或るパイロットの年代記   作:DOH

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UC0096 シャイアン(2)

 カールは、通常機をドーラ・カール、指揮官機をグスタフ・カールと呼ぶ。

 

 なんで連邦の量産機なのにGの字が付かないのかと思うが、開発系統が異なるらしい。まあ、こちらも曰く付きのバージム乗りである。人のことをとやかく言える筋合いはない。

 

 ともあれ、目の前のカールは一般機のようだった。重装甲の増加装備を纏っているため、ただでさえ大型の機体が膨れ上がって見える。『信奉者』(フリーク)曰くところの『デブ』の所以だろう。

 

 これに対し、自分のバージムはノーマルに近い。本来なら地上戦用のディフェンサーg型を装備するところを、作戦の特性上重装備が望ましくないということで撤去している。結果、違いは両脚のふくらはぎに装着する展開型ホバーユニットくらいだ。

 

 武装も、標準のビームサーベル以外は、盾とビームガンが一体化したクロービーム・ガン一丁しか装備していない。

 

 加えて、このバージムはジェガン開発過程の軽量化再設計の恩恵を受け、原型機より一割ばかりの軽量化に成功している。

 

 つまりかみ砕いて言えば、こちらは軽く、あちらは重い。

 

 普通に考えれば、こちらは機動力で相手を振り回すのが正解なのだが……。

 

 カールの、ライフルを牽制に射撃しながらの接近に、円を描くようにして軌道を合わせる。あまり使える面積のない地上戦のセオリーだ。距離を詰められないよう、開かれないよう維持したまま、かつ静止しない。いつでも次の動きに移れるように力を蓄える機動である。

 

 それで気づいた。カールは確かに重装だが、決して遅くはない。軽装のバージムに対し、やや余裕すら感じさせるムーブで追従している。新素材の装甲と余裕のあるジェネレータの賜物だろう。

 

「ったく、さすがは最新鋭、素直に高性能なのがムカつくな!」

 

 そうでなくては何のために新規開発しているのかわからないのは確かだが、現場でやり合う立場としては、頭が痛いことである。お互い尖った性能のないスタンダードマシンである以上、単純な性能の差が全ての挙動にのしかかる。

 

 だがそれはつまり、新型相手であっても、機体性能に決定的な差はない。挙動は熟練度がものを言うということでもあるが。

 

「さて、見せてもらおうかね、後輩の腕前を!」

 

 シャイアン基地配備の後輩という意味である。

 

 牽制のビーム・ライフルが幾条も迸る。どれも自分のものではない。走りながら射撃するカールのものだ。

 

 対する自分は、等速ではない複雑なステップを刻んで併走する。モビルスーツによる中距離戦の基本だ。加速度に不規則な変数を加えることで、自動照準補正の裏をかく。

 

 こちらのランダムステップで、カールは覿面に狙いを狂わされているようだった。もう少しかすりもしてよさそうなものだが、完全に明後日の方向に射撃している。

 

 なるほど、カールの乗り手は手動照準補正を行っていないらしい。機動戦の教本の基礎として、自分が原稿を書いた記憶すらあるのだが……。

 

「こりゃ、アレか。ペーパードライバーか?」

 

 実のところ、新鋭機だと有り得なくもないのだ。テストパイロットならばともかく、現在の連邦軍で「わざわざ最新鋭機を乗り回す」パイロットは、「物好き」「特殊部隊」「ど新人」の三択である。

 

 本当に大規模配備されるかもわからない新鋭機に機種転換をするには、コストはかかるし訓練中のパイロットの任務遂行能力は大きく損なわれる。ならば、わざわざ最初から新鋭機を割り当てられた新人、もしくは専従の任務が少ない素人紛いである公算が高い。

 

 もちろん、あらゆる新機種を乗り回す本物のベテランが配備されている可能性もあるのだが、今回はそういう話ではないようだ。

 

 なお、ロンド・ベルの最新鋭機の数々は、言ってしまえば「特殊部隊」および「物好き」の方である。

 

 閑話休題。

 

 ぺろりと唇を舐めて、大きく踏み込んだ。ビーム・サーベルの距離まで飛び込み、カールを見上げる。

 

 大きい。バージムもジムに比べれば大型の機体だが、それよりさらにひと回り大きい。

 

 当然組み合いになればパワーの勝負となり、新型機が旧型機に劣ると期待するのはただの馬鹿である。

 

 故に、カールは素手でバージムを押さえつけにかかるが。

 

「こちとら身軽が身上でね!」

 

 相手の土俵で勝負する義理はない。ホバーユニットを展開してスライド、サーベルを左手に握り、Sの字を描いて踊る。

 

 もちろんサーベルは抜刀したまま、回転に沿ってカールを斬りつける。

 

 自慢の、変幻自在の接近戦機動である。素人まがいのカールにこれを避ける術があろうはずもないが……。

 

 バックパックを切り裂くはずであったサーベルは、ビームの飛沫を散らして弾かれた。

 

「げっ……!!」

 

 新型のビームコーティングと強化装甲の賜物であろう。増してこちらはおおよそ十年近く前の機体である。回転しながらの斬撃でありビーム刃の暴露時間が短いのは事実だが、よもや弾かれるとは。

 

 しかし同じところにもう一度斬りつければコーティングももたないはず。回転の勢いのまま再度サーベルを撃ち込むが、カールが担ぐ可動シールドが斬撃に割り込んだ。

 

 こうなっては追撃は困難だ。振り返りざまの反撃で撃たれるビームを、左右のステップで回避し距離を開いた。

 

「ああくそ、こんなことならg型付けとくんだった!」

 

 身軽な己の身を嘆き、吐き捨てた。装備予定だった地上用Gパーツが欲しい。大きくて取り回しが悪い上に威力が過剰なため取り外したが、あれの近接装備なら、カールの装甲も軽く引き裂けたであろうに。

 

(どうする、トライスターとスイッチするか?)

 

 エース部隊の操るRGM-96X『ジェスタ』は、ジェガン系の上位機種であり、ジェネレータ、ライフル、サーベルすべてが高性能モデルにアップデートされている。カールと同じく評価試験の真っ最中のマシンであり、装備の世代もほぼ同じ。だとすれば、サーベルにもカールの装甲を突破できるだけの出力があるはずだ。

 

 本来のこちらのミッションは、必ずしもモビルスーツの制圧ではない。手が空いているようであれば、エース部隊に任せておくのが賢明ではあるのだが――。

 

「いや、やりようはあるか」

 

 カールの追撃をやり過ごしつつ、自分はぺろりと唇を舐めた。

 

 

 

 

 なぜ攻撃力が不足するのかと言えば、専らジェネレータが吐き出すエネルギーを、ビームに変換できないからということになる。

 

 ビーム兵器は一般的には、ジェネレータで発生したエネルギーを、機体内のエネルギーバイパスを通じて手先の武器に伝送する。そこから先は武器の中でメガ粒子を生成しているもの、不活性状態の重金属粒子をパックに詰めているものなど様々があるが、伝達された電力で高熱の塊を作っているということには概ね違いはない。

 

 ビーム・サーベルの場合、マウントもしくは手のひらから供給された電力を、コンデンサに蓄積する。手から離れても刃を形成しておく必要があるのと、刃の固定化にIフィールド形成器を駆動させなくてはならないためだ。

 

 ビーム・サーベルの威力は、概ねこのコンデンサの容量で決定されていると考えてよい。

 

 だが、ここで裏技がある。ビーム・サーベルのテストを行うときなど、コンデンサを通さず直にエネルギーを流し、ビームを形成する使い方だ。

 

 このやり方であれば、ビーム刃の出力をより大きくすることができる。

 

 ――もちろん、手のひらのコネクタ以上の電力供給手段があれば、の話である、が。

 

 バーザム・タイプには、あるのだ。上腕部からビーム・ライフルに直結するバイパスをはじめとした、大容量コネクタが。

 

『信奉者』(フリーク)! 数発煙幕くれ!」

「こっちも忙しいんだがな! わかった、くたばれ『少尉』!」

 

 声を上げるだけで、空中のアンクシャからビームが、だいたい自分のバージムめがけて撃ち込まれた。一緒に飛んできた殺意みなぎるセリフは聞かなかったことにする。相手にしている暇はない。

 

 ビームが地面に着弾し、炸裂したエネルギーが土砂を噴き上げる。それを煙幕がわりに距離を開き、自分はバージムの拡張コマンドを入力した。

 

 股間部のハッチが開き、エネルギープラグがポップアップする。それを握り、ビーム・サーベルの基部に直結した。

 

 コストダウンのために手足のエネルギーバイパスが細めに設定されたバーザム・タイプが、大出力装備を駆動させるために選択した、拡張型エネルギープラグだ。バーザム・タイプでも一部の機体にしか実装されていないものだが、ジェネレータと直結しているため、瞬間的なエネルギー供給量は掌のコネクタとは比べものにならない。

 

 続いて、サーベルのリミッターをカット。これでスティックのトリガーを思い切り握れば、フルパワーを発揮できる。画面上にざっと一ダースくらい赤文字の警告(要約すると「フルパワー出したら色々壊れるぞ」という内容)が出るが、知ったことではない。

 

 煙幕を切り裂いて、カールが飛び込んできた。

 

 想定よりも踏み込みが早い。あちらも余力を残していたか。

 

 だが、凌げる。こちらのモーションの間合いだ。

 

 右手で握ったサーベルに、半トリガーで刃を形成。黄色く煌めくメガ粒子の塊を、装甲に守られた左膝関節を狙って叩きつける。当然、弾かれる。膝回りなどもっとも装甲が分厚い場所だ。そう簡単に通るとは思っていない。

 

 要点は、効かないという油断を誘うこと。こちらのサーベルが脅威にならないと見て、カールの動きが大胆になる。大振りに、力任せに抑え込んでくる。

 

 その無遠慮に伸ばされた腕をかいくぐり、トリガーをいっぱいに引いた。

 

 サーベルが黄金の光芒を放った。その黄金の刃を、今度はカールの左膝裏に叩きつける。

 

 火花が散った。装甲が、カールの強靱なフレームが、そして無理をしているサーベルの束が、まとめて赤熱する。

 

 Iフィールドの場が、装甲の抵抗を腕に伝える。あとは力任せだ。

 

「間に合え――っ!!」

 

 バージムの膝裏のホバーユニットを展開、背中のバーニヤと共に加速。サーベルを押し込む圧力が一層増して、限界を超えた発振器が火花を散らす。

 

 ずるり、と刃が構造材に食い込んで。

 

 発振器が溶解した瞬間、カールの膝を切断した。

 

「おっしゃあ!」

 

 溶け落ちたサーベルを投げ捨て、パワーケーブルを引き戻しながら間合いを開く。左足を失い、支えを失ったカールが宙を泳いで傾いだ。その隙にクロービーム・ライフルを起動し、至近距離から頭部を撃ち抜く。

 

 そしてとどめとばかりにカールを背中から蹴り倒し、うつ伏せに転倒させる。こぼれ落ちたライフルを踏み砕けば、それで無力化は完了した。

 

「よーし、カール制圧! 次は!?」

「こちら指揮車! バージムは『システム』制圧に回れ! 『ガンタンク』下りる!」

「了解!」

 

 母艦からの指示を受け、空を見上げる。そこではラー・カイラムが下部ハッチを開き、何かを投下しようとしていた。

 

「投下カウント前! 指令、よろしいか!」

「問題ない。いま、やれ!」

「了解、――『ガンタンクF』、リリース!!」

 

 そして、トリコロールの戦車のような何かが、宙を舞った。

 




■バーザムの拡張エネルギープラグ

 RMS-154『バーザム』には仕様の異なる機体が数多く存在している。ガンダムMk-IIの設計を反映したとされるもの、TR計画の技術(ドラムフレームなど)を反映されたと思われるものが有名だが、標準型でも股間部がスラスターユニットであるものと、拡張エネルギーソケットを搭載しているものの二通りがある。

 バーザムは量産機として設計された結果、手足のエネルギーバイパスが細い。主にトルクが要求される肘関節を跨いで電力を供給するのが難しいためである。(肘などに使われるフィールド・モーターは関節部が非接触であり、大電力を通すには弱点となるサブケーブルを這わせるか、ブラシ型電極などのコスト高かつ消耗の激しい部品が必要となる)

 そのためバーザムが大出力の火器を使用する場合、過電流によりバイパスが溶け落ちることがある。これを回避しつつ大出力を利用するため、バーザムはジェネレータから直結するエネルギーソケットを複数搭載している。

 拡張エネルギーソケット型のバーザムは、このソケットを股間部に備えている。ビームカノンやメガランチャーなどの大出力火器を使用すること、さらには機体内のコンデンサを高速で充填することが目的であり、規格としては銃火器のテストコネクタと同じ端子が使用されている。(Hi-νガンダムのメガビームランチャーに使用されるプラグと同規格)

 『少尉』の搭乗するバージムは、この拡張エネルギーソケットをさらに発展させ、ケーブルユニットとプラグが内部にマウントされたユニットに換装されている。これによりケーブルを引き出して武器と機体を接続し、本来バーザムが使用できない装備を運用したり、仕様外の使い方をすることができる。

 かように有効な拡張エネルギープラグであるが、現場からの評価は芳しくない。原因ははっきりしていないが、プラグをポップアップさせた状態を見た『少尉』が「……ちっせぇな」と評したのが真実を仄めかしているのかもしれない。

 なお、ムーバブルフレームを採用したバーザム改からは手足のバイパスが強化され、拡張エネルギーソケットは必然性が薄れ、オミットされることとなった。
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