或るパイロットの年代記   作:DOH

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ラプラス事変編
UC0096 ホウライ・タウン


 ラー・カイラムは、ホンコン・シティに寄港した。

 

 ここ数年、我が家としているロンド・ベル旗艦は、ホンコン・シティ近傍の連邦基地の港に着水し、メンテナンスを受けている。

 

 シャアの反乱以降、大規模戦はすっかりなくなった。ラー・カイラムも小競り合いや訓練に駆り出されるばかりで、開店休業に近いのが実状である。

 

 だが、それでも澱は降り積もる。

 

 訓練と教導、哨戒だけでも機体にストレスは溜まる。定期的なメンテナンスは、機械を長く使うには不可欠だ。

 

 そしてメンテナンスの対象は、我が家たる艦内の自室はもちろん、生身の身体も含む。

 

 ろくな休暇も取らず勤勉にパイロットをやってきた身体には、ここ数年で倦怠感が居座るようになってきた。

 

 自分ではまだまだ無理が利くと思っているのだが、上から見れば老骨に近いらしい。まあ、自分もかつて年上のパイロットを相手にさんざんいじった記憶があるので、因果応報ではある。

 

 ともあれ、そんなすっかり中年になった自分に、艦隊司令からの直々の命令が下ったのだ。

 

「ホンコン・シティでの半舷休息を命じる」と。

 

 

 

 

「休暇ついでに、ちょっと用を頼まれてくれ」

 

 そう命令に私的な要件を混ぜてきたのが、我らが艦隊司令である。

 

 年齢は、驚くことに自分と同年代。一年戦争で第十三独立部隊を率い、絶大な戦果を挙げたいまひとりの『英雄』。

 

 戦後もエゥーゴで中核戦力の司令を勤め、シャアの反乱では『ロンド・ベル』を率いて戦った、現在存命の戦闘指揮官としては最高の実績を持つひとりだ。

 

「また、土産の配送ですか、『憎まれ役(ヴィラン)』司令」

 

 慇懃さに皮肉を込める。かれこれ六年の付き合いで、やりとりにも気安さが混じる。『信奉者(フリーク)』などからは「階級差を考えろ」と言われるが、相手は大佐、こちとら万年少尉である。もはや気にしても仕方がない。

 

「面と向かってそう言うのは『少尉』くらいだな」

 

 司令は苦笑して頷く。彼が自称を『憎まれ役(ヴィラン)』と言うようになったのはいつの頃からだったか。第一次ネオ・ジオン戦役が終結したとき、青あざを作った彼がそう嘯いたのが始まりだと彼が――いや、それはいいか。

 

「ああ、いつものように頼む。もう慣れたものだろう?」

「職権乱用ですよ司令。『信奉者(フリーク)』だっているでしょう」

「今回は俺がルオ商会に顔出ししなくてはならないんでな。あちらには、お前がいるといろいろめんどくさい」

 

 だから『信奉者(フリーク)』を連れて行くのだ、と司令は肩をすくめた。胃の奥から特大のため息がせり上がってくるのを飲み下す。

 

「自分は別に、アナハイムの犬って訳じゃないんですがね」

「しかし『財団』からの便宜が回ってくるのに、お前の存在が影響しているのは事実だ。今更ながら何をやった」

「知りませんよ、そんな器用な身の上じゃないのは知ってるでしょう」

 

 反論しつつ、実際には身に覚えがないわけでもない。というか、一つしか思い当たることはない。しかし、あのジオン印のラグビーボールの件は、未だに口外禁止の機密事項である。

 

 ともあれ、要点としては自分はアナハイム、より正確にはその支配者に近いとある『財団』とのパイプ役と見られているのである。過大評価にもほどがあるが、端から見れば不気味であろうともわかる。

 

「まあ、そう言うわけで、今回も頼む」

 

 任せられれば、うんと頷く以外ないのが万年少尉の悲しいところであった。

 

 

 

 

 レンタルしたエレカで、ホンコン・シティを離れる。

 

 一年戦争直後はともかく、今は自動運転全盛の時代だ。コロニーの都市部で手動運転していると検挙の対象にすらなり得るが、こんな片田舎でいちいち監視している人間はいない。

 

 ……というか、監視は「意図的にされていない」というのが正確なところだ。所々に、道路を外れてクラッシュしたまま放置されている高級車が見て取れる。あの黒焦げのものは、確か旧世紀の跳ね馬ではなかったか? ガソリンエンジン車まで現役とは恐れ入る。

 

 ――噛みしめたことなどないが、口の中に苦虫の味をイメージする。

 

 ともあれ、目的地は、町を外れて百キロばかりの湾岸線上だ。風光明媚なそこに、連邦政府関係者が中心の住宅地がある。

 

 一般的に住宅地とは、都市を支える人間が住まう場所だ。しかしここは違う。ホンコン・シティが、この住宅地を支えるために存在している。

 

 現在の地球に居住できる人間は、連邦の特権階級と、その生活を支える労働者だけ。

 

 つまるところ、今から向かう住宅地こそは、その特権階級の巣『ホウライ・タウン』であった。

 

 

 ※

 

 

 ホウライ・タウンは、一年戦争後になって開発されたニュータウンだ。

 

 語原は、アジア方面の伝承に語られる理想郷の一つらしい。確かに、小綺麗に整備された街並みは都市計画のセンスと予算の潤沢さを感じさせる。

 

 付近には旧ホウライ・タウンがあったそうなのだが、なまじ太平洋沿岸に存在したため、コロニー落としの津波に巻き込まれ、壊滅した。

 

 その住人の生き残りや、一年戦争で功ある士官や政治家、財界の人間などのため開発されたのが、現在のホウライ・タウンである。

 

 そして、我らが『憎まれ役(ヴィラン)』司令こそは、大戦で功ある士官そのものである。彼は自分の特権を活用し、自らの妻子をこの蓬莱の里に住まわせたのだ。

 

「まあ、阿漕には見える、だろうけどなぁ」

 

 ゴシップ好きにはそのように評されるが、正直十代から戦争に身を投じ、戦功をあげた士官への待遇としては、むしろ安すぎると感じるのである。

 

 そして何よりも、彼が特権を貪るに至った理由の大半を占めるのは。

 

「また来たんですか、『少尉』さん」

 

 使用人に案内された先、応接間に姿を見せた、齢十六歳ほどの少年。

 

 シャアの反乱の際にはラー・カイラムに居合わせ、戦闘に巻き込まれたあげく、ジェガンを持ち出して敵MAを撃破せしめたという、『憎まれ役(ヴィラン)』大佐の息子であった。

 

 

 

 

「よ、『二代目(ジュニア)』。調子はどうだ?」

「まあまあ、ですかね。今日はまた父さんからの土産ですか?」

「ご明察。今回はムーンムーンの工芸品だとさ」

 

 預かった品を、『憎まれ役(ヴィラン)』の息子に差し出す。ロンド・ベルの仕事は各地を査察することであるため、各地の観光地や特産品に触れる機会が多い。

 

「ムーンムーン……ああ、この間開国したトライバルコロニー?」

 

 『二代目(ジュニア)』の問いに頷く。

 

 ムーンムーンは、宇宙世紀でもとびきり個性的なコロニーのひとつだ。本来はテーマパークとして開発されたと言われている。

 

 いろいろ事情があって鎖国し独自の文化を築いていたが、グリプス戦役の頃に存在が確認された。その数年後に一悶着あったことと、コロニーの老朽化が深刻なため、移住先を探す目的で開国したのだとか。

 

「シャアの反乱前から色々縁があってな。査察ついでに立ち寄ってきた。何度見てもすげえぞ、コロニーに歴史教科書から出てきたみたいな古代文明っぽいものが広がってるの」

「へぇ……!」

 

 自分が語る見知らぬ世界の話に、普段は気怠げな『二代目(ジュニア)』も目を輝かせる。

 

 こういう時は、親譲りだろう利発さと好奇心が顔を覗かせる。そしてこういう顔を見るのが好きなものだから、自分もついつい語りに熱が入るのだ。

 

 こんな調子だから、『憎まれ役(ヴィラン)』司令に都度お使いを押しつけられるのだが。遺憾ながらお使いを頼まれる我らロンド・ベルの丁稚一同は、少なからずこの少年に、あることないこと吹き込むのを楽しんでいる。

 

 おそらく、『憎まれ役(ヴィラン)』の家庭内の関係においては、あまりよくない流れなのではないかと危惧してはいるのだが……。

 

「ジオンって具体的な敵がいなくなったことで、連邦がどう自分たちを維持していいか、わからなくなってる感はあるよな」

 

 というように、コーヒー片手の雑談からセンシティブな話題になることもある。

 

「シャアが神格化されてるのも、ここに来て反連邦のパブリックイメージにされちまった感ある。本人、反連邦の旗印ではあったが、ことさら反連邦やりたくてやってたわけじゃない気がするんだけどな」

「じゃあ、どうしてシャアはいつも反連邦の矢面に?」

「どうだろうな。連邦の中にいるのが性に合わなかったのだけは想像に難くねぇけど」

 

 本人の意思がどうであったかはわからない。しかし行動だけを見るならば、連邦の一組織として高級官僚に尻尾を振るに至った段階で、エゥーゴやカラバを見切りをつけていたようではある。

 

 だからと言って、好き好んで体制に反旗を翻すほど、政治的信念に基づいた人物なのかというと、疑問符がつくのだ。それにしては、戦中、グリプス戦役、そして反乱時の行動に一貫性がない。

 

「……負い目でも、あったんでしょうかね」

「負い目?」

「仮にも自分の父親が発端で、人類の半分が死滅する戦争を引き起こした人間が、連邦側についてのほほんとしてられるのかって、思うんですよ」

 

 何か思うところでもあるのか、視線を遠くにする。

 

 どうだろう。あの男にそんなナイーブさがあったのだろうか。

 

 「基本的には優しくて繊細な人物」とは、かつて、『英雄』が評したときの言葉だ。

 

 だが、優しい人物が、親友とも言えたザビ家の御曹司を罠にかけるだろうか。噂に聞くララァ・スンを、そして『二代目(ジュニア)』の友人であったという少女を、戦場に連れ込むだろうか。

 

 あるいは、そういう行い自体が、彼の負い目となったのだろうか。

 

「どうだろうな、俺の印象とはちょっと違うが」

「『少尉』さんはシャアとは会ったことあるんでしたか?」

「俺は元々カラバで、エゥーゴには合流しなかったからなぁ。アウドムラに乗ったときにも、シャアは宇宙に上がった後だった」

「戦ったことも?」

「ないな。ア・バオア・クーでビグロに落とされてなければ、遭遇はしてたかもだが。そうなってたら今頃は生きてなかったろうがね」

「そんなに?」

「ジオングに乗ってるときのシャアだぞ?」

「ああ……」

 

 得心の息が漏れる。どうも『英雄』のせいで軽視されがちだが、基本的にシャア・アズナブルは、敵として遭遇して生きて帰れる相手ではない。

 

 実際、損傷大で身動き取れない自分を放置して進軍したあの時の同僚たちは、ジオングと遭遇して全滅しているのだ。

 

「そうだよな、やっぱり、シャアは凄い」

 

 自分を納得させるように『二代目(ジュニア)』は何度も頷いた。

 

 ……最近気づいたのだが、どうもこの『二代目(ジュニア)』はシャアへのリスペクトが強い。いや、どちらかというと「シャアは凄い奴でなければならない」という強迫観念すら感じる。

 

「まあ、確かに凄い奴だった、んだけどなぁ」

 

 頭を掻いて、ぼやく。あの男には、言いたいことが多すぎてまとまらない。

 

 その時、自分の通信端末が呼び出し音をがなり立てた。

 

「あ? こんなとこで鳴るのか?」

 

 現代において、携帯端末による通信はほとんど機能していない。通信できるのは、都市内、建物内、艦内などの閉鎖空間に限られる。

 

 なぜそんなことになったのかと言えば、ジオンによる通信網の寸断と、ミノフスキー粒子の散布。そして何より「地球から個人通信を必要とする人間が減った」ことで、インフラを維持されなくなったことが大きい。

 

 自分の持ち歩いているのは、軍用の通信端末だ。母艦からのレーザー通信の届く範囲ならともかく、ホウライ・タウンまで回線が届くはずがない。

 

「『少尉』さん?」

「ああ、こりゃ何かあったな。悪い、外に出る」

 

 『二代目(ジュニア)』へと謝罪代わりに手を振って、立ち上がる。

 

 その瞬間、端末にうっかり触れてしまい、回線が開いた。

 

「あっ、しまっ」

「『少尉』!! 遅いぞ!」

 

 途端に、端末から聞き慣れた『信奉者(フリーク)』の怒鳴り声が迸った。

 

「やかましい! どうした『信奉者(フリーク)』!」

「ジオン残党が動いた! 世界中からモビルスーツが移動してる! 目的地は恐らく首都ダカールだ!」

「はぁ!? なんで今更!?」

「知らん! モビルアーマーが移動してるって情報も入ってる。『お前の筋』からな!」

 

 自分の筋、つまり『財団』からということになる。

 

「……いやいやいや、なんで!?」

「とにかく出撃だ。『モドキ』持ってきてるから、乗れ!」

 

 なるほど、通信が通じるのはそういうことか。得心した自分は、『二代目(ジュニア)』に頭を下げ、外へと駆けだした。

 

「『少尉』さん!?」

「すまん、急用だ! 吹き飛ばされるから、離れてろ!」

 

 説明しながら飛び出すと、終いのあたりは上からの爆音に覆われた。

 

 見上げれば、トリコロールカラーの円盤が、爆音を轟かせながら、ゆっくりと迫ってきている。

 

 連邦軍新型気圏内用可変モビルスーツRAS-96『アンクシャ』である。

 

 グリプス戦役の頃に開発された可変機『アッシマー』の流れを汲む量産機であるが、円盤形態と呼ばれるMAモードでは、その機体に別のMSを積載して飛行することができる。

 

 つまり、『信奉者(フリーク)』が操縦しているアンクシャの上には、自分のモビルスーツが積載されているはずであり。

 

「ったく、本当に『ジェガンモドキ』かよ』

 

 その機体の姿が見えたとき、噴射の突風に吹き飛ばされぬよう踏ん張りながら、自分は悪態を吐き出した。

 

 

 

 

「作戦目標はこっちでガイドする。今のうちにスーツ着ておけ、『少尉』」

 

 その機体に乗り込むと、早速『信奉者(フリーク)』が接触回線で指図してきた。まあ自分たちが組めば、基本あちらが隊長である。階級的に。

 

 足元から押し上げられるだけではない、背中あたりから引っ張られるようなGが伝わってくる。アンクシャが浮上したのだろう。

 

 サブフライトシステムモードである間は、アンクシャとこちらの機体の機能は同期される。今は親機があちらなので、こちらのバーニヤもアンクシャから操作できる状態だ。

 

 より正確には、今のアンクシャの状態では、こちらの機体の推進器も使わないと飛べない……というのが実状である。こちらの『ジェガンモドキ』が重すぎるのだ。

 

「了解。しかし随分急だな。母艦は?」

「ダカールに直接動いてる。俺たちは太平洋で合流、そのまま洋上で観測されたジオン残党を捕捉すること、だとさ」

「ってことは、また水泳部相手かよ……」

 

 挨拶代わりに愚痴を吐き出し、バゲージからノーマルスーツを取り出す。昔はコクピットで着替えなどあり得なかったが、コンピュータ関係の小型化と全天モニタの採用により空間に余裕がある。

 

 ……が、全天モニタということは、踏んづけてはいけない場所が多いということでもある。強化プラスチックに覆われているとはいえ、万一モニタを踏み割っては目も当てられない。

 

「--ん、『二代目(ジュニア)』か」

 

 踏んづけないように注視した足元のモニタに、自分達を見上げる少年の姿があった。こちらの視線を検出し、カメラ映像が拡大される。

 

 舞い上がるモビルスーツと、自分たちを見上げる少年。英雄の後継であることを期待されていながら、彼は未だ、地上に取り残される。

 

 そんな彼が見上げる視線は、被災地などを訪れたとき、子供たちから向けられるそれに似ていた。

 

 かつて、『英雄』は言った。あの感情は、力ある者への憧憬、力への恐怖、そして……憎悪であると。

 

 憎悪を向けられる覚えはないのだが、と問い返した覚えがある。

 

 しかし彼は、それも仕方ないのだと言った。自分達は、『変える力』ではなく、『正す力』であるから、と。

 

 苦しむものたちが求めるのは、いつでも変革だ。自分の腹を満たせるだけの富。抑圧からの解放。現在からの脱却。

 

 しかし、連邦の兵士である自分達ができることは、間違った力を制することだけ。それ以上を行ってはならない。それは武力ではなく、別の手段で行われなくてはならない。

 

 だから、自分達は変革への意志に対して、余りにも無力で、無為で、そして抑圧者ですらある。憎悪を向けられるのも、むべなるかな。

 

「いつか倒すべき敵、ってことなのかね」

「なんだ? 『少尉』」

「いや、何でもない。着替えるからカメラ切るぞ」

 

 「そんな繊細なガラか」という揶揄と一緒に途絶える『信奉者(フリーク)』の声を脳裏から振り払い、自分はもう一度『二代目(ジュニア)』の方へと視線を戻した。

 

 しかし、もう時すでに遅く。

 

 蓬莱の彼岸は遠く、見えなくなっていた。

 

 




■旧世紀の跳ね馬

 ホウライ・タウンに通じるハイウェイは明瞭にまっすぐであり、高速車両で疾走するのに心地が良い。ましてコロニーでは厳禁のガソリンエンジン車を使用できる『整備された道路』は、コロニー落としによって破壊されたことも手伝って、極めて限定されている。
 しかし、十分な技量を備えない運転者が不用意に手動運転をすれば、ホンコン・シティの労働者の年収を軽く超えるような価格の車両も、瞬く間に燃えかすへと変じるのである。


■巨大MAを撃破せしめた

 人口に膾炙される話としては、父の艦の防衛のために飛び出した『二代目(ジュニア)』が、まぐれでMAを撃墜せしめた、という筋になっている。
 通常であれば軍艦への密航、兵器の私的運用、違法な戦闘行為等々問われる罪は数知れないが、『憎まれ役(ヴィラン)』による司法取引によって不問となっている。
 実際、いったいどういう経緯での戦闘であったのか、証拠が抹消された現在においては本人以外に真相を知るものはいない。


■ムーンムーンの騒動

 グリプス戦役後、ハマーン・ネオ・ジオンの残党と『英雄』を含む部隊が介入する事件が発生。ちょっとしたスキャンダルが発生した。
 詳細な記録は公開されていないが、シャアのネオ・ジオンとロンド・ベルの前哨戦のような形になったということ、そしてその期を境にムーンムーンが開国し、後に海底コロニーへと移住するに至ったという結果のみがわかっている。


■蓬莱の彼岸は遠く

 少年期に遭遇した戦争で成果を上げ、親しい者の死に直面した『二代目(ジュニア)』は、『憎まれ役(ヴィラン)』の二代目であると同時に、まさに『英雄』の二代目たることが期待されていた。
 ロンド・ベルの生き残り達はそんな感情を隠そうとはしただろうが、長い時間を経てそれが少年に伝わらないはずもないし、思春期を迎えた少年が、それを感じ取らず、そして受け止めきれるものでもない。
 『英雄』も煩った宇宙への恐怖と、特権をむさぼる父と自分への嫌悪。そして何より、自分の咎を拭うために父が犯した『人の心の光の否定』。
 少年には、自分自身が『来たるべき世界の変革』を押しとどめる要石のように感じられたのではないだろうか。
 誰もが、彼を慈しんでいた。しかし、彼は自分を慈しむことができなかった。
 蓬莱の島に閉じ込められた少年が、いつしか同じように咎を背負った二代目の男に自らを映し、彼の『二代目(ジュニア)』とならんとしたのは、あるいは必然だったのかもしれない。
 それが、自分の中で勝手に形作られた、自分のための処刑台であったとしても。
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