「げぶっ!?」
『
浸水対策でノーマルスーツは着込んでいるが、メットは必要ないときは被っていない。コクピットに吐瀉物が飛び散り、適当に吊していたメットが跳ね回る。
(佐官のヘルメットなら即死だった)
狙い澄ましでもしたかのように頭を強打したヘルメットを、かつての憧れとまとめて打ち払い、『
目の前を、片側のポンツーンユニットを穴だらけにされたジムが、沈んでゆくのが見えた。
そして、その下。ゾックの上からこぼれ落ち、浮上できずに沈んでゆくグフの姿も。
何が起きたのかはすぐにわかった。クラーケンに加速して着地したグフが、そのままクラーケンを水面下に押し込み、ジムにガトリング砲による斉射を加えたのだ。
だが、その結果グフは転落し、水底へと沈んでいる。通常ならばクラーケンが姿勢制御して持ちこたえただろうが、その足場が麻痺していることは想定外だったのだろう。
それでも、噴射をすれば浮上は可能なはずだ。しかしグフは足掻くように手足を振っているが、浮上するには至らない。
「……バーニヤ切れか!?」
ほどなく、理由を悟った。『
バーニヤに余裕があれば浮上もできるが、今は無理な空中戦の最中。そこにもってきての急加速の結果、浮上に足りる推進力が回復できないのだ。
(どうする――!?)
視線を、フロートを破損したジムもどきに向ける。この状況、できることはひとつだ。しかしそんなことをすれば、あのジムに無防備な姿を晒すことになる。そうなれば、殺されるのは一瞬のことだ。今の正解は、グフを見捨ててそのまま離脱することである。
だが、恩義はあった。助けられた恩義は、今回のことだけではない。
最悪の過ちを犯したあのアデンからずっと、何度も。
「――ああ、畜生!!」
覚悟を決めた。電気ショックの後遺症でエラーだらけの機体を叩き起こし、腕部の多目的ユニットからアンカーを射出して、グフの腕を掴む。アンカーワイヤーを巻き上げながら推進力を全開にして、沈みゆくグフを釣り上げる。
「おい、やめろ『
「うるさい、黙ってろ!」
『
ウインチがアンカーを巻き上げるのと、全開のウォータージェットの駆動振動が、コクピットを揺らす。二機分の重量を引き上げ、水面がぐんぐんと近付いてくる。
そして視界に、浮上してきたジムもどきのゴーグル顔が、飛び込んだ。
「――――――!!」
一瞬の躊躇。『
その惑いが、伝わったのだろうか。非破壊で標的を掴むことはあまり考慮されていないアンカーアームが、滑った。
ずるり、と放り出され、グフが再び宙を踊る。
「しまっ……」
その瞬間、ジムもどきがアンカーを射出した。
グフに向けて、その肩に突き立てる。
電撃は――発しない。がっちりと食いついたアンカークローが、巻き上げられる。
ジムが、指先のジェスチャーで、上を示した。
「――――――」
納得するしかなかった。受け入れるしかなかった。
再びアンカーを打ち出し、二機がかりでグフを引き上げながら。
「くそったれ、この偽善者が……!!」
『
※
水面に浮上させたグフは、ゾックの頭(皿の上)に乗せた。
海ヘビのアンカーは撃ち込んだままだ。命は救っても、これを外してやるほどお人好しではない。
「なんだ、水揚げは終わりか」
浮上した途端、頭上に飛来した円盤から揶揄が飛んできた。
まあ、『
「とりあえず、ドンパチは終わりだ。あっちの島に曳航するから、先導頼む。ていうか引っ張れないか?」
「やってみる。ワイヤー寄越せ」
『
こういうことをやらせると、『
「ぼんやりするな『少尉』。そのままだと腕が根本から千切れるぞ」
「……っと、悪い」
ポンツーンから取り外したワイヤーの基部をゾックに引っかけ、合図を送る。滞空状態からアンクシャが加速し、牽引が開始された。
「おー、さすがの推力だな」
アクア・バージムを乗せても条件付きながら飛行可能な推力は、ゾックとグフをまとめて引っ張ることも可能なようだった。
後方の水面から押し出す自分のバージムと、ゾック自身の推力も乗せて、河童とグフは難破船よろしく曳航を開始した。
「……ジオンのゾックに、グフに、アンクシャか」
つらつらと眺めるに、なんとも珍妙な面子になったものだ。
ふと、グフのコクピットハッチが開いているのに気が付いた。パイロットらしい壮年の男が、身を乗り出して外を眺めている。
ジオン系のMSはハッチの足場が小さく、転落しやすい。機体の手のひらで支えないと危なくて仕方がないのだが、あのグフには融通の利く手先がついていない。
「よもや落ちないだろうけどな、見るからにベテランだし」
そう思いつつも注視していると、自分の(背部カメラ越しの)視線に気づいたのか、グフ乗りの視線がこちらに注がれた。
背部カメラの視線をどうやってと思うが、人間はどういうわけか、機械越しの注目を感じ取れることがある。それがただの気のせいなのか、それともニュータイプ的な感覚なのかは定かではないが。
集音マイクを向けると、「毒蛇が海蛇を使うか」という呟きが聞こえたが、意味が分からないのでスルーする。
グフ乗りが、どういうつもりで自分を見ているのかはわからなかった。偽善を責めているのか、感謝しているのか――ジオン残党にそれを期待するのは無駄な気がするし、いっそ失礼なのではとすら思うが。
どうであれ、自分の行動を測りかねているのは間違いないだろう。当然のことだ。
――当の自分自身、なぜそんな行動に出たのか、わからないのだから。
だが、仕方ないではないか。あの瞬間、アクシズ落下の記憶が蘇ったのだから。
あの光景を目にし、あの光に救われた人間として。ただそうするのが自然だと、あの時は確かに感じたのだ。
だから――やはり、こうするのが正しかったのだ。
自分のそんな納得を感じ取ったわけでもあるまいが、グフ乗りは小さく息を吐くように俯くと、機体の中に戻ってしまった。
さて、そうなれば退屈な船旅の再開である。こみ上げてきた倦怠を欠伸と伸びで吐き出して、自分は視線を前に向けた。
ひとまず目標とした無人島は、間もなくだった。
■無人島
パラオ近海に存在する無人島。それなりの規模があり、濃密な樹木の下に連邦軍の地下基地が存在する。
基地はあくまで一年戦争期のジム大量生産を目的とした機密かつ仮のものであり、反攻作戦が開始されたあとは単純に不便なため、放棄され忘れられた。(当時のオセアニア界隈の指揮系統はコロニー落としの件もあって千々に乱れており、連邦軍自身が把握していない施設が相当量あったと思われる)
「そんなわけでジオン残党を連れて行ったらちょうど地下に基地があってな。急ぎだったから連中置いて帰ったわけだよ。モビルスーツ置いておける敷地もあったからな」
「へえ……パラオにそんなものが」