異世界でチート貰って魔王を倒した勇者の話   作:超高校級の切望

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女勇者

 川の水を汲み、鍋に入れて沸騰させ冷ましてから水筒に酒と共に入れる。

 酒は別の水筒に果物を詰め発酵させた強くてまずい酒だ。ただの殺菌目的である。

 もう一度汲み、前回手に入れたアカオヤマフミトカゲの干し肉と野草を入れグツグツ煮込む。チーズやスパイスを入れ、味を整え、完成。

 

「店の料理の方が美味いなぁ」

 

 よし、次の町では町自慢の料理を食おう!

 

 

 

 

「ようこそ旅人さん。こちら、観光案内です」

 

 魔界からある程度離れた人間の国は余裕がある。境界を超えた魔獣や魔族は多々居れ、弱体化してそれなりの規模のある国なら勝てる戦力があるからだ。

 そしてそんな場所に安全を求めて来る者達が集まり、こうして街の自慢を紹介するほどに豊かになる。

 

「滞在期間は?」

「ん〜………一週間」

 

 

 

 

 この世界には金融機関がある。

 が、今は利用しない。利用履歴は残る。自分の生存が知られるのは面倒なのだ。

 金は街を出る際宝石などに代え、次の街で換金する。

 後は道中で倒した魔獣や超獣の一部を売る。

 それとここに来る途中山賊を35名ほど殺したから殺人可能人数補充のためにゴブリンの群れでも狩る依頼があればいいのだが…………

 

「お、あったあった……ラッキー」

 

 境界近くのゴブリンの群れは厄介だったがこの辺りのゴブリンなら今の自分なら1000匹居ようと楽に勝てる。

 

「これ、受けます」

 

 ハンター登録は偽名だろうと行えるのでしている。そのハンターの地位を使いクエストを受けた。

 ゴブリン狩りなどという明らかな下級依頼を受けた男に、周りの冒険者がから…………んだりはしない。

 こんな世界で一人で旅している、それだけで彼の実力の裏付けになる。ここは比較的安全とはいえ、街道に出た山賊の件もある。

 この世界の山賊はつまり国の加護なく野生環境で生きるプロのサバイバー。それを討伐したという報告は情報を大切にする冒険者にとって聴き逃がせない情報である。

 

 

 

 

「髪の色でも変えるべきかね」

 

 ゴブリンメイジに勇者だなんだと喚かれた。フードを燃やされて髪が顕になったからだ。

 やたらと日本から召喚されるせいで勇者=黒髪茶色目というイメージがこの世界に浸透している。それは魔族にも言えること。むしろこの世界の髪の色のほうが理解できないけど………なんだ桃色に青に緑って。

 

「お………」

 

 隠し扉を見つけた。蹴破るとゴブリンの幼体が震えていた。

 全部踏み潰す。

 背後から迫ってきた死んだふりをしていたゴブリンの頭を掴み握り潰す。洞窟の中の心音は………攫われたどこぞの村娘一人。

 被害届はまた出ていないから、近くのどの村かも解らない。置いといても獣に食われるか新しくやってきたゴブリンに食われるか、ただ飢えて死ぬかだろうが………。

 

「…………たす……け、て」

「…………いいよ」

 

 適当な布を被せ肩に担ぐ。騎士気取りの戦士が見れば女性をもっと丁重に扱えなどと言ってくるだろう。

 

「ええと、血縁探しの魔法は…………と」

 

 因みに魔法の才能はかなりあったらしい。魔法使い曰く魔神の加護を受けていたらもっと楽に旅ができたらしい。

 加護を受け直してやり直しなんて言われたら神を殺す方法でも探しただろうが………。

 

 

 

 

 

 ゴブリンやオークに犯された女は自殺することが多い。何なら家族に殺されることもあるし、そのまま村の慰み物にされることもあるだろう。

 あの村は、何方だろう? どちらに向かおうと悪いのはゴブリンとその時の村人だろうか。

 

「ん〜……やっぱ前世のチーズは偉大だな」

 

 街に行けば転移者達が頑張って再現したチーズもあるが、何分高い。買えなくはないが………

 

「…………人間なら、子供は一度だけ見逃す。うちの盗賊も犯罪者だったから。二度目はないぞ?」

 

 その言葉に茂みから飛び出す人間の子供。窶れ、目元を腫らした子供。山賊の誰かの息子。

 

「………元山賊の加護なしが生きるには辛いだろうが、幸いお前の顔は誰も知らないだろう。足を洗うなら………」

「うわああああ!!」

「………はぁ」

 

 

 

 

「んぐ………美味い。高いけど、美味い………でも故郷と比べるとなぁ」

 

 日本ならもっと安価で美味い食材が手に入った。まあ、異世界だし仕方ないだろうと諦める。

 次はもっと異世界らしい食材を探してみよう。

 因みに異世界肉といえばドラゴンだ! と食ってみたが筋っぽくて獣臭くて喰えたものじゃなかった。ドラゴン食って力に目覚めるとかもなかったし………。

 まあ亜神手づから作った神竜はなかなか美味かったし食うと活力がみなぎり恋人同士が宜しくやってる宿屋から離れて一人寂しく娼館に向かったが………。

 

「……………」

 

 そういえば何気にカップルが多いな、この店。パフェを二人で訳てる…………パフェ?

 

「すいませーん、あのパフェって………」

「あちらはカップル限定になります」

「チッ」

 

 だからメニューに乗ってなかったのか。

 と、不意に外が騒がしい。

 

「………?」

「ああ、勇者様の凱旋だよ!」

「へえ……」

 

 同郷の者か。少し見てみよう、と代金を払い店を出る。

 

「………女勇者か」

 

 それも結構美人。笑顔で手を振りながらも、緊張で震えている。緊張………?

 

「…………何かようか?」

「勇者様ですね?」

 

 路地の影に潜む何者かの声。国の暗部だろう。

 

「髪は隠してたんだが………」

「山賊退治をしたあなたを遠方より観察しておりました」

「知ってる。俺が有用なら引き入れたかったんだろ? あの山賊は、お前等の元リーダーか?」

「はい。奴を発見した手腕を、王は高く買っておいでです」

「………この街のうまーいめし用意してくれたら話を聞いてやるよ」

 

 

 

 

 ガツガツモグモグ。

 

「よ、よく食べるな勇者殿」

「んぐ………ぷは。食える時に食っとくのが習慣なんで」

 

 不味かろうが血生臭かろうが無理やり胃の中に押し込んだ。あの女勇者は、果たしてそれに耐えられるだろうか?

 

(ま、それは俺達が奥に行き過ぎたってのもあるが………)

 

 ボギリと骨を噛み砕きながら、目の前の王を見る。前回会った王よりずっと若い。

 国王以外の王族が姿を見せないのは、こちらを警戒しているのだろう。その証拠に先程の暗部が天井に潜み騎士たちが壁際で待機している。

 

「そろそろいいかな、勇者殿」

「ああ、失礼。敬語はいいとのことだったが、話を聞かないのは無礼だったな」

「ははは。良いんだよ」

「………………」

 

 笑みを浮かべる中年の国王に、勇者もニッコリ笑ってみせた。

 

「凱旋で見たように、我が国の勇者がこの近くに住み着いていたオーガの集落を滅ぼした。まもなく魔王討伐にも向かわれる。信用における仲間とともにな………その分、国防に隙が生まれた」

「………………」

 

 魔界からもそれなりに離れたこの国で、国防と来た。何から守るのか? まあ侵入した魔族もいるだろうが…………大部分は()()()()だろう。

 大方勇者を囲えたことに調子に乗って周りの国に強気に出て、何時まで勇者を囲うのかととうとう言われたのだろう。

 

(神に呼ばれた勇者は対外的には尊敬の対象だからな………)

 

 特級加護という神の力そのものを完全顕現する力を持つのだ。神が存在し、信仰されるこの世界では正しく現人神。なのにそれが別の世界の人間と来た。

 一部の者たちは、しかもそれが大して神を信仰していないと知っている。不条理だろうな。こんな力、与えられるなら押し付けてやりたいが………。

 

「どうだろうか? 報酬なら支払おう」

「なあこの虹真珠なんでおいてあんの?」

 

 国王の言葉を無視して近くの侍女に尋ねる。

 

「虹真珠は一晩濃い塩水につけレモン汁などに溶かしたり、ミルで砕いて肉にかけたりします」

「ほうなるほど………贅沢だな」

 

 贅沢より味が肝心だが、とジュエルシェルの果実酒蒸しにかける。塩水漬けはレモン汁を持ってこさせその中に入れる。

 海の味とでも言おうか。ただ塩辛いだけではない独特な味が貝の味を引き立て、酸味の中によく溶け込んでいる。

 

「………この食事も、君への先行投資と思ってくれてもいい」

「………国王様、俺が今まで何匹魔物を殺したと思う?」

「え?」

「200万以上」

 

 その言葉に、国王と一部の騎士が震え天井裏の暗部達の気配が揺らぐ。

 

「勇者が殺人を犯すと、基本的に教会総本山に引き取られ裁判を受ける。そして()()()()()()()

 

 何故なら勇者は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「俺が勇者は人を殺せないと思ったままだとでも? さて、今は機嫌取って後で支配すればいいと思った国王様よ………どうする?」

「………………………」

 

 

 

 

「俺は夕方あたり街を出る。じゃあな」

「あ、ああ………」

 

 人を殺せる勇者。それがどれだけ恐ろしいか文献には記されていた。だが、一人の少女を支配したという実績が、彼等の判断を狂わせた。

 

「う、ぐ……」

「がは………」

 

 全員痛めつけられた。国が誇る騎士も表向きにできない荒事を行わせる暗部も傷一つ負わせることが出来なかった。

 特級加護も使わずに……。

 見誤った。流れの勇者ではない………あれが元暗部を殺したことを忘れていた。

 

「………くそ! それも全部()()()のせいだ!」

 

 あの女を保護したから自分達の判断は間違った。他国との軋轢を生んでしまった。あの女がだらしないから………!

 

 

 

 

「王も殺してきたらどうだ?」

 

 死体の股ぐらに何度も何度もスタンドライトを打ち付ける女に、勇者が話しかけた。女は声をかけられるまで気付けなかったのか顔を上げ、勇者の顔を見て憎々しげに顔を歪め剣を取る。

 

「ウェスパルドの特級加護か…………まだまだ使いこなせてねえな」

「!?」

 

 極めれば大陸を分断し空間すら切り裂く神の力は、しかし使いこなせぬ彼女の身を焼き霧散し剣を持つ腕を踏みつけられる。

 

「同郷に会えたってのに随分な挨拶だな」

「どう……あなた、勇者?」

「…………随分とまあ」

 

 泥の体液に汚れた姿を見て水魔法を使い体を綺麗にしてやると落ちていた服を渡してやる。

 

「…………私………なんで、殺せたの?」

「俺達勇者は魔物や魔族を殺すとその数だけ人を殺せるようになるんだよ」

「…………それで」

 

 なら、と指を折る女勇者。そして眉間にしわを寄せる。今の自分では目的の奴らを殺すまでに戦わなくてはならない相手を殺しきれず、殺せたとしても殺したい相手までに使い切ってしまうからだ。

 

「報復したいなら今のうちに向かうといい。騎士も暗部も、全員死んでるからな」

「………嘘。だったら、もっと騒ぎになっているはず」

「ああ、嘘だ。俺は嘘つきだから、皆生きてるように見せている」

「……………幻覚?」

「に、近いな…………」

「国王や、王子は生きてるの?」

「生きてるぞ」

 

 己の体を抱き震えながら声を絞り出す女勇者。

 

「女王や、姫達も?」

「生きてるな」

 

 腹の火傷の痕に触れながら憎々しげに呟く。

 

「…………は、はは………魔物を殺し続ければ、この国を殺せる?」

「ああ」

「……………ありがとう、殺してくるね!」

 

 壊れた女は、本当に嬉しそうに笑い部屋から出ていった。

 

「…………国王を殺したり、領主を殺したり……殺し合わせる環境を作れるんだよな」

 

 土地の、利権の奪い合いを引き起こさせたり国力を削いで他の国に責めさせるなどやり方はいくらでも思いつく。だけど、神はそれを止めない。

 人間同士の争いだから。どっちに自分に祈る人間が多くいるとか関係なく、気紛れに何方の国にも加護を与える。

 

「やっぱ神って人間には理解できねぇな」

 

 自分を殺した相手に愛を囁く神を思い出し思わず呟く。

 

 

 

「僕が王になった暁には、勇者が戦って当たり前という風潮をその国から無くす!」

 

 戦士の言葉に何言ってんだとこいつという視線が殺到する。

 

「それはいくら何でも不敬では? 神の御意思に逆らうなど………」

「ははっ。でたよ神のごいし〜」

「何か?」

「何も〜?」

 

 神官と盗賊が火花を散らし始めた。何時もの事だが………。

 

「まあ俺もできるとは思ってねえけどな。勇者は俺みたいな貧民を救ってくれないけど人類を救ってやりたい神が余所者拉致って戦わせるために用意した存在。神に選ばれたんだから他所の世界だろうと戦って当然、なんてのは子供でも知ってる常識だ」

「………っ」

 

 皮肉たっぷり謎の言葉に、しかし神を信ずる神官も言い返せない。勇者という人間がどんな平和な世界で、どんな家族に囲まれ育ったか聞かされたからだ。

 

「こいつなんて戦いに無縁なのに、逃げずにこんなところまで来てくれたんだぜ? この世界のために! 良い奴過ぎて吐き気するね!」

「…………別に、この世界のためじゃないさ」

「ん?」

 

 そうとも、いきなり戦いの宿命だなんだと言われて、はいそうですかと戦えるものか。まあ確かに最初は特別感に酔いしれなかったといえば嘘になるが、自分は別に最強でもなんでもない。

 

「脳筋戦士のお前が作る国がどんな国になるのか興味があるからな」

「のうき………!?」

「ぷっ!」

 

 と、魔法使いが吹き出す。ぐぬぬ、と睨むも女相手に手を出せないので唸るだけ。

 

「俺は裕福な暮らしができんならそれでいいさ。誰からも奪わず誰からも奪わなくていいなら、それに越した国はねえ………」

「……………」

 

 後悔を滲ませる盗賊の言葉に神官は黙り込む。

 何時だったか懺悔なさいといった時、勝手にお前が許すなと怒られた時のことを思い出したのだろう。

 

「私もまあ、その国賛成………こいつ見てると勇者強いから戦え〜って思うけど…………強いから戦えなんて、女だから引っ込んでろとかいう彼奴等と変わらないからね」

「もう………私だけ仲間はずれみたいではありませんか! 解かってますよ、だって貴方は神が生み出したわけじゃない」

 

 他の神々が創造し、もう自分達は必要ないと離れた世界の住人。それをよその神が攫い世界のために戦わせる。そこに正義を見出すのは、()()()()()ということ以外にはない。

 

「元より神は悪も司る方もいるのです。間違いも犯すのでしょう………だから、認めます。ただ呼ばれただけの勇者に、この世界のために命をかける義理はないと」

「お〜お〜、ふっけーい♪」

「黙りなさい! 私に不敬ですよ!」

「ぎゃはは!」

 

 焚き火を囲い、みんな笑顔を浮かべている。

 

「そうだな………お前達が作った国なら、住んでみたいな」

「おう! 騎士団長にしてやるぜ! あ、それとも宰相とか?」

「俺孤児院経営したい」

「お前も住む気かよ!?」

 

 この時間が、永遠に続けばいいのにな。

 今だからこそ思う。魔王を倒そうと決め、魔界に侵入した最初の一年が一番幸せな時間だったと。

 

 

 

「むぐ………戦争か」

 

 王族が居なくなり、秩序を維持する騎士もいなくなり、内乱が起きた国に周りの国が攻め込み、ケーキを分けるように領土を分割したらしい。

 足並み揃えられぬ地方軍が最後の砦。命令権を奪い合う間に潰された、たった3週間の戦争。

 

「サンキュー。また一週間後に世界新聞よろしく」

「クァ!」

 

 スピードスターの異名を持つイエローホークは一声なくと飛び去った。




イエローホーク
世界最速ではないがかなり速い。しかし大きさは普通の鷹程度なので苦労して捕まえるだけの価値がないと超獣、魔獣も食わぬ鷹。人懐っこい。かわいい。

勇者達の名前

  • 名前をつけなさい
  • 読書が頭で保管するからつけなくていいよ
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