楽園にて生き抜く 作:no w here
「…遅いのぉ」
二日に一度、此方に数分居座って帰るだけの黒い
4日目までは頭に血が上っていたから気にせずにしていたが、頭の冷えた今では此処まで顔を合わせない事に不安を覚えている。2日に一度、たった数分であっても日常的に顔を合わせていた相手が1週間近く居ないとなれば何か大事に巻き込まれたのかもしれない等と考えて、槌に意識を向けきれなくなる程度には。
「…やらかしたのやもな…」
思い返すは6日前に顔を合わせた時の、価値観の違いによって起こってしまった
「…」
一度深みにはまれば、元に戻ることは難しい。わち自身鍛冶が行き詰まった時に痛感していた事だが、まさかあいつを原因として深みにはまるなど思いもしなかった。
どたどた、と外より向かい来る足音。
「…オヤジ?」
「ビィラック、少しばかり出る。エードワードと共に留守を頼むぞ」
「…何が、あったんじゃ?」
「キャッツェリアとの国際条約の履行で少しな。相手が相手なだけに、エードワードから頼まれた。
…バカミース、そう言えば長靴銃士団の副団長だった等と思い出す。地位も高いだろうあいつの不在に関係があるのだろうか。
「…バカミ――アラミースの不在と、関係あるんか?」
「…セカンディルの沼地に向かうと言って今まで帰ってきてないんだそうだ。そんでアルフィオンスがセカンディルから帰る際、
…まさか。
「…夜の、帝王?」
「だろうな、アラミースは恐らく犬っころに目をつけられて帰ってこられねぇんじゃないかってことになってる。長靴銃士団の副団長が帰ってこられない程の相手なんざ、そう多くはねぇ――てっきり要件が終わってお前ん所に転がり込んでっかと思ったが、居ねぇんなら確定か」
「…オヤジ、すまねんけど…わちからお願いしたいんじゃ」
その他の身を聞いて意外そうに
「すまない、魔力が尽き掛けだッ」
「ッ魔力回復は何秒必要だッ?」
「3秒ッ」
懐より
武人の持つMPポーションは効力が然程高くない事、そして消費するだけで回復でき自身にペナルティを発生させない回復であることも相まって迂闊に消費させるわけにはいかない。
…久々のオフ、且つ愛しの君に持っていくための鉱石と採掘道具で懐がいっぱいであり、護身の為の予備武装と4枚程度の魔力回天の使い捨て魔術媒体しか持っていない事が悔やまれる。普段であれば、ハイエスト・MPポーション*3の10や20を団の経費で落とせたと言うのに。
3秒間動けない此方に4が睨み、1・2・3は青年を囲むように殺到する。
体を持ちあげて前脚による2連撃。
アッパーカットのように切り上げつつ距離を取る右前脚による袈裟からの一撃。
それらを阻害しないように刻む左前脚の突き。
肉体を掠める爪や牙はまともに受ければ無残に散らすだろうそれを同時にされ、されど青年は弾きぶつけ相殺し躱す。それでも受けきれないのか、青年の体から時折罅の入るような音が響いているが――在り得ないことに、たった3秒であれど*4
足を大地より離し、魔力回復をやめて刺剣を構えて三重奏を起動させる。それは此方に吹き飛ばされた青年の脇をすり抜け、左右から来る夜の帝王達の追撃を弾く。その間に青年は口に藍色の刀を咥え、手に持ったポーションを砕くことで体力を回復し、着地と共に持ち直した。
「君、曲芸師でも目指せるんじゃないかなッ」
「我は生憎、開拓者且つ探索者でもあって曲芸師になる予定はないなッ」
「残念、キャッツェリアお抱えになれるかもしれないと言うにッ」
軽口をお互いに叩きながら*53匹の狼と死線上で踊る。僕も彼も軽口に反して一切の余裕はない。対して夜の帝王達――少なくとも1・2・3は余裕があると察してか嬲るように動いていた。4はと言えば――空を見上げている?
「――
4本目の予備武装と共に魔力を消耗して4へと突き進みながらの十字斬り。それを咄嗟ながらも躱したのを確認し、警戒したまま再度元の位置へ戻る。
――
だが――阻止も空しく、風が吹いた。
「武人殿ッ、此方へ」
その言葉にノータイムで反応し、夜の帝王達の追撃を弾き落としながら下がってきた。
「
「ッ」
武人が再度藍色の刀を咥え、懐に手を。それに反応して4が此方へと突っ込むが――僕とてさらに形勢が悪くなるのは避けたいのだ、ただでさえ足場が悪いというのに。長靴の中まで泥が入って不快だというのに。
「
横合いから、1が剣目掛けて突撃してくる。これは、まず――
「――ッッッ」
濁り篭った呻き声と共に、緋の一撃が割り込んだ。その一撃で無造作に武人は吹き飛ばされ――四重奏が、放たれる。瞬間的に突っ込みと拮抗し――無造作に弾かれる。そして四方向から夜が蝕むと同時――不快な金属音と共に40秒ほど前に見た、白昼が蝕みと拮抗し蝕みを瞬間的に薙ぎ払った。
「っげ、ほ…ッ」
咳をしながらも、咥えた刀を逆手に持ち直す青年。青い輝きを持っていた筈の刀は、先程の攻撃の代償かその輝きを失っていた。
…一度、彼を回復をさせなければ。三重奏を展開したまま夜の帝王を睨む。
「僕が時間を稼ごう、ポーションをッ」
「…ッ3体、消えてる」
頷きつつ、そう返され――彼が既に死に体にも関わらず夜の帝王たちが動かなかったことにようやく納得が出来た。追撃する帝王たちも、何らかの要因で姿を消していたらしい。残るのは正面に居る夜の帝王と――1体分の、蝕む夜。
「一人ではないとはいえ、まさか愛しの君の為にリュカオーンに挑むことになろうとはね…でも負けて死ぬつもりなどさらさらないともッ」
夜に襲ってくるから「夜襲」なのではない
夜が襲ってくるから「夜襲」なのだ
ならば月が夜に含まれない等ある筈もない
――こんなにも綺麗な月夜なのだ