炎に包まれ、落雷が轟く学園都市の一角。
その渦中にいる当麻たちは、相対する敵に対して、あまりに無力だった。
当麻は遠距離攻撃こそ打ち消せるものの、ただの斬撃を喰らうだけでも瀕死は確実。
カービィはマルクを倒した時点でコピー能力を解除しているため、攻撃によって生じた星型弾を用いるほかない。が、ありえない頻度で瞬間移動をかますため、かすりもしないというのが現状。
エフィリンに至っては、瞬間移動の妨害を試みても、即座に移動されて無駄に終わるという始末であった。
「なぁ、強すぎねぇか、コイツ!?」
「前よりも明らかに強い…!
ま、まさか…!ミサカ妹の前に、何か強大なモノを吸収しちゃったとか…!?」
「ぽよっ、ぽよぉ…!」
エフィリンの推測は、残念ながらものの見事に的中していた。
デデデ大王と佐天涙子らの奮闘により、見事解決した「幻想御手」騒動。
その末に、幻想御手を使用した計一万人の能力者の思念が集まって生まれた怪物…「AIMバースト」を極楽の夢見鳥が吸収し、既に一度顕現していたのだ。
銀河最強の騎士を取り込み、思念で世界を作り出す究極の生命体を取り込み、一万人の意識の集合体を取り込み、果ては一万人の妹達を取り込んだ。
その蓄積により、目の前に立つバルフレイナイトは、かつてカービィが打ち倒したモノよりも遥かに強大な存在となって、その前に立ちはだかった。
「トーマ!」
「うぉっ!?あっぶね!?」
と。カービィが当麻に体当たりをかましたことにより、迫っていた斬撃が空を切る。
あのまま突っ立っていたら、当麻の頭は体と永遠のお別れを告げていただろう。
流れるような斬撃を、千鳥足でフラフラと避ける当麻。
剣術などこれっぽっちも修めていないが、その練度の高さは素人目ながらにも伝わった。
以前遭遇した魔術師…神裂よりも、はるかに鋭く、素早い。
斬撃の延長線上にあるだけでも、ビルに一線が走り、倒壊するのを目の当たりにすれば、それがいかに危険かも理解できた。
「トーマ!バルフレイナイトはトーマを一番警戒してる!
トーマの右手のチカラに気づいてるんだ!」
「ってことは…、俺が触れば、御坂妹は助け出せるってことか!!」
無論、そう簡単にはいかないが。
バルフレイナイトが放つ電撃や熱波は打ち消せても、無類の剣技、高頻度の瞬間移動が防壁となり、接近することすらできない。
カービィに頼ろうにも、コピー能力がない彼では、足止めすることすら困難である。
当麻は迫り来る竜巻をなんとか避け、続け様に放たれた謎のモヤを打ち消した。
「だーっ!近づけねぇ!!」
「んっと、えっと、カービィになにかコピー能力が、コピー能力があれば…!」
エフィリンは異空間へと意識を飛ばし、そこにあるコピーのもとを探す。
が。ソレさえも察知されたのか、バルフレイナイトが一瞥すると共に、側から炎を纏う結晶が弾幕として襲い掛かった。
慌ててエフィリンの元へ駆け寄った当麻たちは、その弾幕をなんとか打ち消す。
カービィに関しては、打ち消すと言うよりは吸い込むだったが。
これならコピーできるかも、と思い、飲み込んだものの、カービィの体に変化はなく。ただ「すかっ」という、なんとも気が抜ける音が響いた。
「ぽよっ!?」
「ファイアすらコピーできないなんて…!?
ど、どうなってるのぉ…!?」
実のところ、結晶はカービィの口腔に収まる直前に鎮火していた。
バルフレイナイトは、カービィのコピー能力の危険性を十分に理解していると考えていいだろう。
勝ち目が見えないほどの強敵を相手に、当麻らは冷や汗を流す。
そんな汗すら、バルフレイナイトが発する熱波で即座に乾いてしまった。
「どうすりゃあいいんだよ…!」
ジリ貧というほかない状況に、思わず弱音を吐いてしまう当麻。
と、そんな時だった。
「今こそ、オレさまの出番だろーが!!」
そんな声と共に、バルフレイナイトが巨大な影に叩き落とされたのは。
ずん、と音が響き、大地に衝撃が走る。
目を丸くした当麻たちの眼前には、こんな時期だというのにガウンを羽織る人影が映る。
カービィはその影に見覚えがあることに気づくと、顔を綻ばせ、駆け寄った。
「ったく、懲りずに暴れおって…」
「はぁい!」
「話は後だ!コイツを食え!」
彼は言うと、駆け寄るカービィの口に、木槌を放り込む。
瞬間、カービィの体が光に包まれる。
それが霧散すると。ねじり鉢巻を頭に結び、木槌を背負ったカービィが立っていた。
大王直伝、重撃必殺。その名も、コピー能力「ハンマー」。
その隣でお揃いのハンマーを構えるのは、カービィの永遠の宿敵、デデデ大王。
彼もまた、同じようにこの星へと流れ着き、この都市に渦巻く動乱に巻き込まれていた。
紆余曲折を経て、ようやく再会した宿命のライバルたち。
二人は並ぶと、よろよろと立ち上がるバルフレイナイトを睨め付けた。
「ぺ、ペンギン?」
「デデデ大王!…その、今回は操られてないよね?」
「シツレイな!そう何度も操られるオレさまじゃないぞ!!」
エフィリンの確認に怒鳴るものの、その顔は笑みを浮かべている。
前科が腐るほどある彼が吐くにしては、説得力に欠ける言葉である。
そんなやり取りをしている間にも、バルフレイナイトは高く飛び上がり、剣を背丈の数倍へと肥大化させていく。
カービィらがハンマーでそこを叩こうとするも、姿を消す。
次の瞬間、彼らの背後に回ったバルフレイナイトが、まとめて薙ぎ払うように、剣を横薙ぎにした。
が。ここにいるのは、手を組んだ宿命のライバルたち。
カービィとデデデ大王は互いにハンマーを振りかぶると、炎を纏わせ、剣へと叩きつけた。
一撃で鬼さえ滅する、最大の一撃。「鬼殺し火炎ハンマー」。
がきん、と、木槌と剣がぶつかったとは思えないほどに鈍い音が響き、力が拮抗する。
熱波が周囲を削ぐような感覚にも陥る中で、当麻は目を見開いた。
「バルフレイナイトが、押されてる…!?」
撤回すると、拮抗というには、少々状況が傾いていた。
カービィとデデデ大王が、バルフレイナイトの一撃をより上回る形で。
「ぬぅ…、でりゃぁああああっ!!」
「はぁあああああっ!!」
ぐぐっ、とバルフレイナイトが渾身の力を込めるものの、カービィとデデデ大王が裂帛の気合と共に、さらに押し返す。
両者の介入を許さぬ力の応酬。それを制したのは、星の戦士たちだった。
「トーマ、今だ!」
「おう!」
剣を弾き飛ばされ、大きく隙を晒した今。
当麻はバルフレイナイトの懐へと潜り込み、拳を引き絞る。
が。そんな考えを嘲笑うかのように、バルフレイナイトは即座に剣を顕現し、構える。
距離を取ろうにも、間に合わない。
当麻がせめて命を守ろうと、右手を前に掲げた、その時だった。
「ふっ!」
きぃん、と、金属同士がかちあう音が聞こえたのは。
当麻の眼前に広がるのは、蝙蝠の羽。
顔はよく見えないが、カービィによく似た体躯の誰かが、バルフレイナイトの剣を受け止めていることは伝わった。
当麻はその背中を回り込み、バルフレイナイトの背後をとる。
そして、先ほどと同じように、拳を引き絞って、放った。
が。その拳は空を切り、剣戟を繰り広げていた剣が行き場をなくす。
どこに行った、と周りを見ると、ぱりっ、と雷が走った。
「そこかっ!」
蝙蝠の羽を持つ騎士は、目にも止まらぬ速度で移動すると、現れたバルフレイナイトと凄まじい勢いで切り結ぶ。
きぃん、きぃん、と何度かの衝突を経て、バルフレイナイトは再び姿を消した。
「メタナイトまで!やったやった!これなら勝てるかも!」
と。フリーズしていたエフィリンが顔を綻ばせ、状況の好転を喜ぶ。
孤高の騎士、メタナイト。銀河最強の剣士すら下す、宇宙最高峰の剣士。
当麻はエフィリンの喜びようを疑問に思いながらも、メタナイトに声をかける。
「メタナイト…っつーのか、お前?」
「デデデ大王も言った通り、話は後だ、カミジョー・トーマ。
バルフレイナイトを倒すのだろう?私も微力ながら、力を貸そう」
微力どころの騒ぎではないのだが。
先程の剣戟を目の当たりにして、そんなことを思いつつ、周囲を警戒する。
と、いつの間にやら顕現した、雷炎纏う結晶の弾幕が、彼らを取り囲む。
「やばっ…!?」
「安心しろ。私が切る」
メタナイトは言うと、ありったけの力を込め、地面へと剣を突き刺す。
刹那。巻き起こったのは、天さえも引き裂くかの如き竜巻。
これぞ、彼の必殺技が一つ、「マッハトルネイド」。
周囲を薙ぎ払うように、暴れ回る斬撃の竜巻により、結晶は切り刻まれ、砂となってそこら中に霧散した。
煌めく雨の中に佇むメタナイトの姿に、思わず目を奪われそうになるが、そんな場合ではない。
当麻はあたりを見渡し、消えたバルフレイナイトの姿を探す。
と、カービィがこちらへと駆け寄り、ハンマーを横薙ぎにして回転し始めた。
「っし、来い!カービィ!」
「ぽよぉ!」
当麻は言って、体をのけぞらせてカービィの一撃を避ける。
と。当麻の背後まで迫っていたバルフレイナイトの頬を、木槌が捉えた。どごっ、と鈍い音が響き、バルフレイナイトの体がバウンドする。
「おー…らぁっ!!」
その先にいるのは、炎を纏わせた木槌を構えるデデデ大王。
必殺を謳う一撃が、バルフレイナイトの顔面を捉え、その体を宙へとかち上げる。
と、そこへ瞬きほどの闇が訪れる。
当麻が何事だ、と思っていると。一閃が放たれ、バルフレイナイトの体を切り裂いた。
よくよく見ると、バルフレイナイトの背後には、切り終えた体勢で宙に浮かぶメタナイトの後ろ姿が見える。
そのまま落下するバルフレイナイトに向けて、カービィが駆け、激しく回転する。
勢いが最高潮に達すると、カービィは木槌を握る手を離し、叫んだ。
「はぁあああああっ!!」
これぞ、「爆裂ハンマー投げ」。
激しく回転しながら、真っ直ぐにバルフレイナイトへと飛ぶ木槌。
咄嗟に避けようとするも時すでに遅く、木槌は顔面に叩きつけられた。
派手に吹き飛ぶバルフレイナイトに向けて、当麻は駆け出す。
ここまで弱れば、瞬間移動も剣技もクソもない。
当麻は拳を引き絞り、告げる。
「やっぱ、ちゃんと生きたいんじゃないか」
一方通行や研究所を切り伏せたのは、御坂妹が知らないうちに抱いていた、生存願望だったのだろう。
都合のいい解釈かもしれない。だが、当麻の目には、間違いなくそう映っていた。
「もしも…!もしも、お前が解放されて、それでもまだ死にたいって言うんならなぁ…!」
拳がバルフレイナイトに突き刺さる。
命の重さが詰まっているような、あまりに膨大すぎる重量がかかる。
それでも、当麻は叫びながら、それを殴り飛ばした。
「まずは、その幻想をぶち殺ぉす!!」
腕を振り切ると共に、バルフレイナイトの体が光を放ちながら、宙へと浮かぶ。
やがて、それが限界に達し、ふぁっ、と音を立てて蝶が飛び立つと。
分離した御坂妹が、その場に残った。
「御坂妹!」
当麻は落下する彼女の名を呼び、駆け寄る。
その手に収まった彼女は、すぅ、すぅ、と寝息を立てていた。
「…呑気に寝やがって…。こっちは大変だったんだからな…」
そんな彼女に、当麻は笑みを浮かべながら、悪態をついてみせた。
「捕まえた!!」
「やったぜ、サテンちゃん!これで一件落着だな!」
その背後では、飛び立とうとした蝶を、一つ目の雲に乗った少女が虫取り網で捕まえる。
皆がその姿に目を丸くしていると、コピーを解いたカービィが声を張り上げた。
「ぽよ!ぽぉよ!」
「うむ、アレだな!前々から思ってたが、お前が真ん中にいないとしっくりこない!」
「再会を喜ぶ意味も込めて、祝おうではないか」
「オレも混ざっていいですか、大王さま!」
「あー…、やっぱ踊るのな…」
「あー…、やっぱ踊るんだ…」
当麻と少女…佐天涙子の呆れを皮切りに、皆がポーズを取る。
と、どこからか流れてきた、軽快な音楽に合わせて、皆がステップを刻む。二度目のソレに、当麻と佐天もまた同じように、軽くだが踊ってみせる。
やがて、音楽が終わると共に、皆が決めポーズを取った。
それを照らしたのは、登る朝日だった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「うーん…。大王さま、どこ行っちゃったのかなぁ…?」
その頃、学園都市から少し離れた、とある集落にて。
わにゃわにゃ、と声が響く中で、青いバンダナを頭に被ったワドルディが、槍の手入れをしながら呟く。
そんな彼の不安げな様子を見ていたライオンが、隣に腰掛け、不安を消すように、にっこりと笑ってみせた。
「そう案ずるな、バンダナ。
彼のことだ、どこかで逞しくやってるさ」
「操られてないといいけど…」
「はっはっはっ。ソレを言われると、私も少し困る」
「あっ、ごめん!そんなつもりじゃなかったんだけど…」
しゅん、と目を伏せるワドルディに、ライオン…獣王レオンガルフは、鋭い牙を見せ、不敵に笑ってみせた。
「もし操られていても、私たちには頼れる勇者がいるだろう?」
「…それもそっか!」
いくら他のワドルディたちよりも荒事慣れしているとはいえ、そこはただのワドルディ。
楽観的なのは変わらないらしい。
レオンガルフはそれを豪快に笑ってみせた。
「…ニャゥ」
朝っぱらからうるさい、とでも言いたげに、背後で女豹…キャロラインが呆れたため息を吐いた。
バンダナワドルディ…助け出したワドルディやビースト軍団と新しい街を作っている。真っ先に作ったのはもちろん娯楽施設。そこはやはりワドルディだった。
一方通行…この後、カエル医者に搬送された。腹に傷痕は残ったものの、なんとか一命を取り留めたらしい。
しかし、最強の称号は失墜、実験も見直しどころか再開不可能といろいろ散々な目に。マルクは二度と信用しないと心に誓った。元から信用してないけど。
マルク…いつのまにか逃げた。カービィとライバルたちが揃い踏みしている以上、絶対に不利なことは間違いないので、それはもうみっともないくらい全力で逃げた。
御坂美琴…何も知らないので、ガルルフィと寝てる。
次回からは「バグズ・レムナント」です。構想時点で三面ボスも強敵になってガクブルしてる。
今更だけど、一気に駆け抜ける予定なので、いちいち巻ごとに区切りません。場合によっては、アウレオルスさんと同じように、一瞬で終わるとかザラにあります。巻き込まれたカービィ側の最強戦力が軒並み揃ってんのが悪い。