或るパイロットの年代記   作:DOH

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UC0084 サイド6(8)

「――2機来たか!」

 

 ティターンズの光点みっつのうち、ふたつが交戦宙域を離れたのを見て取り、『顎髭』は歯噛みした。

 

 『サーカス』は送り出した。彼らのヅダとザクレロであれば、隕石の軌道修正作業はなんとかなるはずだ。正確には、そうでなければどうにもならない。

 

 とすれば、彼の役割は『少尉』のZAMに合流し、連携してティターンズを迎撃することである。

 

 しかし、合流する前に、敵が陣形を分けた。

 

 しかも、弱兵である『顎髭』のGMを優先し、二人がかりの布陣である。

 

「戦闘慣れしているな……!」

 

 素直な感想としてこぼれ出た。弱いものを放置し強敵に集中するのではなく、優れた防衛役を足止めに残して撃破役が弱兵を減らすのは、確実な勝利を得るために有効な編成である。

 

 もちろん、足止めする係が相当な腕利きでなければ、成立しない。倒されないだけでなく、振り切られない立ち回りの上手さも問われる。

 

 それを前提として部隊を分けられる。そこから、ティターンズの彼らの行動が、かなりの実力に裏打ちされていることが伺えた。

 

「ひとり落とされたってのに、恐ろしい連携だ」

 

 四機編成の部隊であれば、当然その状態での戦術を練っているはずであり、欠落しても淀みなく動けるというのは、とてつもない練度の現れか。

 

(――もしくは、落とされた奴が戦力外だったか)

 

 などという益体もない思考を、ビームが中断させた。

 

「くっ……!」

 

 正確な予測射撃だ。等速運動していたら確実に直撃の熱弾を、GMの構造上もっとも素早い軌道変更、つまりは頭上方向への急加速で回避する。

 

 そこに、もう一発が飛んできた。

 

(読まれたか……!)

 

 とっさに右足を振り上げ、軌道を逸らす。ビームの軌跡が『顎髭』のGMの右肩あたりを掠めて過ぎた。GMの標準的な機動性から予測した未来位置なのか、恐ろしく正確な偏差射撃だ。

 

(だが、避けた! ならば反撃を)

 

 と、視線を迫り来るクゥエルに戻したが。

 

 そこにあったのは、盾だった。

 

 急速に迫る、クゥエルの黒い盾。その陰に隠れて、いま一機のティターンズ機が接近しているのが見えた。

 

 そこで理解した。先程のビームは、先の一発が『先鋒』、二発目が『後詰め』のものであり、『後詰め』のビームの着弾タイミングに合わせて『先鋒』が吶喊してきたのだと。

 

 モビルスーツの速度では、自分のビームに追いつくことはできない。だが他者の射撃に合わせられるなら、ビームの回避運動で『死に体』となった瞬間の敵機を捉えることができる。

 

 どれだけ反応速度が高くても、人間が、そしてモビルスーツが一瞬で行動できる量には限界がある。極めて高い機動性を持つマシンを相手取ることを想定し、練り上げられた連携。

 

 知っていれば、回避行動の方向やリソースを絞ることでやり過ごすこともできるものだったが。

 

 反応は、できる。しかし、推進力を使い切った状況では。

 

 再度回避を試みても、先程以上の精度で予測射撃されるのが、後ろの『後詰め』の姿で察せられた。

 

(捕まった――!!)

 

 対策を考える暇は、そんな思考とけたたましい『ブッピガン』に押し流されて。

 

 盾ごとぶち当たった『先鋒』のクェエルが、思考を吹き飛ばして。

 

 視界一面を、コンソールから飛び出したエアバッグで埋め尽くされた向こうで、続いて飛び込んできた『後詰め』のクェエルの足の裏が、迫って。

 

(――――――――!!)

 

 とっさに振った足のAMBACで機体を反らし、キックの打点をずらす。

 

 そして、衝撃。ちょうど胸の装甲を斜めに捉えたクゥエルの足先が、激しく機体を揺さぶり、頭部を掠めてバイザーを砕いた。

 

 そんな衝撃であるから、中の搭乗者は。

 

 いよいよ衝撃中和機構の限界を越える衝撃で、シートに頭をしたたかに叩きつけられ。

 

 奇しくも機体と同じくひび割れたメットのバイザーの視界を最後に、『顎髭』は意識を吹き飛ばされた。

 

 

 

 

「やったか!?」

 

 トラックに跳ね飛ばされる子猫よろしく吹き飛ぶ『顎髭』のGMに、『先鋒』の口から思わずそれが零れ出た。

 

 ジンクスのある台詞である。必殺の一撃のあとにこれを言うとだいたい相手は生きている、と言う奴だ。

 

 だがそれは単に「相手を仕留めるということがそもそも難しい」ということでもある。大技を撃ち込まなくてはならないような拮抗した戦闘では、当然相手も相応に耐え忍ぶ術を持っている。それゆえに生じたジンクスであるが。

 

「意識途絶を確認。バイタルが取れるのは助かるな」

 

『後詰め』からの確認の声が聞こえた。シグナル的には味方であるから、リクエストすれば、クゥエルからGMのパイロットや状態のデータを取得することができる。

 

 意識がないとなれば、ひとまずは『やった』と思って良かろう。『先鋒』は密かに息を吐き出した。もう少し連携が甘ければ、抜け出されていた可能性が高かった。このGMにはそんな手練れの手応えが、あった。

 

「そんなら、腕を落としておくか」

 

 動かなくなり慣性で流れるGMを掴んで止めて、サーベルを抜いた。軽く振って、ビーム・ライフルごと右腕を斬り落とす。

 

 そして、左手。確実に戦闘力を削ぎ落とす――

 

「すまん、抜かれた!! ガンダムもどきがそっち行くぞ!」

 

 サーベルを振り下ろす寸前、警告を先触れに、背後から殺気が迫ってきた。

 

 レーダーを見れば、『ガンダムもどき』……RX-84『ZAM』を示す青い光点が、恐ろしい速度で迫っている。

 

 加速されてしまえば、クゥエルでガンダムもどきに追いつける道理もない。

 

「ちっ、四回目のウラキくらいの腕はあったか!」

「三回目じゃなかったか!?」

「大差ねえってのォ!!」

 

 『後詰め』の指摘を笑って振り払い、『先鋒』は気絶したGMを放置して、きびすを返した。

 

「だが、遅かったな。これで三対一だ!」

 

 唇をぺろりと舐めて、迫り来る赤い光点……敵対機として識別したZAMを迎え撃つ。

 

 何故か耳の奥で、彼を叱責する懐かしい声が聞こえたような気がしたが。

 

 『ガンダムのようなもの』を袋叩きにできる愉悦が上回り、『先鋒』はその錯覚を振り払った。

 

 

 

 

「『顎髭』が落とされた!」

 

 ザク・リ・ローダー……ザクレロ『ジャック・オー・ランターン』の後部から、『黒曜石』の悲鳴が聞こえた。

 

 ザクレロはZAMとGMの間に戦術リンクを構築し、レーザー通信でデータを連携している。その情報管制が『黒曜石』の役目だった。

 

「くそっ、ティターンズの奴ら、強いな……!」

「でも、『少尉』がまだ何とか足止めしてる。すげぇな、一対三で」

 

 続いて聞こえてくる『黒鉄』と『黒曜石』の会話に、『真鍮』も同意した。あのモノアイの(ように見える)連邦製MSの性能ゆえであろうが、それでも大したものだ。

 

 だが、悠長に感心してもいられない。彼らが稼ぐ貴重な時間を無駄にはできない。

 

 ザクを、ザクレロのコートに固定する。このコートも、後ろについているオッゴユニットも、ヅダの供給元から提供された部品が元になっている。

 

 流用の利きそうにない部品ながらなかなかどうしてよく考えられた構造になっており、作り手のセンスを感じさせる。

 

 モビルアーマーに簡単に着脱できるハードポイントを取り付けて、他のモビルスーツを運搬する。それは、およそ十年後に流行る構造を先取りした発想であった。

 

 そのハードポイントに腕一本のザクを固定していると、中から直振の声が聞こえてきた。

 

「正直、信じられないよ。あのGMが落とされたなんて」

 

 そう、『青銅』がぼやいた。

 

 彼女はもともとサイド3防衛隊所属であり、『ある事件』に関与した疑いで『サーカス』に追いやられた身分だ。

 

 実のところ、高機動機への適性こそ『真鍮』に劣るが、モビルスーツでの戦闘においての成績は、彼女が『サーカス』でもっとも優れている。

 

 その感想であるから間違いはないのだろうが、しかし――。

 

「だが、所詮は普通のGMだろう?」

「普通のGMを嘗めるでないよ。それに直接やり合ったからわかる。あいつほどの腕前は、あたしは戦中に遭った『白狼』くらいしか知らない」

「――そこまでか」

 

 『白狼』といえば、ジオン公国軍のエースパイロット名鑑の最上位グループに顔を見せる、つまりは最高クラスのパイロットである。

 

 エースパイロット名鑑は撃墜数ランキングになっているため、例えば『赤い彗星』はランク外だったりするのだが、少なくともそれだけ撃墜していることは間違いないのだから、当然実力も相応のはずだ。

 

 ともあれ、それと同格となると――

 

「『真鍮』! 目標に間もなくコンタクト!」

 

 そんな思考を、『黒曜石』の知らせが押し流した。今は目の前の作業に集中するべきだ。

 

「了解。先行する。『黒鉄』は『ジャコ』で追従」

「任せな」

「『黒曜石』はタイミング指示と再計算、いけるな?」

「誰に言ってやがる」

「粋がる前にまず応答しろ、この糞餓鬼」

「ラージャ、いつでも」

 

 飄々と返令する『黒曜石』に小さく嘆息して。

 

 『真鍮』はヅダのスロットルレバーを押し込んだ。

 

 ――やっつけながら神経質に取り付けられていた、リミッターの痕跡を踏み越えて。

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