或るパイロットの年代記   作:DOH

64 / 84
UC0084 ルナツー(5)

「おいおいおいおい、冗談じゃないぞ!」

 

 三度目の撃破判定で赤く染まるモニターの前で、自分は頭を抱えて喚き散らした。

 

 ここはルナツー近海の訓練宙域。小惑星や艦艇の残骸(主にジオンのムサイ級やパプワ級)が漂う軽障害区域である。

 

 そんな場所、ゲルググのコクピットの中で、自分は連敗の羞恥を映したような赤に囲まれていた。

 

 そして、憤慨するのは自分だけではなかった。

 

「TG2、何をやっている! 手を抜くのも大概にしろ!」

「うっせぇ、黙っててくれこの『不倫男』……!」

 

 我ながら腰抜けなことだが、マイクを切って悪態をつく。余談ながら、自分の中で技師長の渾名が『不倫男』で確定したのは実にこの瞬間だった。

 

「とにかく、トライアル四回目ッス。……少尉、機体に問題はないっッスよね?」

「……ああ、困ったことに完全動作中だ。不調であってくれたなら良かったんだが」

 

 担当技師の不審げな声に、マイクをONをしてため息を吐く。そう、機体に問題はないし、相手の性能もカタログスペックを上回るものではない。

 

 圧倒的なハンディキャップバトルだというのに、自分のゲルググは『顎髭』のGMに勝ち点を取れていないのだ。

 

 ……勝てない理由は、三回目に見えてきた。

 

「なんなんだ、あの『顎髭』の反応……!!」

 

 機体の機動力、とくに軌道修正時の安定性と旋回速度においてはゲルググが上回る。そして馬鹿正直に真っ直ぐ飛ぶのは撃ってくれと言っているのと変わらないので、安定性と推力の積がモビルスーツの運動性を決定していると言って良い。

 

 つまり普通であれば、ゲルググがGMをかき回し、追従できなくなったところを仕留めて終わりのはずだ。

 

 しかし、GMの反応速度が問題だった。

 

 感覚的には、トリガーを引く前に回避運動が始まっているのだ。

 

 偏差射撃も、ロックオンから射撃の瞬間に機動を変えられては追従できない。機動力そのものは同等以下でも、機動の『起き』が早ければ、回避はぐんと楽になる。

 

 そしてその勘の良さが、攻めにも適用されるのだ。具体的には、避けた先にビームが飛んでくるのである。

 

 一回目は様子見もあったのだろうが、馴染んできたらしい二回目は、開始後17秒での撃墜判定である。 

 

 幸い、運動性に差があるため、射撃の最適ポイントを取られないように振り回せば、命中打を浴びる確率は下がる。それで何とか食い下がったのが、今の三回目だ。

 

「だが、落とされてりゃ変わらん……!」

「『少尉』、機体の調整不足か? 操作がずいぶん雑になってるみたいだが」

 

 そして腹が立つのは、これだった。

 

 異様な命中精度から逃れるために全開機動しているのを、当の『顎髭』は自分が無駄に機体を振り回しているだけと感じているらしいということだ。

 

 おそらくだが、あの『顎髭』は自分のスペックの高さを自覚していない。他のパイロットと比較した経験もない……()()()()()()()のだろう。

 

 まあ、自分が他のパイロットより反応や操縦精度が優れているかと言えば、実際のところは『びりっけつ』(ブービー)だったわけだが。だから、少し勘のいい程度のパイロット相手に手も足も出ていないだけ、という筋もある――業腹だが。

 

「気にしてくれるな」と曖昧な返事で問いを受け流して、気分と一緒にグローブを締め直した。

 

 さて、どうするか。文句を言っても始まらないし、そろそろ自分の給料に後がない。しかも、求められる結果が変わらないのだから、自分が勝つまでトライアルは続く。

 

 小回りのアドバンテージを活かして仕掛けるアプローチは間違っていないと思う。そもそも、機体性能ではこちらが上回っているのだ。それはこちらが加速して引き離そうとした際に、GMがまるで追従できなくなることからも伺える。

 

 とすれば、有利を取れるのは細かい機動を強いられるフィールドであり、そして。

 

「このオモチャで仕掛けられるタイミング、か」

 

 コンソールの端から、機体の尻の方に順に視線を移して、自分はぺろりと唇を舐めた。

 

 

「もし今の僕がGMでガンダムと戦うなら、フェイントを織り交ぜて仕掛けますね」

 

 かつてシャイアン・マウンテン基地で。

 

 自分は、『英雄』と共に、万を越える山のようなはんだ付け(古い機械はそういう力尽くの配線が多かったのだ)を傍らに交わした雑談を思い起こした。

 

「そんな簡単に引っかかるか?」

「性能で勝てないなら、戦闘経験の差で誤魔化すしかないでしょう。目の前の動きに対応するスピードが早くても、何をしてくるのかを察するには経験が必要ですからね」

 

 抽象化された対戦ゲームでは、特定の条件下における行動がジャンケンのように絞り込まれる。それは、そのゲームルール上で有効である攻め手が限られるからだ。現実においても、対決において有効に成り得る行動にはそれなりに制限があり、だからこそ「有効手の読み合い」が成立する。

 

 だが、それも「有効手を知っている」ことが前提となる訳だ。

 

 何かくる――と察したとしても、何が来るかわからなければ身構えるしかできない。もちろん、構えが早ければ対応も早くなるだろうが、読み切られているよりはよほど隙が多いはずだ。

 

「例えば――そう、空から攻めるとか。モビルスーツが飛行できるって可能性に気づいたのはニューヤークでのことでしたし、それでも、ガンダム以外が飛んでくる可能性まで思い至ったのは結構後のことでした。あと、地面から飛び出してくるグフとか、今でもよくやり過ごせたなって思いますよ」

「どうやってMS埋めたんだかな。しかし、そんなにキツかったのか、グフ」

「結局戦中通じてガンダムにモビルスーツで有効打を入れてきたのは、グフか、赤い彗星か、ドアンかって感じでしたね」

「誰だよドアン」

 

 ――余計なことまで思い出したのはともかく。

 

「つまり、『顎髭』が予測できない奇策に誘い込めばいいってことか」

 

 思考を現実に引き戻したところで、オートマチックで移動させていた機体がトライアル開始地点に到達した。

 

「それでは、トライアル四回目、開始する。TG2、いい加減この後のスケジュールに配慮願いたいな?」

 

『不倫男』の嫌味とセットの宣言に、カメラが繋がっていないのをいいことに中指を立てて抗議しつつ。

 

「トライアル4、どうぞッス」

 

 技師の声と共に、ブザーがキューボールよろしく投げ込まれて。

 

 ゲルググとGMが、弾かれ、飛び出した。

 

 ※

 

 GMが、通常の三倍の速度で迫ってきた。

 

 といっても、本当に三倍の運動エネルギーを持っている訳ではない。通常よりも強く加速した結果、相対位置が三倍早く縮んでいるだけである。

 

 距離を開こうとするこちらと、詰めようとするGMの軌道が、一直線に並んだからこう見える。

 

 かの有名な『赤い彗星』の逸話も、艦隊を背後から追いすがったザクが、ひときわ早く距離を詰めたから生じた話と聞いている。

 

 もちろん、戦闘機が単独で突出するなど、正気の沙汰ではない。どんな英雄でも、一対多数は死地だ。それを乗り越えるからこその『赤い彗星』であるし、当時のミノフスキー環境戦術の未熟さでもある。

 

「ミノフスキー中では、距離の影響が通常の百倍になる……!」

 

 概算で、そうなる。そのせいで、宇宙のビームは1000kmくらいは軽く届くのに、実際の有効射程はせいぜい10kmになる。それ以上は、ミノフスキーによるぶれが大きく、命中率はまさしく天文学的低さになる。(実際には熱散乱に絡む拡散が生じるため、有効射程はもう少し短い……らしいが、それを論じる距離ではそもそも当たりようがないので気にする必要はない)

 

 だから、モビルスーツの空間戦闘は、基本的には10km程度をホームポジションとし、同じ方向に動き続ける(ただし直線移動は即死に繋がるのが厄介なところ)のがセオリーとなる。それより近づくのは白刃戦を仕掛ける場合でもなければ危険すぎる。

 

 ――このセオリーに油断して、距離を詰められたのが二回目の敗北だ。

 

 なので、逃げを打つ。TG1から離れる方向に加速し、相対距離を確保する。もちろん戦域を外れてはいけないので、だいたい真横に逃げる感じだ。必然、徐々に距離を詰められることになるが、それより早くムサイの残骸にたどり着いた。

 

「間に合った――!」

 

 ロックオン警報が鳴り響く中で、機体をロールさせてムサイの背後に飛び込む。足裏のフックをポップアップさせてムサイの艦腹に着地し、残骸をめちゃめちゃにひっかきながら減速した。

 

 そして停止した瞬間、頭上を通過するはずのGMを狙ってビーム・ライフルを構える。普通ならば、相手が見えなくなった段階で追跡経路を変えるのがセオリーだが。

 

 果たして、GMは期待通りのタイミングで飛び出した。

 

 速度も、ルートも変更なし。絶好のタイミングで、ビーム・ライフルのトリガーを引く。

 

 ――が。

 

「くそっ! 避けやがった!」

 

 やはり、という気分とセットで、悪態を吐いた。奇襲になったはずのビームの一撃は、寸前でGMがシールドをかざし、弾いたのだ。

 

 ジムシールドは、現在ではビーム・コーティングが施されているが、カタログスペックにおいてはただのチタン合金製だ。判定システムによって、GMのシールドがビームの直撃により使用不能になったと通知が発せられる。

 

 ビーム・スプレーガンで牽制しながら、GMが物陰に飛び込んだ。放棄されたシールドだけが、慣性に流されてムサイの中に消えていく。

 

「――ってことは!」

 

 ゲルググの軌道を、90度転換させた。大回りしながら、ビーム・ライフルを照準し、タイミングを待つ。

 

 果たして、自分のゲルググがそのままの速度で機動していた場合に、その地点に到達するだろうというタイミングで、サーベルを抜いたGMが飛び出してきた。

 

「新人の小技みたいなことを!」

 

 つまりは、先程の自分のアレンジだ。だが、さすがにそんな初歩の手で引っかかってはやれない。

 

 間合いが想定外だったのだろう。戸惑ったように機動を揺るがせたGMを、ビーム・ライフルで狙撃する。

 

 しかし、光そのものとまではいかないものの超高速の光線を、GMはひらりと機体を踊らせてやり過ごして見せた。

 

「ああ、畜生め! これでも余裕か!」

 

 悪態を吐き散らしながら、反撃のビーム・スプレーガンをシールドで弾く。こちらはカタログスペックの段階でビームコートが施されているので、ビームを浴びても即使えなくなることはない。

 

「くそ、ハンディキャップマッチなのは間違いないってのに……!!」

 

 歯噛みする。

 

 ここまでの流れで、『顎髭』がびっくりするほど戦術の基本を知らないと言うことがわかった。

 

 いや、「忘れている」というのが正確なところだろう。自分が披露した戦術は、ひとつひとつを確実に再現……のみならず、少しずつアレンジして仕掛けてきているのだから。

 

 奴は自分の小賢しい戦術を、片っ端から吸収している――おそらく、「思い出している」。記憶を失う前に会得した戦術を、自分の動きから思い出して、体が覚えている動きで再現しているというところか。

 

 記憶を失う前の『顎髭』がどんな達人パイロットだったのか興味はあるが、目下の問題は自分の給料、いや、この八百長試合の勝利である。

 

「このままだと、技量でもついていけなくなる……!」

 

 早晩、そうなるのは明らかだった。そうなれば自分の勝ち筋はいよいよなくなる。性能のアドバンテージも、結局のところ「当たらなければどうということはない」のだ。逆に言えば、「撃って当たるなら細かい性能などどうでもいい」とも言える。

 

 今回で勝ちを取らないと、いよいよ後がない、ということだ。

 

「やっぱあの手が一番有望だが、この調子だとラーニングされて終わるだけだな。もう一手……」

 

 考えている間にも赤い光点が迫り、自分は準備不足の土壇場を余儀なくされたのだった。

 

 

 

 

「よし、撃ってこい、もう少し……!」

 

 GMが放つ、Iフィールド・ライフリングで捻り収束されたメガ粒子が飛来した。

 

 一発は、避ける。これは距離を有効射程ギリギリに踏み止めているので何とかなる。

 

 二発目も、なんとか避ける。アポジモータ容量と気合いの勝負だ。

 

 そして三発目は、盾で受ける。

 

 まず、ビーム・ライフルを封じる必要があった。教本に依れば、ビーム・ライフルは一定数発射するとチャージが必要で、GMが使用する量産モデルはその装填数が少ない。一応五発はいける仕様になっているが、ある問題から使い切ってチャージするのは推奨されていない。

 

 そのため、マニュアルに沿って使うなら、三発目でライフルはチャージャーにマウントされる。そしてかわりに使用されるのは、コンデンサ一杯に電力を蓄えたビーム・スプレーガンだ。

 

 果たして、『顎髭』はマニュアル通りにライフルをマウントに戻し、ビーム・スプレーガンを抜いた。

 

「まず一手クリア……!」

 

 声に出して確認しながら、機体を加速させた。

 

 シールドの陰に身を隠しながら、真っ直ぐに距離を詰める。ビーム・スプレーガンの威力ならば、ゲルググのシールドは十発くらいは持ちこたえられる。

 

 それがわかるからだろう、GMは牽制のスプレーガンを止め、左腕にビーム・サーベルを握った。

 

 そこに、そのまま体当たりした。

 

 激しく機体が激突し、コンソールからエアバッグが飛び出す。コクピット内に『ブッピガン』が鳴り響いた。

 

 そしてその陰に隠れて、ビームソードを握り込む。

 

「これ、当たらねぇんだよなぁ!」

 

 毎度定番の、盾隠しサーベルだ。シミュレーションではそこそこ有効を取れる手なのだが、いざ実戦となるとどいつもこいつも超反応で回避してしまう。 

 

 絶好のビームすら避けてしまう『顎髭』相手なら何を言わんや。

 

 案の定、一気にブレードを展開したビーム・ソード(サーベルとどう違うのかはよく知らない)を、GMは急加速で後に回避した。

 

 敢えて、通信を開いた。

 

「これで仕留められりゃ楽だったんだがなぁ!」

「もう少し速くないと当たってはやれんぜ!」

 

 なるほど、相手からすると隙が多くて避けやすいらしい。次からは何か対策するとしよう。

 

 だが、今回だけはこれで想定通りである。

 

 再度、中距離で交錯する。GMはビーム・スプレーガンを的確に撃ち込んでくるが、相手がスプレーガンで、かつこの距離であればシールドでやり過ごせる。

 

 近距離でダメになるのは、命中率の向上で蓄積した熱の放出が間に合わなくなるのと、ビームが拡散せず一点に集中するからだ。逆に言うと、拡散が起きづらいI フィールド・ライフリングを搭載したビーム・ライフルが、どれだけ革新的だったのかということでもある。

 

 そして、対するこちらはマシンガンで応戦する。

 

 ザクの後期型やリックドムが携行していた突撃銃だ。速射性に優れ、取り回しもいい。しかし空間戦闘で使用するには弾速が遅く、否応なく接近戦を強いられる。空間戦闘機や艦艇を相手取るにはむしろ有利に働いた特性だが、こと宇宙のモビルスーツ相手では良い選択肢とは言い難い。

 

 だが、接近戦を前提とするなら、これでいい。

 

 重要なのは、GMに()()()()()()()()()使()()()()()ことだ。

 

「だが、まぐれ当たりしてくれても構わんのだがなぁ!」

 

 果たして、忌々しいことにマシンガンの弾丸は、GMにかすりもしない。空間戦闘では大気の摩擦がないので弾丸が減速しない(つまり長く貫通力を維持できる=射程が長くなる)が、初速のまま飛び出しても、空間戦闘のスケールだとまぐれでもなければ当たらない。

 

 謂わんや、銃口が向いた瞬間に回避運動を取られていては。

 

 だが、ここで重要なのは、回避行動を取らせていること自体だ。

 

 弾切れを起こしたマシンガンから、空のマガジンをイジェクトし、予備弾倉に入れ替え――。

 

 ――ようとしたところに、GMが突っ込んできた。

 

 ビーム・スプレーガンをまばらに撃ちながら距離を詰め、一際大きなデブリの背後に飛び込んで……。

 

 飛び出してきた瞬間、その手にはビーム・サーベルが抜き放たれていた。

 

「そう来るよな――っ!!」

 

 予想通りだった。『顎髭』は見たマヌーバを真似せずにいられない。根本的に、選択肢が頭の中にないのだ。だから、小技を見せられれば、それを仕返してくる。そこで必ず何らかのアレンジを加えてくるのが非凡なところだ。

 

 だから、誘導した。この状況に。

 

 スロットルを一杯に押し込めば、瞬時にGMが視界一杯に広がり、そして。

 

「んぐっ……っ!」

 

 衝撃と、『ブッピガン』。

 

 ビーム・サーベルを手にして迫ってくるGMに、先ほどと同じく、盾から一気に体当たりを仕掛けたのだ。

 

 GMとゲルググは、見てくれからは意外なことに重量に大きな差はない。だとすれば、盾の有無が重量の劇的な差になる。

 

 つまり、正面から当たれば、こちらが押し勝てるのだ。

 

 そして、当然のように握っていたビームソードを、特殊モードでアクティブにした瞬間。

 

 正面から引いた盾の陰から、現れるのは短銃の銃口。

 

 知っている技なら、『顎髭』は当然対抗してくる。盾の陰でビーム・ソードを抜いていることは予想済みだろう。

 

 だから、予想通りのタイミングで、ビーム・スプレーガンが光を放ち。

 

 その閃光が、いまひとつの閃光によって散らされた。

 

 ゲルググの、ビーム・ソードの特殊モード。回転旋刃のビーム・ナギナタである。

 

 束まで覆う刀身形成Iフィールドは、回転させることでビームを弾く盾となる。もちろん性能的にはビーム・ライフル相手には貫通されることがわかっているが、ビーム・スプレーガンならば。そして。

 

 ビーム・ライフルをチャージしながら、しかもさんざん振り回して、パワーダウンしているGMが相手ならば。

 

「弾けろ――!!」

 

 果たして、メガ粒子砲は弾けた。機体に軽い損傷を生じさせているが、無視できるレベルだ。

 

 そしてその隙を突いて、ビームソードをGMの胸に突き立て――。

 

 その瞬間、カメラがノイズに埋もれた。

 

「んぁっ!? 野郎!」

 

 カメラが潰された。GM頭部の機銃だ。モビルスーツを貫くには威力不足だが、ゲルググのカメラを破壊するには十分。

 

 カメラが復旧するには時間がかかる。仕切り直すのが正道、だが。

 

「止まるか――!!」

 

 この機を逃せば、次はない。これ以上『顎髭』に学習させるわけにはいかない。

 

 だから、構わず。数多の経験と直感で、ちょっとした補正を加えて。

 

 回転を止めたビーム・ナギナタを、盲目のままに突き出すと。

 

 何かに、衝突した感触が、右腕の先から伝わってきた。

 

「――TG1、撃破ッス!!」

 

 興奮した様子の技師の声が聞こえてきたのと、ほぼ同時にサブカメラの補正が完了し、周囲のノイズがぱっと晴れて。

 

 そこに見えるのは、GMの赤い胴体と、そこに伸びるゲルググの、腕。

 

 その先端は、確かに仮想モードでビーム・ソードを展開して、GMのコクピットを刺し貫いていた。

 

「――やあ、やられたな、『少尉』」

 

 通信が開かれ、『顎髭』がそのセクシーな顎を撫でて気楽に笑うが。

 

「――――」

 

 対する自分に、言い返す気力の在庫もなく。

 

 ただ、どっと吹き出した疲労に身を任せ、意味もない呻きを漏らしたのだった。

 





■ビーム・ナギナタ

 ゲルググに特徴的な機能のひとつ。運用法が定かではないため、連邦が接収した後はほぼ封印された機能。

 ゲルググのビーム・ソードは収束が連邦製に比べて甘く、束にまでビーム反発フィールドが及ぶ(短時間ならばビーム・サーベルを受け止められるレベル)。それを活用し、バーサライタのようにビーム刃を回転させ、擬似的にIフィールド・バリアを形成することができる。つまりは、五十年後に普及するビーム・シールドの原点とも言えるものである。

 ただし、束部分のフィールドの弱さは否めず、束でなくともビーム・ライフルの直撃には耐えられない。グフのフィンガー・バルカン共々、連邦の標準装備がジオンの想定を越えた結果、活躍の場を失ったものである。(兵器開発では、ことに戦時下では「世に出たときには時代遅れ」がつきものである)

 あくまで非常防御手段のひとつではあるが、飛来するミサイルを撃墜したり、後世においてはIフィールドを投射することによってその場に残像を投影するなど、発想を継承したと思われる運用が散見される。

■Iフィールド・ライフリング

 ビーム・ライフルを『ライフル』たらしめる装置。

 通常のビーム・ガンは、電磁弁と磁気加速によるメガ粒子の押し出しを行う、言うなれば超高熱の水鉄砲である。これは高熱の塊を射出する関係で、熱散乱などにより射出後急速に拡散し、熱量を失ってしまう。これに対策するには、旧来においてはメガ粒子の物量そのものを増やし、散乱しても現実的な範囲では有効な威力を維持できるようにしている。これが、いわゆる『戦艦のビーム砲』である。

 RX-78のビーム・ライフルは、ビーム・サーベルの収束機構と同様の原理であるIフィールドによる力場を銃身内に形成し、さらに場を回転させることで射撃軸に対する収束効果を付加している。すなわち、Iフィールドによるライフリングとして機能する。 

 このライフリングにより、ビームは旧来では考えられないほどの収束度を維持し、長距離までビームを到達させることができる。これがセンサー上では戦艦のビーム砲並の熱量に見えるため、『戦艦並のビーム』という形容になった。 

 なお、大型艦艇ではこのライフリングを使用しづらい(巨大なIフィールドコントローラーが技術的に困難)ため、大出力砲は粒子量勝負のハイパーメガ粒子砲、もしくはフィールドに制御された拡散粒子砲が使用され続けることになる。

 なお、ライフリングはあくまで初期射出段階での収束を保証するものでしかない。開発者の一人であるテム・レイのノートには、フィールド制御技術の発展を見越した『放出後もフィールドにより回転し続け、ドリルのように接触するフィールドを穿孔する』ものが提案されているが、実用化には千年かかるかも知れない、とコメントが残されている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。