信奉者(フリーク)』のジムは、ビームライフルとシールド、それから腰と両肩に光学誘導ミサイルランチャーを装備している。現在急ピッチで仕上げ中だという、ジムのマークⅢタイプのテスト装備らしい。

 

 そして自分のネモは、キリマンジャロの時同様のビームカノン装備型だ。高性能照準器たるゴーグルもそのまま。一応クレイ・バズーカはド・ダイに携行しているものの、これは概ね『英雄』のお代わり用と割り切っている。正直Iフィールド持ちのビグ・ザム相手には向いていないため、もっぱらモビルスーツ相手をすることになるだろう。

 

「……いや、正気か? マジでこの面子でビグ・ザム六機とやり合うのか?」

 

 一応出撃時にもほぼ同じ事を(敬語のオブラートに包んだ上で)『英雄』大尉殿に上申したが、回答は「やらざるを得ないし、やってやれない話ではない」とのことである。

 

「いい加減腹をくくれ、『少尉』。大尉がやれると言うんだからやれるさ」

「その肉厚な信頼どこから生えてんだ、ミスター『信奉者(フリーク)』」

「そりゃ、大尉だからな」

「ああ、はいはい……」

「あとお前、毎度ちょっと気易いんじゃないか、俺は中尉で上官なんだが」

「サーイェッサー、失礼いたしました中尉殿、左をご覧くださいますか」

 

 『信奉者(フリーク)』の苦情をさらりとやり過ごし、ネモの指でも視線を促す。ジムが頭を巡らせれば、そこにはアデン湾中から水柱がいくつか吹き上がっているのと、その水柱の先端から黒い影が三つ飛び出している光景が見えていることだろう。

 

「あれは……」

「M型潜水母艦と、動きが揃ってるからおそらくドム三機。あと二機いるはずのドムと隊長格のグフは後続か、それともビグ・ザムの側かね?」

「どうするつもりだと思う?」

 

 『信奉者(フリーク)』の問いに一瞬思案する。といっても、このタイミングで仕掛けてくるなら考えていることはそう複雑でもないだろう。

 

「俺達の足止めだろうな。万一でもビグ・ザムを失いたくないのと、ジムネモ程度なら三機で十分ってところじゃないか?」

「舐めてくれるな、ジオン野郎が」

「ジオン差別はほどほどにな、身内に睨まれるぜ」

 

 わざわざネモの肩を竦めて見せる。我らカラバも、元ジオン勢力がかなりの割合を占めている。

 

「まっ、言ってられないか。大尉、あっちから歓迎してくれてますが、交戦よろし?」

「この状況――仕方ない。迎撃を――」

「了解。陸戦機を片づけてから合流します。気をつけて!」

「ああ、手早――頼む」

 

 既にレーザー通信が乱れるほど距離が開いた『英雄』のゼータ・プラスからの応答を得て、自分は密かに嘆息した。要求する方としては当然だが、ことは仮にもモビルスーツ同士の殺し合い。しかも相手の方が数で上回るときた。

 

「気楽に言ってくれるよな、大尉殿は」

「秒で片付けるぞ、『少尉』!」

「中尉殿も自信満々でいらっしゃった!」

 

 そして、迫り来るスカート付きを駆逐すべく、ジムとネモは降下した。

 

 

 

 

 射程で上回るのに、これを利用しない手はなかった。

 

「ビームカノンでいく! カバーよろしく!」

「巻き込んでくれるなよ、『少尉』!」

 

 前に出て行く『信奉者(フリーク)』のジムに隠れて、ビームカノンを展開する。バックパックに直結したこれは、バックパック換装型のオプションを備えるネモならではの装備だ。

 

 長距離狙撃モードに設定し、フルチャージ。ミノフスキーが満ちた空間ながら、狙撃用照準器は正確に距離を割り出す。有効射程まで、あと二秒。

 

 息を吸って、吐く。陣形が乱れる前に、ビームのトリガーを引いた。

 

 ビームが閃き、ドムがぱっと拡散した。撃たれることは予想済みということだろう。しかし、最後尾の一機が避け損なったようで、腕を爆発させた。虎の子のロケット砲ごとだ。本体へのダメージも少なくないだろう。

 

 そして、散開した瞬間を、『信奉者(フリーク)』が見逃すはずもない。

 

 ジムⅡがド・ダイを急降下させ、算を乱したドムの先鋒に肉薄する。狙われたドムは手にしたマシンガンで迎撃を試みるが、遅いし、足を止めた段階で、あいつは『終わって』いる。

 

 ドム胸部の閃光ビームが光を蓄える。目潰しに使うために付いているアレだ。接近するジムを牽制しようと考えたのだろうが、判断が遅いとしか言いようがない。機動兵器を操る以上――盾のないドムならなおのこと、足を止めてはならないのだ。

 

 目眩しのビームが光るのと、『信奉者(フリーク)』のライフルのビームがドムを貫く光は、混じり合って区別をつけることができなかった。ついでに、それら全てが、ドム自身の爆発に飲み込まれる。

 

「まずひとつ! ……っとぉ!」

 

 そして、爆発を断ち割るように、中堅のドムがジムの目の前に飛び込んだ。『信奉者(フリーク)』の快哉が裏返る。

 

 ドムが小さく跳躍して『信奉者(フリーク)』のジムに肉薄し、ヒートサーベルを横薙ぎに斬りつけたのだ。先鋒に気を取られた機体を、格闘戦で捉える。悪くないジェットストリームアタックの構えだ。

 

 ――最後に射撃で仕留められる、三手目がいればの話だが。

 

 それがいないのがわかっていれば、ジムはド・ダイをピッチアップするだけで回避できるし。

 

「安易なジャンプは死に体になるんだよなあ」

 

 空中での斬撃は、全身のスラスターを動員して機体のモーメントをコントロールする必要がある。重量級のドムならばなおさらだ。つまり、空中での斬撃のあとは、一瞬だが動きが取れない硬直時間が発生する。

 

 ゆえに、そこに半チャージくらいのビームカノンを撃ち込んでみせれば、もう為す術もない。自分がトリガーを引くと、呆気なく中堅のドムは胴中央を撃ち貫かれ、荒野に墜落して土煙を巻き上げた。

 

 ジェットストリームアタック。地上でのビームスプレーガンやマシンガンが相手なら通用した戦術だろうが、今のMSはジムやネモですら一撃必殺のビームライフルを装備している。耐ビームコーティングが普及して装甲の品質が変われば別だろうが、現時点でのジェットストリームアタックは、先鋒を犠牲にすることがほぼ前提となってしまう。

 

「やはり、残党軍は一年戦争で立ち腐れてるな」

 

 そう感想を呟いている間にも、ヒートサーベルを抜いて逃げ回るばかりのドムを、『信奉者(フリーク)』のジムが撃ち抜いた。

 

 

 

「殲滅完了。『少尉』、すぐに大尉を追うぞ」

 

 三つの噴煙を上げる残骸をあとにして、『信奉者(フリーク)』のド・ダイが高度を上げる。

 

 『信奉者(フリーク)』と言われるだけもあり、一刻も早く『英雄』に合流したいのだろう。さすがにいかな『英雄』とはいえ、ビグ・ザムの大部隊を相手に一人でやらせるわけにもいかない。こちらとしても異論はないのだが……。

 

「最低でもあと三機、いるはずだがな」

 

 周囲を見回す。炎に包まれ陽炎と黒煙に満たされたアデン郊外の市街地は、お世辞にも視界が良いとは言えない。今更味方を見殺しにして奇襲を仕掛けてくる可能性は低いと思うが、戦闘直後で油断している今は、奇襲を仕掛けるなら悪くないタイミングなのも確かだ。

 

 その時、レーザー通信のデータリンク越しに、『信奉者(フリーク)』の悲鳴が飛び込んできた。

 

「うわっ!?」

「どうした、中尉!」

「ゲタを斬られた! くそっ、墜ちる!」

 

 見れば、先行した『信奉者(フリーク)』のジムが、火を噴いて墜落するド・ダイから離脱しているところだった。

 

 そして、墜落するド・ダイを踏み台に、ジムに向けて青いものが迫っているのが、見えた。

 

 ヒートソードを手にした、青いモビルスーツ。MS-07『グフ』系列の機体だ。

 

「シールドッ!!」

 

 そう認識するのと、ビームカノンのトリガーを引くのは同時だった。最低限の警告を発して、離脱する『信奉者(フリーク)』と追いすがるグフの間に、メガ粒子砲を叩き込む。

 

 駆け抜けるビームが飛沫を散らす。前方の空間を灼かれ、グフが全身のスラスターを吹かして離脱した。一方、シールドで身を庇いながら落下するジムは、頭部から火花と煙を噴き上げている。

 

 ――いや待て、あのカメラ、いつやられた?

 

 ド・ダイを降下させ、手を伸ばして着地するジムをピックアップした。機動性は壊滅的になるが、ド・ダイは二機くらいまでならどうにか乗せて飛行できる。つくづく、ド・ダイの原産であるジオンは、何を思って爆撃機にそんな強度と推力を与えたのだか。

 

 ジムの手を引いてド・ダイ上に引き上げる途中、『信奉者(フリーク)』が接触回線で苦情を訴えた。

 

「『少尉』! 助かったが、もうちょっと何とかならなかったのか!?」

「グフに一刀両断されるのとどっちがマシだ? それより、いつカメラを潰された!?」

「シールド越しに抜かれた。『左手』に気をつけろ!」

「『左手』……? 例の指マシンガンか!? アレ使い物になるもんだったのか!?」

 

 思わず声が裏返った。指マシンガンとは、グフの初期シリーズが標準装備としていた、五本の指にそれぞれ内蔵された機関砲の俗称だ。

 

 モビルスーツの指に格納できる程度の口径であり、銃身も短い。必然的に対モビルスーツ戦ではほぼ役に立たないと判断され、多くの戦場で汎用マニピュレータに変更されていたらしい。

 

 一応カタログスペック上は、近接戦闘(彼我二百メートル前後)においては十分な貫通性能を持ち、モビルスーツのカメラや関節を破壊するには有効な装備ということになっている。しかし自分では使ったことも使われたこともないため、評価ができないのが実情である。

 

 少なくとも一年戦争期において、多くの現場で撤去されていた事実を鑑みれば、当時のそれは特筆すべき性能を発揮できていなかった――と考えるのが妥当だが。

 

「カスタムで化けたか? ……ちっ、見失ったか」

 

 追撃を避けるため、高度を上げながら眼下を見渡す。建物の影に隠れたか、グフの姿はもう見えない。おそらく『信奉者(フリーク)』のジムを斬りつけたのも、物陰に身を隠して奇襲を仕掛けたのだろう。

 

 目的は、『英雄』のゼータ・プラスに追従できる機体を減らすことだろうか。そうすることで自分たちがビグ・ザムへの攻撃を諦める目も出る。実際、自分のド・ダイも潰されていたら、自分たちは攻撃を諦めて撤退していた可能性が高いのではないか。

 

「ただ、まあ……」

 

 陽炎が揺らめく地平の彼方、アデン基地に至るであろう道の果てを見つめ、自分は苦笑した。

 

 だとしたら、彼らは甘く見ている。

 

 自分たちが相手にしている存在を。

 

 地球連邦が誇る、最強の『英雄』を。

 




▼MS-07B 『懐古趣味者(アナクロ)』専用グフ

 キャリフォルニアベース脱出の際に持ち出された、初期型のグフ。細部をカスタムされているが、外見的には初期型のグフとカラーリング以外に違いはない。
 基本スペックの向上に徹した改造が施されており、とくにヒートソードの威力と、フィンガーバルカンの照準性能が向上している。
 改良型のフィンガーバルカンはザクS型に準拠した制御ソフトウェアにより、射撃体勢から0.8秒で正確に五点を同時狙撃が可能。このときの有効射程は200メートルほどだが、メインカメラやシールドののぞき穴、シールドでカバーできていない関節などを高速で自動照準し、射撃する。弾丸は必殺の威力は持たないが、確実に標的のスペックを低下させるように最適化が行われている。対空射撃についても機動予測と同軸射撃の併用により、1キロメートル以内であればほぼ確実に命中する。
 目的に沿った性能は高くまとまった機体だが、UC0087時点でモビルスーツ戦はビーム主体の中距離戦に移行しており、仮想敵が重装甲の『アッシマー』や高機動の『ギャプラン』となったことで、活躍できるフィールドを喪失している。
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