或るパイロットの年代記   作:DOH

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UC0096 太平洋上(3)

 デルタ・プラスをひとまず退けると、今度はアンクシャの群れが迫った。

 

 数は四機、いや、三機。運悪くスキウレの直撃を浴びたアンクシャの一機が、炎上し墜落してゆく。

 

 『財団』の子飼いか、単純にガルダの配備兵なのかは知らないが、命に別状がなければ良いのだが。こんな企業と組織のゴタゴタで死んではいられない。

 

 そして、二機目と三機目のアンクシャが、同時にガランシェールに迫ってきた。

 

 先に、ハリネズミの砲撃が歓迎する。

 

 クレイ・バズーカとマシンガンを大量に装備したハリネズミの火力は、なかなかどうして大したものだ。傍目にはあっさりと、先行したアンクシャが炎に包まれ、墜落する。

 

 実際には、クレイ・バズーカの粘着弾による拘束だ。マシンガンで機動を制限したところにバズーカを撃ち込み無力化するコンボは、実のところビーム・ライフル使いよりも現場での活躍が多い。最後にビーム・サーベルで四肢を切断し無力化するまでできればベストだ。

 

 大戦争は起きなくなって久しく、連邦軍の戦闘は相手を殺すことより、可能な限り生かして無力化するのが目的になっているためだ。市街地への被害を抑えるのは当然として、ビームで蒸発したパイロットは、テロの首謀者や補給経路を吐かないのである。

 

 一方、ジオン残党の多くは、捕虜など取っている余裕も必然もあまりないため、容赦なく殺しにくる。このあたりの温度差で、連邦軍は黒星の数を数えやすい。

 

 その点、ガランシェールのパイロットは、弁えているようだった。可能な限り殺傷を避け、敵対者を無力化しようとしている。あるいは、連邦軍である自分への配慮なのかも知れないが、配慮するだけと実行できるのには天地の差がある。

 

「んじゃ、負けてられませんな……!」

 

 スキウレとハリネズミの防空圏を抜けたアンクシャに向けて、グフを跳ねさせた。

 

 ガランシェールの上に飛び出した瞬間、眼前を埋め尽くす『グフ・ライトアーマー』。アンクシャの動きが、おそらく動揺で止まった。

 

 まあ、無理もない。自分だって前触れなく空中に陸戦機が現れたら、大なり小なり動揺する。

 

 だが、同情はしない。無理を通すからには、わずかな有利でも駆使しなければ追いつかない。

 

 円盤形態のアンクシャの上に、飛び乗った。

 

 SFSとして利用される関係で、アンクシャの背中は平坦だ。搭乗機が掴まるためのグリップもあるが、これはパイロットが解放しなければ使用できない。

 

 しかし、パイロットの反応遅れを想定した非常用措置として「とりあえず掴まれる突起部」がアンクシャには備わっている。さらにSFS運用のための制御コードを知っていれば、機体の制御権すら奪うことができる。

 

 以前この設計を聞いたとき「敵に利用されないか?」と疑問を呈したのだが、そんなバックドアを戦闘中に攻めてくる可能性は低い。リモートコントロールも、パイロットが操縦桿を握っている限りは拒否権がある。結果、少なくとも把握している限りは修正されないまま実戦投入されているはずである。

 

 ここはひとつ、危惧を現実にしてみせるとしよう。

 

 振り落とそうと暴れるアンクシャの背中にしがみつきながら、接触回線で制御コードを送り込む。

 

 何も本当に制御を奪える必要はない。ハッキングされているという警報が出ればいいのだ。

 

 果たして、アンクシャは激しく動揺した。機体を揺する勢いを増すが、そのくらいで落とされる自分ではない。恨むならば、非常用措置と嘯いて余計な突起や機能を盛った開発陣にしていただきたい。

 

 業を煮やしたアンクシャが、防御に優れた円盤形態を捨て、人型に変形する。

 

「ビンゴ! 赤点だ!」

 

 快哉を上げながら、変形とともに解放されたアンクシャの顔に、グフの腕を突きつける。

 

 斉射。

 

 この距離であれば、『アッシマー』譲りの強靭な装甲相手で、かつ有効射程の短いグフのガトリング砲でも、充分な貫通力を発揮できる。

 

 果たして、アンクシャは頭部を爆ぜさせた。ついでに両腕のバインダーの接続部も撃ち抜き、火器の使用も封じる。

 

 そこで推進器を噴射しながら蹴り飛ばせば、アンクシャは力なくそのまま墜落していった。

 

 アンクシャを踏み台にした勢いで高度を稼ぎ、ガランシェールの上に復帰する。

 

 これで、三つ。確認した限りではあと一機はいるはずだが。

 

 標的を発見する前に、デルタ・プラスが再アプローチを仕掛けてきた。

 

「あいつめ、しつこい!」

 

 戦術的にはガランシェールを沈めるのが最適解であり、襲ってくるのを批判できる筋合いはないのだが、しかし迷惑であることには変わりはない。

 

 機首のビームガンをガランシェールに撃ち込みながら、デルタ・プラスが距離を詰める。ガランシェールの船体には割と新しめのビームコートが施されているようで、有効射程外のビームであれば持ち堪えられるようだ。

 

「だが、繰り返されたらわかんねぇからな……!」

 

 接近してきたところに飛びかかり、追い払うつもりで腰を低くする。しかしその動きを見切ったのか、デルタ・プラスがガランシェールの下に潜った。

 

 構造上、船の下は死角に近い。カーゴハッチに括り付けられたハリネズミとスキウレも、真下に砲撃するのは難しい。

 

 つまり、ガランシェールを沈めようと思うなら、真下からの大出力ビームが最適ということになる。

 

「いちいち妥当で頭に来るな、あの『新人(ルーキー)』!」

 

 悪態を吐き出す。ハリネズミとスキウレによってほぼ足止めされ、気づかないうちに四機目がクラッシュしているアンクシャ共を見倣って欲しいものだ。

 

 と言うか、アンクシャ部隊の冴えなさは同じ連邦としてちょっと度し難い。同じ部隊だったら、『信奉者』あたりから鉄拳制裁が飛びそうな体たらくである。まあ、『財団』子飼いやガルダ配属のパイロットの練度が高いわけもないので、この醜態もさもあらん、ということか。

 

 言ってる間に、船体がガクンと揺れた。デルタ・プラスのビームがガランシェールの腹を打ち据えたのだ。

 

「っ! こりゃまずいな!」

「何とかならないのか!」

 

 スキウレが悲鳴を上げた。実際このままでは計画が破綻する。

 

 ユニコーンはまだバンシィと交戦中のようだった。通信を公開チャンネルに合わせると、『山猫の息子』が何やら必死に呼びかける声が聞こえる。

 

 どうやら逃げるだけで済ませる気はないらしい。ならば、まだ時間を稼がなくては。

 

 そのためには、あの石頭の『新人(ルーキー)』を何とかするしかない。

 

「ならん事もないが、持ち場を離れるぞ、いいか!?」

「良くはないが何とかしろ!」

「了解! 言うのはタダだよな!」

 

 回避運動でガタガタと揺れる足場に踏ん張りながら、自分は覚悟を決めた。

 

 そして、カーゴに飛び込んで小道具を掴むと、真下から迫るデルタ・プラスに向けて、グフを跳躍させたのだ。

 

 

 




■SFSの乗っ取り

 空中で足場が言うことを利かないのは命に関わる。そのためSFSへのリモートコントロールアクセスはユニバーサル規格となっており、接触回線で認証を行えば陣営を問わず制御権を得ることができる。
 ただし、SFS側も拒否権があり、操縦者がスティックを動かすなどをしただけで操作を拒絶することができるし、競合した場合は先に利用している側の操作が優先される。
 『少尉』はこの制御権のリクエストをひたすら繰り返し、パイロットの動揺を誘った。SFS兼用型のモビルスーツは未だ普及しておらず、ガルダ部隊のアンクシャの練度が低いと見たがゆえである。
 
 
■クレイ・バズーカからのコンビネーション

 シミュレーション戦では、バズーカによるよろめきを誘発したのち、サーベルによる近接コンビネーションで転倒を誘発して、起き上がりにマシンガンやビームライフルを撃ち込むなどのコンボが重宝される。
 実際には、そこまでやる前に相手の機体が破壊される。
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