楽園にて生き抜く   作:no w here

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夜襲/追憶:3

「…」

 

 セカンディルから外れた沼地に着水する。…間違いなく、あの犬っころの纏う()と同じ匂い。犬っころが来ている故に此処に棲息する奴らが沼地から離れんと蠢いていた。

 

「ァあ、うざってぇ」

 

 蠢く音のせいで聴覚での察知は難しく、犬っころの匂いのせいで嗅覚は機能すらしない。此処に辿り着くまでに襲撃してきた視界を悪化させてくる蝕は未だに俺等(おいら)へ――否、俺等()()殺到している。それを無造作に薙ぎ、離れたところで。

 

「――がめつい犬っころは鏡面の月でも見てろ」

 

 水鏡の月*1にまでダウングレードしたものと深月*2にまでダウングレードしたものの複合で蝕を削り落とす。

 

「ッシャァアアアアア――」

 

「喧しいわ土竜ァッッ」

 

 地面から這い出ようとした沼掘り(マッドディッグ)の頭を踏付け、叩き潰す。そのまま粉砕され、姿を散らした其れに介さず考える。

 

「こいつが居るなら、サードレマ近くか――っち、混乱覚悟でセカンディルからいけばよかったか?」

 

 否、エインウルズと問題を抱えるわけにはいかない以上これであっている。無理だとしても思わずその考えに至る程度には状況は切迫していた。足場が悪い以上、救援に向かう距離が長い程時間がかかる。その上で言うなら、蝕に襲われながらも感じた()()()湿()()()()()は――

 

 ぽつり、ぽつり。

 

「…くそ、雨が――」

 

 ざァ――…

 

 聴覚・視覚・嗅覚による探知範囲が著しく下がる雨天。植物や乾地にとっては恵みともいえるそれが現状に対して牙を剥いた。

 

 歩を一度サードレマへと進めて考える。東に進むことでセカンディルに辿り着くが、犬っころの性質上セカンディル・サードレマ近くに出現することは無い*3。そうなるとセカンディル・サードレマから程々離れた場所でアラミールは犬っころと遭遇した。…沼地全てを見られるか――?

 

「兎にも角にも向かわねぇと話にならねぇかッ」

 

 だん、と足を叩きつけ水深の上がる沼から自身を持ちあげ――その勢いのままセカンディルへと走り出す。

 

『アラミースに、謝りたい。だから、無事に連れ戻してほしいんじゃ』

 

 長女の願望が、脳裏に蘇った。

 


「…黒猫殿、助かった」

 

「回復は済んだようだね、武人殿――尤も、僕の予備武装2本は壊れてしまったけれど」

 

 目の前の1人と1匹がそう対話する。その最中にも夜に攻撃を仕掛けさせているが猫妖精が攻撃を弾き、開拓者が朱い刀を振り抜く。()()()()それは夜にとっての天敵であり、大きく下がらせて回避行動をとらせつつ――掃われた夜を私に補填し、灰の兎に再度殺到させる。

 あともう少しでこの沼地へとたどり着く。その前に、どうにかこの開拓者に()()()()()()

 

 ――夜が、水滴に触れた。

 

「…黒猫殿、一度武装を回収してくれ――()()()()()()()()

 

「…、状況がましになったと思ったら、また急降下するのかい…」

 

 ――しめた。

 

 口角を上げる。それに目敏く気づいた猫妖精が斬撃を飛ばすが、無造作に夜に捕食させ、補填し直す。そうしているうちに雨脚が強くなっていく。

 私は巨体である以上、沼の嵩が増えても今までと大して変わらない。だが、黒猫と開拓者――特に黒猫は小柄である以上沼の嵩が増えれば脚運びも儘ならなくなる。

 

「…黒猫殿、背に。このままでは嬲り殺しにされる」

 

「…考えは、あるのだね?」

 

 開拓者が頷くと同時に刀を咥え、背中に猫妖精が乗った。――道具を出すそれと察してそのまま飛び掛かる。夜では閃光に対処できない、ならば私自身が攻撃すれば――あれ。

 

 粉じゃ、なくて――筒――耳なり――目、鼻、痛――ッ!?

 

場にくぞ他と比べ()()()()()ッ」

 

鼻ががァアアアアッ?

 

生きて共に会えたらいくらでも謝罪するッ」

 

 耳鳴りの中、聞こえた足音に目掛けて夜を殺到させるが――手ごたえがない。このままでは逃げられる。それは許さない――少しずつ回復していく視覚と聴覚、嗅覚を認知しながらも足音へ夜を殺到させながら追う。視界が徐々に回復し――()()()()()()()()()。妙に素早いと思ったら――ッ。

 

「ぐるぅぅううぁああああッッッ」

 

「夜の帝王、怒ってるよッ?」

 

「悪いとは思うが生存戦略故なッ」

 

 夜の密度を底上げし、硬度を上げて連打する。ずどどどど、と空気の破裂する音を響かせるが――大半を回避し、回避しきれなかった分は黒猫が刺剣で掃った。躱された夜を正面から囲むように再度殺到させる。

 だが帰ってくるのは肉の感覚ではなく、微かな虚脱感。

 

 ――そうだ、開拓者は簒奪する刀を持っていた。簒奪されないよう夜を彼らから離し雨で頭を冷やす。そして――背後から()()()()()()()()()()()()()()突撃させる。

 

「――ッ、右ッ」

 

 猫妖精の指示にノータイムで従い、開拓者が右へと躱した。――予測通り、開拓者は()()()()()()()()()()()()()()()()()していた。そしてその巨体を捌けるだけの能力は()()()()()()()。捌けるなら、開拓者にまっすぐ走ってもらいながら猫妖精当人が対処すればいいのだから。

 

 次は()()()()()()()()()を装填する。

 

「…帝王というには、小賢しすぎないかいッ」

 

「矜持だろうよッ――大きさはッ?」

 

「さっきと同じ程度、大きさが変わるようだったら伝えようッ」

 

「了解した――生命転換(チャクラ・サイクル)*4ッ」

 

 開拓者の体から軋みが上がった。どうやらかなり無理を続けているらしい。一瞬体が落ち掛けたところにあわせて1匹目を放つ。

 

「左っ――」

 

 放つことで2匹目を私とは別方面に携え――()()()()()

 

「――()()ェッ」

 

 開拓者の右脚を中心に、半径3m程度のミルククラウン*5が出来上がり、1人と1匹が空に身を躍らせて2匹目を回避した。――開拓者の口に再度刀が咥えられている。

 なら、後は()()()()()()()だ。躱された1匹目を自身の左隣に再度構える。

 

「――あと少しで辿り着くッ」

 

「生命力はあるかいッ?」

 

「――()()()()()ッ」

 

 着地。そこへ目掛けて、再度1匹目を突撃させ――

 

「切り札だとも、夜の帝王ッ――王華五光(五重奏)ッ」

 

 猫妖精の刺剣に従うよう、5本の刺剣が1匹目と正面からぶつかり合う。だが――()()()()()()()()()()()()()()()()。故にその切り札は必然として食い破られた。

 

()()()()()()()()()ッ」

 

 猫妖精の切り札を食い破った先にあったのは――左手に刀を持ち直した、開拓者の爪先。その蹴りは一切の威力はなく、寧ろ開拓者の方にダメージが入った――が。

 

()()()ッ」

 

 思わず歯噛みをする。水切りは硬い地面から走る事を条件とした短期的な水上移動手段であり。

 

――猫妖精の切り札で1匹目の勢いを殺して、開拓者の生命力を失いきらない程度に威力を落とした後に夜の上で水切りを再発動させた――!

 

「黒猫殿、此処なら」

 

「――そうだね、他に比べてまだどうにかなりそうだよッ」

*1
自身の攻撃を対象の背後に発生させる。その攻撃がクリティカルであれば自身の保有するヘイト値をリセットする。

*2
致命刀術の一つ。攻撃後に納刀することでレベルに応じた時間だけ納刀前の斬撃を停滞させ、接触し続けた対象へ武器依存ダメージを与える。

*3
出待ちされたジンが異例である。

*4
自身の生命力と魔力を消費し、スタミナへと変換するスキル。回復するスタミナの割合は消費した生命力/魔力の割合の平均となる。クールタイム:15秒

*5
牛乳を注いだ水面に上から1滴を垂らし落とすと美しい王冠のかたちに反発して跳ね広がること。沼である為少しばかり汚いが。

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