或るパイロットの年代記   作:DOH

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UC0079 キャリフォルニア(5)

 それは、なんと形容すればよかっただろうか。壁を貫いて飛び出してきたその機体は、丸い胴体に襟のように二つのグラインドホイールを備え、両腕に当たる部位には巨大なドリルを携えたマシンだった。

 

「何だぁ!?」

 

 ドリルを振り上げ突進してくる新型(?)に、『パン屋』が、悲鳴じみた声を上げた。咄嗟に飛び退いたあたりを、巨大なドリルが抉る。基地の路面のアスファルトが抉られ、溶解し、飛び散った。

 

 おそらく、ただのドリルではない。対モビルスーツ装甲も視野に入れた、溶断穿孔用のものだ。

 

「何だこいつ、これもモビルスーツなのか!?」

 

 油断なくマシンガンを突きつける『パン屋』のジムを、「ドリル付き』は胴体の真ん中に陣取った巨大な複合センサーをぎょろつかせて睨みつける。少なくとも、ジオンのモビルスーツで、自分達に敵対的な意志を持つ存在であることには疑いはない。

 

「スウィネン社の掘削機に似てますが、こんな大きくなかったはずです! 多分これも……!!」

 

 『優等生』の言いたいことはわかった。おそらく、これも『ビルダー』の産物だ。モビルスーツを運用するにあたり、モビルスーツが入れる程度の穴を掘削する必要が生じたのではないか。スウィネン社とやらのデータと目的を与えられれば、なるほど、話に聞く『ビルダー』なら巨大な掘削機を提案してくるだろう。

 

 この巨大なドリルを持つ工作機械は、例によってこの時点の自分達が知る由もなかったが、EMS-05『アッグ』である。後の資料によれば、ジャブローを攻略するための通路を掘削する予定で開発された機体であるが、我々の与り知らない理由で運用されなかったものだ。

 

「こんにゃろ、『ドリルモグラ』め!」

 

 再び突き出されるアッグのドリルから身を退けながら、『パン屋』が言語センスを炸裂させた。『ドリルモグラ』。端的にその特徴を示しているのは評価したい。少なくとも、他のモビルスーツと間違えることはまずないだろう。

 

 酷い渾名で呼ばれていることを憤慨してか、『ドリルモグラ』は重ねて『パン屋』のジムに突進した。グラインドホイールを高速回転させながらの突入は、盾の失われた『パン屋』の機体では防ぎようがない。

 

「なら、こいつだ!」

 

 先手を打つべく、『パン屋』のジムが刀を抜いた。

 

 そう、『刀』だ。ヒート剣でも高速振動剣でもない、モビルスーツサイズの東洋片刃剣。ジオンも何のつもりか知らないが、『パン屋』が面白がって持ち出すくらいだから、恐らくは好き者がいたということなのだろう。

 

 ……嫌な予感がしたので、自分の腰のヒートホークに通電した。

 

「チェストオっ、てなぁ!」

 

 『ドリルモグラ』の突進にカウンターで踏み込み、刀を掲げて振り下ろす。さすがはH11でも撃墜数第二位のエース、タイミングは完璧だ。

 

 ……使う武器が、ビームサーベルかヒートホークであったならば、だが。

 

 刀身が、『ドリルモグラ』の機体に叩きつけられる。受ける側もただ斬られるに任せるつもりはないようで、機体を少し傾け、高速回転するグラインドホイールで切っ先を受け止める。

 

 刃が、ホイールと装甲の間にガッチリと食い込んだ。回転を阻まれたホイールが火花を散らして、一際耳障りな金属音を轟かせたと思うと。

 

 金属片が、宙を舞った。

 

「折れたぁ!?」

「やっぱりかぁ!」

 

 『パン屋』が悲鳴をあげた。見るからに細身の東洋剣は、横からの衝撃に弱い。加えて溶断もしていない装甲を切り裂くには、刃を装甲に垂直に衝突させなくてはならないだろう(個人的にはそれでも無理なのではと思うのだが)。

 

 そんなものを、刃筋の概念のないビームサーベルや、溶断して適当に叩き切ることができるヒートホークしか扱ったことのない連邦のジムが、使いこなせるはずがない。一太刀でへし折れたのもむべなるかな、である。

 

 なので、即座に斧を投げた。

 

「『パン屋』、こいつを!!」

「助かる、『ブービー』!!」

 

 伸ばした手でヒートホークをキャッチし(モビルスーツは割り込みがなければこの手のアクションに失敗することはない)、『パン屋』はそのまま刃を振り下ろす。『ドリルモグラ』は先ほどと同じくグラインドホイールでの受け止めを狙うが、同じ手が二度も通じるほど『パン屋』は甘くない。

 

「右腕貰ったぁ!」

 

 宣言通り、ヒートホークが『ドリルモグラ』の右腕(右ドリル?)を根元から切断した。

 

 バランスを崩し、左に傾ぐ『ドリルモグラ』。その胴体の真ん中に輝く単眼を、『パン屋』のジムの右爪先が蹴り貫く。そのまま右足のガス圧ダムを解放し、ふくらはぎの噴射口から推進剤を噴射しながら蹴り抜くと、『ドリルモグラ』は宙に浮いて吹き飛ばされ、背中から転倒した。

 

「少尉、火線集中!! 足を狙ってください!」

「足……? 了解!」

 

 『優等生』の指示に一瞬戸惑うが、すぐに理解した。この『ドリルモグラ』には、歩行能力がない。ホバークラフトで滑るように移動しているため、噴射器を破壊されれば身動きが取れなくなる。

 

 マシンガンの照準を、離脱のつもりかホバーを全開で噴射する『ドリルモグラ』の脚部に合わせ、トリガーを引いた。

 

 この距離ならば照準のずれなどは問題にならない。『優等生』と共に集中させた火線が、後退を試みる『ドリルモグラ』の足を貫き、やけに派手な爆煙を噴き上げた。熱核ジェットのコンプレッサーあたりを貫いたのだろう。

 

 そして、歴戦の『パン屋』が、その隙を見逃す道理もなかった。

 

「おっしゃ、く、た、ば、れっ!!」

 

 一気に踏み込み、ヒートホークを叩きつける。斧は装甲を切り裂き、身を起こそうともがく『ドリルモグラ』の顔面を断ち割った。

 

 一刀両断とはいかなかったが、断末魔めいた火花が、斧の食い込んだ亀裂から飛び散った。

 

 ――パイロットの生死は不明だが、もう機体が動くことはあるまい。

 

「……っ、ふう」

 

 斧を引き抜き、『ドリルモグラ』がもう動かないことを確認する『パン屋』の様子に、安堵の息が漏れた。実戦の緊張感はもちろんのこと、知らない機種の相手は神経をすり減らす。お世辞にも実戦向きとは言い難いマシンであったのが救いではあったが。

 

「助かったぜ、『ブービー』。やっぱ使い慣れたヒートホークがいいよな」

 

 『パン屋』が連邦のモビルスーツ乗りにあるまじき言葉を吐いた。

 

「そいつはフォワードが持っててください。こっちはまだサーベルが生きてますし」

「ありがとよ、『ブービー』。しっかしやっぱサムライムービーのようにはいかねぇなあ。鎧でも何でもすぱすぱ斬ってるのは、ありゃフィクションか」

「まあ、少なくとも超硬スチールを斬れるって話は聞いたことがないですね」

 

 『優等生』が肩を竦める。まあ、実際無理だろう。そもそも斬れたとしても刃こぼれなどを考えると、ヒートホークやビームサーベルが使えるのにこんなものを振り回す価値が思い当たらない。

 

「お前ら、何余裕ぶっこいてやがる!」

 

 与太話を、車長の罵声が断ち切った。

 

「同機種の音紋がさらに四つ来てる! こりゃ……まさか地下からか!?」

「地下……っ!?」

 

 慌てて周囲に視線を巡らせた。普通ならば地下からの攻撃など考慮する必要はほとんどないが、あの『ドリルモグラ』を見た以上は無視することはできない。

 

 果たして、少し離れた路面で、ぼこりとアスファルトの地面が抉れ、中からにょっと赤熱するドリルの先端が飛び出した。

 

「『ブービー』! フラグ投げろ!」

「了解!」

 

 フラグ……フラグメントグレネード。つまりは手榴弾のことだ。装甲相手では致命打になりづらいが、足止めや建造物の破壊には有効に機能する。

 

 素早く腰のグレネードを掴み、セーフティを解除。ドリルが引っ込んだ瞬間に、穿たれた穴へと放り込む。

 

 爆風が、アスファルトと土砂の混合物を噴き上げた。路面が、すり鉢のように陥没する。爆発物は狭い空間で破裂させるのがもっとも効果的だ。しかも今は、掘削中の『ドリルモグラ』の脳天で炸裂したはず。陥没した穴が、爆発が地盤を引き裂き、土砂が索道を破壊したことを伺わせている。

 

「崩落を確認!」

「よぉし、ずらかるぞ!」

 

 『パン屋』の号令を待つまでもない。ホバートラックを先導し、自分はジムを走らせた。

 

 目標の『ビルダー』はもうすぐそこのはずだった。

 

 

 

 

 余談ながら。

 

 この時の『モビルスーツは刀を使えない』という先入観が原因で、自分は戦後のジオン残党掃討で、愛機を喪失し辺境送りとなる失態を演じることになる。




■現時点で公開可能な独自解釈(追加あり)

▼EMS-05 アッグ
キャリフォルニアベースで開発された、工作用MS。巨大なドリルとレーザートーチが特徴。レーザートーチで加熱した岩盤をドリルで掘削し、土砂を胴体のグラインドホイールで後方に吐き出す構造を持つ。あくまで掘削のみが目的であるため、シールド坑法などのトンネル工事向け機能は備わっていない。
スウィネン社の工作機械をそのままアップサイジングしたものがベースとなっており、接近戦ではそれなりの戦闘力を発揮できるものの、射撃戦となると問題外。そもそもまともな火器管制システムが搭載されていないため、一度手口が割れれば距離を置かれて一瞬で殲滅される。
改良型がいくつか検討されたものの、「そんなものを作るくらいならザクを増やせ」という明快な理由により量産は行われなかったようだ。

▼MS用カタナ(ナハト・ブレード)
イフリート・ナハトが使用する想定で作られた装備。ノイジー・フェアリー隊のイフリートが改装される際、ナハト仕様で使用する想定で製造されたもの。搭乗者となったヘレナ・ヘーゲルの特性によりこの刀は使用されず、お蔵入りとなった。
当初の予定通りアルマ・シュティルナーがイフリートを使用したならば、この刀も使用される機会があったのかもしれない。(ノイジー・フェアリー隊は隠密作戦が多かったため、ステルス性に優れたナハト仕様のイフリートを使用するのは納得のいく話である)
刀を使用するためのモーションは全身のアクチュエーターを連動させた極めて特殊なものとなり、ジムやザクでは再現が不可能。『パン屋』が使用して一発でへし折れたのも当然の結果と言える。

▼戦後のジオン残党掃討
水天の涙作戦におけるイフリート・ナハト奪取の一幕。なまじマ・クベが保有していたということもあり、ナハトは一種の美術品や武者人形の気分で扱われていた。

▼ふくらはぎの蓄圧ダム
RX-78および一部のカスタム機に導入されているふくらはぎの推進システム。機動性を担保するために高圧のガスを溜め込み、推進剤と混合して一気に噴射する。この機構の有無と使いこなしによって、モビルスーツの機動力と瞬発力は大きく変動する。
一部の資料によれば、初期のRX-78の異常なまでの近接戦闘力と空中機動は、この蓄圧ダムを見つけたアムロ・レイがこれを最大限に利用するソフトウェアを構築したために生み出されていたとも言われる。
H11の『パン屋』のRGM-79は後にジム改と呼ばれるようになる高品位機の機構が導入されているが、この蓄圧ダムもその一つ。あまりにも先代操縦者(第一小隊エース)が脚部を損耗するため、代替部品として高品位機の部品が回ってきていた。


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