楽園にて生き抜く   作:no w here

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異端

「「「いただきます」」」

 

 その挨拶と共に自分で作ったカルボナーラ及びシーザーサラダに口を付ける。

 

「シャングリラ・フロンティアの世界はどうかしら?」

 

 口の中の物を嚥下して。

 

()()()()()

 

「…そう。でもこれから知っていけばいいわ、照世。()()()()()()()()()()()()()()、何時か分かるでしょう」

 

 義姉の言葉を聞き入れ頷きを返す。それに噛付くよう、姉が食べている途中に口を開こうとしたのが見えた。

 

「おま――」

 

「口の物を呑み込んでから」

 

「んぐっ――お前、また勝手に()()()()()()してないだろうなッ?特にユニークモンスター周り!」

 

「改竄?違うわ、()()()()()()()だけよ。αテスターよりさらに前の()()にね」

 

 机をたたく音。その後に続く姉の「つぅ…」。殴った拳の方が痛かったらしい。自分の食事を進める。

 

「馬鹿かッ?いや、大馬鹿かッ!αテストの地点でゲームとして挑む側が匙を投げたのに、世界吟遊型のGMが作り出した"わたしのかんがえたさいきょうのもんすたあ"をそのまま持ってくるとか!」

 

「私の考えた最強のモンスターッ?言うに事欠いて世界観を読み込まずにデータだけで優劣付けるなんて、私の世界の寄生虫がよく言うわねッ」

 

「世界観を優先してデータの藻屑になったら本末転倒もいい所だろうがッ」

 

 二人の姉による価値観の相違から始まる喧嘩(何時もの事)。それを聞き流しつつ、黙々と口に入れていく。

 二人からの喧騒は何時しか収まり、暫くすると自身の器から何もなくなった。

 

「――いただきました」

 

 席を立ち、食器を食洗器へと入れる。風呂場の脱衣所に備えられた洗面器で歯を磨き、自身の部屋へ。あの世界の夜空を、見上げる為に。

 ――見上げるのは()()ではないけれど。

 


 

「店主。自らの手で彼らの整備をしたいが、それらを学ぶ手段はあるか?」

 

「…また、珍しい事を。彼ら、というと――あの二本も含まれているか?」

 

 頷く。店主はしばらく悩んだように頭をガシガシと掻いた。

 

「学ぶ手段はある。俺に弟子入りをすればいい――が、あの二本を整備となると俺にゃ腕が足りねぇ。もっと上の――それこそ、古匠の弟子になって直接教わる位の事をしねぇと無理だ」

 

「…そうなると、此処で弟子入りすることはできない…か」

 

「それに古匠となれば大きな街の、それこそ王家様方を相手するような有名な鍛冶師位だ。…すまねぇな、あまり力になれなくて」

 

「いや、我としてはそこまで教えてもらえたのは望外の幸運だった。ありがとう、店主」

 

「お、おぅ…あんたならいい鍛冶師になれるだろう。それを間近で見られない事が唯一残念な事だ」

 

 随分と、我を買ってくれている。それがどうにも照れ臭く、頬をかく。

 

「…武器の強化を頼みたい」

 

「お、照れてんのか?」

 

 無言で打刀と脇差、続いて懐から複数の鉱石を出してからかい気味の店主の続ける言葉を閉ざさせる。夕餉前のそれに加え、夜空を見る為に散歩がてら集めた鉱石もあるから少しばかり多い。

 

「…ほぉ…碧銅鉱、赤鉄鉱*1は兎も角として銀色鉄鉱、受容水石*2迄あるのか。そうなると、この辺りだな」

 

 提示された先を確認する。軽く見て気になったのはこの辺りだろうか。

 

・打刀

打刀「緋銀」 16500マーニ

打刀「碧鉄」 14000マーニ

 

・脇差

脇差「晶刃」 14000マーニ

脇差「無銘」 20800マーニ

 

「決まったか?」

 

 差し出した彼らの柄に手をやり、眼を閉じる。――脳裏に浮かんだのは、碧の刃と無骨な黒刀。そのイメージに従い。

 

「嗚呼――碧鉄と無銘、その二本を頼む。材料は?」

 

「碧鉄は灰色鉄鉱が5、碧銅鉱が3。無銘は赤鉄鉱が8、銀色鉄鉱が4だ」

 

 彼らとその素材及び必要マーニをカウンターに残し、残りの素材を回収する。マーニについては購入時に余った資産に加え、余剰に稼いだ鉱石類及びモンスターの換金素材で手に入れた分がある。防具についてはこれらが気に入っているので購入・強化する予定がない以上、資金的な余裕は比較大きかった。

 

「毎度。予備の武装はあるのか?一定金額で貸し出すが…」

 

「体術もある程度は行ける。無手でもやれないことは無い」

 

「そうか。…嗚呼、夜に外を歩くんなら気を付けた方が良い――開拓者たちを狩る、黒い獣がうろついているっていう噂だ」

 

「…黒い、獣…その資料は、この街にあるか?」

 

 店主は少し考え。

 

「…セカンディルの街建図書館*3ならあるかもしんねぇ。とはいえ中継のこの街よりもファステイアかサードレマの街建図書館の方が資料は多いだろう」

 

「成程、出歩く前に其方へ向かってみよう。…彼らを宜しく頼む、店主」

 

「おぅ、武器の事なら鍛冶師に任せな」

 

 頭を下げ、店から出ていく。そして一度広場の案内板へと足を運び、図書館の場所を確認した後歩いて行く。街道から慌ただしく出入りする開拓者たちを傍目にしながら――その場所へとたどり着き。

 

「…大きいな…」

 

「ふむ、此処に足を運ぶプレイヤーは珍しい。名前を伺ってもよろしいかな?青年よ」

 

 声のする方へ振り返り、顔を引き攣らせる。

 

「…再度確認するが、貴方か?我に声をかけたのは」

 

「…ふむ、妻から渡されたデータを用いたがそれほどまでに予想外かな?」

 

「少なくとも、口を開いたと我が信じられなかった程度には。…我はジンという。ジン=オールドグリングだ」

 

「私はキョージュという。この世界の道を解き明かしたいだけの老父だとも」

 

 嘘を吐け、その濃さで()()とは言わない。

 そう言いたい口を顔を顰める事で納め、言葉を続ける。

 

「そうか。我は此処に開拓者を襲う黒い獣について調べに来たんだが…」

 

「ふむ、新しい情報を探しがてらでよろしければ私が教えよう」

 

「…いいのか?」

 

 此方の問いに魔法少女(渋声)が頷いた。

 

「ああ、私としては君の行動には好感が持てる。それにお互い初心者だ、助け合うのも趣があるだろう」

 

「…その言葉に甘えよう。ありがとう、キョージュ」

 

「素直は美徳だ、これからもそうあってほしい」

 

 ピロン、と小さなテロップ音。そして魔法板(ウィンドウ)の文章。

 

『キョージュさんからフレンド申請が来ました。

[この世界を明かすものとして、君と仲良くなりたい]』

 

 それを承諾して。

 

「さて、歩きながら黒い獣――ユニークモンスター[夜襲のリュカオーン]について話そうか」

 

「よろしく頼む、教授殿」

 

「此方でそう呼ばれるのも悪くないネ――まず、ユニークモンスターについて我々が知っていることはあまりにも少ない。何れも強力であり、現状のプレイヤー…君の言い方では開拓者たちでは、太刀打ちする事すら許されないという事位だ」

 

「ふむ…因みに過去の事例で、黒い獣が開拓者以外を襲った事例はあるのか?」

 

「ある事にはあるが、いずれも存在するかも怪しいような眉唾物ばかりだネ。だが、私はこの()()()()()()だと考えている」

 

 首を傾げ――憶測を口にしてみる。

 

()()()()()()()()()()()、と?」

 

「察しが早いネ――そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。多くのミスリードはあるだろうがね」

 

「…その結果わかるとしたら()()()()()()()()()()辺りが妥当なところか?」

 

「そこを事実と考えるのであれば、リュカオーンは強者を重点的に襲っていることになる。開拓者を将来的に強くなる存在として襲っているのであれば、あり得そうではあるね。とはいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()のかまでは分からないが」

 

 話しながらもしばらくすると、図書館の資料室へとたどり着く。その量は、思っていたよりも多かった。

 

「…膨大だな」

 

「この街の成り立ちは古代――我々の生きる現代よりひとつ前の時代にさかのぼるようだからね。だからこそ、読み解き甲斐があるというものだ――私は新しい資料を見ているから、気になったら声をかけてくれればいい。リュカオーンについての資料は少なかったが、3-81・4-15・5-79あたりに記述された本があったよ」

 

「分かった」

 

 …()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()且つ()()()()()()()のは本当にただものではないのだが。

*1
赤く錆びた鉄を含んだ鉱石。特殊な効果こそない物の様々な用途に加工することができる。茶を含んだ赤は特定の層が絵の具の顔料として好むのだとか。

*2
クォーツにも似た透明な石。これを用いた装備は耐久が下がるが「魔力保有」の効果を持つ。

*3
街で建てた図書館という名の資料室。持ち出し禁止ではあるがセカンディルでの出来事や指名手配、モンスターについての資料がまとめられている。1日以内のプレイヤー死亡ログなども確認可能。

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