ガランシェールの役割は、陽動だった。
スキウレ砲によるガルダへの攻撃は、当たらない程度を狙う。ガルダは世界遺産だ。壊すようなことはするべきではない。
だが、これにより相手もビーム兵器の存在を認知するので、防空体制が変化する。ガルダとしてはガランシェールを撃沈、もしくはスキウレの射程外まで追い払う必要があり、そのためにはモビルスーツを出すしかない。
「――アンクシャか。ガルダめ、最新鋭を備えてるな」
グフのモニターに映される概況に、唸った。この船では居場所がないので、とりあえず持ち込んだグフの中が自分の持ち場である。
機体はミノフスキーの影響で視認が困難だが、動きで分かった。慣性に乗ってカーゴスペースから飛び出した直後、突如真上に加速するのは、可変機であるアンクシャならではのマヌーバだ。ゼータ・プラスでは空力の関係で、もう少し機動が堅い。
「数は……四機。予想より多いな。『財団』も大盤振る舞いだが……ん?」
そこで、アンクシャを追ってくる機影に気づいた。ラー・カイラム部隊の方から飛んでくるのは……。
「おいおい、灰色のゼータっぽい奴が来るぞ。ロンド・ベルは静観じゃなかったのか」
スキウレのギラ・ズールから、愚痴と自分への苦情が飛んできた。なるほど、ガランシェールにデータはないだろうが、あの機動はおそらくデルタ・プラスだ。
シャアがエゥーゴで乗り回していた派手なモビルスーツMSN-100『百式』を、本来想定の性能に戻した上で量産試作を行った機体……と聞いている。
同じゼータ計画の継子として「変形するジェガン」に収まったリゼルなどと違い、ゼータ・ガンダムに近い性能を発揮するに至ったマシンのはずだ。
「まずいな、あの跳ねっ返りめ。命令無視で突っ込んできたか」
パイロットは、例の『
「ゼータ混じりの五機相手はさすがに手に余るぞ!」
クレイ・バズーカの束を抱えたギラ・ズールから悲鳴が聞こえた。ガランシェールの擁する戦力はギラ・ズール二機のみで、一機はほぼ固定砲台のスキウレ砲を操り、いま一機はカーゴハッチに機体をくくりつけ、大量の火器を抱えハリネズミのようになっている。つまりは、艦艇の対空砲程度の戦力しかない。
「――やるしかねえか! スキウレはガルダ周辺への牽制よろしく! こっちは裏からハリネズミをフォローする!」
「いいのか、同じ船の奴だろ!」
「何のことかな! 今の俺はジオンのグフ乗りなんでね!」
「わかった、頼む!」
通信を切り、暖機しておいたグフを立ち上がらせた。
重装型グフ……とは言いたくない。こいつは絶対軽装型だ。敢えて『グフ・ライトアーマー』と呼んでやる。
推進剤と弾薬は補充しているが、両腕がガトリング砲で埋まっているため、武装の追加はできない。スペックは移動中に確認したが、装甲は見た目以上に紙っぺらだ。正直これを乗りこなしていたあのグフ乗りの正気を疑う。
だが、特化した性能だからこそやれることもある。
「システムコンバータH11起動。A・Rモーションセット適用成功。……よーしいい子だ」
元のパイロットの設定では動かせたものではないので、移動中にジム用のモーションセットを書き込んでおいた。H11時代にザクや
動くかどうかは賭けだったが、ジオン残党だけではシステムの根本までは弄れなかったのだろう。少々の差異程度なら動かしてしまうのも、一年戦争期の連邦のエンジニアの底力でもある。
お陰で、A・Rモーションセットの空中戦、つまりは『英雄』による空中戦モーションを、グフで再現できる。
システムの起動が終わるや否や、ハリネズミから悲鳴が聞こえた。
「来たぞ! ゼータだ!」
「了解、任せろ! あとどうでもいいが」
ハリネズミの砲撃の隙間を縫って、タイミングを覗う。カーゴの隔壁によってハリネズミを狙える角度は限られているし、相手が航空機型であるため、敵がハリネズミを落としにかかれるポイントはそう広くない。
果たして、灰色の戦闘機がハリネズミの眼前で人型に変じ、ライフルを突きつけようとする瞬間を狙って、自分は飛び出した。
「そいつは、デルタだ!」
※
――と、突っ込んではみたものの、自分もデルタ・プラスがどういう機体なのかはよく知らなかった。
ハリネズミ達がゼータ・ガンダムと誤認するのはよくわかる。色こそ制式採用のゼータ・プラスと同じ系統の灰色だが、航空機形態への変形とやや細身の機体は、確かに有名なゼータに酷似している。
リゼルと同型のビーム・ライフルを使用しており、それ以外に特徴的な装備があるわけでもない。グリプス戦役の頃に大量に発生した位置取り優先の機体、つまりはパイロットの技量がダイレクトに戦力に影響するタイプのマシンだろう。
実際あの頃は、ビーム・ライフルの威力がモビルスーツの防御力を大きく超えていた。有効射程内で当てれば原則一撃必殺であり、つまりは当たる位置さえ取れれば勝ちが決まる。だとすれば機動性および射程一辺倒になるのもむべなるかな。
この状況が変わるまでには、対ビームコーティングの普及を待つ必要があった。これにより装甲がビームに対して完全ではないにせよアテになる強度を獲得し、モビルスーツの大型化を促進することになるのである。
まとめれば、グリプス戦役期のマシンは、軽くて脆いのだ。
だから、空中に飛び出した自分のグフは、デルタ・プラスのライフルを狙って膝で蹴りつけた。
「うわぁっ!?」
『
ライフルを引っ込めサイドブースト。身を翻した先で航空機に変じ、離脱を試みる。
だが、逃がすわけはない。なにしろ、ここで空振ると自分は太平洋に真っ逆様である。
腕から、ワイヤー型のヒート・ロッドを放つ。それが変形中で動きの止まったデルタ・プラスの機首に絡みついた。
張力が、ガクンとグフを揺らす。想定外の重量を受け、『デルタ・プラス』の機体が悲鳴混じりの噴射を吐き出し、よたついた。
「変形の隙を!?」
「『英雄』なら、変形前に噴射させてたぞ!」
相手に聞かせずにそう揶揄するが、あれは仕様外の運用である。デルタ・プラスにできるかはわからないし、『
そのまま、ヒート・ロッドの張力に任せ、振り子のように機体を振り回した。
「くそ、うわぁぁっ!?」
「あら……よっと!!」
何とか姿勢を維持しようともがくデルタ・プラスを支えに、グフを跳躍させた。ワイヤーを解くと同時に嫌がらせのガトリング砲を降らせ、スラスターを最小限で機体をスキップさせてガランシェール上に着地する。
やはり足場があると安心する。モビルスーツで空中戦などやるものではない。
振り返ると、怒りの声を吐き出しながら、デルタ・プラスが旋回している姿が見えた。自分のグフはもちろん、ハリネズミやスキウレの射界からも的確に逃れているあたり、状況把握と機動選択は花丸だ。
「あのグフ、舐めた真似を……!」
褒められていることなど知る由もなく、『
「あー、そりゃ怒るよなぁ。殺し合いしてるのになぁ」
今の間合いは必殺だった。ヒート・ロッドのスタンショックを起動するか、至近距離で指のガトリングを撃ち込むだけで、デルタ・プラスを撃墜できた。それは『
それでこちらに殺意はないと理解してくれるといいのだが、どうもこの『
「こりゃ、戦闘困難にしてやるしかないか。……グフで、デルタを? マジかクソ」
自分で撰んだ厄介ごとだが、悪態を吐くくらいは、許されていいだろう――。
■グフ・ライトアーマー
本来はMS-07C-3『グフ重装型』であるが、度重なる大規模改修と最適化のため、外見のみが残り、実体は大きく異なる機体となっている。
基本コンセプトである両腕の重ガトリング砲での戦闘に特化していることには代わりはないが、その目的は対モビルスーツではなく、主に空中から飛来する爆撃機や偵察機、そしてド・ダイに乗ったモビルスーツの駆逐を目的としている。
本来のグフ重装型は、本来想定されていた対MS戦術の中核をドムに奪われたグフが、応用先を探した結果填まったニッチである。人的資源の枯渇に悩むジオンはドップ戦闘機による制空を諦め、モビルスーツによる空中戦の可能性を模索した。本機はその中でも「ジャンプして航空機を機銃で撃墜する」ことに特化した機体である。(まっとうな空中戦はグフ・フライトタイプなどで実現したが、完成段階ではもはやジオンの地上勢力は末期状態であり、整備性の悪さからあっという間に使用不能となったと思われる)
徹底的な軽量化を進めたことで、両手足の中身はほぼ別のモビルスーツ(マラサイなど)に入れ替わっており、グフという機体の枠組みの中では別次元の機動性を誇る。単純な空中での機動性においてであれば、RX-78『ガンダム』をも凌駕しているほどである。(ただし、グリプス戦役以降のモビルスーツが「無理な空中戦をするくらいであれば変形するかド・ダイに乗る」というアプローチに舵を切ったため、同ジャンルがニッチを極めたという事情もある)
かわりに防御力は壊滅的であり、コクピット周囲の装甲にだけはビームコーティングを施してあるが、それ以外はトリアーエズやセイバーフィッシュの機銃に耐えるのが精々である。
この機体の場合、空中戦のためヒートロッドを両腕にそれぞれワイヤー型を装備しており、もっぱらワイヤーアンカーとして使用する。電撃を流す機能もあるが、蓄電池の容量の関係で使用回数が限られる。