二度にわたる失神は、高山病に熱射病、全身打撲に過労など、ありとあらゆる理由に紐付けされた。
まあ、どれももっともな理由であったのでいちいち反論する気もなかったし、一回目はともかく二回目、あの瞬間見た映像を説明するのも億劫だったということもある。
なにしろ、いくら何でもオカルトが過ぎる。ガンダムになって宇宙船を引っ張り上げたなど、他人が口走ったら自分だって取りあえず張り倒す。
ともあれ言い訳をしなければ、二度の卒倒の帰結は安静と休養である。幸い厄介事の多くは責任者と事務方が活躍する後始末となっており、自分はラー・カイラムの数日の休暇を満喫することとなった。
そうして自分が安静の日々を強いられる間に、くだんのユニコーンを巡る騒動は新たな局面を迎えていた。
※
(俺は、なにを、したんだ……!!)
聞き覚えのある嘆きに脳髄を引っ掻かれ、自分の意識は微睡から復帰した。
何だったのだろう、今の声は。酷く悲しそうな、取り返しのつかないことをした子供のような音。自分の心にも爪を立てられるような、噴出する悲嘆の飛沫。
「おい、大丈夫か『少尉』。まだ本調子じゃないのか?」
暇を持て余しているのだろうか。手元のパズルを弄くり回しながら、トライスターの二番手が視線と声を送ってきた。
周囲を見渡す。ここは既に見慣れたラー・カイラムのブリーフィングルームだ。
記憶を呼び起こす。自分が不本意な船内休暇から復帰してすぐのこと。トレーニングマシンで脇腹の痛みに悶えていたところ、艦内放送で士官以上がブリーフィングルームに集められた。
こういう呼び出し方をされるときは、大体鉄火場が待っている。部屋の隅で緊張を持て余していたところ、唐突に意識が遠のいたのだ。
「あー、いや、弛んでるだけだろ」
このところしばしば起きる幻聴と幻覚の一種だろう。説明するのも億劫だったので、適当に誤魔化した。
「そろそろ歳ってことじゃないのか? 大先輩」
「言ってくれるな。若くない身の上だと、そろそろ仕事しないと腹が三段になっちまう」
与太話に興じていると、ブリーフィングルームの前方扉が開き、
(――ああ、まずそうな顔してるな)
どうやら、事態は思ったより深刻なようだ。壇上に立った司令の渋面に、自分は復帰早々の難事を予感した。
*
「これより我々は、シャイアン連邦軍基地を強制査察する」
壇上で机に両手を突き、
シャイアン基地と言えば、自分がかつて『英雄』と出会った場所だ。基本的には北米大陸の僻地であり、面白いものは旧世紀の軍施設くらいである。
「合法的な理由はあるんですか?」
トライスターの部隊長が、早速自分たちの疑問を代弁した。ちなみに彼は『優男』と渾名され、現在のロンド・ベルでも中核を成すパイロットだ。階級は大尉で、新人時代を指導したよしみで万年少尉をナメないでくれる、いい男である。
「連邦議会マーセナス議長と『財団』の現代表代行による、機密施設の私的運用の容疑だ」
「機密施設?」
「『システム』と呼ばれる、とある重要施設の制御基地だ。これの使用を見逃した場合、大量殺戮を含む犯罪が行われる可能性が高い」
「証拠は?」
「状況証拠だけだな」
一同がどよめいた。それはつまり、連邦議会議長と『財団』を真っ向から敵に回すということになる。先日のガルダの一件どころの騒ぎではない。
「大丈夫ですか、後で首がすっ飛びますよ」
「まあ、もう何度目だ。今更だよ」
機関長の問いに、司令は飄々として答える。
しかし今回喧嘩を売る相手は、連邦議会議長のマーセナス氏である。さすがに政治力では比較にならない。
……ん? マーセナス? 最近どこかで聞いたような?
「しかし、なんでシャイアンなんです? あんなド田舎」
トライスターの『優男』の問いは当然のことで、司令は一つ頷くと、なぜか自分の方を一瞥した。
「旧世紀の軍司令施設があってな。本来放棄されて久しいんだが、宇宙への独自回線があったことと、十五年くらい前に司令施設の機能が復旧されたため、『システム』の司令部として改修されたらしい」
思わず吹き出し、衆目の視線が集まった。
「どうした、『少尉』」
「い、いや失礼しました。何でもありません」
士官連中を代表した
いや、司令機能など復旧させた覚えはないのだが、あのくだらない遊びのために、司令室の測量と電装系の復旧、搬入路の整備など一通りの環境を整えたのは事実だ。
そして復旧の過程で調査した資料は一通り上に提出しているし、モビルワーカーの動作確認ついでに構造材の強度スキャンなども行っている。
(たしかに、あれだけあれば基地施設を復旧できるかもしれん)
本来、あれは核攻撃を受けても軍の指揮を行うためのシェルターだ。宇宙からの観測は難しいし、通信系も必ず備わっている。新規の基地に使うには無理があっても、文字通り秘密基地として機能を与えることは、できるだろう。
「防衛部隊はジェガンにアンクシャ、ゼータ・プラスのほか、次世代主力候補の機体が配備されている可能性がある。これらを可能な限り速やかに無力化するのが諸君の任務だ」
「最新鋭を不殺かよ」
「あの坊主に手伝ってもらいたいな」
「その坊主の支援でもある」
そして、
ならば、
「機密部隊が相手であるため、配置は目視と経験でやるしかない。諸君がモビルスーツ部隊を取り押さえている間に、陸戦部隊が司令室を抑える」
「陸戦部隊って……ア・バオア・クー気取りですかい?」
これまたトライスターの『貧乏籤』からの揚げ足。
しかし。
「今回はジオンが相手ではないし、いいものもある」
そんな揚げ足にも
*
「バージム、出る!」
ラー・カイラムの左翼カタパルトから、自分のバージムは射出された。
今回は空中戦の予定もない(他に対応できる機体がいる)し、静音作戦なのでSFSは使わない。空中でバーニヤを吹かして位置を調整し、死神よろしく音静かに地表に舞い降りる。
今回のバージムは、ディフェンサーを取り外した基本装備モードだ。頭部などの水中用改装も簡単な部分は外している。ガンダム・マークⅡと同型のバックパックを背負い、右腕にはシールド兼用のクロービーム・ガンを装着している状態だ。
「U007、カール制圧」
「U009、ゼータ・プラス制圧完了。高いマシンばかり並んでるっすね」
「だか、腕前は大したことないな。ビデオでも楽しんでたか?」
先行したトライスターが、手早く防衛隊を制圧した旨を伝えてくる。相変わらずあの連中は手際がいい。
だが、彼らが上手くやったのはいいとして、問題はこの後だ。奇襲が利くのは最初だけだし、取り逃しと後詰めの相手は泥仕合となる。
ほら、あちらの林から、手の回らなかったゼータ・プラスが上がってきた。
「七時方向、ゼータ・プラス上がった!」
「任せろ! 代わりに下のデブの相手頼む!」
自分の警告に応じて
円盤とウェイブライダーのガチンコは、重力を味方にした丸い方が勝利した。墜落するゼータ・プラスを、人型になったアンクシャが抑え込む。
「やっぱ、あいつ上手いよな」
ガランシェール上でやり合った同機の動きと比較し、思わず呟いた。どうもあの円盤は活躍に不甲斐なさが際だつが、腕さえあればかなりの戦闘力を発揮できるのだ。
まあ、曲がりなりにも各地で実戦を積んでいるロンド・ベルのパイロットが使いこなせないマシンなど、そうそうあるものではないが。
と、ぼんやり思考を弄んでいた自分の視界を、ビーム光が横切った。
「うぉっ!? 射程長いな!?」
ピシャーという妙に軽々しい音からすると、かなり新しい世代のビームライフル。見れば、
連邦機には珍しいザクの流れを感じさせるシールドマウントは、最新鋭機のカール、その重装型である。
基本的にはジェガンの性能向上型だが、ジェガンが担えない砲撃支援などを想定しているはずだ。素体にジムキャノンⅡなどを思わせる重装甲を纏うことを前提としている。新型ジェネレータで出力に余裕があり、センサー性能が最新鋭ということも手伝って、ジェガンと同じライフルを使用していながら威力も射程も従来機より長い。
一方で重装ゆえの動き出しの遅さは否めず、シューフィッター役(
自分としては、基本性能が高いというのはそれだけで安心感があるのだが、エースに凡人の気持ちは理解してもらえないものだ。
……などと言っている場合ではない。自分に任されたデブというのはこいつのことだろう。ならば、やってみせなければならない。
「とっとと司令の道を確保しないとだしなっ!」
クロービーム・ガンをアクティブ。機体のジェネレータを戦闘出力に上げながら、自分はフットレバーを踏みしめた。