「てめぇ、何やってんだ、『
強化ノーマルスーツのマイクに怒鳴りつけながら、自分は『アンクシャ・ラー』のスロットルを全開にした。
自分が乗るアンクシャ・ラーは、可変モビルスーツのアンクシャの両腕バインダーを、それぞれ高機動支援ユニット『フルドドⅡ』に換装したマシンだ。これを複数装着した機体を『ラー』と呼んでいたため、このアンクシャでも踏襲しているらしい。
これに加えて増設の使い捨てブースターを装着することで、アンクシャ本来の高度限界を超えて、成層圏に到達している。
これを乗り回すために、通常のノーマルスーツよりも高品質な対Gスーツを着る羽目になった。そのくらいしないと、普通のモビルスーツでは、この高度には上がって来れない。
それでもなお、同じ条件で上がったギャプランには届かない。根本的な領域対応能力が違うのだ。
だが、ハウンゼンが降りてきたおかげで、ぎりぎりで追いつけた。
システムに落下予想地点を確認させ、用済みになったブースターを捨てた。
身軽になった機体をロールさせ、ギャプランに叩きつける。多少なりとも減速させれば、降下軌道のハウンゼンから引き離され、船の安全が確保される。
衝突ついでに、接触回線で怒鳴りつけた。
「聞こえてるだろう! 応えろ『
「『少尉』か! まだ少尉なのか!?」
返ってきたのは、耳馴染んだ、そして懐かしさもある揶揄だった。
「おかげさんで未だに昇進の芽はねえよ! んなことより、何考えてやがる!」
罵倒しながらアンクシャを押しつけて、さらに高度を下げさせる。しかしギャプランはふいっと降下方向に加速してアンクシャの勢いを逸らすと、くるりとロールしながらアンクシャの上に回り込んだ。
そのまま脚部を展開してアンクシャを踏みつけ、これを土台に跳躍する。
「あの野郎、相変わらずMAが上手い……!」
あしらわれている。白兵戦でも、機動戦でも、自分は『
そもそも、自分が大したことのないパイロットであることは、もういやというほどわかっている。伊達に万年少尉ではない。
だが、今回ばかりは譲れなかった。
『フルドド』のブースタを最大にして、ギャプランを追いかける。ここまできてハウンゼンを落とさせるわけには行かない。
当初聞いていた行動予測では、ギャプランは揚陸ポッドでハウンゼンを占拠し、好都合な空港までハウンゼンをエスコートするとなっていた。
しかし、ハウンゼンの軌道変更が行われていない。ハウンゼンをギャプランが撃墜しようとしていたことからも、占拠の失敗が裏付けられる。
むしろここでハウンゼンを撃墜する方が、「マフティーらしい」とすら言える。
だとすれば、自分の仕事は、ギャプランを射撃位置に着かせないこと。そのためなら打てる手は何でも打つ。
相手が、たとえ、二十年近くの付き合いとなる相棒であったとしても、だ。
レーザー通信で、罵声を叩きつけた。
「マフティーの思想は、地球環境の救済だろうが! 政治家の粛正とか誘拐とか、どうなってんだ! 何がしたい!」
動揺を誘っているのは確かだが、本音でもある。
古い戦友である『
それが可変MS『ギャプラン』を運用し、何らかの作戦行動を計画しているという情報とセットで、である。
故に、既にロートルの域に突入した古参兵の自分が飛ぶことになった。I13が保有する機体とデータで、ギャプランの作戦可能高度に到達できる機体が少なく、それを運用できる経験の持ち主が他にいなかったからであるし、それに。
かつての身内の仕業ともなれば、内々で始末したいのが人情というものだ。
(しかし、らしくない)
原則、マフティーの行動はプリミティブに民衆の怒りを体現するものである。連邦の閣僚殺しなどが特に目立つところだ。もちろんそのような凶行を肯定することはできないが、彼らなり、暴力集団なりの筋を通しているように見える。
しかし、このハウンゼンジャックと誘拐作戦は、マフティーらしくない。なんというか、俗悪なのである。
長らく相棒を勤めていた人間が手を染めるには、いささかなのである。もちろんテロリズムへの加担の段階で是非はないが、もう少しマシであってほしいというのが友人の贔屓目というものだ。
消極的な願いを込めて照準越しに睨みつけていると、ギャプランが消えた。
ロールして速度を落としたのだ、とわかった。だとすれば――。
「ごちゃごちゃ喧しいんだよ、『少尉』!!」
背後からレーザー回線が開かれ、ビームと一緒に罵声が飛んできた。
当然、こちらもその手口は読んでいた。左右に機体を振ってビームの火線をやり過ごす。直線機動に特化したギャプランに対し、アンクシャは三次元機動に優れるため回避しやすい。
続けて、ビームが罵声と共に撃ち込まれる。
「マフティー・サンズもまたマフティー! 沈黙した地球圏を揺り動かし、かつての熱を取り戻すんだよ!」
「熱!?」
「世界を変えようという意志だ! 俺達は世界を変えようとしなかった! その結果、世界は冷え、腐り果てた! 世界には『熱』が必要なんだ!」
「結構な御題目だが、当たってないぞ! ブレてるんじゃないのか!?」
照準と思想、両方を揶揄したつもりであるが。
「ノンポリの貴様ほどじゃ――ない!」
「んがっ!?」
痛いところを触ったか、激高した様子のギャプランが軌道を捻り込んだ。円盤の『背中』にぶち当たり、衝撃で身体が揺さぶられる。
ぷしゅぷしゅと細かく圧力を調整して、スーツが衝撃を相殺してくれた。
「ってぇ、強化スーツがなけりゃ鞭打ちだな!」
少ない自由で首を捻りながら、ぼやいた。高機動機体に乗るにあたり、自分は体型がわからなくなるくらい肉厚のパイロットスーツを着込んでいる。
このくらいしないと、凡人が強化人間向けの機体を乗り回したり、その機動に合わせて動くことはできない。
もちろん、こんなものを着込んで精密操作ができるはずもなく、モビルスーツによる高々度迎撃が現実的でない理由のひとつである。
「こんなもん生身で乗り回すんだから、強化人間って奴はなぁ!」
割と加速がマイルドになっているはずのアンクシャでこれなのだから、完全に強化人間仕様のギャプランなどはどんな状態になっていることか。
(――いや、あながちでもないか)
『
――つまり。『
「――勝ち筋があるとしたら、ここか」
アンクシャでギャプランの尻を追いかけながら、自分は乾いた唇を舌でなぞった。
※
『フルドド』に装着した
アンクシャ・ラーはそれを左右両方に装備しているので、左右両方から標的を狙い撃つことができる。
本来アンクシャが装備しているビームガンに比べ、速射性は劣るが、射程と威力、弾速で勝る。
アンクシャは高い機動力で有利な位置を取って撃ち落とすのが本領であり、手数をこそ重視したのが本来の姿だ。しかし、この『ラー』は、相手に格上を想定している。
故に、手数より品質を優先した。こういう装備の選択肢が広いのは「何でも繋がる」と評判の『フルドド』の強みである。
そして、シールドブースターの推進性能が、アンクシャにギャプランに追従できる加速力をもたらしている。
加速を避け、ビームを速射。ハウンゼンを撃てる位置を維持しようとしているギャプランの尻を叩く。
ギャプランは両脇に大型のシールドバインダーを備えた強靱な機体だ。目的が同じ故のことではあるが、自分のアンクシャ・ラーと極めてコンセプトが近い。
通常のアンクシャのビームであれば、装甲で弾いて無視することもできただろう。
だが、こちらが抱えているのはライフルと一体型の
故に、アンクシャと侮って装甲で受けを試みたギャプランは、シールドを大きく抉られ、バランスを崩したし。
もう一発をチャージしてこれ見よがしにロックオンしてやれば、覿面にギャプランは加速した。
「そうだ、行こうぜ!」
通じた意気に口元が緩む。追撃にスロットルを押し込む。
眼下をハウンゼンが流れていく。まもなく気圏機の迎撃高度だ。そうなればギャプランが再アプローチしてハウンゼンを狙う目も失われる。
つまり、これでギャプランがあの政府専用機を攻撃するチャンスはなくなった。
(俺の勝ちだな)
モビルスーツ戦としてはともかく、目的を果たしたかどうかという点では、である。
だが、これで終わるわけにはいかない。ここからは、純粋な腕の比べあいだ。
テロリストに身を堕とした相棒を問い詰め、罪を贖わせるべく。
あるいは、崇高な使命を妨げた権力の犬に罰を与えるべく。
空中戦は、続く。
■アンクシャ・ラー
I13に配備されたアンクシャを近代化改修し、さらに高高度戦闘対応に改修した機体。
両腕部に『フルドドⅡ』と呼ばれる多目的ユニットを装着し、ビームライフルと一体のコンポジット・シールドブースターをそれぞれに備える。
名称はTR計画における同コンセプトの機体にオマージュしたもの。ポン付けの結果ながら、神話系統がめちゃめちゃである。
推進力確保のためギャプランと同型のブースターユニットを装着し、ハウンゼン・ハイジャッカーの阻止に向かったが、情報が遅く間に合わなかった。
なお、機体は多少のアップデートは行われているものの、基本的にはUC0096に『
ギャプランとの性能差は顕著であり、主に耐久性と加速力でギャプランに劣る。一方変形速度では勝っており、生産性にいたってはギャプラン1機でアンクシャ3機を調達可能。(なおジェガンなら10機)