「『ブービー』! とどめ!」
『パン屋』のジムが蹴り飛ばしたジオンの『二足カニ』の額に、ビームサーベルを突き立てた。
『二足カニ』……首のない、両手に鍵爪を持った水陸両用モビルスーツは、MSM-07『ズゴック』である。装甲が分厚いためマシンガンやスプレーガンは有効でない(ジャブロー初期配備型ジムはまだそれが判明しておらず、スプレーガンを運用して相当数の犠牲を出した)が、高熱のメガ粒子をIフィールドで形成したビームサーベルであれば、一撃で頭(?)を断ち割ることもできる。
「撃破確認! これで現エリアの護衛機はラストです!」
動かなくなった『二足カニ』の腕に念のためにサーベルを突き立ててから、報告する。これを手を抜くと、死んだふりをしていた蟹手から、必殺のビームを受けることになりかねない。ジャブローでの手痛い戦訓である。
「OK、こちらでも撃破確認。
「二番機が中破したものの全機健在。周辺警戒にあたるため第一小隊は
「一小隊了解。俺が周辺を索敵するから、『ブービー』と『優等生』は指揮車両の侵入をエスコート。さっきみたいな
『パン屋』に言われるまでもない。キャリフォルニアベースに側背から突入した我ら『ビルダー』火事場泥棒戦隊は、既に2回の襲撃を受けていた。1回は正面からの遭遇戦だったが、2回目が今回のような水中からの奇襲である。
カッパ呼ばわりは『パン屋』の即興だが、なんでも東洋に伝わる「間抜けが泳いでいると尻の穴に手を突っ込んで内臓を引き抜く」怪物なのだとか。恐ろしい伝承もあったものである。閑話休題。
水陸両用機の出現以来、連邦軍は水中から現れるジオン軍への対処に神経をすり減らすことになった。その多くがメガ粒子砲を搭載した対MS機であることも手伝い、水際での部隊運用に加わる制限は想像以上に大きい。
連邦軍でも水中型MSはすでに運用されているとも言うのだが、いかんせん数がないようで、自分は今のところお目にかかったことはない。少なくとも援軍は期待しない方がいいだろう。敵地のど真ん中ならばなおさらだ。
「こちらから先手を打ちに行けないのは、思いの外ストレスになりますね。いくらかでも、本隊の方に回ってくれればいいんですけど」
「本隊は陸地からの侵攻だし、敵さんもどうせなら有利な陣地で戦いたいだろうからな。水泳部員の数がそんなにいないのを期待するしかねぇだろ。『ブービー』、残弾は?」
水を向けられ、コンテナの中身を確認する。
持ち込んだコンテナの装備は、もうすっかり使い尽くしていた。手榴弾はあと2つ、マシンガンの弾倉はラストを『パン屋』と『優等生』が使用中。自分は手持ちは180mm滑腔砲で、弾薬はこれもラスト3発。ビームサーベルは『パン屋』のは故障して、自分のものもあと1回使えるかどうかだ。
一方で『優等生』は、まだサーベルは健在、グレネードなども残してあるようだ。さすがの節約術といえるが、一人分が残っていても状況に大きな変化はない。
忌憚のない感想を述べることにした。
「正直、撤退レベルですね」
「あー、まあそうだよなぁ。帰り道考えたら、今の手持ちでギリギリだもんなぁ。どうするよ、『若』?」
「……目標に到達していない以上、ここで撤退はできない、と言いたいところだが……」
ホバートラックから身を乗り出した『若』は、渋面で唸った。
無理を言いたいのはやまやまだろうが、そもそも火事場泥棒戦隊は、作戦開始から大きな損害もないままに、既に編成の三倍の敵機を撃退している。弾切れを非難される筋合いはないし、『若』もそれは理解しているようだった。
「武器が足りないの?」
そこに首を伸ばしてきたのは『山猫』だった。
「それなら、『ビルダー』サーバーのそばに、ジオンの倉庫があるはずよ。確かモビルスーツ用の銃とかもあったはず」
いいアイデア! と顔に書いてあるかのような振る舞いで指を立てる。戦闘中はホバーの中で頭を抱えていたはずだが、モビルスーツが走り回らなくなれば、元気なものだ。
自分と『優等生』が顔を見合わせた。なるほど、確かに悪くない案だ。
「……ID照合などで使用不能なのではないのか?」
「いえ、ほかの部隊のはともかく、うちのジムならいけますね。ザクの装備なら一通り使えるようになってます」
「何しろ、もともと俺達ゃ泥棒部隊だからな?」
『若』の当然の疑念に、にひひひひ、と『パン屋』が下品に笑って見せる。鹵獲ザクを使っていた関係もあり、H11のジムには、ジオンのMS用装備のロックを外すプログラムが組み込まれているのだ。
「なるほど、そういうことならば利用しない選択肢はないな。『山猫』、案内は任せる」
「任せて」
かくして火事場泥棒戦隊は、罪業にもう一件を追加すべく移動を開始したのだった。
※
ミサイル車両数台の防衛部隊を難なく蹴散らして、第一小隊は『山猫』の指示する倉庫に入り込んだのだが。
「なんだぁ、こりゃあ」
開口一番の『パン屋』の感想が、これだった。
「足、ですよね。モビルスーツの」
「ああ、多分、『スカート付き』の奴だ」
『パン屋』の言う通り、それはモビルスーツの脚部だった。MS-09『ドム』――黒いスカートを履いたホバータイプの機体のそれに酷似している。自分はまだ遭遇経験はないが、第一小隊は既に6機以上と遭遇し、これを撃破しているらしい。そんな彼らが、見間違うこともなかろうと思うのだが。
「……見た目は、な」
問題は、サイズだった。元々ドムの足は他のMSに比べて巨大だが、今目の前に横たわるそれは、足一本だけでジム一機ほどの長さがある。
「何だなぁ。こいつがくっつく『スカート付き』はとんでもねぇな。立ってるだけで中が見えそうだ」
「見たいんですか?」
「いんや、いくら何でもときめくにゃデカすぎる」
軽口を叩くが、実際のところ『デカい』以上の意味はなさそうだった。『パン屋』の言うとおり胴体と繋がっていれば脅威だったかもしれないが、横たわっているだけでは、食べられるだけ大根の方がマシである。
「まあ、ほっといていいんじゃないですか? 足だけですし」
『優等生』の提案に、全員が頷いた。巨大な足は無視して本来の目的……使えそうな装備を漁ることに専念する。
「大概変なもんが転がってるな……なんだこのナイフみたいなの。どこにも持ち手がねえ。投げるのか?」
「こっちはショットガンですかね。スラッグならともかく、MSの装甲に散弾効くんでしょうか。……残念、弾丸がない」
「おい、これもしかしてビームサーベルか? ジオン星人も作ってやがったか」
「使えそうですか?」
「コネクタが知らない形式だな、残念だが無理だ。……壊しとこう」
「あああもったいない……いや、万一使われたら困りますか」
「おっ、マジかジオン星人。見ろよ准尉、カタナだ、カタナあるぞ」
玩具箱を開けた子供のような騒ぎぶりだが、気持ちはわかった。この倉庫のある装備や部品の数々は、ジオンのモビルスーツバリエーションを支えるアイデアの宝庫のようなものだ。
正直を言えば自分も一緒になって、例えばこの
「とりあえず使えそうなのはこのロケット砲とマシンガンですかね。そっちのクラッカーとヒートホークもいけると思います」
「仕事熱心だねえ、『ブービー』。んじゃ俺はこのへん貰っていくかね」
『パン屋』のジムが、マシンガンとクラッカーを持っていく。その腰にも何やら長い剣を下げているような気がしたが、まあ好きにすればいい。おそらく電源もいらないであろうし。
『優等生』はしばらく『く』の字型のナイフを眺めていたが、おそらくは投擲モーションが適合しないと判断したのだろう、諦めてロケット砲を装着していった。棒の先に弾頭が装着された、シンプルな構造のやつだ。
そして自分は、ヒートホークとマシンガンという、ザクの基本装備を選択した。何のかんの言って、鹵獲ザクを乗り回した経験があり、このあたりの扱いは手慣れている。変な武器にも興味がなくもないが、自分は直感で得物を振り回せる『パン屋』ほどの腕前はないので、諦めた。
弾薬装填よし。予備弾倉携行よし。ビームサーベルという決定的な武器が使えないのは痛手だが、理論上はこのヒートホークでも、きちんと当てればガンダムの装甲を断ち切ることすらできるはずだ……実際に試されることがないことを祈るばかりだが。
そんなことを考えながら、倉庫から機体を出した時だった。
「第一小隊! よくわからん音が近づいてくる!」
ホバートラックから、車長が声を張り上げるのとほぼ同時に。
付近の建物の壁を突き破って、ドリルが飛び出してきた。
■現在公開可能な独自解釈
▼MS-09R リックドムの足(ビッグスケール)
『ビルダー』によって開発中だった、巨大なMS-09Rリックドムの脚部。およそ通常のドムの1.5倍のサイズがある。
ただ大きいだけであり、内部構造はリックドムの部品を大型化、バーニヤやプロペラントは容量の増大にあわせて増設されているだけの、シンプルな構造をしている。
用途は不明だが、キャリフォルニアベース奪回作戦のギリギリまで開発が続けられており、あと一日持ちこたえればHLVで宇宙に打ち上げることができたと思われる。