或るパイロットの年代記   作:DOH

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UC0084 サイド6(11)

「うぉらぁぁぁぁぁ!!」

「こいつ……!」

 

 『三馬鹿』の『後詰め』は、ヘルメットにわんわんと響く雄叫びに顔をしかめつつ、機体を翻させた。

 

 『後詰め』のGMクゥエルは、後方から前衛を支援するため、やや高級なビームライフルと一体型のセンサーを装備している。そして威力と射程に優れるぶん、発射まで通常に比べて若干のタイムラグがある。

 

 つまりは中距離射撃戦向けの装備であり、近接戦は得意とは言い難い。

 

 ゆえに、速度と軌道を合わせ、少し距離を離して相対速度を小さくするのが基本戦術であるが。

 

 テロリスト(暫定)の新型機は、そこを的確に狙ってきた。

 

 チャージ時間が長いのを狙い、高速で懐に飛び込む。そこまでは先程と同じだ。高機動機は突入角度が自明であるから、タイミングを把握してサーベルを構えていればいい。

 

 そして、突入タイミングは『ウラキのアレ』で散々体験済みであるから、後は経験値を信じて構えていれば、高機動の斬首突撃は防げるという案配だ。

 

 だが。

 

「それもサーベルで来るならの話ですか……!」

 

 なぜビーム・サーベルでビーム・サーベルを防げるのかと言えば、ビーム刃を形成するIフィールド同士が反発するからである。

 

 では、実体が相手ならどうなのか。

 

 普通の物質なら、ビーム・サーベルの熱量でさっくりと切り裂かれる。

 

 しかし、まず熱剣との接触時間が短ければ、素材を破壊する熱の伝導量は当然少なくなる。

 

 さらに、素材の熱処理性能が高ければ、時間制限はあるものの、ビームの熱を逃がして熔断を阻止することができる。

 

 そこにビームを反発する対ビーム・コーティングを追加すれば、さらに熱剣の暴露量が少なくなる。

 

 つまり、速度と優秀な素材、そしてビーム反発コーティングが揃えば、ビーム・サーベルは十分な威力を発揮できないのだ。

 

 そして、新型機は、あろうことか。

 

「踏まれる趣味はありませんよ――!」

 

 『RX-84』と鏡文字で刻まれた足の裏を見せつけながら、新型機――ZAMが突進してくるのを、『後詰め』は機体を翻して避けた。

 

 珍妙な構造であるが、この新型機は、脚部のカウルとブースターが膝部分で分離しており、足先を前に突き出したままブースターで加速できるようだった。

 

 その結果、背部と脚部のブースターを全開にしたまま、前に向けて蹴りつけることができるのである。

 

 そして驚くべきことに、あの新型機の脚部はきわめて強靱な新素材(クゥエルの推測ではガンダリウム?と表示されている)で作られているらしく、『待ちサーベル』では切断しきれなかったのだ。

 

 厳密には切れないわけではないのだが、切れても浅い上に複雑な機能のない足裏であり、熱剣を蹴散らして突っ込んできた爪先で、サーベルと握った腕を破損したのが前の前の突撃のこと。

 

 盾で防ぐ選択肢もあったが――。

 

(今度は肩から腕ごと持って行かれそうですね)

 

 そう考えると、避けるしかなかった。

 

(それにしても、思い切りがいい)

 

 側面のスラスターを全開にしての急回避。視界にまとわりつく明暗を振り払いつつ、『後詰め』は内心で感服していた。

 

 「肉を斬らせて骨を断つ」とは言うが、機体強度と速度が両立している状況でしか成立しない戦術を選択し、実行するのは難しい。機体の損傷を前提とするアクションは、シミュレーターでは実現しづらいし、実機訓練ではなおさら禁忌である。

 

 とすれば、相手は――。

 

「ウラキの野郎を思い出すな――!」

 

 シールドを蹴り飛ばされた『中継ぎ』のぼやきが聞こえてきたが、まさにそれである。かつて彼らの部隊にいたガンダムのパイロットは、経験が浅く、浅いが故の大胆な行動によって、幾度もベテランを出し抜いて見せた。

 

 ジオンの最高クラスのエースと一騎打ちで渡り合ったときも、相手に組み付いての全力噴射でお互いの機体を焼くという暴挙を仕掛け、機体を動作不能にしたと聞いている。

 

 つまりは、かのガンダムの強さは素人暴れによるまぐれ勝ちのようなものであったのが、それと同じであろうかということだ。

 

 だが。

 

(おそらく、それだけではない)

 

 ガンダムのパイロットが、オリジナルも(そして後に『あの怪物』に乗り換えた同僚も)そうであったように、自分のマシンの性能や特性を熟知したが故に、奇特な戦術を選択できたとすれば。

 

 この、ZAMのパイロットも、ただ素人暴れしているだけではない。

 

「いい加減、帰ったらどうだティターンズ!!」

 

 そんな『後詰め』の推測を裏付けるように。

 

 ZAMのパイロット、すなわち『少尉』の罵声が、公開チャンネルから飛び込んできた。

 

 『後詰め』の視点からは、この問答の意図は明らかだった。あのZAMの目的が、今語っているようにコロニーへの隕石衝突の回避であるとすれば、ティターンズとの問答は時間稼ぎ以外に考えられない。

 

 一方、ティターンズとしてもそうだ。勤勉に仕事をするならば、このZAMは放置し、先行したザクレロを追うのが正解である。それをやらないのは、いかに『先鋒』が頭に血が上りやすいとしても、ザクレロの行動が「大勢に影響がないか、少なくとも悪くはならない」と想像しているからに他ならない。

 

 何しろ、『三馬鹿』にとって、本件は既に『重大な失態』として吊し上げられることが確定している。なまじ()()()()()()()()ために、この天体攻撃(メテオストライク)の対応の責任を取らされることになる。

 

 ならば、せめて結果が少しでもマシになる方が、彼らとしては後々の追及が緩やかになると期待できる。

 

 そんな判断が故の、消極的なボイコットであった。

 

 だから、『三馬鹿』はZAMのコントーションに付き合う気分だった。

 

 の、だが。

 

「くそったれが! 人が手加減してやってりゃつけあがりやがって!」

 

 『先鋒』が、悪態をはき散らしながら、闘牛よろしく身を翻す。

 

 あれは本気で苛立っているな、と『後詰め』は感じた。『先鋒』、『中継ぎ』とはもう長い仲だが、言葉尻から感情の程度は感じ取れる。

 

 よくない兆候だった。

 

「てめぇこそ、なんでスペースノイドのためにそこまで命を張る! 自分の命を賭けるほどのことか!」

 

 『先鋒』の疑問はもっともではある。何しろ、彼らは一般の連邦兵。しかも、隕石の軌道変更は彼らの本来の任務ではないはずである。

 

 だが、RX-84は。

 

「……何、言ってやがんだお前……っ。最悪、一千万人だぞ……っ」

 

 そう反駁する声が歪んでいたのは、ハイGターンの真っ最中だったからのようで。

 

 機体が旋回し、手近な標的――『後詰め』のクゥエルに突っ込んできて。

 

「――命張るには充分過ぎるだろうが!!」

 

 咆哮混じりに、機体を掠めた。

 

 ――背筋がぞっとしたのは、破滅的な速度の蹴りゆえだけではなかった。

 

(こいつ……本気か?)

 

 命を救うために命を懸ける、それ自体はそれほどのことではない。そもそも、兵士とはそういうものだ。

 

 問題は、救う相手が中立コロニーであるということだ。(厳密には現在においては独立性が高いというだけなのだが、サイド6は先の戦争で中立を気取ったツケで、連邦でも外様扱いとなっている)

 

 中立であるからには、その生存を自らの力で保障しなくてはならない。ゆえにこそ、連邦への貢献が(すべてではないにせよ)免除される。

 

 逆に言えば、連邦からの貢献も得られない。つまり、『敵ではないが、味方でもない』と見なせる。それだけでも、兵士が命を懸けない理由としては充分だ。

 

 兵士とは、国家に責任を委譲するからこそ、その行為が正当化される。そうでなくてはならない。

 

 超高額な兵器の運用や、殺人・破壊行為が個人の責任とならないのは、連邦という巨大な怪物の手足であるためだ。

 

 故にこそ、兵士が個人の感情や正義感で行動するなど論外であった。

 

 だが、この男はそうではない。一見連邦の模範的兵士のような口振りをしているが、根本の物事の判断基準が、自分自身の正義感にある。

 

 そう、そういう連中は、しばしば存在する。『三馬鹿』もまた、そうであったと言えるかも知れない。

 

 だが。

 

 だが、その正義感の末路は――

 

「人助けのためならジオン野郎とも手を組むのかよ!」

「応よ、手を組んで何が悪い!」

「――っ、ざっけんじゃねえ! それが――!」

 

 ――それが、彼らに何を失わせたか。

 

 泡立つ『後詰め』の感情を先取りするように、『先鋒』の声が、明確な怒気を帯びた。

 

(これは、まずいですね)

 

 それは、『先鋒』にとってもトラウマと言えることだった。

 

 彼だけではない。連邦の、いや、かの戦争で半身をもぎ取られた人類全体にとって、それは致命的な心的外傷である。

 

 大切な仲間を、家族を奪ったジオンという存在。確率的には全人類が均等に誰かを失ったあの忌むべき戦争。

 

 その憎悪を抜きにして正義を騙るのは、それこそ傲慢である。

 

 増して、先のデラーズ紛争において、ジオンは敬愛する師を死に至らしめ、その戦いでの行動が、父のように感じていた上官を処刑台に送り込んだ。

 

 その悲劇を引き起こしたのもまた、幼稚な正義感だったのだ――!

 

「いい年齢して、餓鬼みたいなこと抜かしてんじゃねえぞ! 職業軍人なら、ティターンズの特務優先規定に従え!」

「従ってたらお前ら『サーカス』殺しに行くだろうが! 状況を見ろ! そのための特務権限じゃないのか!」

 

 売り言葉に買い言葉である。軍人としては、『先鋒』の言うことが正しい。ティターンズにはこのような現場の混乱を避けるため、同一階級でもティターンズ階級の優先権限が与えられているし、必要ならば即応でティターンズ大佐権限(つまり実質准将相当)の命令を発することができる。

  

 しかし、それはティターンズが正しい判断ができるという前提のことであり、実のところこの事態において「状況改善のためにティターンズにできることは殊更ない」というのが実状なのだ。

 

 隕石がグラナダを目指し、サイド6コロニーを破壊していく軌道をとっているのは事実であり、これを補正できるのはそれ向きの装備をした『サーカス』とプロジェクトZAMだけであるのだから。

 

 これ以上悪い状況は地球落下軌道に入られるくらいだが、その場合の軌道補正から落下までにかかる時間は、地球軌道に配備されている天体迎撃システムと隕石破砕業者で対応するのに十分だ。

 

 ジオン残党が何をしようと、これ以上状況は悪化しない。ティターンズ部隊は、はっきり言えば単なる邪魔なのである。

 

 その事実を認識しているからこそ。

 

 『三馬鹿』の――殊に『先鋒』の苛立ちは、我慢袋をぱんぱんに膨れ上がらせていたわけで。

 

 だからこそ――。 

 

「なら、こんなとこでボヤボヤしてんじゃねぇ! 俺に付き合ってクダ巻いてるのも、本音じゃ奴らが何とかしてくれるのを期待してるからじゃねえのか!!」

 

 その罵倒は、致命傷だった。

 

「あっ……、この馬鹿……!!」

 

 思わず、『後詰め』らしからぬ罵倒が飛び出した。

 

 ZAMの『少尉』の指摘は正しい。

 

 正しいが故に……『先鋒』に耐えられるものではなかったのだ。

 

「――――――――っ!!」

 

 声にならない呻きが、『先鋒』から聞こえた。

 

 彼らだけが、罪を免れた。それは、彼らが正しかった、正しいことをしたからだ。

 

 反逆部隊から離脱し、その蛮行を食い止めるべく行動した、そういう名目になったからだ。

 

 だが、公にそう認められても。その裏切りの報酬として、エリート部隊たるティターンズの制服を与えられたとしても。

 

 心までは、誤魔化せない。

 

 敬愛する艦長が処断され、艦の仲間たちは散り散りとなり、二度と這い上がれないよう頭を抑えられた。

 

 裏切った自分たちだけが、それを免れている。

 

 自分たちこそが正しいのだと言い聞かせても、裏腹の仲間意識が罪を訴える。

 

 その迷いをねじ伏せるために、『先鋒』は正しくあり続けなくてはならなかった。

 

 任務を蔑ろにし、ジオンを見逃すなど。正しくあるべき彼が、認められるはずもなかったのだ――!

 

「くそ……っ、たれがぁーーー!!」

 

 ZAMが突進してくるのを機体を翻してやり過ごし、そのままの勢いで、『先鋒』のクゥェルが飛び出した。

 

「んなろ、今更……!?」

「言わないことじゃない! おい、モンシア!!」

 

 戸惑うZAMと、『後詰め』と『中継ぎ』を残して。

 

 目指すは、ザクレロの飛び去った、隕石の軌跡。

 

 そしてその後方を追う、シャクルズのザクだった。

 




■連邦でも外様

 連邦に参画している自治体にも、常任理事国と非常任理事国のような発言力の差があり、さらに連邦非加盟(もしくは参画後間がない上に敵対歴がある)の自治体は、予算配分、航路安全保障などで格差がつけられる。
 サイド6(その後サイド再編でサイド5に変更)はその扱いの悪いコロニー自治体であるが、戦争でダメージを受けなかった農業・工業プラントによる経済力で発言権を維持している。
 しかし、本件のコロニー破壊未遂事件によって防衛力の必要性が浮き彫りとなった。
 サイド6はかつて中立を名乗ったツケで軍備の権限がきわめて制限されており、連邦軍内部での牽制の結果、ティターンズが独占的に安全保障を提供することとなった。
 対価として莫大な資金の提供が求められたが、「ジオンにコロニーを破壊される」という恐怖は拭いがたく、その理不尽とすら言える要求にも唯々諾々と従わざるを得ないのがサイド6の立場であった。

 もちろん、聡明なる読者諸氏には想像できるように、悪辣なマッチポンプによる国家的テロリズム(原義)の結果である。
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