或るパイロットの年代記   作:DOH

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UC0084 サイド6(4)

「――つまり、このまま放っておけば、コロニーには当たらないんだな?」

 

 ガムで簀巻きにされたヅダのパイロットに、自分は念を押した。

 

「ああ、そもそもの計画が、サイド6へのアステロイド攻撃の可能性をほのめかして、サイド6からのジオンへの圧力を弱めるのが目的と聞いている。当てるまでやるのは本意ではない」

 

 簀巻きにされたままのヅダの中から、リーダーらしいパイロットが弁明する。なんでも、名前は『真鍮』というらしい。もちろん、コールサインの類だろうが。

 

「そういうのこそまさにテロリズムって言うんだが、言っても始まらんか」

 

 頭を掻いた。悪いのは、員数外の不正規部隊にテロ行為の指示を出したジオン残党(どこの派閥かは『真鍮』も知らない)である。

 

 ザクレロとヅダを無力化したことで、『隕石落とし』班は制圧された。なんかよくわからんザクの方も、『顎髭』がうまく取り押さえたらしい。

 

 現在はザクレロに指示して、隕石の慣性系に合流するべく調整中である。鬼ごっこのためにだいぶ離れてしまったのと、簀巻きにしたヅダを回収するのに手こずっているところだ。(なにしろ不用意に触るとこちらもひっつくのである。そのまま放っておくと宇宙の藻屑であるし)

 

 コンソールから、計算完了の通知が出た。

 

「お……なるほど、確かに今のコースなら、ちょうどサイド6全部の浮遊物をすり抜けて通過するのか」

 

 ZAMのシステムの試算が、『真鍮』の主張を裏付けた。モビルスーツのシステムは、ザクの時点で単独での空間軌道計算機能を備えている。ミノフスキーによる不確定要素があると難儀するが、これだけ近ければ軌道計算はコマンドひとつである。(『不倫男』曰く、そもそもこういった単独で宇宙を旅するために必要な機能を一通り備えているのが、本来のモビルスーツであり、本来の『ザク・コンセプト』らしい)

 

 しかし、針の穴を通すような軌道である。

 

「……これを月軌道からこのノズルだけで移してきたのか」

「『真鍮』は『サーカス』で一番のテダレだからな!」

 

 リニアシートから、遠くに浮かぶ隕石を見やって感嘆していると、ザクレロから自慢げな子供の声がした。こちらはザクレロのパイロットであり、名前は『黒鉄』というらしい。

 

 ちなみに後ろのドラムに乗っていたのは、その妹の『黒曜石』なのだそうだ。なんでやたら堅いものの名前を背負っているのか知らないが、風雅なことではある。

 

 しかし、名前は雅でも、やっていることと境遇は座視できるものではない。

 

 彼ら自称『サーカス』が、ジオンの不正規工作部隊であることは理解した。

 

 モビルスーツよりも工作機械であるモビルアーマーの操縦に優れた一団は、一年戦争末期に戦力として浮いていたところを、よりにもよって『ガンダム退治』に引っ張り出され、腕利きから順に散華することになった。

 

 戦後は不正規であるがために投降もままならず、同じような境遇で身を寄せ合って暮らしていた(と言えば聞こえはいいが要は海賊である)一団は、昨年の騒動に巻き込まれて散ってしまったという。

 

 そして、喰うや喰わずの身の上となった彼らに、自称ジオン残党の使者が仕事を持ってきたというわけだ。

 

 ため息を吐き出し、通信の向こうに問いかける。もちろん、相手は小惑星付近で待機する『顎髭』だ。

 

「情状酌量の余地はあると思うんだが、どう思う?」

「わからんな。これで実際にコロニーを破壊していたら、いよいよ一族郎党まとめて処断もあり得るんだろうが」

「……子供に責任はないだろう」

「そう思いたいんだがな」

 

 『顎髭』の声が曇った。おそらく想像しているものは同じ、治安維持部隊『ティターンズ』のことだろう。

 

 昨年の『コロニー落下事故』の顛末を収めた功績をもって台頭した、ジャミトフ・ハイマンとその子飼いの部隊が『ティターンズ』である。最新型のカスタムタイプのモビルスーツを運用し、特務特権を振りかざしての活躍の数々は、地球圏にその名を轟かせている。

 

 ――もちろん、悪評だ。まだ一年経過したかしないかくらいだというのに。

 

「テロリスト認定された集団を殲滅した事例も山ほどあったな」

「ゲリラの村を制圧して『収容所が不要だった』って話もあったからな」

 

 制圧後、生きている人間がいなかったという意味である。

 

 そんな連中が幅を利かせるご時世であるから、コロニー破壊レベルのテロ未遂の犯行グループを、彼らが見逃すとも考えられない。

 

 そして、ここで『サーカス』を逮捕した場合、取り調べからして『ティターンズ』がしゃしゃり出てくるのは確実だ。奴らにはその動機と権限が兼ね備えられている。

 

 もしそうなった場合に、あの連中が子供に容赦するかどうか。

 

 だから、子供を戦場に出してはならないのだ。いや、ならば大人ならいいのかと言われれば困るのだが、子供が関わると全方位誰もが不幸になる。

 

「――いや、ほんとこれどうすんだよ」

 

 全天暗黒のリニアシートの中で、頭を抱えた。

 

 

 

 

「どうする、と言われてもな……」

 

 こちらは古めかしい棺桶スタイルのGMのコクピットで、『顎髭』が唸った。

 

 彼の目の前には、左腕一本だけになって浮かぶザク(MS-05、いわゆる『旧ザク』)の姿がある。

 

 『サーカス』のアクロバット(揚陸担当)として活躍している機体とパイロットのようで、腕に換装された両足を含め、四本のヒートホークを振り回してきたのが特徴だった。

 

 過去形なのは、『顎髭』によって右腕と両足を斬り落とされたためである。

 

 遭遇直後は変幻自在の斧捌きに戸惑ったものの、一度に扱える斧がせいぜいふたつまで、そして上半身から下半身に制御を切り替えるときに一瞬の隙が生まれることに気がつけば、あとは一瞬だった。

 

 こうなっては、ただの機能不全のモビルスーツに過ぎない。

 

「正直、助けられるかはわからないぞ。逃がしてやるわけにはいかないしな」

「それでも、あの一つ目があの子らを殺すのを止めてくれたろう? それでも十分さ」

 

 ザクのパイロットが、モノアイを瞬かせて返答する。短距離レーザー通信だ。名前は『青銅』という女性で、ザクレロの子供たちの母親であるらしい。

 

 『顎髭』が右手と両足を落としたところで、降伏を申し出てきたのは『青銅』の方だった。

 

「降伏するから、子供達を助けてやって欲しい」という筋だ。

 

 瞬く間に機体を無力化されたことから、まるで勝ち目がないと察したが故のことである。少なくとも本人はそう言っているし、AMBACもできない状態で、万全なGMとZAM相手に勝ち筋がないのも事実である。

 

 だから『顎髭』はザクレロを仕留めにかかる『少尉』を止めにかかったわけだが――。

 

(元より『少尉』もそのつもりだったみたいだしな)

 

 詳細を告げる時間がなかったにもかかわらず、『少尉』はパイロットを傷つけることなくザクレロ(とヅダ)を無力化して見せた。

 

 どうやってパイロットが子供(しかも二人)だと気付いたのかはわからなかったが、いい分析と判断であると思った。

 

 しかし、そのつもりであったならばなおのこと、ここから先の対応が問題になる。

 

「……十分とは言うが、な」

 

 助けた側としては、子供の死に場所がここから収容所に変わっただけ、というのは避けたかった。

 

 だが、それならどうすればいいのか。結局堂々巡りである。

 

「サイド6に突入するコースから外すか? うまくどこかのサイドにタッチダウンさせられれば、軌道修正のための民間の協力者ということに……」

 

 視線を、隕石に打ち込まれたノズルへと向ける。この『サーカス』の面々なら、今からでも隕石の軌道を『何事もなかった向き』に修正できるかもしれない。

 

(だが――何だろうな、この違和感)

 

 どうも、鼻の奥のあたりがチリチリした。違和感が拭えない。

 

(どうにも迂遠だ、これは)

 

 この『隕石落とし』の意図が「ジオン共和国および残党に対するサイド6の態度を中立的にすること」というのは理解した。なるほど、行為の是非はともかく、意図は理解できる。サイド6を保身に走らせることができれば、そこを隠れ蓑に残党が生存を図る余地も大きくなるだろう。

 

 だが、それは不正規部隊である『サーカス』ありきの脅威だ。この部隊を殲滅あるいは買収されれば、隕石落としによる恐怖交渉は成立しなくなる。そして、生存のためにあっさり降伏したことからしても、『サーカス』のジオンへの忠誠心は、決して高いとは言えないのが実情である。

 

(リターンの割に、コストとリスクが大きすぎる)

 

 それが、『顎髭』の違和感の肝だった。仕掛けに期待する成果が持続的である割に、その要素技術が持続的でなさすぎるし、そもそも持続させる意図が感じられない。

 

 これでは、「()()()()()()()()()()」の方が、仕掛けと結果がコンパクトにまとまっている。「一時の溜飲を下げつつ穀物の収穫量を下げ、連邦の宇宙への食料依存率を高める」という、これもいささか迂遠な工作であるが。

 

「だが、それならこの作戦は、ジオンにとってどういうメリットがあるんだ……?」

 

 ひとりごち、視線を再度間近を回る隕石に向ける『顎髭』だったが。

 

 回転する隕石のノズルが、動いていることに気がついた。

 

「ン……?」

 

 バランスを取るため、隕石に垂直だったノズルが、回転逆方向に転向している。

 

 ツン、と鼻の奥が傷んだ。

 

「……おい、これは――まずいっ!!」

「え?」

「離脱する! ここは近すぎる!」

 

 『顎髭』の言葉を圧するように。

 

 その瞬間、ノズルが火を噴いた。

 

 三基が、同時に。同じ方向を向いて。

 

 力尽くの噴射で、ゆっくりと、隕石の軌道が変わり始めたのだ。

 

 

 

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