異世界でチート貰って魔王を倒した勇者の話 作:超高校級の切望
魔王。
魔物の王。神々の被造物を滅ぼし己を生み出した神の成り損ない、亜神に従い魔物を率いる者。人類の汎ゆる攻撃が通じない、人類種の天敵。
神々さえ近づかぬ穢らわしき領域に住まう亜神を滅ぼさぬ限り何度でも新たな魔王が生まれ、新たな魔物が生まれ、人類を脅かす。
勇者。
人類を救うべく、神々に呼び出された存在。異世界より現れ神より授かりし
魔王に対抗できるとされる、一騎当千の猛者。
魔物は魔王を、人類は勇者を。
旗印を掲げ、何千年と殺し合う。そのたびに勇者が殺され、魔王が討たれ、一進一退の抗争を繰り返す。
今回も3年ぶりに一匹の魔王と400年ぶりに亜神の一柱が討滅され、人間界各国家で祝杯が挙げられた。
そんな人間界の末端。開拓民の、小さな村。一人の旅人が訪れていた。
フードを深くかぶり、両腕は包帯を巻いて肌の露出は殆ど無い。そんな怪しい男を、しかし機嫌のいい村人達は受け入れた。
「いやあ、ありがとう。突然来てお世話になって」
「ははは。なんのなんの、旅人を持て成すと我々も報奨金が出ますからね」
魔界と人間界の境界線は呪樹と聖木の森で分かたれていたり、毒海と聖海で分かたれていたり……要するに亜神と神々それぞれの力で己の領域を守っている。
だから、城壁はもっと人間界の奥に近い場所に作る。この村は城壁に定期連絡を送ったり、魔界へ挑む勇者へ食料などを渡すために設置された人類圏最後の補給所。
補給を支援したと連絡すれば、その分の保証、報酬も出るのだ。
「それに、もうじきここも春が訪れる」
命生きれぬ極寒たる魔界の境界線。魔界の寒波が押し寄せるその村は今まで冬のみだった。しかし境界向こうの魔王が討たれた今直に神の恩寵たる残る三季が訪れる。
「実はね、魔王を討伐しにいった勇者を泊めたのはこの宿だったんですよ」
「ほほう。それはそれは………故郷で自慢できそうだ」
戦線が動き、もうじきここもただの開拓村となる。補給地となるであろう場所には選別された新たな村人が住み、この場の彼等は
「まあその前に、
「彼奴?」
「この辺りに昔から住み着いてる氷竜だよ。もうじき春が訪れる、棲家を変えるために、栄養補給でこの村を襲う可能性があるからなあ」
「その前に聖騎士を派遣するって話だけど……」
「………………」
とはいえ、犯罪者の子孫である村人達が
「不安だというのなら、一宿一飯の恩義で俺が討伐しよう」
「…………へ?」
「これでも境界付近を一人で旅する程度には、実力に自信がある。千年ものじゃなければ、竜種でも斬り伏せてみせよう」
カチャリと剣を僅かに抜き刀身を見せる男に、村人達は顔を見合わせる。
「何、永く生きていないなら報復の概念もないだろう。それとも、知恵を得ているのか?」
「い、いや………確か50年ほど前に成体が飛来したけど、飛び去ったって。その数年後に目撃されてるから」
「なら大丈夫だろう」
「だ、だがなあ………旅人さん、相手は竜だ」
「問題ない……」
と、男はフードを取り顔を露わにする。
「っ! 黒髪、茶目………勇者!?」
あるいは、その末裔。
優秀な勇者の血を引く王族貴族にも見られる特徴だが、どちらにしてもただの一般人より遥かに優れた力を持つことは確か。
「勇者だよ。こことは別の補給地を通って、戻ってきた」
「ま、まさか貴方が魔王を倒した………?」
「そうなるのかな………」
おお、と歓声が上がる。勇者とて全員が全員魔王に勝てるわけではない。魔王を打倒した勇者は後の世にも名を残す。そんな存在が、自分達を助けてくれるというのだ。
「お願いします! どうか、この村をお救いください! 報酬もお支払いします!」
「いえ、一宿一飯で…」
「足りません! お強いとはいえ、竜種に挑んでくださる方にそれだけなど………!」
「…………とはいえ、この村にそうそう払えるものなどありそうには……」
強いて言うなら、女だろうか?
「………男性であられる勇者様なら、あるいはその手の報酬もあるのかもしれません」
「…………」
「ですが、何卒ご容赦を。私の個人的な財産を…………」
「………わかりました。それを貰おう………貴方はいい人だな。良い領主になるだろう」
「そう思ったから、助けたんだけどな………」
氷竜の首を引きずって戻れば、死屍累々の村の有り様。死体の山の前に立つのは白銀の鎧を纏った騎士。
神の加護を受けし、聖騎士だ。
「いい領主になる? ご冗談を、勇者様。この者達は穢らわしき罪人の血筋です」
「祖先の話だろ?」
「人の価値は血に宿るのです。事実我が家も代々優秀な聖騎士をだしておりましてね」
諭すような声色。本気でそう思っているのだろう。
「貴方も神に選ばれた、偉大なるお方。どうです、私の妹とその血を残しませんか?」
「嘘つけ……余所者の血なんて、混ぜたくなくて仕方ないんだろ?」
勇者がハッ、と小馬鹿にするように言うと、聖騎士はピタリと固まる。そして、肩を竦めはぁ、とため息を吐く。
「ああ、そうだよ
神々の被造物である我等と異なる外世界の汚物が、そう言わんばかりの目。勇者は懐かしさを覚える。
こういう奴等は一定数居た。訓練をつまされた教会ですら、神のお選びになったと尊敬を向ける者達に混ざり神に創られたわけでも無いくせにと嫌悪を宿す瞳を向けてくる。
「なんで神々はお前等みたいな汚泥にも劣る外の世界の汚物なんかに力を与える!」
「…………教会に尋ねたらどうだ? 不敬罪で神の御許とやらに行けるぞ」
怒りを顕にする聖騎士にあくまで淡々と返す勇者。それが癪に障ったのか、兜の奥で歯ぎしりが聞こえた。
「調子に乗ってんじゃねえぞ! 神々に見放された肥溜め世界の汚物が! 竜種と戦って、加護持ちの私に勝てると思ってるのか!」
ゴゥ! と風が吹き荒れ僅かに積もっていた雪が吹き飛ぶ。背後に現れた紋章を見て、勇者は目を細める。
「『戦神の加護』……ウィシュフルの眷属か」
「そうだ! あらゆる加護の中で最も戦闘に優れた加護、その第三級加護! お前のような、身の程知らずの勇者も葬った事だってある!」
と、剣にオーラを纏わせ振り下ろす聖騎士。回避し、地面が斬られ崖が生まれる。
「お前達勇者は確かに強力な力を持っている! だが、真に力を使いこなせるのは相応しき血に、相応しき才覚を持つ者! お前達が魔王を殺せるのは、ただ魔王に傷をつけられるからに他ならない!」
第三級ともなれば確かに鍛えれば純粋なスペックは下級魔王にも匹敵する。所詮は神になれなかった者達の生み出した存在。正真正銘の神々が生み出した被造物には劣る。
回避し、剣で受け止め、逸し。その衝撃で村が破壊されていく。
「さっさと死ね! 汚物が!」
「────!!」
バキン! と音を立て勇者の剣が砕かれる。兜の奥から、吹き出すような嘲笑が聞こえた。
「刻印起動──」
その嗤いも、文字通り吹き飛ばされたが。
加護の権限。神の力が地上に降ろされる。
暗殺神、盗賊神、諜報神の類でもない限り、加護の開放は中々派手だ。
高い加護持ちの開放ともなればそれだけで有象無象を吹き飛ばし戦争の士気高揚にも使われる。
勇者のそれは、文字通り格が違う。
「──『虚栄神』パルポネ。特級加護権限」
第三級加護持ちすら吹き飛ばし、顕現する神の御業たる権能。地上で行使される神業。
「な、は………はぁ!?」
その力の権限に、兜の奥で目を見開く聖騎士。感じる神威に立ち上がることすら忘れてしまう。
「な、なんだ………何だその力は!? 知らない、そんなの知らない!」
「お前みたいな聖騎士様が、わざわざ魔界に向かう勇者を観察するわけねえもんなあ」
何処から取り出したのか、神々しくも禍々しい赤い大剣。
「戦ってりゃ力は使いこなせるもんだ。ましてや俺が倒したの、上級魔王だし。普通にお前より強いよ……」
「………っ!」
「って、強がったところで加護を起動しなきゃお前に勝てないんだがな」
はは、と自嘲気味に笑う勇者に聖騎士は我慢ならぬと叫ぶ。
「そうだ! その通りだ! お前の力は、全て神々から授かった偽物! 本物の強さじゃない! 何故、何故だ! 何故余所者のお前達に、神々はそれほどの力を与える!?」
転移者達の言葉で、一部ではチートとも呼ばれる力。チートとは転移者達の言葉でズルというらしい。
そうだ、ずるだ。こんなもの、神から授かった力で粋がるゴミクズ。そんな奴等に何故これ程の加護を与える!
「神々は、我々を愛していないとでも言うのか!?」
「…………何を言い出すのかと思えば。神々はお前等を愛しているよ」
呆れたように言う勇者は、腕の包帯を解き素肌を晒す。
「ひっ!?」
皮膚が黒ずみ、肉が腐った異形の腕。あまりの悍ましさに情けない悲鳴を上げる聖騎士を、勇者は静かに見下ろす。
「これだけの力を、肉を腐らせ魂を穢すこんな力を可愛い可愛い我が子達に与えるなんて出来るわけ無いだろ? 古の時代、遥か彼方より来訪して世界を乗っ取ろうと考えた馬鹿どものせいで苦しめられてる自分の子供たちより、神々への信仰も忘れたくせに平穏に暮らしてやがるゴミ肉に押し付けよう……それがお前等の神々が出した答えだ」
全く不愉快な話だ、と吐き捨てる勇者。
自分達の子供であるこの世界の人類を助けるために、他所の世界から攫い死に至る力を押し付け命懸けの使命を与える。それこそが神だ。
「元の世界には帰れない。さりとて、勇者である以上魔王討伐の功績でも立てねえと平穏な暮らしなど手に入らない………仲間は皆死んで、魔王や亜神を殺して………少しだけ貢献してやった世界の人間はこんなクズが混じってると来た」
冷たく見下ろす勇者の瞳に、聖騎士はガタガタと震える。
「まま、待て! その話が事実なら、お前に私が、この世界の人間が殺せるのか!? 殺せるはずないだろう! その力は、我等を愛する神々の力なのだから!」
「そうとも。俺達は人類を傷つけられない。だから、女勇者は教会総本山なら兎も角お前みたいな考えの国の支部に引き取られちまえば欲望のまま穢される……お前等は、清めてやるとでも言うのか」
「な、なら……!」
「ただ報酬がある」
安堵した様子の聖騎士に、勇者は貼り付けたような作り物めいた笑みを浮かべる。
「殺した魔物の数だけ、俺達勇者は人殺しの許可を得る。人を襲う魔物を殺せば一匹に付き1人殺せる。悲しいことに、魔物以上のこの世界の厄災にはなれねえんだよ」
「な、は……?」
「神々は確かに
間接的には殺してもいいから、こうして目の前の男を殺せるわけだが。
「私は王命で動いているんだぞ! 私を殺すのか!? 国が敵になる! いや、私には戦神の加護が!」
「だから、殺人許可は既に降りてんだ。ましてや俺は魔王討伐勇者、一国分ぐらいな、殺しきれる」
「っ! た、頼む………私が悪かった………見逃してくれ、娘が………!」
「…………同じ神の被造物である者達を穢れた血と称して殺し、汚物と見下した俺に命乞いか。神に縋り、絆を盾に、俺にすら慈悲を求める………なんで俺、こんな奴等の為に命をかけされられたんだか」
命乞いを蔑んだ目で見ながら、勇者は剣の先端を聖騎士に向ける。同時に、無数に現れる数十本の剣。
「でもまあ、命を懸けて戦った価値は確かにあった。改めて、それを確信できた。ありがとう」
「やめ──!」
無数の剣が聖騎士を貫く。儀礼加工された鎧など紙くずのように引き裂き命を奪う。
「…………権限実行。『虚栄の村』」
剣を消し、死体を消し、勇者が短く呟く。死に満ち、破壊された村が何事もなかったかのように元に戻り喧騒が訪れる。
「おお勇者様。ありがとうございます!」
村長は何度も何度も頭を下げる。
「聖騎士様は結局来なかったな」
「まあ、来た時に終わったと伝えておけばいいだろ」
「勇者様に救われた村! 箔がつくなあ……!」
「勇者様! この竜の首、村の観光に使ってもよろしいでしょうか!?」
「こりゃお前達!」
村人達が騒ぎ出し、村長が叱責する。モンスターの死体は財産だ。ましてや竜種など、どれだけの金になるのか。
「直にこの村も税を収める必要あるだろう。あれを小分けして、売るといい」
「よ、よろしいのですか? しかし………」
「あんな大きいもの、どの道もって帰れない。牙を一本貰えたなら、それでいい」
「いや、いやそれでも………」
「なら、またこの村を立ち寄った時はただで泊めて飯や酒も。とても気に入ったんだ、ここの料理と酒」
そう微笑む勇者に村長もモゴモゴと口を紡ぐ。
「はぁ、わかりました。ですが、きちんとまた来てくださいよ? その時には、嫌になるほど振る舞いましょう」
「うん、良い奴等だった。良い奴等だったなあ……」
追加でもらった馬車を引きながら、勇者は空を見上げる。後殺せる人数は2345681人。いや、氷竜倒したから2345682に増えていた。殺したのは一人だから戻っていると言うべきか。
「使い切ろうとしてる勇者も居るみたいだけどなあ………俺はちょっと頑張りすぎた…………あ」
と、小指が腐り落ちた。
死んだ者達を生きているように見せるため
ましてや
まあ、こんな世界で残りの余生を過ごすなら、自分が満足できる死に方ができるように生きていくしかあるまい。
「新しい剣も手に入れたし、金も入った。暫くはのんびり出来そうだ」
文字通り持ち主がこの世から消え去った剣に触れながら笑う。
「さあて、次は何処に行こう………」
ちなみにいうと、一度総本山に向かおうとかは全然考えていない。
勇者
名前はまだ無い。
魔王を倒し亜神の一柱を滅ぼした勇者。400年ぶりの偉業をなしたちょっと凄い人。
最初は報酬が続く限り死を振りまこうとしたが仲間も出来て良い奴も悪い奴も居るからと残り20年あるかないかの余生をのんびり旅して過ごすことにした。なお、仲間は全員死んだ。
戦士
聖騎士にスカウト受けるほどの実力者。剣闘神ウェスパルド第一級加護持ち。
元々スラム育ちだが、勇者一行として武功を立て、第一級加護持ちの権限と合わせて国を作る夢を持っていた。
死因:魔族に媚びた人間による毒殺
魔法使い
魔神バーナイヤーガ第二級加護持ちの貴族令嬢。
男児が生まれぬ家と侮られていたため、誰にも文句を言わせない当主になるためにハンターとして功績を立てている中勇者と知り合い志願。戦士と出来ていた。将来の夢に王妃が入っていた。
死因:生きてるのに死んだ記憶がある故の発狂
盗賊
盗賊神スティムール第三級加護持ち。
強盗殺人も行った罪人。スラム育ちで戦士とは気があっていた。神官とは当初仲が悪かった。減刑のため魔物退治していたところたまたま組み、そのまま仲間入り。腹が減っても誰かから奪わなくていい国を欲している。
死因:魔界の領域で戦い続けることに疲れ自殺
神官
慈母神ヒクルマナイ第一級加護持ち。
教会に物心つく頃提供され『聖女』としての教育を受けている。己の命より勇者を優先する。
当初は穢らわしいと嫌っていた盗賊も、自分と同じように他の生き方を知る機会を与えられなかったと知って和解。プロポーズを受け、受け入れた。
死因:気付いたら肉塊になっていた
神々
善も悪も区別なく存在する。
麻薬の神が居れば毒、薬の神もいるし、殺人の神もいれば衛兵神もいる。人間を平等に愛するゆえに数で見ている。加護を与えている相手? 蟻の巣に餌を撒くでしょ? そんな感じ。
殺虫剤は撒かないが蟻を食う肉食昆虫を食う肉食昆虫は送る。その際きっちり殺してくれるならまあ蟻を数匹殺しちゃうのも見逃そう。そんな感覚で勇者を呼び出す
虚栄神パルポネ
主人公の勇者を召喚した神様。
嘘を付く。世界すら騙す嘘を。
無いものを存在させ有るものを無くし、移動した事実を間違いとし間違った法則を現実に変え、起きた事象すら消しされる。ただし執行者が死んだ場合、執行者が殺した以外の嘘がすべて消える。嘘は所詮嘘。
続ける?続けない?
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続ける
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続けない