或るパイロットの年代記   作:DOH

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UC0084 サイド6(13)

「今、囲みを破る」

 

 唐突に、『顎髭』のGMから飛び込んできた声が、それだった。

 

 ちょうど、飛び出した『先鋒』のクゥエルを追おうとして、『中継ぎ』に妨害されたところだった。

 

 腕利きが封鎖する乱戦領域(エンゲージ)を離脱するには、数を減らすか、トリックで振り切るしかない。しかし、こちらの技量は相手より優れているとは言えず、機体は取り回しという点では最悪に近い。サイコロ勝負で出目に-4されているくらいだろうか。

 

 このままでは、『先鋒』のクゥエルが『サーカス』に追いついてしまう。そして、彼らの装備でティターンズの最新鋭機に相対することはできない。

 

「くそったれ、退けよ……!」

「あいつがやる気なら、俺達も仕事をするだけだ!」

 

 クゥエルの『中継ぎ』からの当然とも言える回答と、鉄壁のような足止め機動に歯噛みしていたところの、『顎髭』の声だった。

 

 そして秒を置かず、それが飛来した。

 

 赤い、閃光が駆け抜けた。

 

 機体は、赤いザクに見えた。細部ははっきりしないが、手にしているのはビーム・スプレーガン。片腕は脱落しており、頭部は破損して間延びしている。

 

 それが、自分の進路をふさぐ『中継ぎ』のクゥエルの正面に飛び込んで。

 

 くるり、と器械体操のような体捌きで、背中と両脚の推進器を進路側に差し向けたと思うと。

 

 急加速して、反転。

 

 その瞬間に、ビーム・スプレーガンが閃いて、クゥエルの頭部を撃ち抜いた。

 

 反転する瞬間、標的との相対速度が限りなくゼロになる。その瞬間を利用した近接狙撃。確かに命中率は高いだろうが、その一瞬を、しかも急減速のGにのしかかられている状況で狙えるのは、並の集中力ではない。

 

 そして、加速したときには、また機体を展回させている。脚部をまた進路に向け、もう一度フリップ。

 

 その瞬間を使って、こんどはライフルを撃ち抜いた。

 

「すげぇ……」

 

 飛び去り光点となる赤いザク(に見えるもの)を見送り、思わず感嘆が漏れた。

 

 『それ』が何なのか、自分にはわかっていた。破損個所が一致するし、何度か実際に使用して試験を行っているからだ。

 

 仮想敵モード。GMが、識別信号をザクに切り替えたものだ。MSのシステムが、見えた機体の見た目を識別情報に入れ替えるから、GMの破損個所が合成映像に反映されている。

 

 つまりは、破損個所と状況からして、それが『顎髭』のマシンであることは明らかだった。

 

 なぜわざわざ姿の偽装をしているのかは、よくわからなかったが。

 

「あの野郎、何今までサボッてやがったんだ」

 

 お陰で、そんな悪態を吐く程度には余裕が生まれた。

 

 そして、余裕が生まれたからには動くのが当然であり。

 

「今ッス、『少尉』!!」

 

 ルナツーからの技師の声を待つまでもなく。

 

 コンソールから、いま一機のクゥエルが無力化された旨の通知が鳴り響くのを、わかりきったことと一瞥もせず。

 

 自分は、ZAMを加速させたのだ。

 

  

 

 

 加速を続けるクゥエルのシステムが、シャクルズのザクを捉えた。

 

「見え……やがった!」

 

 そのザクは、いわゆる『旧ザク』だった。初期生産モデルだというのだが、型番まで違うのに『ザク』なのはややこしいことこの上ない。

 

 ただ要点として、性能は決して誉められたものではない。

 

 加えてその標的は、あろうことか左腕一本を残して四肢を切断されていた。それでは運動性はお察しであるし、あまつさえ、機体をシャクルズに固定されている。つまり、回避運動も取れない。

 

 左腕にはザクマシンガンを握っており、反撃は可能ではあるようだ、が。

 

「嬲り殺しだ……!」

 

 ヘルメットの中から、灼熱する思考がこぼれ落ちた。

 

 熱を吐き出すと、少し冷静になった頭脳が、「無意味なことはやめろ」と騒ぐ。

 

 しかし、止まるわけにはいかなかった。 

 

 『先鋒』はかつて、個人的怨恨を兵士の義務で覆い隠して、味方に襲いかかった。

 

 彼らの部隊が、とくにガンダムの乗り手達が、ガンダムを奪い、コロニー落とし迎撃に向かったからだ。

 

 いや、本音は。

 

 そのガンダムの後ろに乗った人間にこそあった。

 

 その複座のガンダムに乗ったのは、彼らの知るガンダム乗りだけではない。

 

 その後席には、ジオンの。

 

 モビルアーマーでフォン・ブラウンを襲撃した、ジオンのパイロットが搭乗していたのである。

 

 怨恨を洗い流し、飲み下し、かつての仇敵と手を取り合う。それができるなら、それが一番美しい。それは『先鋒』とてわかっている。

 

 だが、感情が赦さなかったのだ。まして、その緒戦で敬愛する師が命を落としているとなれば、なおのこと。

 

 だから、彼はガンダムに襲いかかった。彼らの艦が、味方に牙を剥いたが故に、反逆者と見なせたがために。

 

 ――そんな名目を、言い訳にして。 

 

 己の感情を、ガンダムに叩きつけた。

 

 それが間違っているのはわかっていた。

 

 ガンダムにあしらわれ、残された後。「反逆者を食い止めるべく戦った」と評され、軍法会議を免れたものの、仲間を裏切ったという自責の声に苛まれ続けた日々が。

 

 自分の行いが、正しかったが、正しくなかったと。

 

 認めざるを得なかったのだ。 

 

 だから、せめて。正しくあらんと。

 

 歯車であることを盾にしたのだから、歯車であることを選び。

 

 歯車であることの罪を、背負わなければ、筋が通らない。 

 

 だから。

 

「まずは、そいつだ――!!」

 

 SFS上の、ザクを狙った。 

 

 ザクは、迫り来るクゥエルに抗い、マシンガンを速射した。

 

 ザクマシンガンの弾丸は、撤鋼榴弾である。これは電磁信管や無線起爆などがミノフスキーで使えないため、弾頭がある程度自己判断する時限信管で炸裂する。

 

 つまり、直撃を避け、炸裂タイミングをずらすだけで、大きく脅威度を下げることができる。

 

 そして、ティターンズ機に使われるティターンズ・ブルーの塗料には、機密ではあるが、時限信管の自己判断プログラムを欺瞞する作用がある。

 

 結果、当然の突入機動を採っていれば、ザクマシンガンはクゥエルに対してひどく効果が薄いのである。

 

「効かねぇってんだろ!!」

 

 飛来する榴弾を、起爆前に腕部装甲で打ち払い、『先鋒』のクゥエルはザクに肉薄した。

 

(ビームで仕留めるか)

 

 空手の右手が、ぴくりと震える。

 

 ザクマシンガンが届くのだから、ビーム・ライフルが届かないはずがない。そこで……否、もっと遠くからビーム・ライフルを抜いていれば、とっくにザクはシャクルズ共々火球と化していたことだろう。

 

 仕事をするなら、そうすればいい。それが正しい。手を抜く必然はどこにもない。

 

 なのに、『先鋒』は、光速で死を振りまくものには触れず。

 

 背中に背負った、光の剣を抜き放ち。

 

 シャクルズに着地し、強ばり動かなくなったザクのコクピットに、切っ先を突きつけて。

 

「…………くたばれ」

 

 淡々と、そう呟いてから、剣を突き立てる――

 

 そんな、『先鋒』の怠慢のために。

 

「止まれょぉぉぉぉぉ!!」

 

 ZAMが、間に合った。 

 




■自己判断型時限信管

 ザクマシンガンなどに使われる榴弾の起爆装置。頭部カメラが算出した標的との距離から、発射直前に最適な炸裂タイミングを弾丸に書き込んで起爆するもの。
 弾丸そのものにも安価な距離計と計算装置が搭載されており(缶飲料ほどの価格のもの)、敵機の速度変化などにある程度追従できる。 
 空間戦闘では衝撃波による破壊は期待できないが、そのかわり飛散物が減速しないため、広範囲に破壊をまき散らせる。(広がりすぎるため、飛散方向は絞り込まれる。結果、作用範囲は散弾銃に近くなる)
 しかし、榴弾であるがゆえの問題もあり、信管が起動しなければ爆発はしない。電子回路はミノフスキーにより誤動作が起きるため、なるべく外部環境ではなく弾丸内部で爆発タイミングを測る必要がある。
 そのため、特に空間戦闘では、榴弾は時限信管で爆発させられる。発射時にモビルスーツが標的との距離を弾丸に入力し、弾丸自身が初速から何秒後に爆発するかを計算する。磁場や振動によるスイッチが信頼できないが故の苦肉の策である。
 そこで、榴弾の爆発作用方向が問題になる。散弾のように破片を撒き散らすものであれば、射線から逸れつつ爆発点に近づく、さらには爆発点を通り過ぎてしまえば、破壊力は大きく減衰するということだ。
 つまり、ザクマシンガンに対して有効な回避機動とは、射線をずらしながらの加速突入になる。


■クゥエルにザクマシンガンは効かない

 先述の理由により、事実としてGMクゥエルにザクマシンガンは有効とは言い難く、ジオン残党を『おまえらの豆鉄砲は通用しないぞ』と煽るティターンズが続発した。
 その概念が一人歩きし、後年の再現映像において正面からのザクマシンガンをマニピュレータで弾く演出がされたことがあるが、これはさすがに有り得ないとして、市販された媒体では該当シーンが修正された。


■封鎖の突破

 乱戦領域(エンゲージ)から離脱するのに、封鎖スキルを持つユニットが存在する(『中継ぎ』が保有している)場合、離脱には操縦技能を基礎とした2d6による操縦判定の対決に勝利する必要がある。
 この時ZAMの78MAモードは操縦性が劣悪なため、操縦判定に-4の修正を受ける。つまりクゥエルの『中継ぎ』が操縦技能が同等、操縦判定の出目が7だったとして、ZAMの少尉は2d6で12を出す必要がある。(受動優先のため、離脱するにはZAMの達成値が封鎖側を上回る必要がある)
 確率はおよそ3%。これは、ちょっと勝てない。
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