サブタイトルをちょっと変えました。こっちの方がカービィっぽいね。
草木が生い茂るビル群が周囲を包み込み、生態系がその神秘を循環させる、忘れ去られた大地。本来であれば存在することもなかったであろう、先の一件で繁栄した『ワドルディの町』に立てられた一軒家にて。
窓から差し込む太陽の光を浴びながら、すぅ、すぅ、と寝息を立てるのは、まんまるピンクのヒーロー…その名も『カービィ』。
彼は特に正義感に満ち満ちているわけでも無ければ、日夜悪と戦っているわけでもない。
ヒーローとしての葛藤どころか、些細な悩みに至るまで、頭を悩ませることなどこれっぽっちもなく、あるのは果てしない食欲と、宇宙一能天気且つ楽観的な思考だけ。
悩むことと言えば、せいぜい明日のゴハンくらいなものだ。
しかし、彼には、ある力が宿っている。
例え相対するのが、悪夢という概念そのものであろうが、星二つをぶつけて消滅を図ることができる究極の生命体だろうが、『無限に等しい力』を外付けの道具によって手に入れた魔術師だろうが、『破壊』として顕現したカミサマだろうが、誰にも負けることのない『無限のチカラ』が備わっている。
いや、備わっているわけではない。彼こそが『無限のチカラ』そのものなのだ。
まさに歩く理不尽。『究極の主人公補正』と置き換えても過言ではない。
無論、そんな彼に「関わった悪事全てが例外なく彼によって木っ端微塵に粉砕される」というジンクスが付き纏うのは当然のことで。
「ちょっと利用しよう」なんて考えて悪事の片棒を担がせようと引き込むか、はたまた彼の存在を知らず、彼を悪事に巻き込むか。
経路はとにかく、彼が少しでも悪事に関われば、それは一切の例外なく、至極あっさりと水泡へ消える。
現に、故郷である惑星…ポップスターから遥か遠くに離れた「新世界」に訪れるキッカケとなった元凶も、カービィが打ち倒してしまった。
その存在によって都合のいい傀儡にされていたアニマルたち…ビースト軍団らと和解を果たし、異文化交流を続ける日常が始まって早一ヶ月。
お昼寝から起きたカービィは、陽の光を一身に受けながら、「んぃー!」と伸びをする。
今日はどうしようか。どんなゴハンを食べようか。どんな場所でお昼寝しようか。誰と遊ぼうか。
そんな子供らしい思考回路で、今日の予定を組み立てていく。
「あしたはあしたのかぜがふく」。そんな彼の座右の銘に違わぬ生き様である。
「ぽよ?」
が。組み立てた予定が吹き飛んでしまうほどに衝撃的な光景が、そこにはあった。
カービィが伸びをして、目を開けた先。
窓に映ったのは、全く見覚えのない、生活感のあるビル群の一つだったのだ。
カービィは慌てて家の扉を開け、外へと飛び出す。
…否。「外」という表現は似つかわしくない。彼が飛び出した先は、普通のボロアパートの一角。
無論、アパートなどという概念などこれっぽっちも知らないカービィは、「なんだかきたないおうち」程度にしか思っていない。
カービィがあたりを見渡すと、ゴルドーという彼にとっては馴染み深い、トゲトゲ且つ金属質のともだちによく似た影を見つける。
カービィがたたた、とそれに駆け寄ると、アドレーヌという友人に似た体の少年が、特大のたんこぶを作りながら目を回していた。
「ぽよ〜…?ぽよ、ぽよっ…」
「っでぇええ…、なんだ、いった…」
少年が痛みに悶絶しながら、薄らと目を開けて、カービィを見やる。
そして、石になった。
完全に動きを止め、笑顔で「はぁい!」と挨拶をするカービィを凝視する少年。
一度、二度、と数回にわたって目を擦るも、目の前にいる存在は消えない。
ためしに、右手の人差し指でその肌を撫でると、ぷにっ、と柔らかい感触が伝う。
ある程度冷静になってきたのか、はたまた未知との遭遇に慣れているのか。少しばかり広がった視野で、自らの暮らす部屋がとんでもないことになっていることに気づくと、こぼれ落ちんばかりに目をひん剥き、叫んだ。
「ふ、不幸だぁあああああっ!!!」
「ぽよ?」
ここは新世界からも、はたまたポップスターからも遠く離れた惑星…「地球」に在る『学園都市』。超能力者たる少年少女らがひしめき合い、倫理が完全に破綻した魔窟。
そんな中、学園都市の底辺を這いずる苦学生…『上条当麻』と、『星のカービィ』が出会う。
そのファーストコンタクトは、上条当麻にとっては最悪だったとだけ語っておこう。
♦︎♦︎♦︎♦︎
その日、学園都市は大混乱に陥った。
とても人間向けとは思えない、一畳ほどの大きさがあればいいところの家屋、更には植物や、コンクリートが無理矢理凝縮されたようなデブリ、動物によく似た生物らが空から降り注ぎ、あちこちに墜落。
開発を勧めている能力者らによる犯行か、と踏んだ治安維持組織は、即座に同じく混乱に陥る彼らとの接触を図った。
が。彼らは「ニャウ〜」だの、「ウホウホ」だの、「ガウガウ」だの、「わにゃわにゃ」だの、確立した言語能力を持たず、ただただ慌てふためいており、話にならなかった。
研究しようにも、彼ら生物の周りには謎の磁場が発生しており、機材が軒並みエラーを吐き、時には大爆発を引き起こす始末。
なんとか不幸から免れたテレビ…ただし液晶部分には亀裂が走り、音声すらもノイズがかかっている…で、そんなニュースを聞きながら、上条当麻は目の前のずんぐりピンクを訝しげに見つめていた。
「…俺の右手でおかしくならないってことは…、こういう生き物なのか?
なぁ、お前…んーっと、名前は…なーんて聞いてもわかんな…」
「カービィ!カービィ!!」
「……カービィね、うん。素直な子は上条さん好きですよ」
ぽよん、ぽよん、と弾力をアピールするように跳ね回るカービィを、思わず微笑ましく見る当麻。
しかし、そんな場合ではないと首を横に振り、跳ね回るカービィの両頬を挟んだ。
「カービィ、お前はどこから来たんだ?」
「ぷぃ?…ぽよ、ぽよっ!」
「……うん。アレがお前の家なのは分かるから。元はどこにあったんだって聞いてるんだぞー…って、あれ?言葉通じてんの?」
「ぽよっ」
どこから来た、という問いに、背後にあるドーム状の家を指す程度には、ユーモアに溢れた性格のようだ。
このやりとりからして、意思疎通は出来ているらしい。赤点常習犯たる彼に、その理屈が理解できるだけの頭はないのだが。
しかし、YESか NOで答えられるような質問しか出来ない、という条件があるとはいえ、こちらの話が通じているというのはありがたい。
まずは友好の印に、なけなしの食料を与えようと、台所の方を見やる。
そこには、ものの見事にカービィの自宅に潰された、無残な台所の姿があった。
「ふ、不幸だ…」
「ぽよ?…ぽよぉ…」
生活費である奨学金が支給されるまで、かなり日にちがある今日この頃。
しかしながら、彼が買い溜めていた食料は、一つ残らずカービィの自宅によって使い物にならなくなってしまった。
腐った野菜の残骸に、割れに割れた袋麺。叫ぶ気力もなくした当麻に、カービィは申し訳なさげに頭を下げる。
「もしかして、謝ってるのか?…お前もわけわからんことに巻き込まれてるみたいだし、気にしなくてもいいぜ。
それに、不幸はいつものことだしな」
「………ぽよっ!」
当麻が自傷気味に笑ったその時。カービィはたたた、と使い道を無くしたフライパンへと駆け寄る。
自身の背丈ほどもあるそれを、カービィは大口を開けて飲み込んだ。
「はあぁああっ!?そ、それは上条さんのなけなしの財産で買ったフライパンなんですがちょっとぉおっ!?」
当麻が素っ頓狂な声で抗議した、まさにその時。カービィの姿が眩く光り、そのシルエットが変貌した。
先ほどまではなかったシェフハットを被り、当麻がなるべく大事に使ってきたフライパンを背負っている。
当麻は知らぬことだが、カービィには、とある能力が備わっている。
その名も、「コピー能力」。宇宙最強の能力とも謳われ、数々の悪事を打ち砕いてきた、カービィの代名詞。
カービィは今、料理人としての能力をコピーした「コック」となっていた。
「ぽよっ!」
カービィは何処からか大鍋を顕現させると、カンカン、とフライパンとおたまを打ち付けながら、瓦礫を鍋の中へと引き寄せていく。
ぼちゃぼちゃ、と大量の瓦礫が入ったのを確認すると共に、カービィはそれらを煮込み、調味料をぱっ、ぱっ、とふりかける。
軈て煮込み終わったのか、カービィが鍋の前でポーズを決めるとともに、その中から、ぽん、ぽん、と、オムライスやら、カレーやら、満漢全席もびっくりな量の料理が、当麻の眼前を埋め尽くした。
「………は?」
ぱちくりと目を丸くして、恐る恐る右手で料理の皿に触れてみる。
消えない。明らかに超常から生まれたはずなのに、『幻想を殺す』と謳われた、自らの右手が仕事をしない。
当麻が愕然とする傍ら、シェフハットの消えたカービィが、「めしあがれ!」と言わんばかりに、彼にカレーライスを差し出す。
何はともあれ、腹ごしらえはできるのだ。ありがたくいただいておこう。
「……なんで瓦礫から生まれたカレーライスが美味いんだよ…」
「ぽよよぉ〜い!」
「掃除機かお前は」
当麻は軽くぼやきながら、凄まじい勢いで料理をかきこむ…否、皿ごと吸い込むカービィを見て戦慄していた。
彼らは知らない。この数日後に、魔術と科学が交錯することを。
彼らは知らない。そこに入ってしまった「夢」たちが、どうしようもなく事態を混迷へと導き、果てはより盛大に宇宙を巻き込む戦いへと身を投じることになることを。
「無限のチカラ」と「幻想殺し」。
彼らはおいしいゴハンを守るため、ついでに世界を救うため、幻想が彩る世界を駆け回る。
「ん?あれ?…おっかしーなぁ、さっきまであそこにあった貯き……いやいやいやちょっと待てちょっと待てちょっと待て!?
カービィさん、アンタもしかしなくても上条さんが珍しくコツコツ溜め込めてたブタちゃん貯金箱まで料理しました!?」
「ぽよ?」
「ああそうかそうだよな小銭なんて知るわけないよなチクショウやっぱり不幸だぁああああっ!!!」
…しかし、予知能力など持ち合わせていない彼らは、その出会いに神秘を感じる様子などカケラもなく。
貯金箱が消し飛んだ当麻の叫び声に、カービィはこてん、と首を傾げていた。
カービィ…我らがピンクの悪魔。コイツが計画の舞台に存在するだけで、その計画の失敗が確定するとかいう特大の理不尽要素。
本人にその自覚はなく、ただともだちとおいしいゴハンを食べて、のんびりできたらそれでいいと思っている。
この後、世界中に散らばったワドルディやビースト軍団たちが、魔術からも科学から実験動物として乱暴に扱われているのをエフィリンから聞きつけ、地球を駆けずり回る旅に出た。本拠地は当麻の家。
上条当麻…自宅がカービィの家によって破壊されたどころか、勝手に本拠地にされたヒーロー。不幸体質は相変わらず。
幻想殺しがカービィにちょっと触れただけで処理落ちしたことに気付かず、「そういう生き物なんだな」で済ませた。
インデックスの前にカービィやワドルディらが居候することになる。
ワドルディを助け出す前は、カービィに留守を任せられるわけがないと一瞬にして悟り、バックパックに背負うことでなんとか誤魔化そうとした。しかし、セキュリティが優秀すぎるせいで全く意味がなく、怪しげな研究員に絡まれることが増えた。その研究員が襲ってきて、カービィに天高くぶっ飛ばされるまでがセオリー。