或るパイロットの年代記   作:DOH

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UC0084 サイド6(7)

「何をやっている、お前達!?」

 

 突如クリアになったルナツーからの罵声をやり過ごしながら、自分は現状を確認した。(後からの推測ではあるが、『来訪者』の母艦が通信を中継していた可能性が強い)

 

「何があった! 敵か!?」

「すまん……!! まずいことになった!」

「何がまずいって……げっ!?」

 

 謝罪とともに『顎髭』の送り込んできた映像に、一気に頭の血が引いたのがわかった。

 

 接近してきた黒いGMの一機が、『顎髭』の放ったビーム・ライフルの直撃を受け、爆散している。

 

 黒いGMなどというマシンを乗り回すのは、連邦広しといえど、ひとつティターンズ以外にはいない。

 

 つまり、おそらくは事故だろうが、『顎髭』は隕石対応に出張ってきた『ティターンズのMSを破壊してしまった』のである。

 

「まさか当たるとは思わなかった……」

 

 大方、相手は殺気丸出しでシャクルズやザクを狙ったというところだろう。それを察知した『顎髭』が先手を打って牽制した、という流れだ。

 

 それは理解できる。そもそも警告もなしに撃とうとしていた段階で、普通ならば反撃されても文句は言えないし、避ける準備もなしに撃とうとするなどどんな素人かという話でもある。

 

 だが、()()()()()()()()()()()()()

 

 加えてこちらは(主に『サーカス』が)臑に傷のある身の上で、実際先に撃ったのもこちらだ。話を聞いて貰える状況ではない。

 

「事故だ! ティターンズの機体を落としちまった! 時間を稼ぐからなんとか仲裁を頼む!」

「ティタ……!?」

 

 望み薄とは思いながらも、通信の向こうのルナツーに事態を放り投げた。泡を食う『不倫男』の反駁を無視して回線を閉じる。論争している時間はない。

 

「残り三機、全部新型のクゥエルか……!」

 

 モニターに映る機影を確認し、舌打ちする。黒いGMは陣形を組み直し、こちらに向けて大きく迂回機動で接近している。ビームで迎撃されることを想定した編隊機動だ。

 

 ティターンズの機体はエリート部隊というだけあって、同じGMでも最新鋭のGMクゥエルが配備されている。単純性能では機動性でも装甲でも素のGMとは比較にならない。

 

 ZAMであれば拮抗できるのではと思うが、こちらはこれから大仕事である。

 

 駄目元で、連邦軍共通チャネルで通信を開いた。

 

「ティターンズ部隊に要請する! こちらは現在隕石軌道修正ミッションを遂行中だ! あとで土下座でも何でもするから少し待ってくれ!」

「先に撃っておいて何言ってやがる! 言い訳ならマシンから降りてからにするんだな!」

 

 とは、気の荒い声のティターンズの返答である。取りつく島もないし、大変不本意ながら、今回ばかりは、相手に理がある。

 

「くそったれ、あんなの三機を野放しにしたら、あっという間に『サーカス』が落とされる……!」

 

 状況証拠からしても、『サーカス』が隕石を落とそうとしていると解釈されるのは確実だ。実際、ここまで運んできたのも、これからサイド6を掠める予定だったのまでは間違いないし、それだけでもティターンズに撃たれる理由には十二分に足りている。

 

 とすれば、『サーカス』は弁明の余地もなく殲滅される公算が極めて高い。

 

「……『少尉』」

「あん?」

 

 『顎髭』の通信窓から、神妙な声が聞こえた。

 

「俺が『交渉』に残る。お前達は隕石を――」

「いや、それならお前達二人が対応すべきだ」

 

 そう割り込んできたのはヅダの『真鍮』である。

 

「こちらは、ザクレロとヅダがあればいい。『青銅』はザクレロに載せていけば、何とかなるだろう」

 

 ザクを置いていくわけにはいかない、かといってシャクルズを持って行くわけにも行かないので、そうなる。

 

 だが、それは余裕を相当に切り詰める行為だ。

 

「本来なら、『サーカス』だけでやる仕事だ。連邦の部隊を巻き込むのは本意でない」

「…………」

 

 唸った。正直、今の装備の『サーカス』に全部を任せるのは心許ない。

 

 だが、『顎髭』ひとりでティターンズの最新鋭三機を足止めできるとも考えにくい。『顎髭』が落とされれば、早晩黒い連中はザクレロを追いかけてくるだろう。どのくらいで追いつかれるかは不明だが、少なくとも悠長に軌道修正をしている余裕はあるまい。

 

 迷っていたと言うよりは、決断したくなかったと言う方が正しい。だが、そんなモラトリアムを、ティターンズは許してはくれなかった。

 

「――『少尉』、来るぞ!」

「……ええぃっ!!」

 

 悪態と共に、ZAMを走らせた。

 

 

 

 

 ビービービーと、穴の空いたシュツルム・ブースターが、警報をがなり立てた。安全運用限界を超えた加速がゆえである。

 

 しかし構う余裕はなかった。こちらの強みは速度だけだ。

 

 最高加速で飛び出した機体が、殴りつけたかように自分の体をシートにめり込ませる。

 

 ぐんと、三体のGMクウェルの『先鋒』が近づいた。

 

 通常であれば、想定外の踏み込みのはずだ。超高速の吶喊に対応が遅れた隙に機体のどこかを、できれば腕を切り落としたい算段だった。

 

 ――だが。

 

 まるで、急加速を予期していたかのように、『先鋒』の機体が翻った。

 

 いや、していたかのように、ではない。明らかにこちらの動きを読んで身を翻した。

 

「……くっ!?」

 

 歯噛みして、ターゲットを即座に切り替える。速度を活かすからには、ドッグファイトに付き合ってはいけない。速度を維持したままの一撃離脱を基本として仕掛ける必要がある。

 

 なので、標的を後方に陣取った、言うなれば『後詰め』のGMクゥエルに切り替えた。

 

 速度を活かすには、思い切りよく行かなくてはならない。相手が反応する前に、最高速度での吶喊に合わせたサーベルの一閃を――。

 

 防がれた。

 

「んだとぉ!?」

 

 これもまた、読み切られた。ZAMが接近する前にサーベルを抜き、しかも自分が『足を狙う』ことを見切って斬撃のラインにサーベルを『置いて』いたのだ。

 

 結果、自分のZAMは有効打を入れることができないまま、ティターンズ機の陣形を突破……できなかった。

 

 浮いていた第三のGMクゥエル……言うなれば『中継ぎ』の機体が、シールドを構えたままでこちらの軌道に割り込んできたのだ。

 

「んぐっ……!!」

 

 とっさに機体をロールさせた。減速して対応することもひとつの選択肢ではあったが、猛烈な嫌な予感がその選択肢を捨てさせた。

 

 そして捨てた選択肢を、後ろから飛び込んできた『先鋒』のGMが撃ち抜いた。

 

「くそったれ! 何だこいつら!」

  

 悪態を吐きながら、ジグザグの機動で『後詰め』の射界から逃れる。真っ直ぐ逃げれば、確実に背中を撃ち抜かれて終わりだと、予想がついた。

 

『ティターンズ』はお飾りのエリート部隊ではない、本物の手練れを集めた部隊なのだと、認めざるを得ないようだった。

 

 

 

 

「ウラキより場数は踏んでそうだが、ありゃ機体に慣れてないな」

 

 『後詰め』の評価は、『先鋒』も同意するところだった。

 

 彼ら『三馬鹿』は、先の『デラーズ紛争』においてもっとも苛烈に戦った艦に属していた。

 

 その艦には最新鋭の――現在は存在自体が抹消されたガンダムを搭載し、これを主軸にデラーズ・フリートを追撃したのである。

 

 細かい経緯はともかく、新機軸の機構を搭載したガンダムを『使い物になる』ところまでブラッシュアップする必要があり、彼ら『三馬鹿』はそのアグレッサー役を勤めていたのだ。

 

 一方、『不倫男』以外の誰の知るところでもなかったが、RX-84MS『ZAM隕石迎撃型』は、『そのガンダム』の機構をより簡易かつ高度に再現することを目標として設計されていた。つまり、その機動特性は限りなくそのガンダムに近い。

 

 結果、彼らは現在のモビルスーツパイロットの中で、もっとも「ZAM相手に習熟した」パイロットの部隊であり。

 

 『三馬鹿』の目から見れば、機体を押しつけられたばかりの『少尉』は「乗り立ての新人」同然でしかなかったのだ。

 

「どうする、ウラキに通じたフォーメーションで仕掛けるか?」

「後ろのGMが気になる。俺がガンダム紛いを押さえるから、先に二機でGMを制圧してくれ」

「ああ、あの距離で『部隊長』殿を落とした腕前だからな。まぐれにしても洒落にならん」

 

 雰囲気からして事故ではあろうと『先鋒』ですら理解はしていたが、当てる腕前がなければそもそもまぐれも起きないのである。

 

 そして、事故であろうと何であろうと、そもそもこの不審な集団を殲滅するのが任務であるからには、やるしかなかった。

 

(くそったれ、気持ちの悪い任務だ)

 

 『中継ぎ』が隊列を離れ、再び接近する『ガンダム紛い』に向かうのを視線で見送りながら、『先鋒』は舌打ちした。

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