或るパイロットの年代記   作:DOH

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UC0084 サイド6(3)

「うぉあわぁああああ!?」

 

 思わず、悲鳴が出た。

 

 その顔は、まるでハロウィーンのカボチャ飾りのようだった。

 

 ひたすらに巨大だった。ZAMの全身よりさらに一回りは大きい。その顔面いっぱいに、サイケデリックなマーキングが施されているのである。

 

 両目は複合カメラとライトが複眼よろしくぎらついていた。口にあたる場所には乱喰い歯のような刃がぞろりと並び、その隙間からは、舌のような何かが生えている。

 

 その舌が、何かの光を放った(システムの解析により、レーザー光だとわかった)のと同時に、カボチャ頭の乱喰い歯がギリギリと回転し始めた。

 

 そして、あろうことか自分のZAMに、噛みついたのだ。

 

「マジかぁ――――――!?」

 

 悲鳴混じりに盾を突き出し、カボチャの顎を受け止めた。

 

 その歯は、後になってアッグのグラインドホイールと同質の、接触した岩塊を破砕するものであったとわかった。そして、舌先から光ったものは、破砕物加熱用の短距離レーザートーチであったということも。

 

 だがその時点の自分はそんな事情など知らず、ただ盾に衝突してがりがりと削ってくるカボチャ頭への対処以外に思いを巡らせる余裕など微塵もなく。

 

 本能だけで、身体が動いた。

 

 脚部のカウル基部を真正面にポップアップし、ロック。

 

 脚部の大半を占めるブースターだけを曲げて、カウルのつま先とブースターの噴射口を一直線に固定する。

 

 ――そして、全力噴射。

 

 即席のブースト・ニーキックである。突き出した膝が加速し、カボチャ頭の――つまりは想定通りの『ザクレロ』の顎下あたりに突き刺さった。

 

 鈍い衝撃音を圧して『ブッピガン』が鳴り響き、カボチャ頭が吹き飛んだ。

 

 その隙に脚部カウルのロックを外し、距離を開く。ビーム・ライフルを構え、ガンカメラとメインカメラで改めて敵を見定めた。

 

 なるほど、その敵機は『ザクレロ』に見えた。

 

 話に聞いていたので、基本的な構造が、連邦の『ボール』と大差ないのがわかった。丸いポッド部に、ブースターと腕部を装着しているのは変わらない。ただ、腕もブースターも、段違いに大きいというだけだ。

 

 記録にあった機体は両腕にヒートナタを装備していた(要はヒートホークと構造は変わらない)が、この機体は三本指のアームユニットに打突ユニットを備えている。

 

 胴体は記録の機体より大きく、背中にはふたつのミサイルランチャー(さっきの誘導弾の発射器だろう)と、更に細かいグリップだの何だのが並んでいる。

 

 特に目立つのは、後部に嵌まったドラム状のパーツだ。機体を左右に貫通したそのユニットは、両端に(ちょうどZAMの胴体中枢と同じ雰囲気で)丸いレールにグレネードランチャーやザクマシンガンがくくり付けられている。

 

(とすれば、回転して何かしてくるか)

 

 そんな思考に回答するように、ドラムが回ってマシンガンの銃口がこちらを向いた。

 

「おわっと!」

 

 牽制に軽くビームを撃ち返しながら、射線から逃れる。あちらも当てるつもりはない(というか、あれでは構造上射撃範囲が狭すぎて、よほどいい位置を取れなければモビルスーツ相手に命中は期待できない)ようで、ZAMが退避して開いた射線に加速して飛び込んでいく。

 

 なるほど、モビルアーマーが真正面からの撃ち合いなど、馬鹿のする事ではある。

 

 しかし、こちらも普通のモビルスーツではない。MODEL9の脚部もシュツルム・ブースターも小惑星にランデブーするための装備だが、高速で移動する物体にアプローチするという点では、モビルアーマーの相手も大差ない(気がする)。

 

「こっちはMAを追う!」

「気をつけろ、多分何か仕込みがあるぞ!」

 

 ザクを相手に何やら手こずっている様子の『顎髭』の警告を五割くらい聞き流しながら、背中のシュツルム・ブースターに点火した。

 

 そして真っ直ぐにザクレロに追いすがる自分の背中を。

 

 けたたましいロックオン警報と、マシンガンの弾幕がひっぱたいたのである。

 

 

 

 

「ザクレロは、囮か!」

 

 要するに、そういうことであった。

 

 ZAMの背後についたのは、ヅダだった。身を隠したヅダはザクレロを囮に、背後を取れるタイミングを伺っていたということだ。どこから調達したのか(多分ザクレロの後ろのドラムについていたのだろうが)無事な左腕にマシンガンを携えている。

 

 そいつが、ZAMの真後ろで、マズルを光らせた。

 

「んなろ……っ!」

 

 弾丸が機体を掠め、ブースターにいくつか穴が空いた。

 

 しかし少々の被弾では、戦闘用のブースターは機能を失わない。構わず加速し、ザクレロを追い詰める。状況的に、このザクレロが事実上の『母艦』と思われる。だとすれば、これを攻めれば相手の行動は相当制限できるはずだ。

 

 だが、そこで何かがザクレロから射出された。

 

 ZAMの手前で、飛び散る、煌めく何か。機体のシステムが、その物体の識別を試み、即座に回答を発した。

 

「……ちっ! ビーム攪乱幕だと!?」

 

 一年戦争中に使われた、パブリクあたりが積んでいたやつだ。Iフィールド制御技術の応用で、ビームを拡散させ、熱量を分散させる作用がある。

 

 つまり、これが展開されている間はビームが無効化されているようなもので。

 

 ビームで全身を固めたZAMは、両腕をもがれたも同然だった。

 

「だが、すぐに幕は通過する――!」

 

 ビーム攪乱幕がいまいちMS戦で活用されない理由はこれだ。有効時間が短く、範囲が狭い。宇宙でしか運用できない割に、激しく戦場が移動する空間戦闘では、フィールドを変えられて無駄にされる可能性が高い。

 

 つまり、攪乱幕が有効なのはごく一瞬であり。

 

 それがわかっているから、その一瞬に勝負を仕掛けてきた。

 

 ヅダが、加速した。そしてザクレロが減速し、くるりと反転する。

 

 ビームでの迎撃ができない状況であるから、両機ともに躊躇いなく吶喊してきた。

 

 ちょうど攪乱幕の効果範囲で衝突するよう、的確にタイミングを合わせた機動戦術だ。

 

 ヅダのマシンガンが、回避ルートを封じてくる。

 

 ザクレロが、両腕のアンカーアームを突き出し、乱喰い歯を打ち鳴らす(音が聞こえるわけではないが、そう感じた)。

 

 しかも、後部のドラムからバズーカがこちらを向いた。最近連邦で重宝されている多目的ランチャーのクレイ・バズーカだ。

 

 それが火を噴き、粘着弾をぶちまけた。

 

 かざしたシールドに、何故か真っ赤な粘着弾がまとわりつく。別に連邦機を捕獲するつもりも(そんな余裕も)なかろうに、炸薬ではなく粘着弾を装填しているようだ。

 

「盾が……重いっ!」

 

 盾とカバーしきれなかった手足にアラートが発する。

 

 動きが鈍った瞬間に、ザクレロのアームが盾を掴み、直後、盾の裏側に火花が散った。

 

 アンカーアームの破砕杭が盾を貫いたのだろう。そして盾から離脱したZAMをいまひとつのアンカーアームで捕らえるか、そうでなければヅダがマシンガンで仕留める腹積もりであろうが。

 

 もちろん、黙ってそれを眺めていたわけではない。

 

 ザクレロが盾を掴んだ瞬間、アドバンス・ブースターに点火した。

 

 シユツルム・ブースターに追加されたふたつの可動ポッドである。

 

 使い方がよくわからないため、シュツルム・ブースターの主推進のサポートにのみ使用していたが、ここはこれの出番と見た。

 

「回れ……っ!!」

 

 事前に適当に設定したコマンドで、FB(フル・バーニアン)モードを起動し、バレルロールを仕掛ける。

 

 途端に、ほとんど真横の衝撃が、縦横無尽に自分を振り回した。

 

「うぉっ……!?」

 

 通常のバレルロールは、空力もしくは推力偏向ノズルで機動角度を調整して仕掛けるものだ。だが、アドバンス・ブースターのそれは、主推進器に匹敵する推進力をぐるぐると動かして機体を振り回す。

 

 白兵戦距離に迫っていたザクレロとヅダには、ZAMが消えたように見えたことだろう。パイロットであるこちらも、機体の現在位置を見失ったくらいだ。

 

 だが、予想していただけ、体勢を整えるのはこちらが先だった。

 

 こちらを見失った敵機が戸惑っている隙を狙い、ザクレロの背後を狙う。

 

 より正確には、狙いはザクレロの後部、汎用武装コンテナであろうと思われるドラムユニットだ。

 

 そこに急接近し、ひときわ目立つ得物を剥ぎ取った。

 

 そのまま機体を転回し、戸惑うヅダに肉薄して、剥ぎ取った得物……クレイ・バズーカのトリガーの照準を向ける。

 

 ザクマシンガンやヒートホークはジオン純正のセキュリティロックがかかっており、(『泥棒戦隊』時代のGMならともかく)ZAMではロックが外せないはずだ。だが、クレイ・バズーカは一年戦争期には存在していなかった装備であり、見たところ連邦で使用されているものと同型である。

 

 つまり、ジオン残党が独自のセキュリティをかけている確率は低いと見た。

 

 その賭けは、トリガーを引くことでコインが投げられ。

 

 吐き出された弾頭が大量のガムをぶちまけ、ヅダに降りかかったことで、自分は賭けに勝利したのだと理解した。

 

 

 

 

 クレイ・バズーカはそもそも、コロニー内での戦闘で敵機を爆発させずに無力化したり、そうでなくても捕獲するための装備だ。死んだジオン残党は指揮系統や補給線、資金源や機体データの情報を吐かないのである。(もちろん通常の炸裂弾も装填できる)

 

 とくに、近日アップデートされた対ミノフスキー推論エンジンは、敵機の詳細な情報を要求する。諸元やデザインやカラーリング、その他様々なデータをだ。

 

 そのデータベースを元にした画像解析で、ミノフスキーで攪乱された情報を「どうやらあれはドムらしいぞ」と推論し、そこから視差で距離を計測するのである。以前ルッグンやプチアッガイ相手にOSが距離を測りかねたのも、機体データが本来登録されているサイズと著しく異なっていたためだ。

 

 ともあれ、クレイ・バズーカの弾丸は、直撃しても一撃で標的を破壊するものではない。しかし砲から飛び出したやけに粘着質の真っ赤なガム(もしかして隕石にブースターを固定させている奴か?)は、ヅダを確実に絡め取り、手足の駆動に致命的な障害を与えたようだ。

 

 真正面からガムを浴びたため、ヅダの顔もコクピットもガムだらけで、これでは身動きできまい。つまり、ヅダは完全に戦線から離脱したということになる。

 

 とすれば、あとはザクレロを黙らせるだけであり、ヅダの支援のないザクレロ相手であれば、簡単にその頭上(でっかいカボチャ頭の上)に降り立つことができた。

 

 そしてそこまでいけば、サーベルを突き立てるだけでことは終わる。ザクレロのコクピット位置はすでに把握済みだ。

 

「うわぁああああっ!?」

 

 足元から直振で聞こえてきた相手パイロットの悲鳴が、やけに軽くて高いなとは思ったが、こうなればもはや止まる理由もない。

 

 振り上げたサーベルを、モビルアーマーの延髄のあたりに振り下ろそうとしたとき――。

 

 機体のアラームがロックオン警報をがなり立てた。

 

 背中から――ザクレロ機体後部のドラムユニットから、ザクマシンガンが火を噴いている。装着角度が悪いため、背中は死角なのだが、それでも何発かが出っ張ったシュツルム・ブースターに穴を空ける。

 

「んなっ!?」

「えっ、おい、やめろ『黒曜石』!」

 

 戸惑いの声は、自分と足元両方から発した。

 

 そして、その声で確信した。

 

「二人乗りで……パイロットは、子供か!?」

 

 振り返る。見れば、左右に張り出したドラム部分の真ん中にはのぞき穴があり、そこから何者かがこちらを睨みつけている。手元で何かをがちゃがちゃと操作しているようで、左右のドラムがせわしなく回転した。

 

 そして、弾切れになっていない武器を見つけたのか、その先端を自分に向ける。

 

 シュツルムファーストだ。いわゆる使い捨てのロケットランチャーである。弱い誘導性能もあり、ちゃんと照準できていれば、背中のZAM相手でも命中が期待できる。

 

 爆発力と貫通力に優れており、モビルスーツにも有効な武器だが――。

 

 いかんせん、この距離ではザクレロの機体もただではすまない。

 

 ほぼ剥き出しの銃座に座る射手は云わんや。

 

(やれるか――!?)

 

 サーベルの切っ先を、切り替えた。

 

 アドバンス・ブースターが炎を吐く。真横のGが脳髄を揺らし、ZAMの機体と自分の臓物がでんぐりがえる。

 

「待て、少尉――!!」

 

 顎髭の声が聞こえるが、遅い。

 

 ――言いたいことは概ね察しているが、そんなことは先刻承知であり。

 

 問題はやるかどうかではなく、正否を決める自分の技量と、ZAMの性能だった。

 

 そして、『不倫男』のRX-84は確かな性能を発揮し。

 

 アドバンス・ブースターで小刻みに踊ったZAMのサーベルが、左右のドラムに装着された火器一通りと、ついでにザクレロの両腕のアンカーアームまでを切り落としたのである。

 

 

 




■ザク・リ・ローダー『ジャック・オー・ランターン』

『サーカス』で改装され運用されたザク・リ・ローダーの一機。
 顔面にあたる部分に削岩機、両腕にアンカーアームを装備しており、『ザクレロ』として著名なものよりさらに多目的に運用できる。頭部の意匠はカボチャの怪物を模したものとなっており、削岩機が笑う乱喰歯のように見える。
 胴体はさらに大型化し、上面と下面にそれぞれモビルスーツを積載することが可能、もちろん戦闘力は大幅に低下するが、切り離し可能な居住ブロックと併用することで、長期間の遠征作業の拠点としても運用可能となった。
 大きな特徴として機体後部のユニットにモビルポッド『オッゴ』をもとにしたドラム型多目的ツールターレットを2器搭載しており、モビルスーツ標準のコネクタで運用できる。これはオッゴを元にしているだけあって(射界は著しく制限されるが)ターレットに装備したまま使用が可能であり、オッゴ部のサブコクピットから射手が独立して射撃を行う(むしろ制御が独立しているため、メインコクピットからの制御は可能だが困難)。


■アドバンス・ブースター

 ジオン製の、高機動型ケンプファー用(ガーベラ・テトラで使用された方が知名度が高い)シュツルム・ブースターに追加された連邦製可動バーニアポッド。
 両側にひとつずつ装備し、主推進器に匹敵する推力を半球範囲に向けて自由自在に機動させるのがコンセプトのもの。
 早い話がGP計画の『フル・バーニアン』を『不倫男』が原型機の資料から目コピしたもの。制御系もこの時点ではGP-01のバックアップデータが流用されている。
 ただし、開発者と使い手の両方が機体を熟知していることを前提とした調整がされており、ZAMへの最適化の時間もなかったため、パイロットと機体への負荷は原型機以上。これを使用したフル機動を続けると、早晩限界が来てまずパイロット、続いて機体が破損すると思われる。


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